Stage2
「この封印って、簡単に解いていいのかしら?」
リボンの外れた髪を弄りながら金髪の少女は目の前の青い少女に言う。
「大丈夫よ。用事が終わったらかけ直してあげるから」
青い少女…桜花はそう言うとニッコリと笑った。
「まぁ、いいけど。……それで?私の封印を解いた理由は?」
金髪の少女は背伸びをしながら桜花へと視線を向ける。
「うん、ちょっと霊夢と戦ってきてほしいのよ」
「はぁ、霊夢と?」
「うん、あの子にもいい修行になると思うし…」
それに、と桜花は顔をあげる。
「ちょっと暴走してるみたいだからね。頭冷やすのに丁度いいでしょう。飽きたら勝手に終わってくれて構わないわ」
「…なんで私がその役をしなきゃいけないわけ?」
金髪少女の疑問に桜花はクスリと笑う。
「だって──貴女は何だかんだで優しいからね。…そうでしょ、ルーミア?」
金髪少女…ルーミアは頬を赤く染めながら小さく「…ばか」と呟いた。
Stage2
『闇の女王』
霊夢は霧の湖の上空にいた。
鮮血に染まった服がだいぶ乾いてきたせいで少々気持ち悪さが無くなってきたな、なんて事を考えながらも少しずつ高度を下げる。
霊夢は賽銭箱が盗まれた現場である自分の神社を思い出す。
博麗神社には規模は小さいが結界が張ってある。
誰かが境内に入ったら結界が反応し、霊夢に知らせるのだ。
そして、結界は賽銭箱にもかけてあった。
あの賽銭箱は霊夢が結界を張り、桜花が破損・風化を拒絶して、紫が盗難防止の術式を編み込むという、家宝としても防犯対策としても完璧な対策をしていた筈なのだ。
それが盗まれるなんて事はありえない。
ありえるとしたら、それはかなりの実力のある大妖怪か本人達しかないのである。
霊夢は最初に桜花が何かをしたのではないかと思ったが、彼女は午前中に霊夢がまだ掃除をしている目の前を通り過ぎて冥界へと遊びに行っている。
彩花の事も考えたが彼女も現在は桜花と同化しているのでおそらく違う。
次に怪しい紫は神出鬼没でどこにいるかわからない。
しかし、これら三人は違うと霊夢の勘は告げていた。
博麗の巫女の勘はよく当たる。的中率は八割を越える程だ。
勿論、違うという確証はない。しかし、桜花や彩花は何かあるならはっきりと言うし、紫もわかりにくいがヒント的な何かを必ず残すので違う。そうなると、おのずと身内には関係ない外部の犯行だとわかる。
そんなわけで、霊夢は力の強い人物を手当たり次第訪ねる事にしたのだ。
霧の湖に来た理由は、力を持つ者でチルノが一番距離的に近いからである。
──しかし
「あら、そんな険しい顔して何処に行くの?」
そこにいたのは“闇”だった。
以前見た時よりも長い金髪。身長は伸びているにもかかわらず変わらない幼い雰囲気。漆黒の剣を右手に握りしめ、霊夢を見る瞳は真紅に輝いている。
髪に結んであったリボンは──無かった。
「あんたは……ルーミア?」
宵闇の妖怪…ルーミアは楽しそうに笑って頷いた。
「さて、突然封印を解かれたと思ったら“霊夢と戦ってこい”なんて言われて、ちょっと疑問に思ってたけど……成る程、こういうわけね」
ルーミアはやれやれ、とわざとらしく肩を竦めてみせる。
「…封印を解かれた?あんたの封印を解いたのは誰なの?」
「さぁ?誰だと思う?」
ルーミアがおどけた様に両手を広げて首を傾げてみせる。
霊夢はお祓い棒を構えると、ルーミアを睨みつける。
「まぁ、いいわ……封印し直してあげる!!」
霊夢の姿が一瞬だけぶれる。
「キングクリムゾン!」
攻撃の過程を飛ばして結果のみを残す必殺の攻撃。瞬きする間に攻撃を終えた霊夢はルーミアの背後に移動していた。
先程の魔理沙はこれだけで終わった。
