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東方~青狼伝~  作者: 白夜
オリジナル異変
56/112

休憩

 

 貴女は自分の周りの人間の事をどれだけ理解していますか?


 相手を思いやり、互いに歩み寄る事のできる人物がいますか?


 案外、自分を思ってくれている人の存在に気づかない人は多いんですよ。





 


「………」


 静かな神社の縁側に一人の少女が舞い降りる。この神社の巫女、博麗霊夢である。


 紅白の巫女服は乾いて変色した血が付着しており、まるで怪我をして逃げ帰ってきた様な印象を受ける。


「……はぁ」


 彼女は別に逃げ帰ってきたわけではない。

 ルーミアとの戦闘が終わった後、多少なりとも冷静になれた彼女は着替えと状況整理の為に帰ってきたのである。


 神社に入り、着替えを準備して風呂場へと向かうと血のついた服を脱ぎ、洗濯物用の籠へと入れる。


「…頭冷やさなきゃ」


 自らの胸の内にあるよくわからない苛立ちを消すために水風呂にでも入ろうか等と考えながら戸を開くと──






「ふふふ…遅かったわね、霊夢!!」



 タオルを巻いた幼児体型の吸血鬼姉妹の姉が風呂場の中央で真っ平らな胸をはって仁王立ちをしていた。




「………」


 霊夢は無言で戸を閉める。




「ちょっ!?ちょっと待ってよ!!何で閉めるわけ!?」


 閉めた戸を開ながらレミリアが叫ぶ。



「あぁ、はいはい……お帰りはあちらよ、お嬢様」


 レミリアと少しも目線を合わせずに霊夢は出口の方を指差す。その顔には無表情であるが“帰れ”と顔に書いてあるように見える。


「いやいや、私もさっき来たばかりなのよ?」


「不法侵入したうえに勝手に風呂を使おうとしている様な奴を一般的に客とは言えないわ」


 霊夢はレミリアを見下ろしながらハッキリとそう言うと、タオルの背中側を掴み持ち上げる。タオルが外れないように胸元を押さえた状態で持ち上げられたレミリアは正につまみあげられた猫の様であった。


「きゃあ!ちょっと待ってよ霊夢!ちょっとしたおふざけのつもりだったの!」


「知らないわよ」


 手足をバタバタとさせるレミリアを廊下に服と一緒に放り出すと戸を閉めて鍵までかける。神社の外に投げ出さないだけまだマシである。


「ちょっと、霊夢、酷いじゃないの!」


「うるさい。私は風呂に入りたいの。上がったら相手してあげるから大人しくしてなさい」


「私も一緒に入って…」


「日向に放り出すわよ?」


「う…わ、わかったわよ…」


 レミリアは渋々引き下がると服を着て居間へと移動した。




◇◇◇






‐霊夢Side‐



「はぁ、どいつもこいつも…」


 レミリアの気配が離れたのを確認した私は風呂場に入ると、躊躇なく桶で冷水を掬い、一気に頭から浴びる。

 ヒヤリとした感覚に僅かに体を震わせるが、気にせず再び冷水を浴びる。俯き、流れる水に髪に付着していた血の赤い色が混ざるのを眺めながら様々な考えを巡らす。



“──自分の気持ちに素直になってから出直してきなさいな”



 ルーミアから言われた言葉を何度も頭の中で繰り返す。


 自分の事は自分が一番解っている…はずだ。


 しかし、ルーミアから言われたあの言葉がどうしても引っかかる。


 考えても良い結論が出せず風呂から上がると、居間でくつろいでいるレミリアに視線を向ける。


 そういえば、彼女は何をしに来たのだろうか?

 いつもならば一緒にいる筈のメイド長もいない。と、すれば他の人に聞かれたくない内容なのだろうか?


