妖々夢Stage3
とある洋館に家族と離れ離れになった一人の孤独な少女が住んでいた。
孤独だった少女は自分の三人の姉達の姿を模した存在を作り出した。
少女がこの世を去った後も…
三人の騒霊達は残り続けている。
その騒霊三姉妹の名前は…
Stage3
『雲の上の桜花結界』
BGM「天空の花の都」
暗闇の中を二人の少女が飛行していた。
巫女服を着た少女…霊夢が、嫌そうにもう一人の少女…桜花に愚痴をこぼす。
「…何にも見えない」
「仕方ないわ。まだ夜が明けていないのだから」
アリスと別れてから、二人は一旦休憩ついでに仮眠をとり、夜明け前に出発した。
桜花の張った特殊な結界の中で一晩を過ごした霊夢だったが、桜花の力のおかげなのか思いのほか寒くもなく、快適な環境であった事に感心していた。
いつかやり方を教えて貰おう、と心の中で呟いているのは秘密である。
…閑話休題
辺りにあるものは暗闇と、舞い散る花びらのみで他は何も見えない。
霊夢は時々現れる妖精を撃ち落としつつ、段々と温かくなる気温に少し気分が良くなっていた。
「あぁ…やっと温かくなってきたわ」
そう言いながらも周りへの警戒は怠っていないのはさすがと言うべきか…。
桜花は「やれやれ…」と首を振って溜め息をつく。
「霊夢は本当にマイペースね。あまり“浮き”過ぎるのもいけないと思うわ」
「その台詞、桜花にだけは言われたくないわね」
霊夢は新しい札を取り出しながらジト目で桜花を見る。
「あら酷い…私、泣いちゃうわよ?」
「寝言は寝て言いなさい」
「本当に容赦無くなってきたわね!?」
そんな軽口を言い合いながら二人は雲の中へと入る。
目指すは雲の上、冥界の入口である。
「………よ」
ふと、何かの声が聞こえた様な気がして霊夢が首を傾げる。
「ん?…桜花、何か言った?」
「いや、何も言ってないわよ?」
「はて?」と霊夢が「気のせいか?」と、思いかけた瞬間。
「は…で…よ~」
「やっぱり聞こえる…」
霊夢が周りを見渡しながらそう呟く。どうやら桜花にもはっきりと聞こえたらしく、彼女も周りを見渡している。
「一体何処に……」
「春ですよ~!!」
「きゃあっ!?」
突然目の前に現れた少女に、霊夢は珍しく驚いた声をあげた。
「あはは~!春ですよ~、春ですよ~!!」
突然現れた少女は霊夢と桜花に微笑むと、同じ言葉を繰り返し言い始めた。
あまりにも楽しそうな少女に、霊夢は呆気にとられていた。
少女は真っ白な服を着て、同じく白い帽子を株っており、背中には薄い羽が見える。
背中まである金髪を揺らしながら飛び回るその姿は正しく妖精だとわかる。
「桜花、何なのこいつ…」
霊夢は額に手を当てて迷惑そうな顔をしていた。
「霊夢は会ったこと無かったのかしら? 彼女はリリーホワイト。春を告げる妖精で、『春告精』とも呼ばれてるわ。 春が着たことを伝えるだけの妖精よ。あまり危険な存在ではないわ」
桜花の言葉にふむふむと頷く霊夢。再びリリーホワイトへと視線を向ける。
「春ですよ~♪春ですよ~!!」
リリーホワイトはニコニコと笑顔で霊夢の周りを飛び回っている。
何故か彼女は霊夢を気に入ったようで、霊夢の傍から離れようとしない。
「ちょっと、こいつ私から離れないんだけど…」
「えらく気に入られたわね。…何でかしら?」
桜花がリリーホワイトにそう質問すると、彼女は霊夢を指差し…
「私と同じ。春の気配がするのです」
と、笑顔で言った。
「春の気配って?」
「頭の中も、きっと春なのですよ~♪」
「…は?」
「ぷっ!!」
リリーホワイトの発言に霊夢は呆然として、桜花は思わず吹き出してしまった。
「ちょ…頭の中って…あはははは!!」
爆笑する桜花の隣で、霊夢の頭の中ではリリーホワイトの言葉が繰り返し再生されていた。
──頭の中が春なのですよ~♪
──春なのですよ~♪
─ですよ~♪…ですよ~♪…ですよ~♪………
「………」
すぅ…、と、霊夢の片手が持ち上がり、リリーホワイトへと向けられる。
次の瞬間…
「…キングクリムゾン」
──ズドンッ!!
