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東方~青狼伝~  作者: 白夜
妖々夢編
49/112

妖々夢Stage3(裏)


 白玉楼に繋がる長い階段の頂上に少女はいた。


 傍らに浮かぶ自分の半身を視界に入れながら舞い散る桜を眺める。



 ふと、遥か下から誰かがやって来る気配があった。


 少女は背中と腰に挿している二振りの刀に触れる。


 僅かに息を吸い込んで呼吸を調えた少女は残り僅かな春度を求めて階段を下って行った。



 



「あの…」


 桜の花びらがひらひらと舞い踊る中、一匹の化猫の少女が遠慮気味に隣の背の高い少女に声をかける。


「…ん?」


 隣にいる全身黒ずくめの少女は首を傾げて化猫の少女を見つめる。


「さっき彩花さんそっくりの人が戦ってましたけど…放っておいてよかったんですか?」


 化猫の少女…橙は隣の少女…彩花へとそう問い掛ける。


 現在、二人がいる場所は冥界の入口たる先が見えない程長い白玉楼の階段である。

 先程、桜花に追いついた彩花だったが、桜花はプリズムリバー三姉妹と戦闘中であり、霊夢がいるならサポートも必要ないだろうと二人を気にせず一足先に結界をくぐり抜けて冥界入りしていた。


「…桜花なら大丈夫。私より強いから」


「はぁ…そうなんですか?」


 まだ桜花とちゃんとした面識のない橙は首を傾げながら彩花の隣に並んで飛行するのだった──。







Stage3(裏)


『白玉楼階段の幻闘』


BGM「東方妖々夢~Ancient Temple~」






 冥界は薄暗く、何より肌に纏わり付く空気が違う。

 冷たく、寂しい様な空気に橙が思わず身震いをする。紫に連れてこられた事があると言っても両手で数える事ができる程度……橙にとっては今だに慣れない空気である事に変わりはない。


 そんな橙を彩花は片手でそっと抱き寄せる。

 柔らかな温もりに橙はハッ、として目を見開くが、彩花が優しく微笑むと安心感からか自然と笑顔になっていた。


 そんな橙の主人である九尾の狐が見ていたら血涙を流しながら殴り込む様な雰囲気の二人だが、先程から妖精や幽霊達による攻撃が次々と襲い掛かり、彩花は橙を抱いていない方の手でそれらを片っ端から撃墜していくという、ある意味壮絶な光景が広がっていた。


 橙を傷つけない様に、まるでダンスを踊るが如く立ち位置を変えながら弾幕を放ち、順調に先へと進む二人だったが、鋭い気配を感じた彩花が突然立ち止まる。

 彩花と並んで飛んでいた橙は立ち止まると何事かと不思議そうに彩花を見上げた。


 そんな二人の前に、一人の少女が現れた。


 純白の髪に映える黒いリボン付きのカチューシャ。白いシャツの上に深い緑のベストを羽織り、同色のスカートを揺らしながら静かに佇む少女からはまるで抜き身の刀の様な印象を受ける。

