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東方~青狼伝~  作者: 白夜
原作前編
6/112

◆邂逅、八意永琳

 えーりん!えーりん!


 私が人里に顔を出し始めてから三百年が過ぎた。町並みはもう平成の文化をあっさりと過ぎ、見たこともない最新技術の発達した未来都市のようになっていた。


 私は今も変わらず街中で何でも屋を経営している。私の姿が変わらないことに疑問を持つ人はいない。そうなる前に能力を使って『私の姿が変わらないことを不審に思う』ということを拒絶した。結果として、私が何十年経っても変わらない姿をしているのに気づかない。



 それから尻尾も増えて現在四本。チルノは勿論、最近では大ちゃんやルーミアまで私の尻尾を抱きまくらにしている。


 驚くべき事にチルノはここ数十年で私やルーミア、大ちゃんや他の妖精達と一緒にいても寒くならないようにと自分の力を完璧に制御できるようになった。また、それでコツを掴んだのか最近はメキメキと力をつけ、中妖怪と互角に渡り合う程になっている。


 ルーミアは妖精達と暮らすのが楽しいのかずっと霧の湖から離れないでいる。時々妖怪の山の状況を教えてくれたりもしてくれて頼もしい限りだ。


 ルーミアによれば妖怪の山の連中は近いうちに人間の街に攻めようと考える者が増えたらしい。最近は人間を脅かそうとしても武器で反撃されるらしく、このままでは妖怪を恐れる人間がいなくなり、最悪の場合消滅である。




 私は街中を歩きながらどうしようか考えていた。何とかして平和的に解決できないか…難しいのは分かっているが、私は諦めたくない。幻想郷はまだできていないが…なるべくそれに近い状態にまでもっていけたらいいと私は考えている。



 ふと前を見ると街の子供達が数人、道端に座り込んでいた。


「どうしたの?」


 私が子供達に話し掛けると一人の少女が振り返り、私を見ると近づいて来た。私は屈んで目線を合わせる。


「あのね、道の端っこにお花が咲いてるの!」


「花?」


 私は珍しいと思いながら子供達の上から覗き込むように見てみた。この街は地面も全て人工的に作られたコンクリートのような物質で覆われているので植物なんて普通生えない。


「これは…」


 目の前にあるのはギザギザした葉に黄色い花…たんぽぽ。


 地面に少し亀裂が入っていてそこから生えてきたようだ。自然の力は凄いと改めて感じさせられる。


「お姉ちゃん、このお花なんて名前?」


 ふと、一人の少女が私にたずねてきた。化学技術の発達した街中に住んでいれば花の名前もわからなくて当然だ。街中にあるのは並木くらいで花なんて見かけないし、子供だけでは街の外には出られないから花畑なんか見たこともないのだろう。


「これはね、たんぽぽっていうんだよ」


「へぇ~、お姉ちゃん物知りだね!」


「そうね…いつか私が花畑に連れて行ってあげるわ。たくさんの花、見せてあげる!」


「本当!?お花がいっぱいあるの!?」


 私が頷くと子供達は早く行きたいと言わんばかりに喜んだ。それを見ている私も自然と笑顔になった。


「お姉ちゃん、約束だよ!」


「ええ、約束するわ」


 少女は右手をさしだすと小指を立てる。


「指切りしようよ!忘れないように!」


 私は頷くと自分の小指を少女の小指と絡めた。


「じゃあまたね~!」


 走って行く少女を見送ると私は再びたんぽぽの花へと視線を向けた。


「約束…か」


 そのまま、私はしばらくたんぽぽの花を見つめたままその場に佇んでいた。


「あら、珍しい…花なんてしばらく見なかったわね…」


 突然聞こえた声に振り返ると、そこには15歳くらいの少女が立っていた。


「たんぽぽ…か、本当に珍しいわ。それに…」


 彼女は私に視線を向けると少し目を細める。


「…妖怪に会うのもね」


「…!?」


 私は驚きを隠せずにその場に立ち尽くした。


「…どうやら当たりみたいね」


「…何でわかったの?」


 私が質問すると彼女は肩を竦めて再びたんぽぽへと視線を向けた。


「別に…何となく人間じゃない雰囲気をしてたから、それなら妖怪じゃないかと思ったのよ」


 私はどうしようか迷いながらその場に立ち尽くしていた。彼女は再びたんぽぽに目線を向けて何やらぶつぶつ呟いている。なんというか…この沈黙が私の神経を擦り減らしていくように感じて落ち着かない。