リリーホワイトの姿は一瞬で掻き消えた。
「……なっ!?」
桜花は唖然とした顔でその様子を見ていた。
ゆっくりと霊夢が振り返る。
「…どうかした?」
瞳には光が無く、笑顔なのにどこか寒気を感じさせる霊夢がそこにいた。
「あ…いや、その……今のは…」
「何でもないわ」
「いや、でも…」
「何でもないわ」
霊夢は笑顔のまま桜花の肩を“ガシッ”と掴む。桜花はビクリと体を震わせた。
「桜花…此処には何もいなかった……そうよね?」
「は、はい!!」
霊夢は今、此処であった事を完全になかったことにした。
結局、あれから霊夢も元に戻り、二人で並んで雲の中を飛び続けている。
「そろそろ雲の上に出ましょうか」
桜花の言葉に霊夢も頷く。
二人は高度を上げて雲の上へと飛び出す。丁度、朝日が顔を出したところだったようで、辺りは明るくなり、眩しさから二人は目を細める。
「…これは」
目が光に慣れていくにつれて目の前にあるものが段々と鮮明に見えてくるようになった。
巨大な四本の四角い柱と、その奥に見える門の様な形をした巨大な結界。
その向こう側から膨大な量の春度を感じ、ここが目的地の入口である事を二人に告げていた。
「雲の上にこんな結界があったなんて…」
しげしげと結界を見ている霊夢は二、三度首を傾げる。
「…この結界、少しおかしいわね」
「…と、言うと?」
桜花の疑問に霊夢は考える様な仕種をしながら口を開いた。
「本来、結界は境界線の役割を果たしているわ。結界によって隔てられた空間は本当はお互いに干渉する事はないはずなのよ。
だけど、この結界は曖昧過ぎる…いや、薄過ぎるのかな?本来の結界の力を果たせてない。たぶん誰かが結界を弄ったんだと思うけど…。これだけの結界を操る事ができるなんて…そいつ、かなり強いやつだと思うわ」
実際、この結界を弄ったのは紫であるのだが、桜花はあえて黙っていた。
「ああ、そういえば…」
霊夢は桜花の方を向いて首を傾げた。
「今更だけど…なんで空から桜の花びらが降ってくるの?」
「……はぁ」
桜花は小さく溜め息をついた。
「…霊夢、貴女まさかこれから行く場所を知らないの?」
「当たり前じゃない。私はあんたに言われてついて来ただけなんだから」
「…せめて道中で聞くとかしなさいよ」
「だから、今聞いてるじゃないの」
桜花はこめかみを押さえて再び溜め息をついた。
「…で?結局、どこに向かってるの?」
「たまには自分で考えてみなさい」
「う~ん…天国?」
「…惜しい!」
そんな会話をしていると、目の前に三人の少女達が現れた。
それぞれが楽器を持ち、仲良く並んで浮かんでいる。
騒霊の三姉妹…プリズムリバー三姉妹だ。
「あら?人間と妖獣が一緒にいるなんて珍しいわね」
銀髪のトランペットを持った少女…メルランが笑いながら二人をジロジロと眺める。
「あ、解った!この二人死んじゃったんだよ!だから冥界に行きたいんじゃないの?ねぇ、姉さん?」
キーボードを携えた赤い服の少女…リリカが黒い服を着てヴァイオリンを持つ長女…ルナサに話し掛ける。
「さぁ…どうでもいいんじゃない?」
ルナサはそう言うと黙ってしまった。
「桜花、こいつらは…」
「ええ、人間じゃないわ…騒霊ね」
桜花はそう言うと、一歩前に出る。
「はじめまして、プリズムリバー楽団の皆さん。幻想郷の守り神をしている鈴音桜花よ」
桜花の自己紹介に三姉妹はそれぞれ違った反応を見せた。
「…はじめまして」
「へぇ…凄い奴に出会ったわね」
「姉さん達、あの伝説の妖獣だって!凄い凄~い!」
上から順番にルナサ、メルラン、リリカである。