 何よりも目を引き付けるのは腰と背中にある二振りの刀と、彼女の傍を漂う巨大な白い饅頭の様な魂。



 彼女の名は魂魄妖夢(こんぱく ようむ)、白玉楼の二代目庭師兼、剣術指南役である。


「あなた、人間ね」


 妖夢は背中に背負う長刀…楼観剣を鮮やかに抜き放つと、切っ先を彩花へと突き付ける。


「ちょうどいい…貴女の持っているなけなしの春を全て頂くわ!」


 彩花はそっと橙を離れた場所へと移動させると、妖夢へと向き直る。


「いざ…!」


 妖夢から放たれる二色の弾幕を回避しながら彩花は接近する。

 右手に黒い槍を作り出し、妖夢へと突き出すが、妖夢は即座に楼観剣を使って弾く。


「はぁっ!」


 お返しとばかりに放たれた妖夢の回し蹴りを彩花はバックステップで回避する。


 離れる彩花へと追撃をかけるかの様に妖夢は目の前の空間を斬る。

 白い一筋の線が走り、そこからいくつもの弾幕が放たれる。

 その弾幕は妖夢の性格そのものであるかの様に真っすぐであり、故に鋭く、速く、しかし…それ故に避け易いものだった。



──餓鬼剣「餓鬼道草紙」



 スペルの宣言が聞こえ、彩花はすぐに距離をとる。


 腰を落として刀を構える妖夢は集中するかね様に息を吐く。まるで時間が遅くなったかの様な錯覚に陥った瞬間、妖夢が動いた。


 一瞬で彩花から見て右から左へと大きく移動しながら刀を振るう。

 その瞬間、振り抜いた空間からは大量の弾幕が現れ、一斉に散らばる。


 再び妖夢が刀を構えるが、彩花は体を半身にしたまま動かない。


 そして、妖夢が動いた瞬間、彩花も動いた。


 左から右へと移動する妖夢を追いかける様に彩花は空中を走った。

 迫る弾幕を次々とくぐり抜け、一瞬で妖夢の目の前へと飛び込む。


「──っ!?」


 まさか飛び込んでくるとは予想していなかったために反応が遅れてしまった妖夢の腹へと、拳大の大きさの弾幕を放つ。

 妖夢は咄嗟に腰から白楼剣を抜き、刃の腹の部分でそれを受け止める。


「ぐっ、うぅ!?」


 受け止めた瞬間に感じる弾幕の衝撃のあまりの強さに妖夢は思わず唸る。

 そのまま数メートル吹き飛ばされ、空中でくるりと一回転して体勢を立て直す。白楼剣を握っている左手が痺れている事に若干の苛立ちと焦りを覚えながらも、彩花から視線を外さない。


「……」


 彩花は観察する様に妖夢を見ていた。まるで心の奥まで覗かれてしまいそうな漆黒の瞳に、妖夢の頬を冷や汗が伝う。


「…まさかここまで強いなんて」


 妖夢が立ち上がりながら呟く様に言うと、彩花は小さく微笑む。


「貴女のそのなけなしの春があれば、きっと西行妖も満開になる…」


 妖夢は再び楼観剣を構えると、先程よりも強く握りしめる。


「悪いけれど…幽々子様の為にも退く事はできない」


 彩花は頷くと、弾幕をいくつも作り出して空中に留める。

 妖夢も楼観剣を構えて彩花を睨む。


「いきますよ?……妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど──恐らく無い!!」




BGM「広有射怪鳥事~Till When?~」






 弾かれた様に飛び出した妖夢は一直線に彩花へと向かって来る。

 それに対して、彩花は空中に待機させていた弾幕を一斉に妖夢へと発射する。

 妖夢は弾幕の軌道を読み、的確に回避しながら彩花へと向かってくる。しかし、それを黙って見ている彩花ではない。

 妖夢が最後の弾幕を避けた瞬間を狙って急接近すると、驚いている妖夢の腕を掴み、そのまま投げ飛ばす。



──ドクン




「…あっ!?」


 空中で体勢を立て直しながら、妖夢は突然手に持っている楼観剣を鞘に納め、そのまま腰に宛がうと姿勢を低く構える。



「…居合?」


 突然の妖夢が力を強め始めた事に疑問を浮かべていた彩花だが、その構えから放たれた力の強さを見た瞬間、咄嗟に横に跳んでいた。


 そして、スペルの宣言も無く、無意識にその技は放たれていた。



──修羅剣「現世妄執」



 彩花が横に跳んだ瞬間、先程まで彼女の首があった場所を一筋の光刃が通り過ぎていた。もし、あと一瞬遅れていたなら彩花の首は宙を舞っていたに違いない。


 それを放った本人である妖夢は感じた事のない感覚に戸惑っていた。


──この感覚はなんだ?


 彩花が自分を投げ飛ばすために掴んだ右腕…。


 その手に触れた瞬間に感じた膨大な力、そして触れた場所からじわじわと入り込む様にして襲ってきた感覚。

 触れていたのはほんの一瞬……しかし、まるで氷水の中に何時間も沈められていたかの様な、冷たくて、深い深い───闇。


 それを感じた瞬間から、妖夢は無意識に弾幕ごっこでは当たり前であるスペルカードの宣言もしないで、しかも明かに殺す勢いで技を放っていた。


 妖夢は半人半霊である。

 人間と幽霊のハーフである彼女にとって『死』という概念は身近にある。冥界に住んでいる事と、自分が既に半分死んでいる様なものだから…という理由もあるが、一番の要因は間違いなく西行寺幽々子であった。

 彼女の『死を操る程度の能力』を身近で一番感じているためか、妖夢は『死』の気配に敏感だった。そのため、彼女は『殺気』にも敏感に反応し、剣士としては達人以上の力を発揮できている。

