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東方~青狼伝~  作者: 白夜
オリジナル異変
59/112

Epilogue


 次回から原作に戻ります!



 


 普通の魔法使い、霧雨魔理沙は博麗神社の階段を昇っていた。


 普通なら愛用の箒に跨がりながら優雅に空から「こんにちは、うふふ…」なんて感じなのに、と若干美化されす過ぎたいつもの自分の姿を想像しながらも、こうして階段を昇っているのには理由があった。

 ぶっちゃけ、霊夢の事である。


 あの正に“鬼”と表現できる程に強くて恐ろしい霊夢は今までの付き合いのなかで初めて見た。

 あれから一週間、怖くて博麗神社に近づけず、彼女は紅魔館とアリスの家で書物を読み漁る生活を送っていた。

 あまりにもインパクトの強い見た目とオーラを纏った霊夢を思い出す度に、魔理沙は思わず周囲をキョロキョロと見回しては安堵の溜め息をつくという挙動不審な行動ばかりをしていた。

 魔理沙にとってあの時の霊夢は正にトラウマものであり、夢に出てきたら絶対に泣ける自信がある。というか実際に夢に出たし、泣いた。


 そんなこんなで魔理沙はこの一週間、調子が悪くてしかたがない。

 具体的に言えば紅魔館に侵入したのはいいがいつものように借りていこうとした本を置き忘れたり…。アリスの家では柄にもなく、つい上海人形を胸元に抱いていつの間にか寝ていてアリスに見られたり…。

 ちなみに夢に霊夢が出てきて泣いて跳び起きたのがその時だったりする。おかげでアリスは信じられないものを見たかの様に目を丸くして驚いていたのを覚えている。慌てて弁解しようにも流れる涙を抑えきれず、逆に若干頬を染めたアリスに頭を撫でられて慰められてしまった。


 とにかく、魔理沙はこの一週間ろくに安心する日が無く、このままではノイローゼになってしまいそうだったので、あれはきっと夢だ、そうに違いない、と現実逃避をしながら今まで通り博麗神社で霊夢とお茶を飲む日々に戻ろうと、勇気を振り絞りここまでやって来たのである。

 空からではなく、階段を使っているのは何となくである。決していきなり霊夢の目の前に降り立つのが怖い訳ではない。……たぶん。



 そんなこんなで階段を上りきった魔理沙が目にしたのはいつもと変わらぬ博麗神社。

 最近よく手入れや補整されて参拝客も増えてきた境内にはそれに伴って修理・強化された賽銭箱が置いてあった。


 ──あぁ、やっぱり私の妄想だったのか。


 あまりにもいつも通りな境内を見て、魔理沙はやはりあの霊夢は疲れていた自分が勝手に思い浮かべた妄想の産物だったんだ、と自己完結すると、神社の裏手へと回る。いつもと同じなら、そこで霊夢がお茶を飲んでいるか、昼寝をしている筈である。