「私達、今から冥界に行くんだけど…」
桜花は懐から愛用の笛を取り出すと、三姉妹に向けて突き付ける様に構える。
「私と一曲…演奏しませんか?」
三姉妹はお互いに顔を見合わせると、笑顔でそれぞれの楽器を構えた。
「「「喜んで!!」」」
BGM『幽霊楽団~Phantom Ensemble~』
最初に動いたのはリリカだった。
両手を鍵盤に乗せると、ゆっくりと弾きはじめる。
「一番手は私がもらうわよ、姉さん!」
鍵盤を弾くと同時に交差するような軌道の弾幕が放たれる。
「わかったわ。危なくなったら助けに入るから…」
「頑張りなさいよ、リリカ!」
ルナサとメルランはそれぞれ演奏しながら後ろに控える。
「では私も…」
桜花は笛を構えるとリリカの弾く音色に合わせる様に吹き始める。
こちらも同じように弾幕が放たれ、リリカの弾幕を次々と相殺していく。
「まだまだ!」
リリカはキーボードを頭上に放り投げる。リリカの手を離れても演奏は止まらない。
両手が空いた両手は先程よりも密度の濃い弾幕を放ち始めた。
「あら…」
流石の桜花も両手を離しながら楽器は演奏できないので、渋々と笛を懐にしまうと回避に専念する。
向かってくる弾幕を避ける、避ける、避ける…。
避けれないと判断したものは爪による斬撃で打ち消す。そして、隙をついて桜花も弾幕を放つ。
リリカは向かってくる桜花の弾幕に自らの弾幕を当てて相殺させる。
「はっ!!」
桜花の気合いの入った声と共に新しい弾幕がリリカへと向かう。
リリカは目の前にキーボードを移動させると、鍵盤の端から端までを強めに撫でる様に弾いた。
力強い弾幕を放つ桜花に対し、リリカは数で勝負を仕掛けていた。お互いの弾幕が相殺したところで二人は一旦、攻撃の手を止める。
「はぁ…はぁ…、お姉さん凄いね!ここまで力強いテンポの弾幕は始めてだよ!」
リリカが肩で息をしながらも笑って桜花へと拍手を贈る。
「私も、貴女みたいなリズム良い弾幕を見たのは始めてよ」
リリカとは違い、桜花は息一つ乱れてはいない。それでも桜花は笑顔でリリカへと拍手を贈った。
「リリカ、無理しないで。相手が悪いわ…三人で力を合わせるわよ」
ルナサの声にリリカは頷くと、懐からスペルカードを取り出した。
──騒符「ライブポルターガイスト」
三人はルナサを中心に左にメルラン、右にリリカの順番に並ぶと、同時に弾幕を放った。
弾幕を壁のように縦に並べ、その間へと追い詰める様な撃ち方である。
しかし、桜花はそれらの弾幕が自分を囲むより速く動いていた。
持ち前のスピードを活かして動き回り、疲労により弾幕の薄いリリカへと攻撃する。
「…ちっ!!」
メルランは舌打ちすると、リリカと桜花の間に入り込み弾幕の壁を形成する。
桜花も一旦離れて様子を伺う。丁度スペルカードの時間も切れたところであった。
「リリカは少し休みなさい。メルランはスペルカードの準備を…」
妹二人に指示を出しながらルナサが前へと出る。
「私が時間を稼ぐから…」
ルナサはポケットからスペルカードを取り出して掲げる。
──神弦「ストラディヴァリウス」
ルナサを中心に音符の形をした弾幕が現れると、一気に爆発したかの様な勢いで分裂し、桜花へと迫る。
「せいっ!!」
桜花は姿勢を低くすると、拳を振り上げると同時に大量の弾幕を目の前に展開。それを壁としてルナサの弾幕を相殺させる。
「もう一発よ!」
ルナサが再び弾幕を放つが、桜花はルナサが弾幕を撃ち出すまえに懐に入ろうと飛び出していた。
「姉さん!」
その時、ルナサを守る様にメルランが魔力で障壁を張る。
「ありがとう、メルラン」