 このままだと精神的に危なくなりそうなので何か話そうと私は彼女に話しかけた。


「ねぇ、私のこと怖くないの?」


「ん?別に怖くはないわね。さっき子供達と話してるのを見てたから」


「でも…あなたを襲うかもしれないわよ?」


 すると、彼女は私に視線を戻して軽く微笑んだ。


「あら、襲うつもりなの?」


「…いや、違うけど」


「ならいいじゃないの」


 私は何も言えなくなってしまったのでため息をつくと彼女に背を向けた。


「あら、帰るの?」


「まぁね、今日は疲れたわ。主に精神的に」


 私が帰ろうと一歩踏み出した時、突然コートを引っ張られる感覚がしたので振り返る。


「………」


 そこには今話をしていた少女、よく見ると長い銀髪が丁寧に結んであり顔もなかなかの美人だった。


 彼女は私の全身を上から下までくまなく見ると何かを考えだした。


「…どうかしたの?」


 私が少し屈み込む形で尋ねると彼女はニヤリと口元を歪めた。


 あ、絶対何か企んでる顔だ…


「ねぇ、あなたこれから少し時間あるかしら?」


「え?まぁ、あるけど」


 私の返事でますます笑顔になる彼女を見て私は今すぐ逃げ出したい気持ちになってきた。


「ちょっと私の家まで来てくれないかしら?話したいことがあるのよ…」


「…ちなみに拒否権は?」


「ないわよ」


 …ないのかよ!じゃあ尋ねる必要ないじゃないの!


「断る!……って言っても帰してくれなさそうね」


「ええ、その時は街の警備隊にそこで妖怪に会ったって伝えるわ」


 さすがに警備隊を呼ばれて一騒動…なんてことになるのは面倒だし、何よりこの街にいられなくなりそうだ。能力を使って記憶を消す、という方法もあるが…ちょっとだけだがこの少女に興味がわいたので言うことを聞いてみよう。


「はぁ…わかったわよ…じゃあとりあえず自己紹介しましょうか。私は鈴音桜花、妖怪よ」


 私が手を差し出すと、少女は私の返事に満足したのか笑顔で握り返してきた。


「私の名前は八意×××よ。…あ、この名前は発音しにくいかしら?」


 …ん?八意?それに発音しにくい名前…まさか!


「そうね、じゃあ永琳と呼んでちょうだい。八意永琳よ、よろしく、妖怪さん」


 …そのまさかでした。まさかこんな形で永琳と出会うなんて…。たしかによく見れば記憶にある永琳の面影がある。何で気がつかなかったんだ私は…。


「どうしたの?私の顔に何か付いてるかしら?」


「いや、何でもない…」


 彼女の後を付いて行きながらやれやれ、と私は心の中でため息をつくのだった。



―少女移動中―



 場所は変わってここは永琳の家である。いや、家と言うには少しばかり違うか…何というか、屋敷と呼ぶ方が合っているほど広くて大きいのである。


「大きい家ね、羨ましくなるわ」


「そう?普通じゃないかしら」


 そんな会話をしながら中へと入ると、物音さえしない玄関を抜けてリビングへと向かう。


「ねぇ、永琳。他には誰もいないの?」


 あまりにも静かすぎるので私は自然と永琳に尋ねていた。


「ええ、ここは私の研究所も兼ねてるから普段は誰もいないわ」


「寂しくならない?」


「私は静かな方が好きなのよ」


 永琳の入れてくれたお茶を飲みながら部屋を見渡してみる。白い壁には写真がいくつか飾ってあり、どれも最近のものばかりである。両親らしき人物と写っている写真や、あきらかに偉そうな人と写っている写真等…


