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東方~青狼伝~  作者: 白夜
妖々夢編
45/112

妖々夢Stage1(裏)

 かつて世界を滅ぼした少女…。


 彼女はこうして新しい世界で生きている。


 それが正しいのかはわからない。


 しかし…彼女の中にも、確かにあった。


 「この幻想郷(世界)を守りたい」と思う心が──。





Stage1(裏)


『迷う影』


BGM「無阿有の郷~Deep Mountain」







 真っ白な雪が降る幻想郷の空を、真っ黒な少女が飛んでいた。

 少女は、まるで闇を思わせる腰まである漆黒の髪と、夜を思わせる黒いコートを着ている。


 彼女は鈴音彩花…桜花の半身にして姉にあたる存在。

 桜花が現在の様な妖怪となる前…つまり、前世の姿。

 千年以上昔に暴走して、後に『幻想郷大戦』と呼ばれる戦いを起こした人物である。



 そんな彼女は感情のない無表情な顔で、視界の悪い空を飛んでいた。


 実は彼女、無表情だが内心かなり焦っていた。なぜなら…


「……見失なった」


 なんと、桜花と霊夢を見失なってしまったのだ。


 霊夢達には余計な事を話したくないから、という理由で普段は桜花と一体化している彩花は、見つからない様に霊夢達から離れた位置を飛んでおり、何かあれば影から手伝うつもりであった。

 ところが、それが裏目にでたのか突然の吹雪で視界が遮られた瞬間、彩花は二人を見失っていたのだった。

 更に、彩花は桜花と違いほとんど眠って過ごしていた。そのため、幻想郷の地理を全く知らない。


 そう、つまり…



「……迷った」




 ぶっちゃけ、彩花は迷子になっていたのである。




「……困ったなぁ、ここはどの辺りなのかしら」


 行き先がわからず、とにかくぶらぶらとさ迷っていた彩花だったが、ふと視界の端に人影が見えたので慌てて止まると、声をかけようとした。


「あの……」


 だが、声をかけようとした相手は何やら俯いてぶつぶつと呟いている。

 彩花が近づくと、その人物は少女であるとわかった。


 肩までの薄い紫色の髪と、頭に被っている白い帽子、青と白を基準にした防寒着の様に見えるが動きやすくできているらしい服。


「レティ・ホワイトロック…?」


 彼女の目の前にいたのは間違いなく、レティ・ホワイトロックであった。


 ところが、そのレティは先程から俯いて何かを呟き続けている。よく見れば、若干だが顔が赤い。


「何なのよあいつ…鬼畜な弾幕撃ってきたと思ったら急に頭撫でながら謝ってきたり……でも何でか嫌な感じはしないし……いやいや、何を言ってるのよ私は……あんな奴の事なんて全然気にしてなんかいないんだから………だいたい、彼女にはチルノっていう恋人がいるんだし、私の入る余地なんて…あれ?…だから違うんだって!」


