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東方~青狼伝~  作者: 白夜
妖々夢編
46/112

妖々夢Stage2

 最近になって幻想郷に引っ越してきた者がいた。


 人形の様な姿をしたその少女は、魔法で人形を操る七色の魔法使いだった。


 彼女は散歩のつもりで外に出た。外は雪と桜が降るという妙な天気だったが、彼女は気にしなかった。


 しばらくして、ふと懐かしい気配を感じ、静かに彼女は微笑んだ。


 脳裏に浮かぶのは紅白の巫女服を着た旧友の姿。


 久しぶりに会ってみようか…


 少女は暗い夜空へと飛び立った。



 



「…ふむ」


 雪原と化した道の途中で、二人の人物が立ち止まっていた。目の前には左右への別れ道がある。


「…ねぇ、桜花、私の勘だと左だと思うわ」


 博麗の巫女…霊夢は、隣に立つ自分の神社の神を見上げる。


「…ふむ」


 霊夢の言葉に考え込む様な仕種をしているのは“幻想郷の守り神”こと、桜花である。


「霊夢、たしかに貴女の勘は良く当たるけれど、もう少し周りを見るべきだわ…」


「…?」


 桜花の言葉に首を傾げる霊夢。

 桜花は、霊夢の顔の前に手の平を上にして差し出す。


 すると、どこからともなく桜の花びらが一枚、はらり、と桜花の手の平に舞い降りてきた。


「桜の…花びら?」


 霊夢が空を見上げると、僅かにだが桜の花びらが舞っていた。

 風によって運ばれているのであろう花びらは、右の道の方からやって来ている。


「…ほらね?」


 桜花が微笑むと、霊夢はバツが悪そうに目を逸らした。


「大丈夫よ、貴女の勘はたぶん外れていない。左に行けば…たぶん新しい友達との出会いでもあったでしょうね。でも、今は異変の解決を優先しましょ?」


「…ん、わかったわ」



 二人は空に舞い上がると、右の道に沿って進んで行った。


「……あら?そういえば、彩花は何処に行ったのかしら?」










Stage2


『人形祖界の夜』


BGM「プクレシュティの人形師」




 日が落ちて暗くなった街道を、桜花と霊夢は並んで進んでいた。

 眼下の池に、雲の隙間から見える三日月が映っている。


「雪と桜が同時に舞うなんて珍しいわ」


「そうね…普通は見れないからね」


 空を見上げながら呟く霊夢に桜花が答える。


 ちなみに、先程から大勢の妖精達が弾幕を放ってきたのだが、桜花や霊夢は談笑をしつつ、片手で全て撃ち落としていた。


「ねぇ、桜花」


「ん?」


 霊夢がお祓い棒で肩をとんとん叩きながら言う。


「あの別れ道、左の道の先には何があったのかしらね?」


 霊夢の質問に「あぁ…」と、桜花は声を少し上げながら微笑む。


「マヨヒガよ」


「…マヨヒガ?」


「そう、道に迷った者がたどり着く小さな村。たどり着いた者は運が良いけど、同時に帰り道がわからなくなるから運が悪いとも言えるわ」


「へぇ、幻想郷にそんな場所があったなんて知らなかったわ」


 桜花は溜め息をつくと、横目で霊夢を軽く睨む。


「貴女は見回りなんかしないしね。知らない場所があっても不思議じゃないわ」


「…うぐっ!」


 桜花の若干棘を含んだ言い方に霊夢が怯んで少し後ろにさがる。

 しかし、霊夢はすぐに立ち直ると、桜花の隣に戻ってきた。


「で、でも、マヨヒガは迷わなきゃ行けないんでしょ?帰れなくなったらどうするのよ?」


「その時の為の“勘”でしょう?貴女の勘は一種の未来予知に近い…有効に使えばこれほど便利なものはないわ。…まぁ、使い過ぎはいけないけれどね……」


 霊夢は腕を組んで唸りだした。桜花はそれを微笑みながら見ている。


「あれ?じゃあ、桜花はどうやってマヨヒガから帰ってきたの?知っているのなら行った事があるんでしょ?」


「能力で帰れなくなる事を拒絶したのよ」


「…その力、反則よね」




 そんな会話をしていると、前方に人影を見つけた。

 暗くて見え辛いが、どうやら金髪の髪をした少女のようだ。


「夜は冷えるわね。視界も最悪だし…」


 ふと呟いた霊夢に、金髪の少女はピクリと反応した。


「冷えるのは、あなたの春度が足りてないからじゃなくて?」


 金髪の少女はニヤリ、と笑みを浮かべる。


「いや、足りないかもしれないけど…」


「あら、自覚はあるのね、霊夢?」


「うっさい、桜花は黙ってて」


 僅かな月明かりでちらりと、金髪の少女の顔が見えた。まるで人形の様な美しい顔をした少女だった。


「しばらくぶりね」


「…はて?」


 霊夢はわざとらしく首を傾げる。