 一対一の戦いにおいて殺気を読むという事は相手の動きを読む事に繋がるからである。


 そんな気配を読むのに敏感だったからなのか、妖夢は感じてしまったのだ。


 彩花の秘める巨大な霊力と、死とは違う『拒絶』という力の気配に……。


 そして、それ故に本人は解っていないが、彼女の本能が今まで感じた事のない程の『恐怖』を感じて無意識に防衛機能が働いていたのだ。


 がたがたと震える手足に力を込めて妖夢は彩花を睨む。

 彩花も妖夢を見ていた。その瞳に浮かぶ感情は……戸惑いだった。




 彩花は戸惑っていた。


 先程、妖夢を投げ飛ばした瞬間から彼女の雰囲気が変わった。

 怯えている様で、しかし混乱してもいる様だ。まるで自分の感情を制御できていないかのようだ。



 彩花がどうしようかと一歩、足を僅かに開いた瞬間、妖夢は動いていた。


「っ!?」


 先程とは比べものにもならない様なスピードで楼観剣を振り降ろしてくる。

 彩花は咄嗟にバックステップをしながら楼観剣の刃の腹を左足で蹴って軌道を変える。

 左へと流された勢いを殺さず、妖夢は空いている左手で白楼剣を抜くと、逆手に持って体を一回転させた勢いで突きを放つ。

 白楼剣は迷いを断ち切る刀であり、切れ味は余り良くない。斬られても精々少し痛いくらいの感覚しか与えられないのだ。

 だからこそ、妖夢は突きを放った。刀の形からして突きは切れ味には反映されない威力を持つ。白楼剣がいかに殺傷力が低い刀でも刀という形からして十分に威力はある。


 彩花は眉間に寸分違わず繰り出された突きを体を大きく反らして回避する。

 その際に妖夢の顔を確認すると、明かに混乱しているのがわかった。


 目が合った瞬間、妖夢は「あっ…」と声を漏らしたかと思えば、恐怖に怯えるかの様に楼観剣を振り抜いていた。



──修羅剣「現世妄執」



 再び繰り出される飛翔する斬撃を彩花はその場から大きくジャンプする事で回避する。


 階段へと着地した妖夢は思い出したかの様に緊張からか止めていた呼吸を再開する。


「…うっ…げほっ…げほっ…はぁ」


 思わず俯いて咳き込んでしまった妖夢は震える自分の手が視界に入る。


「(何故…私は震えているんだ?)」


 自分の無意識の行動に戸惑い、理解できずにさらに思考は混乱していく。


 顔を上げれば自分と同じ様に戸惑った様な顔をしている黒い少女がいる。

 今の彼女からは何も感じない…ただ霊力が多少強い程度の少女だ。

 しかし、彼女に触れたあの瞬間に感じた死をも超える絶対的な『拒絶』の感覚。それを思い出す度に本能が警告を鳴らす。


──あれは危険だ


──触れてはならない


──在ってはならない


──近づいてはいけない






「…あ、貴女は」


 気づけば勝手に口が動いていた。


「貴女は、一体……なんなのですか?」




 彩花はその言葉で気づいた。

 妖夢が何故自分を恐れているのかを。

 彼女は触れてしまったのだ。自分の中にある“狂気”に。


 かつて、抑えきれずに幻想郷を破壊しそうになったあの時の自分に…。


「……私は」


 口から出たのは小さな声。しかし、確かに妖夢には聞こえていた。


「私は……ただの彩花。まだ生まれたばかりで、闇しか知らない影……黒しかない………ただの、影」






 妖夢は思わず魅入っていた。


 彩花が浮かべる笑顔に。先程の恐怖を打ち消すかの様に力強く、しかし今にも消えてしまいそうな儚い笑顔。


「……私の中の狂気を感じてしまったのでしょう?」


 そう言われて妖夢はやっと自分の感じる恐怖の正体に気づく。


「恐がらないで…とは言わない。…でも、私は二度と間違わない…私は、もう自分には負けないと誓ったの。……だから、大丈夫…」





 妖夢は楼観剣と白楼剣を鞘に納めると、深々と頭を下げた。


 その光景に彩花も、恐る恐る近づいてきた橙も驚愕する。


「……貴女に何があったのかは知りません……しかし、貴女の強さと、それに最後まで気づかなかった自分の未熟さを痛感しました……私の、負けです」



 そのまま、桜花と霊夢がやって来るまで三人は無言のまま佇んでいた。






Stage Clear!



 少女祈祷中……






 全く勝負になっていないどころか途中から死合になっていた(汗)


 そして彩花のキャラが定まらない!!(汗)



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