「お~い、霊夢、遊びに来たぜ!!」


 建物の角を曲がりながらいつもと同じ様に声をかける。


 そう、きっといつもと同じ様に怠そうな霊夢が返事をしてくれると信じて──。






「惜しいっ!!もう少し力を抑えてもう一回!!」


「ん、了解よ、師匠」





「……え?」


 魔理沙が目にしたものは、桜色の巫女服を着た少女に指導されつつ、どう見ても“真面目”に修行している霊夢だった──。




「なん…だと…?」


 呟かずにはいられなかった。思わず手に持っていた箒を落としてしまい、カランと地面に当たり音をたてる。


 その音で気付いたのか霊夢が振り向くと近付いてくる。


「なんだ、魔理沙じゃないの…いらっしゃい。お茶ならそこにあるから勝手に飲んでていいわよ。私、今修行中だから」


 そう言って縁側を指差す霊夢の肩を魔理沙はガシッ、と掴むと無表情で霊夢を見詰める。はっきり言って不気味である。


「なぁ、霊夢…」


「な、何よ…気持ち悪い」


 魔理沙は帽子を取ると、目を閉じて何かを悟ったかの様に優しい微笑みを浮かべた。


「ははは…私はきっとまだ夢を見ているんだ。だから、霊夢…私を殴ってくれ」


「…は?」


 あまりにも突然の要望に霊夢は顔を引き攣らせる。


「あんた何を言って…」


「いや、いいんだ。これはきっと悪い夢なんだ。いつものお前に会いたいんだ、現実に帰してくれ…」


「………」


 今まで見たことがないくらいの魔理沙の微笑みに霊夢は盛大に引いた。邪念が一切無い事に更に引いた。つまりはドン引きである。


「さぁ、私を夢から覚まして…」


「ふんっ!!」


「ぎゃん!?」


 にじり寄る魔理沙に、いつの間にか背後に回っていたリンが踵落としを喰らわせる。

 小さい悲鳴を上げて倒れた魔理沙を見下ろしながら、霊夢は安堵の溜め息をついた。


「…ありがと、師匠」


「…いや、気にしないでいいよ」


 慰めるかの様な視線を向けてくるリンに、霊夢はただ苦笑いするしかなかった。




◇◇◇◇



「……ん」


 がやがやとした喧騒で魔理沙は目を覚ました。

 どうやら博麗神社の一室に寝かせられていたようだ。

 かけてあった毛布を退かして立ち上がると背伸びをして二、三回首を回す。外の光は薄暗く、既に日が落ちてしまったのだと理解できる。


 しかし、外は何やらがやがやと大勢の人の声が聞こえる。

 魔理沙は寝起きで上手く働かない頭を使いながらふらふらと襖を開ける。


 そこには大勢の人間や妖怪がいた。どうやら宴会らしい。


 はて…?、と魔理沙は首を傾げる。


 宴会があるなんて話は聞いていない。何やら悪い夢を見ていた気がするが、思い出さない方がいい気がして無理矢理に思考の片隅へと追いやる。


「おや、魔理沙、起きたのね」


 背後から聞こえた声に振り返れば、そこにはいつもの様に真っ青な髪と服を着た桜花がいた。


「ん、ああ…つい寝ちまったみたいでさ。今起きたんだ」


 何故か苦笑いする桜花を不思議に思いつつ、もう一度周りを見渡す。

 レミリア達、紅魔館組や幽々子と妖夢、八雲一家までいる。


「なぁ、これ何の宴会なんだ?私は何も聞いてないんだが…」


 帽子を被り直して縁側に腰を下ろすと、魔理沙は桜花を見上げる。


「ああ、博麗の巫女の正式な就任祝いよ」


「はぁ?就任祝い?」


「博麗の巫女はね、私の妹と模擬戦をして初めてちゃんと名前が引き継がれるの」


 魔理沙は帽子の端を持ち上げながら険しい顔をする。


「もしかして、お前の妹って、桜色の髪をした背の小さい奴じゃないだろうな?」


「あら、魔理沙は会った事があるのね」


 桜花の返事に思わず魔理沙はガクリ、と肩を落とす。


「夢じゃなかったか…」


「…はい?」


 結局、あの光景が夢じゃないと解った魔理沙は桜花に詳しい話を聞いて、ようやく納得したのか宴会の中に混じって行った。


「ふふ…。本当に飽きない子達だよ、まったく」


 桜花は一人笑いながら酒の入った猪口を傾ける。


「本当だよね~」


 するといつの間にいたのか、桜花の隣にフワリとリンが降り立つ。


「ん?宴会に混じらなくていいの?」


「もぅ、私が騒がしいの嫌いなの知ってるでしょ?」


 リンと桜花は並んで座ると、宴会会場である境内をぐるりと見渡す。

 妖怪も人間も、同じ様に騒いで、飲んで、歌って、踊っている。


「…うん、いいね」


 桜花はそう呟くと隣のリンの頭を撫でる。


「お姉ちゃん…もしかして、私が人間だった時の事考えてる?」


「…うん」


 桜花はあの時、今の様に人間と妖怪が仲良く暮らせる様になるなんて難しいと思っていた。精々、お互いに不干渉だとか、手を出さなければ…、といった不完全な形でさえ良くできたと言える程だったのに、こうしてお互いに笑いあいながら暮らしていける理想郷ができた。


「リン、私は今凄く嬉しいし、幸せだよ。…うん、諦めないでよかったと思ってる」


 そう言って微笑む桜花の形にリンは寄り掛かると目を閉じて小さく頷いた。


「大丈夫、お姉ちゃんならこれからも上手くやれるよ。人間だった私が妖怪であるお姉ちゃんと仲良くなれたみたいに…」



 二人は宴会の喧騒を聞きながら静かに笑い合った。





~END~






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