しかし、霊夢の勘はルーミアがこれだけでは倒せないと告げていた。
案の定、ルーミアは振り返りながら漆黒の剣を振り抜いてきた。
それを屈んで避けると、後方に大きく飛んで距離を離す。
「残念…その攻撃じゃ私は倒せないわよ?」
ルーミアの身体から闇が溢れ出す。
先程攻撃を当てた場所は傷一つ付いていない。
「今の私は“闇”そのものよ。さぁ、どうやって倒す?」
「…ちっ!」
霊夢は大きく腕を広げるとありったけのお札をルーミアへと投げつける。
しかし、焦っているのか、はたまた怒りのせいか、狙いが雑になっている。
「ほらほら、私はここよ?」
ルーミアは軽々と弾幕を避けてみせると、霊夢に向かって手を振ってみせる。
あきらかに相手を疲れさせる為の挑発だとわかっているのに霊夢は攻撃を止めない。
ルーミアは弾幕を避けながら霊夢を観察し続ける。
その真紅の瞳には若干の呆れと失望の色が浮かんでいた。
「……やめた」
突然のルーミアの呟きに思わず霊夢は攻撃を止めた。ルーミアはつまらなそうに霊夢を見下ろしながら髪をかきあげる。そして大きな溜め息をついた。
「…はぁ。……つまんないわね、今の貴女」
ルーミアの言葉にピクリ、と霊夢が反応する。
「…つまんない、ですって?」
「えぇ、そうよ。今の貴女はつまらない。…これなら大妖精や橙と勝負した方がまだマシよ」
ルーミアは周りに浮かべていた闇を消し去ると、剣を降ろす。その姿はさながら遊ぶ事に飽きた子供の様に見える。
「挑発にホイホイ引っ掛かる…感情に任せた雑な攻撃……何よりも自分の心に疑問を抱いている。…そんな状態じゃ彼女には勝てないわね」
霊夢はルーミアを睨みつけるが、ルーミアは呆れ顔で受け流している。
「あんたは…何が目的で、何がしたいのよ」
「さぁ?私がそれに答える義務は無いわ。私はただ頼まれただけだから。目的なら直接賽銭箱を盗んだ本人にでも聞いたらどう?」
ルーミアは剣を肩に担ぐと、くるりと背中を向ける。
「好きに戦えって言われたけど…はっきり言って今の貴女には興味無いわ。初心にかえって自分の気持ちに素直になってから出直しなさいな…そんな力任せの戦いに振り回されるようじゃ博麗の巫女失格よ?」
ルーミアの言葉に霊夢は歯を食いしばる。
「…何よ、私はいつだって自分に素直よ!!なのに…ああ、イライラする!!何なのよ、いったい!!」
霊夢はスペルカードを構えると、ルーミアへと突撃する。
─煉獄「アマテラス」
スペルの宣言と共に霊夢の頭上に現れる巨大な黒い太陽。それをルーミアへと投げつける。
ルーミアは振り返りながらそれを剣で受け止める。
「……回せ」
霊夢の言葉に反応するかの様に黒い太陽が回る。
「…回せ回せ回せ」
ぐるんぐるん、と回りながら黒い炎を周りに撒き散らしながら太陽はルーミアをじりじりと押していく。
ルーミアは無表情のまま霊夢を見下ろす。
「回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せぇぇ!!」
更に回転が速くなった黒い太陽にルーミアが完全に飲み込まれた。そして、次の瞬間──
ドォォォォォォン!!
黒い太陽は辺り一面を焼き払いながら破裂した。凄まじい爆風と炎が辺りに飛び散り、熱風が吹きすさぶ。
「………」
その中で、霊夢は険しい表情で立っていた。
ルーミアは爆発の直前に逃げたらしく気配も感じない。
「…ちっ」
先程のルーミアとの会話の内容が頭から離れず、霊夢は舌打ちをしながらその場をあとにした。
Stage Clear?
鬼巫女祈祷中……
鬼巫女は反則だが無敵ではない……という意味も込めて引き分け的な終わり方にしてみました。
では、また次回で!!