Stage1
きっかけは彼女の何気ない一言だった。
「今代の博麗の巫女って、どんな子?」
私は霊夢の事を教えてあげた。
天才的な才能を持っている事、周りに自然と人も妖怪もよってくる事、でも修行をしない子であると…。
彼女は少し考えてから私を指差して、少し怒った様に言った。
「桜花お姉ちゃんは甘すぎるよ。修行は大事なんだから!」
それから彼女は墓石から立ち上がると、先程とは違う真剣な目をして宣言した。
「これより、今代の『博麗の巫女との試合』を行います。姉様、準備を…」
彼女の桜色の髪が風に揺れ、『リン』と、今は彼女の腰に結び付けられた桜の髪飾りの鈴の音が響く。
──そして、彼女は動き出した。
Stage1
『怒りの理由』
普通の魔法使い、霧雨魔理沙は焦っていた。
原因不明の強大な力が溢れるのを感じたのが10分前。
何事かと急いで外に出てみれば、博麗神社の方角からとんでもない力を感じる。
それも、何というか…凄まじいまでの怒りや怨念の様な感情まで伝わってくる。
‐魔理沙Side‐
「…おいおい、霊夢は大丈夫なのか?」
私はすぐさま準備を終え、博麗神社へ向かって飛び立った。
どうやらこの気配を出している原因は移動しているらしく、徐々にこちらに近づいているように感じられた。 博麗神社の方角からやって来るということは、最初に考えられるのは桜花だ。
こんな馬鹿げた力を振るえる存在なんてあいつ以外にいないだろう。
魔法の森を離れ、最近になって整備された参道が見えてきた頃、前方に小さな人影を確認したのでその場に停止して構える。
徐々に近づき大きくなる人影はどうやら紅白の服を着ているらしい。
この幻想郷で毎日紅白の衣装を着ている人物は一人しかいない。
「おーい、霊………夢…っ!?」
私はだいぶ近くまで来た親友に向けて声をかけようとして……。
───絶句した。
いつもの腋を見せびらかす様な巫女服は鮮血に染まっていた。
霊夢本人はどこも怪我をしている様には見えないのでおそらくは返り血なのだろう。
それはまだいい。妖怪退治をしていれば返り血くらいは浴びる可能性は十分にある。
私が驚いた一番の理由は…霊夢の纏うまがまがしいまでの“力”だった。
どう表現したらいいのかわからない程の“力”。霊力と魔力……あとは、怒り?
霊夢の扱う力の大半は霊力だ。
霊力は大抵は目に見えない透明な力で、どれだけ強くしても陽炎の様に周りの景色が揺らめいて見えるくらいだ。
しかし、今の霊夢の周りにははっきりと“紅い”オーラが見える。
霊夢自体が巨大化してしまったのではないかと思う程のオーラを前に私は開いた口が塞がらなかった。
「…れ、霊夢。…い、一体何が…?」
俯いていた霊夢は私の声にゆっくりと顔を上げる。
前髪で隠れてよくわからないが、髪の間から覗く霊夢の瞳は真っ赤だった。
「……魔理沙」
霊夢の声は酷く冷めていて、まるで極寒の地に放り込まれた様な寒気が全身を駆け抜ける。
「……神社の賽銭箱を見なかった?」
「…さ、賽銭箱?」
その時、私は大体の予想がついた。
きっと博麗神社の賽銭箱が盗まれるなりしたのだろう。
霊夢にとって賽銭箱は博麗神社の家宝であり、唯一の収入源でもあるのだから。
最近は桜花のおかげで参拝客も増えてきて、霊夢は毎日どのくらいの賽銭が入っているのかを楽しみにしていた。
それが盗まれたとあっては霊夢が怒るのも無理はない。
「すまないが賽銭箱は見てないぜ」
「そう…。じゃあね」
「…って、おい、霊夢!!ちょっと待てよ!!」
聞くだけ聞いてさっさと行こうとする霊夢の腕を掴む。
「……何よ」
ギロリ、とこちらを睨む霊夢。それに少し気圧されそうになるのをなんとか耐える。
「…あ、いや…その……何か手がかりとかないのか?なんなら探すの協力してやっても……」
「いらないわ」
きっぱりと断られた事に少しばかりカチンときた。
「…な、なんだよ。せっかく人が親切に手伝おうとしてるのに」
「いらないわ。足手まといよ」
「なっ!?」
そう言われてふつふつと怒りの感情が沸き上がってくる。
珍しく親切にしてやったのに足手まといだと?
「おい、霊夢。機嫌が悪いのはわかる。そりゃ愚痴や暴言だって言いたくなるさ。……だが、私を足手まといと言うのだけは許さないぜ!!」
霊夢の腕を乱暴に払いながら距離を取ると、ミニ八卦炉を構える。
霊夢は私に見下した様な視線を向けたまま構えもしない。
そんな姿を見て再び怒りが沸いて来る。
「霊夢…お前、いつから怒りで我を忘れるような奴になったんだ!?」
「うるさいわね…私はいつもと同じよ」
「…ちっ!」
──違う。
いつもの霊夢はこんなにも感情に流され過ぎる様な奴じゃない。
霊夢はあらゆるものから“浮いている”のだから。
多少感情を表に出す事はあっても、すぐに普段通りに戻る。
「霊夢…お前、本当は賽銭箱が原因で怒ってるわけじゃないんだろ?」
「私は賽銭箱を盗んだ奴を探してる。それ以外に理由は無いわ」
違うぜ、霊夢。
たぶん、お前はそんな事じゃここまで怒らない。
「…わからないなら、私がわからせてやる!!」
──霊夢、お前は何がそんなに許せないんだ?
‐SideOut‐
先に動いたのは魔理沙。ポケットからスペルカードを取り出し、ミニ八卦炉を霊夢へと突き出す。
「いくぜ!!」
──恋符「マスタースパーク」
発動したのは魔理沙の最も得意とするスペル「マスタースパーク」。極太のレーザーは一直線に霊夢へと向かっていく。
霊夢は向かってくるマスタースパークを無表情のまま見つめ、あと少しで触れるというところで動いた。
体を包む紅いオーラが凝縮する。
ゆらりと体が動く。
そして──
「キングクリムゾン」
──決着は一瞬だった。
「…なっ……え?」
魔理沙は理解できなかった。
彼女の体は箒から落ちていた。
いつ攻撃されたのか、いつ霊夢は自分の背後に移動したのか、全てが解らなかった。
霊夢の使う技の中に“亜空穴”という瞬間移動に似た技はある。
しかし、それなら今まで何度か見た魔理沙は対処ができるはずなのだ。
「(なんだ、今の技は…?)」
魔理沙は無表情で自分を見下ろす霊夢を見た瞬間、意識を失った。
「………」
霊夢は落下していく魔理沙が森の“安全な木々の中に無事に落ちた”のを確認すると、移動を再開した。
賽銭箱を盗られて怒ったのは事実。
しかし、魔理沙の言う通り、それだけでないのも確かだった。
霊夢には何故自分がここまで怒っているのか、自分自身でわかっていなかった。
Stage Clear!
鬼巫女祈祷中……
Stage1、あっという間でした(汗)
おそるべし、キングクリムゾン!!
最初はコメディーっぽくしようと思っていたのですが…何やら真面目な感じになってしまいました…(汗)