「レミリア、あんた何をしにきたの?」


 考えても始まらないので直球に質問する。


「ちょっと見過ごせない“運命”が見えたからね。その確認よ」


 レミリアはちゃぶ台の上にあった煎餅を一つ摘むとかじりつく。


「見過ごせない運命?」


「えぇ、他の人間ならいざ知らず……それが“霊夢の運命”となれば…伝えないわけにはいかないでしょう?」


「…私の?」


 そう、と最後の一口を口の中に放り込むと、レミリアは顎の下で手を組みながら私に視線を向ける。


「…ふむ」


 しばらくの沈黙の後、レミリアは視線を神社の外に向ける。外はまだ青空が広がっており、白い雲もいくつか見える。


「浮雲の如く……か」


 レミリアの呟きに私は首を傾げる。

 そんな私を見てレミリアはクスクスと笑った。


 私は少しムッ、としたがなんとか気持ちを落ち着かせる。レミリアはこうして人をおちょくるのが好きだ。真に受けていたら時間が勿体ない。


「霊夢、貴女は自分がどれだけ特異かわかってる?」


「何よ、突然…」


 私が特異?何の事だ?


「貴女は何にも縛られない。流れる雲みたいにのらりくらりとしていて、自由に生きてる」


「…それが何?」


「つまりはあらゆるものから浮いている…。そう…重力、プレッシャー、圧力…そしてそれは貴女の感情に影響を及ぼすわ」


 私は再び首を傾げる。正直、感情について話されても私にはわからない。

 喜怒哀楽…人間にはそういった感情があり、それらが人間の表現を手伝い、周りに今自分がどんな気持ちでいるかを認識させる。


 しかし、それらが私の能力と何の関係があるのだろうか?


「ハッキリと言えば、貴女は“浮き過ぎ”ているのよ。貴女、桜花と一緒に暮らしてるけれど、彼女からプレッシャーを感じた事とかあるかしら?」


「……ないわ」



 桜花と一緒に暮らし始めてからもうすぐ一年が経とうとしている。それなのに彼女からプレッシャーを感じる事などなかった。


「でしょうね…。貴女は彼女の放つプレッシャーや殺気からさえも浮いているんだから」


「…あんたはどうなのよ」


「私?……そうね、正直に言うなら桜花のプレッシャーは辛いわ。私がふざけて霊夢の血を吸おうとした時なんか本気で殺気をぶつけられたし…」


 レミリアは少し顔を青くしたかと思うと振り払うように首を振る。


「…とにかく、桜花は貴女を凄く大切にしてるわ。彼女にとって博麗の巫女は家族同然らしいからわからなくもないけど…。桜花って貴女に結構甘いしね」


「………」


 今思えば、桜花は私の為に色々な事をしてくれている。


 生活費、料理、参拝客を集める活動、参道の整備…。


「霊夢、貴女にとって桜花は何?」


「私にとって桜花は…」


 私にとって桜花は一体何なのだろう。そんな事、考えた事もなかったし、気にもならなかった。


「それが貴女の悪いところよ。人の気持ちを無視し過ぎている。そして自分の気持ちからさえも浮いている…。流され過ぎて自分から歩む事を疎かにしている。桜花が修行不足と言っているのはこの事が大半だと思うわよ?」


「………」


 私は何も言えずにレミリアを見つめたまま動かなかった。


「まぁ、ここからは自分で考えなさい。私はそろそろ帰るとするわ」


 レミリアは立ち上がると日傘をさして外へと出る。


「…レミリア」


 私は思わず彼女を呼び止める。


「…どうかした?」


「その……ありがとう」


 振り返りながら首を傾げる彼女に私がそう言うと、レミリアは一瞬驚いた顔をした後、笑顔で空へと舞い上がって行った。


 答えはまだ解らないけど、少し気分が良くなった様な気がして私は思わず口元が緩むのを感じた。



 さて──じゃあ私も答えを探しに行かなくちゃね。



 私はお祓い棒と札を準備して再び湖へと向かい飛び立った。







 少女祈祷中……





 霊夢は 『鬼巫女』 から 『腋巫女』へと ジョブチェンジ した!!



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