妖々夢Stage2(裏)
マヨヒガ──
そこは道に迷った者しか辿り着けないと言われる隠れ家。
そんなマヨヒガには野生の動物がよくやって来る。
その中には黒猫の少女の姿もあった。
Stage2(裏)
『マヨヒガの黒猫』
BGM「遠野幻想物語」
雪の降る幻想郷の空を黒い服の少女が飛んでいた。
言わずもがな…彩花である。
そんな彼女は今、盛大に困っていた。
「二人とも…どこ?」
レティとチルノから道を教えてもらったにもかかわらず、彩花は再び迷子になっていた。
「…やっぱり、さっきの分かれ道は右に行くべきだったのかな」
ぽつりと呟いた彼女は、くるりと身を翻してもときた道を帰ろうとする。
そんな時、彼女の目の前を一枚の桜の花びらが通り過ぎて行った。
「…今のは」
ごく僅かではあるが、空からひらひらと桜の花びらが舞い落ちてきている。
彩花は帰ろうとした足を止めると、再び進み始めた。
木々の間を抜けながら、興奮して攻撃してくる妖精達を弾幕で撃ち落としていく。
中には奇襲攻撃の如く瞬間移動の様に突然現れる妖精もいた。しかし、現れる直前、僅かに空間の歪みの様なものを認識できたので、現れた瞬間から彩花の弾幕の餌食である。
その時、知らないうちに木々の間を通り抜け、開けた空間に出た彩花は思わず空中に静止した。
そこは、小さな村だった。
夕焼けの空に照らされたその小さな村は閑散としており、人の気配はない。
しかし、小さな生き物の気配は無数に感じる事ができた。
「野生の動物か、それとも力の弱い妖怪か…」
彩花は村の中央に降り立つと、ぐるりと周りを見渡してみる。
まるで、ついさっきまで人が居たかの様に建物は全く老朽化していなかった。建物自体はかなり古いものだが、人が居ないのならばもっと荒れ果ててしまってもおかしくない。
その時、彩花の視界の端を小さな影が横切った。
すぐに戦闘体勢に移行した桜花だったが、影の正体を見た瞬間、すぐに構えを解く。
そこにいたのは一匹の猫だった。
「……猫だ」
そうぽつりと呟いた彩花の足元まで近づいてきた猫は、彩花をじっと見上げたままだ。
その猫は白黒の毛並みをした子猫で、ただ彩花をじっと見ている。
しばらくお互いに見つめ合っていたが、突然、子猫が踵を返して村の奥へと歩き出した。数歩歩いた後、振り返って「にゃ~」と、まるで彩花へ“ついて来て”と言っているかの様な仕種をする。
彩花は、迷わずその猫を追いかけて村の奥へと進んで行った。
「ここは…」
たどり着いたのは周りの家より少し大きな屋敷だった。
「……ん~♪」
そして、その屋敷の縁側で大勢の猫と……一人の少女がひなたぼっこをしていた。
赤い中国風の服を着たその少女の頭には緑色の帽子と、黒い猫耳があった。よく見れば腰のあたりから二本の尻尾が出ているのがわかる。
この少女の名前は橙。化け猫である。
八雲藍が使役する式であり、様々な妖術を使う。しかし水に弱く、式が剥がれて素の化け猫に戻ってしまう。知能は人間の子供と同じか、やや賢い程度だが、なめてかかると痛い目を見る。
そんな情報を頭の中で思い出しながら、彩花は橙の隣に腰掛ける。
橙は丸まって気持ち良さそうに眠っている。はっきり言って凄く愛くるしい姿である。
彩花に何もする気がないのがわかっているのか、周りの猫達も少しこちらを見るだけで特に何も反応しない。
彩花はそっと橙の頭を撫でる。
「…ん…うにゃ…」
橙はくすぐったそうに身をよじると、彩花の腕を引き寄せて抱きしめる。
「…っ!///」
思わず一瞬固まった彩花だったが、すぐに頬を緩めるともう片方の手で再び頭を撫でる。
クールな雰囲気を出している彩花だが…実は可愛いものが大好きだったりする。
日が沈んできたので、さすがにこのままという訳にもいかず、このまま持ち帰りたい気持ちを抑え、彩花は橙の肩を揺する。
「…起きなさい、橙」
「ん~…藍さま…?」
目を擦りながら起き上がった橙は、まだ意識がはっきりしていないのかふらふらと頭が揺れていた。
「……ほら、涎の跡がついてる」
近くにあった布で口元を拭いてやると、橙はぼーっとしたまま素直に受け入れる。
「…ぁう…ありがとう…ごじゃいましゅ……」
思わず抱きしめそうになった手をなんとか堪えた彩花は、ぺちぺちと橙の頬を優しく叩く。
「…ほら、ちゃんと起きて」
段々と意識がはっきりしてきたのか、橙は目の前にいるのが自分の主人ではないとようやく気づいた。
「……あれ、誰?」
きょとんとした顔の橙を見て、彩花は思わず苦笑いした。
「…目は覚めた?」