「私のこと覚えてないの?まぁ、どうでもいいけど…」


 そう言いつつも、少女は若干寂しそうだ。桜花は、霊夢の頭を軽く叩く。

 ペシッ、という音がした。


「…何するのよ」


「お友達なんでしょ?ちゃんと挨拶なさい」


 霊夢は、仕方ないといった様子で少女に向き合う。


「久しぶりね、アリス」


 少女…アリス・マーガトロイドは驚いた顔をしていた。


「驚いたわ…まさか霊夢が挨拶を返してくるなんて。それに、妖怪と一緒にいるのも珍しい…」


 桜花は一歩前に出て、微笑みながら軽く頭を下げる。


「はじめまして、アリス・マーガトロイドさん。私は鈴音桜花…博麗神社の神をしているわ」


「博麗神社の…神?」


 アリスは目を細めて桜花を見る。それは、まるで桜花を観察している様だった。


「わけあって千年以上眠ってたの。半年くらい前にあった異変の時に目覚めたのよ」


「…ああ、あの紅い霧が出た異変ね」


 霊夢が話の内容に顔を険しくした。

 紅霧異変が解決した後、レミリアとフランがしょっちゅう神社に遊びに来るからである。


「さて…お喋りしてたいけど、私達は異変を解決しなくてはならないのよ。だから、そこをどいてくださる?」


 桜花の質問に、アリスは口元をつり上げる。


「いいわよ…でも、私は貴女に興味があるわ」


 桜花は、アリスの言葉を聞くと自分の体を隠す様に抱きしめる。


「あの…私にはもう恋人がいるから、そういうお誘いはちょっと……///」


「違うわよ!!///」


 アリスの叫びは、雪と桜の舞う空へと消えていった。









BGM「人形裁判~人の形弄ぶ少女」






「まずは小手調べよ!」


 そういうと、アリスは何処からともなく人形を呼び出した。

 可愛く作られた人形達は、まるで生きているかの様に動き回り、弾幕を次々と発射してくる。


「へぇ…凄いじゃない。ここまで正確に人形を動かすなんて」


「お褒めにあずかり光栄だわ」


 桜花は人形の隙間を抜ける様に移動すると、直接アリスへと向かう。


「…っ!速い!?」


 アリスは、人形を回収するのは間に合わないと判断したのか、新しい人形を投げつける様に桜花へと四体程飛ばした。

 しかも、その人形は剣を持っている。


「シッ!!」


 桜花は爪を伸ばして妖力を纏うと、人形の剣だけを切断する。

 人形は慌てた様にアリスの下へと帰っていく。


「…優しいのね」


 アリスは人形を回収しながら薄く微笑んだ。

 桜花は人形ではなく剣を破壊した。これは、アリスが人形を大切にしている事を薄々ながら感じていたからだ。


「普通の弾幕じゃ貴女には通用しないわね…」


 アリスは、懐からスペルカードを取り出す。



──蒼符「博愛のオルレアン人形」



 スペル発動と同時に、アリスの周りを無数の人形が囲む。

 人形達はそれぞれが一発ずつ弾幕を放つと、弾幕はバラバラの方角に飛ぶ。


「さあ、いくわよ!」


 アリスがまるで舞踏会でダンスを踊るかの様に、くるりとその場で一回転する。

 そして、それに合わせて弾幕も回転したかと思えば、一つの弾は五つに分裂した。

 アリスは更にもう一度回転する。それに合わせて再び弾幕は分裂する。


「うわぁぉ…」


 思わず呻いた桜花の目の前には、弾幕の壁ができていた。

 隙間も少なく、さらには弾速も速い。桜花は目を細めて思考を速める。


「…フッ!」


 一息で弾幕の中に飛び込んだ桜花は、次々と迫る弾幕を避け続けた。

 アリスも、桜花の反応速度に驚いている。

 しかも、桜花は弾幕を回避するだけではなく、徐々に前進しているのである。


「…な、なんて、こと」


 アリスは驚愕していた。

 避けられるとは思っていたが、まさか前進してくるとは思ってもみなかったからだ。


「そこだ!」


 ついに、弾幕を突破した桜花が人形の隙間からアリスへと弾幕を放つ。

 アリスは盾を持たせた人形で弾幕を防ぐと、すぐにその場を離れた。


「…く、まさかあの弾幕を抜けてくるなんて」


 アリスは人形達を一度回収すると、新しいスペルカードを取り出した。



──白符「白亜の露西亜人形」



 新しく呼び出した人形は露西亜人形。もこもことした防寒着を着た人形達が桜花の周りに現れ、次々と氷柱の弾幕を放つ。


 桜花は爪を更に伸ばすと、その場で全身に力を込め、勢いよく両手を広げて一回転する。

 長い爪に当たった弾幕は消え去り、人形達も吹き飛ばされた。

 桜花は、その場から一歩も動かず、一回の攻撃でスペルを破ってみせた。


「…出鱈目にも程があるわね」


 アリスは、冷汗が頬を伝うのを感じながらそう呟いた。