「どう致しまして。準備終わったわよ」
障壁を突破した桜花は三人から一斉に魔力が放たれるのを感じてその場で動きを止めた。
──騒葬「スティジャンリバーサイド」
ルナサが放った弾幕をメルランとリリカが魔力で作り出したレーザーを使って反射させる。
不規則な反射を見せる弾幕に桜花の動きが一瞬鈍る。
三姉妹はその隙を見逃さなかった。
「…っ!?」
桜花がしまった、と思った瞬間には360度全てが弾幕で埋まっていた。
「(くっ…隙間が小さい!!)」
急いで回避するための場所を探すが、複雑に入り組んだ弾幕のせいで非常に難しい事がわかった。
「やった…!」
メルランが勝利を確信してガッツポーズをとる。
今から桜花がスペルカードを発動させようとしても間に合わない。爪で切り裂くには数が多すぎる。
桜花には退路が全くなっていた。
「桜花、貸し一つよ?」
──夢符「封魔陣」
突然、桜花を囲む様に二色の障壁が現れて弾幕を吹き飛ばした。
桜花は苦笑いして後ろを振り返る。
「ありがと、助かったよ…霊夢」
札を持った手をひらひらと振りながら霊夢は別に、と言った。
「今日の夕飯は親子丼でよろしく」
「はいはい、わかりましたよ」
霊夢は苦笑いする桜花の隣に並ぶと、お祓い棒を構える。
「さて、そっちの方が人数多いんだから今更卑怯だとか言わないでよね?」
騒霊の三姉妹は霊夢の存在を完全に失念していた。戦いに全く干渉してこなかったので最後まで関わらないと思っていたのだ。
「くっ…」
「姉さん、こうなったら一気にやっつけるしかないよ!」
「…わかったわ」
三人は再び陣形を整える。
三人で三角形を作る様にお互いを光で繋ぐと、スペルカードを掲げる。
──大合葬「コンチェルトグロッソ」
三人は弾幕を放ちつつ、その場で車輪の様に回転する。
先程と同じ様に光に触れた弾幕は軌道を変え、不規則に桜花と霊夢に襲い掛かる。
「…霊夢、頼んだわ」
「…ん」
桜花が一歩下がった位置に移動して霊夢が前に出る。
「悪いけど、私達に出会ったのが運の尽きよ。恨まないでね」
霊夢はスペルカードを取り出して大きく両腕を広げる。
──霊符「夢想封印」
直後、霊夢から七色の光弾が放たれ、襲い掛かる弾幕を次々と相殺させる。
三姉妹は迫る光弾を避ける為に一旦陣形を崩す。
「今よ、桜花!」
霊夢の掛け声と共に桜花が動いた。
弓を射るかの様に半身になり、左手を前に、右手を後ろへと引く。
右手には小さな弾幕が握られていた。
「空を駆けろ、蒼き輝きよ!!」
次の瞬間、まるで放たれた矢の様に小さな弾幕が高速で撃ち出される。
狙いはメルランだった。
「えっ!?…きゃ!?」
メルランが桜花に気づいた瞬間には既に被弾していた。
何が起きたのか解らない様な顔をしたメルランはふらふらと四本の柱の一つに降り立つ。
「わ、私……」
メルランは自分の胸元を恐る恐る見下ろす。
そこには小さくではあるが、確かに被弾した跡がついていた。
メルランが脱落した事に気づいたルナサは両手を上げた。
「私達の負けよ…」
リリカも残念そうに構えを解く。
「あら、まだ続けるのかと思ったのに…」
そう呟いた霊夢にルナサは首を振る。
「私達三姉妹はいつでも一緒じゃなきゃいけないの。誰か一人でも欠けた時点で負けなのよ」
「あ、そう…」
霊夢は札をしまうと肩を竦めた。
「たまにはソロで活動してみたらどう?新しい発見でもあるかもしれないわよ?」
そう言って笑う桜花にルナサは少しだけ微笑んだ。
「…考えておくわ」
Stage Clear!!
少女祈祷中……
だいぶ間が空いてしまい申し訳ありませんでした!