彩花が頭を撫でると、ハッと我に返った橙がすぐに後方に飛びのく。
「だ、だだだ誰!?なんでここに!?っていうかいつの間に!?」
威嚇する様に背中を丸める体勢になった橙は、動揺しながらも彩花を真っ直ぐに睨む。
「…私は道に迷ってここに来ただけ」
彩花の言葉に橙は少し困惑した様に顔をしかめる。
「あなた…何者?…人間…じゃない?」
彩花の放つ気配を感じた橙は警戒のレベルをまた一つ上げる。
「私は鈴音 彩花。博麗神社の神の影…」
その言葉に橙の顔が驚愕に染まる。
「鈴音…彩花!?…紫様が話してくれた、あの幻想郷大戦の!?」
橙はガタガタと震え出すと、先程とは反対に怯えた様に後ずさる。
「幻想郷を壊しかけたっていう…最強の人間…!!」
「(紫、どんなこと話したんだろう……)」
あまりにも橙が怯えるので、彩花は居心地悪そうに両手を上げて何もしないとアピールする。
「…私は何もしない」
彩花の言葉に、橙は心の中で大きく安堵の息をはいていた。
紫から鈴音彩花は幻想郷を破壊しようとした化け物だと言われていた橙は、相手が彩花だと知った瞬間には戦意を喪失していた。
もっとも、紫は別に彩花を嫌っているわけではない。幻想郷を壊そうとした彩花に対するちょっとした仕返しのつもりなのだ。
「…紫に何を言われたのかは知らないけれど、私はもう幻想郷を壊そうだなんて考えてない」
彩花は橙の前で視線の高さを合わせると、頭を撫でる。
橙は一瞬だけビクリと震えたが、すぐに目を細めて気持ち良さそうに微笑んだ。
橙は、何故かわからないが彩花は優しい人なんだとすんなり受け入れることができた。
「(…あ、可愛い)」
彩花は橙を撫でながら心の中でそう呟いた。
「あの…彩花さん」
「…なに?」
数分後…すっかり仲良くなった二人は縁側でお茶を飲んでいた。
「彩花さんはなんでマヨヒガに来たんですか?」
「…あ」
彩花は橙の質問に一瞬フリーズする。
そもそも、彩花は桜花の異変解決のサポートをしていた。それがいつの間にか迷って、マヨヒガにたどり着き、そして橙とお茶を飲んでいる。今の姿ははたから見ればサボっている様にしか見えない。
「…いかなきゃ」
彩花は慌てて立ち上がると、ぽかんとしている橙の頭を撫でる。
「ごめんなさい…橙。私は異変の解決に行かなきゃいけないの」
「…異変って、まだ春が来ない事と関係があるんですか?」
橙の言葉に頷くことで肯定する彩花。
橙は少し考えた後、立ち上がり彩花を見上げた。
「たぶん…ですけど、異変の原因に心当たりがあります。たぶん、冥界に入ることになりますよ?」
「…ええ、わかっているわ」
「あ…じゃあ、私が道案内しましょうか?」
「…え!?」
彩花は珍しく驚いた顔をした。まだ出会って間もない相手のためにわざわざ道案内をしてくれるというのだ。
「そんな…私のためにそこまでしなくても」
「大丈夫です!私、冥界には紫様に連れられて行ったことがありますから」
それに…、と橙は半目で意地悪そうな顔をした。
「彩花さん…道、わかるんですか?」
「…うっ」
彩花は一瞬よろけると、目を逸らす。
マヨヒガに来ている時点でだいたいの検討がつくが、橙は彩花が方向音痴であると気づいていた。
このままでは冥界どころか神社に帰れるかどうかすら怪しい。
「…お願いするわ」
「はい!」
彩花は苦笑いをして橙に手を差し出す。
橙は彩花の手をしっかりと握り返すと、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、行きましょうか。早くしないと夜が明けてしまうわ」
「はい!」
こうして、マヨヒガから二つの影が空に向かって飛び立った。
Stage Clear…?
・橙が同行します
少女祈祷中……
~オマケ~
タイトル「彩花のイメージ」
橙「それにしても…彩花さんって、意外と優しいんですね」
彩花「…そうかしら?」
橙「はい、最初に見た時は全身黒一色だったからびっくりしましたよ。ちょっと怖かったです」
彩花「……そう…私はそんなイメージなのね」
橙「あ…その……でも…話してみたら優しくて、頼りになるお姉ちゃんって感じで…とにかくいい人だってわかりました!」
彩花「………(ありがとう)///」
橙「え?今、何か言いました?」
彩花「…何でもないわ」
橙「?」
おわり
お待たせしました!
忙しかったのと、疲労感から少々文章が手抜きですが、なんとか投稿できました。
今回、まさかの橙が同行です。いいなぁ…きっと楽しい旅路となるでしょうねww
では、次回をお楽しみに!