 そんなアリスに、先程から黙って見ていた霊夢が声をかけた。


「アリス…本気でやらなきゃ桜花は倒せないわよ?」


 霊夢の真剣な目を見て、アリスは顔を険しくする。

 元々、アリスは霊夢と同じく、普段は本気を出さない。本気を出して負けると後がないからだ。


 だが、目の前にいる青い妖獣は関係なく自分を捩じ伏せる…自分は勝てないという思いが沸き上がるのを、アリスは必死に押さえ込む。



──雅符「春の京人形」



 新しく発動させたスペルの弾幕で桜花を足止めすると、アリスは最後の一枚に力を込め始めた。


「せいっ!!」


 コートを翻しながら、桜花は花が咲く様に放たれる弾幕を次々と避けていく。

 最初と同じ様に、隙間を見つけてはかい潜りながら前進する。


 そして、ついに最後の弾幕を避け、アリスの目の前まで迫ったその時……


「…っ!?」



 桜花はゾクリと背中に嫌な気配を感じて離れる。




「起きなさい…蓬莱」



──咒詛「首吊り蓬莱人形」




「ホラーイ!」


 元気良くアリスの目の前に現れた一体の人形。

 見た目こそ可愛いが…込められた魔力が半端ではない。

 しかも、明らかに他の人形よりも人間に近い動きをしている。


「いくわよ蓬莱、準備はいい?」


「ホラーイ!!」


 アリスの質問に蓬莱は大きく頷くと、両手を開き、首を吊った小さな蓬莱人形が次々と現れ弾幕を放つ。


 桜花は一瞬、言葉を失った。


 蓬莱人形達が放った弾幕は、他の人形の弾幕とはあまりにも違った。

 まず、込められている魔力の質が違う。まるで“呪い”だった。


 弾幕の色はくすんだ茶色。桜花を囲む様に動くその弾幕は、さながら首を絞めるための縄の様に見えた。


「成る程、蓬莱人形か…死を知らない蓬莱の人の形を模した人形。呪詛による呪いを相手にぶつける技なのね…」


 桜花は技に込められた力の意味を理解し、感嘆の意を示した。


 しかし、桜花にはもう一つ気になる存在がいた。


 アリスの隣で蓬莱人形達の操作をしている“蓬莱”だ。


 あの人形はアリスからの魔力供給を受けていながらも自らの意思を持っている様に見える。

 そして、人形でありながら他の蓬莱人形を操るという特異な存在。


 アリスが持つ人形の中でも最高傑作と呼べる二体の人形。

 一つは目の前にいる蓬莱…。

 そして、今回は登場していない上海人形だ。


 もしかしたら、アリスは人形を元にした新しい生命を作り出す可能性がある。



「アリス!」


 突然桜花が声をかけたので、アリスはビクリと肩を震わせる。


「貴女には素晴らしい才能がある。それに敬意を証し、最高の一撃を送りましょう!」



─蒼符「夢想封印・蒼」



 蓬莱人形の弾幕が桜花を飲み込む直前、桜花の周りに巨大な光弾がいくつも現れ、次々と打ち出される。

 蓬莱は慌てて他の蓬莱人形達を回収すると、まるで盾になる様にアリスの前に両手を広げて立つ。

 桜花の放った光弾は、蓬莱とアリスの二人をまとめて飲み込んだ。











◆◆◆





「う…ん……」


 アリスは、顔に舞い落ちた桜の花びらの感触で目が覚めた。


「あれ…私は何を?」


 寝ていた体を起こす。どうやら道端に寝かせられていたようだ。


「私は…桜花と戦って…蓬莱を使って…それから……っ!そうだ、蓬莱は!?」


 アリスは自分の盾になってくれた蓬莱の姿を思い出し、慌てて周りを見渡した。


「蓬莱っ…どこ!?」


 しばらく辺りを探したアリスは、少し離れた場所に倒れている蓬莱を見つけ、慌てて駆け寄る。


「蓬莱、大丈夫!?」


「ホ、ホラ~イ…」


 蓬莱には目立った傷も無く、目を回しているだけの様だ。

 よかった、と安心して座り込んだアリスはふと、空を見上げた。


「…あ」


 そして気がついた。


 相変わらず桜は空から降ってきているが、もう…雪は降っていなかった。


「…鈴音桜花、か」


 周りに視線を動かしても彼女達の姿は無い。おそらく先に進んだのだろう。


「……不思議な奴だったわね」


 アリスは蓬莱の頭を撫でながら再び空を見上げる。



 そこには、夜が明け、雲は薄くなり、眩しい程の朝日が顔を出していた──。






Stage Clear!!



 少女祈祷中……




 はい…というわけでアリスとの邂逅でした。


 橙の登場を待っていた皆さん、ごめんなさい!


 橙はいつかちゃんと登場しますので、待っていてください!



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