「永琳はこの家の掃除とかはどうしてるの?一人じゃ大変でしょ?」


「掃除は機械達が自動でやってくれるから大丈夫よ」


「そう…」


 ふと、近くにあった時計を見てみるともうすぐお昼になる頃だった。


「あら、もうお昼ね。何か作るわ、何がいいかしら?」


「いいの?ご馳走になっても」


「いいわよ、たまには誰かと食べるのも悪くはないわ」


「じゃあ…野菜炒めがいい」


「貴女、妖怪なのに肉は食べないのね」


「野菜が好きな妖怪がいてもいいでしょ?」


「ふふ、そうね」


 その後、永琳の作った料理を食べ、私はリビングでくつろいでいた。もうすっかり友達の家に遊びにきた感覚である。


「で、結局永琳は何で私を家に招待したの?」


 私と同じようにくつろいでいる永琳に質問すると永琳はクスクスと笑いだした。


「何でかしらね。気になったから…とでも言うしかないわね」


「ふ~ん、永琳ってやっぱり変わってるわね」


「変人とでも言いたいのかしら?」


「さぁ、どうでしょうね」


 私達はお互いの顔を見て笑い合った。


「ねぇ、貴女は…」


「う~ん、その呼び方何とかならない?なんかしっくりこなくてさ。桜花って呼んでよ。」


「そう?じゃあ…桜花は何の妖怪なの?」


 さすがの永琳も私の正体は見破れないらしい。ちょっぴり優越感だ。


「私は狼の妖獣よ」


 そう言って尻尾と耳を出す。永琳は突然現れた耳と尻尾を交互に見るとゆっくり近付いてきた。


「ねぇ、触ってもいいかしら?」


「え?あ、うん…いいけど」


「それじゃあ…」


 永琳は興味津々な様子で私の耳を触りだした。


 というか永琳、触るなら堂々と触ってくれないかしら?中途半端だとくすぐったい。


「尻尾が四本…あら、これふかふかして気持ちいいわね。一本もらえないかしら?」


「冗談やめてよ」


「あら、本気だったんだけど」


 今の永琳なら小柄だから私の尻尾を布団変わりに寝ることもできるだろう。と、いってもさすがにそこまではしないが。


「四本ならだいたい500歳くらいかしら?」


「ん?何が?」


「あなたの年齢よ」


「私の年齢?たしか1500歳は越えてるはずだけど?」


 私の言葉に永琳は驚いた顔をしていた。


「あなたって凄い妖怪なのね」


「まぁ、今のところ私より長生きの妖怪は知らないし、私より強い妖怪に会ったこともないわね」


「それじゃあ、あなたが妖怪の中では最強なのね?」


「う~ん、どうだろう…意外といるかもしれないわよ?私より強い妖怪」


 それから私は永琳にいろいろ質問されてそれに全て答えた。何処に住んでいるか、どんな能力を持っているか等…勿論答えたらまずいものは答えなかったけど…


「何というか…あなた変わった妖怪ね」


 全てを聞き終えた永琳からそんなことを言われて私は苦笑いするしかなかった。反論しようにも事実なので何も言えないし…


「永琳に変だって言われる筋合いはないわね」


 永琳はあら酷い、とわざとらしく泣きまねをしたので私は自然と笑顔になった。


 ふと壁にかけてある時計を見ると5時になっていた。あんまり長くいると悪いから私はそろそろ帰ることにした。


「じゃあ、私そろそろ帰るわ。今日はありがとね、永琳」


「あら、もうこんな時間なのね。こちらこそ久しぶりに楽しい時間を過ごせたわ。ありがとう、桜花」


「また来てもいいかしら?」


「勿論よ」


 私は耳と尻尾を隠すと永琳に見送られながら帰路についた。


 ふと、振り返り永琳の家を見ると家の向こう側のだいぶ離れた場所にロケットのようなものが発射台に固定されているのに気がついた。


 もしかしたら永琳が月に行く日はそう遠くないのかもしれないと思いながら私は再び帰り道を歩き出したのだった。




 最近、友人の(そら)がニコ動の「レッツゴー陰陽師」に洗脳されてきています。…ちょっと心配です。


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