 何やら頭を抱えながら真っ赤になった顔を押さえているレティを見ながら、彩花は「これは桜花の仕業だな…」と確信した。


 とりあえず、桜花の場所を聞きたいので、彩花はレティの肩を軽く叩く。


「ねぇ、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」


「ん?…誰よ、私は今それどころじゃ…な……い……っ!?」



 振り返ったレティは彩花の顔を見た瞬間、驚いた顔で固まった。

 さっきまで自分が考えていた相手とそっくりな顔が目の前にあるのだから無理もない。


「な…え?…お、桜花!?…あれ!?……なんで!?」


 顔を赤くしながらあたふたするレティを見て、思わず可愛いと思った彩花だったが、無理矢理その気持ちを抑えると、レティへと視線を向ける。


「まずは落ち着きなさい。貴女、私とそっくりな顔をした少女を見なかった?」


 彩花の問いにレティはキョトンとした顔になる。


「え?…貴女、桜花じゃないの?」


 なんとか持ち直したレティに彩花は頷く。


「私は鈴音彩花、桜花の姉よ」


「姉?…なるほど、姉妹なのね。どうりで顔がそっくりなわけだわ」


 レティは落ち着いたのか、普段どうりの態度に戻った。…顔がまだ若干赤いのは気にしない。


「実は桜花とはぐれてしまって…どこにいるか知らない?」


「それならこの道を真っ直ぐ進んだ先に行ったわよ」


「ありがとう、感謝するわ」


 彩花がレティに微笑むと、レティは急に顔を逸らした。


「……なんで姉妹揃ってこんなにも魅力的なのよ」


「…何か言った?」


「い、いえ…何でもないわ!!」


 レティはごまかそうと、両手を顔の前でぶんぶんと勢いよく振る。

 それを可愛いと思いつつ、彩花が別れの挨拶をしようとした瞬間…。


「レティ、そいつから離れて!!」


 正に神速と呼べるスピードで、小柄な影が二人の間に滑り込む。


「…チルノ!?」


 レティが驚いて目を見開く。

 そこにいたのは、彼女が最近友達になったチルノであった。


「チルノ、一体どうしたの?」


 チルノは剣を構えたまま彩花を睨みつける。


「まさか、あんたとまた出会う事になるなんてね」


 睨まれている彩花は溜め息をつく。


「私は桜花の影…彼女がいる限り、私もまた存在し続ける」


 チルノの体から冷気が溢れ出し、周りの空間の気温が一気に下がる。


「今度は何をするつもり?」


「別に何もしないわ。私は桜花に言われて異変解決の手伝いをしてるだけ」

 チルノはしばらく彩花を睨むが、突然「ふっ」と笑みを浮かべた。


「じゃあ、いいや」


 さらっと態度が変わったチルノに、レティが唖然とする。


「え?あれ?ちょっとチルノ、彩花はあなたの敵じゃないの?」


 チルノは首を傾げる。


「ん?いや、別に敵だとは思ってないよ?」


「じゃあ、さっきのやり取りは何だったのよ!?」


 あはは、と笑うチルノにレティは「うがぁぁ!」と言いそうな勢いで掴み掛かる。


「ぶっちゃけ雰囲気作りかな?」


「はい、それ問題発言だね。敵じゃない相手に雰囲気作るためだけに剣をむけたのか!?明かに雰囲気だいなしにしたでしょ!?」


 本当にぶっちゃけたチルノであった。


「まぁ、あたいは彩花は本当はいい奴だって知ってるからね。さっきの会話は忘れてよ」


「じゃあ、最初から普通にすればよかったのに…」


「レティを守るために颯爽と現れるあたい…うん、正義の味方っぽいじゃない。流石、あたいったら天才ね!」


「チルノ、その発言馬鹿っぽいわ」


 彩花はさっきからチルノとレティの漫才の様な会話を聞いていたが、溜め息をつくと口を開いた。


「チルノ、私、異変解決の仕事があるから急いでるんだけど…」


 チルノが「そうだった…」と苦笑いするしながら彩花へと向き直る。


「まぁ、あたいがここに来た本当の理由は彩花の実力を見るためだよ」


「私の実力?」


 彩花が首を傾げ、チルノがうんうんと頷く。


「そう、彩花はまだ弾幕ごっこしたことないでしょ?だから、あたいがちょっと弾幕がどういうものかを教えてあげるよ」


「でも、私は桜花の中から見てたし、どういったものかは理解して…」


「甘い!見ただけじゃダメだよ。実際に体験してこそしっかりした経験になるんだから」


 彩花は「ふむ…」と顎に手を当てて考える。

 チルノの言っている事は間違いではない。見ただけの知識と、実際の体験は大きな違いがある。


「そういうことならお願いしようかな」


「任せなよ、じゃあ、あたいが宣言する三枚のスペルを避けきってね?」


「…ん、了解」




BGM「おてんば恋娘」






 チルノは少し距離を離すと、懐からスペルカードを取り出し、宣言する。



──霜符「フロストコラム」



 放たれたのは無数の氷柱。一定の間隔で並んだ氷柱が様々な角度へと飛ばされる。

 最初の一枚だからか避けるのは難しくはない。彩花は難無く避け続ける。


「ふむ、これくらいは大丈夫みたいだね…じゃあ、ちょっとレベルを上げるね?」


「わかった…」


 チルノはスペルを中断して新しいスペルカードを取り出す。



──親友「DIEちゃん」



 次の瞬間、チルノの隣にDIE妖精が現れた。

 両手にはクナイを持ち、目には光がない。完全に『捕捉と抹殺(サーチ&デストロイ)』状態である。


「やっちゃえ、DIEちゃん☆」


「…DIE」



 次の瞬間、正に神速と呼べるスピードでクナイが放たれる。

 弾道は直線的だが、恐ろしい程に速い。


 彩花は最低限、体を動かす事で全て回避する。

 しかし、DIEちゃんもただでは終わらなかった。


 なんと、一度投げたクナイに別のクナイをぶつけて反射させるという神業をやりはじめたのだ。

 彩花も若干驚いたようだが、何とか全弾回避に成功する。


「…はい、大ちゃんストップ。時間切れだよ」


 チルノの言葉に『DIEちゃん』こと大妖精はクナイを投げるのを止めた。


「…あれ?私、何でクナイなんか持ち出してるの?」


 攻撃が止まった瞬間、『DIEちゃん』から『大ちゃん』に戻った大妖精は自分の両手を見て首を傾げる。

 ちなみに…そんな大ちゃんを見て、レティは絶句していた。



「さて…彩花、次がラスト…つまりこれを逃げ切れば合格ね」


「…わかった」


 チルノは最後のスペルカードを取り出すと宣言した。



──協力奥義「二人の妖精による二人の世界」



 宣言と同時に、彩花の周りを囲む様に緑色の弾幕が現れる。

 そして、目の前には青い大弾が一つ…。


「あたいが大ちゃんとの鬼ごっこで全く勝てない悔しさから生まれたこのスペル…避けれるものなら避けてみろ!!」


 次の瞬間、青い弾が動き出す。彩花の隣を通り抜け、緑色の弾幕へと当たる。

 すると、大弾はスピードを上げて跳ね返ってきた。慌てて彩花は回避する。

 跳ね返った大弾は、別の弾幕に当たる度に速くなって彩花の周りを跳ね回る。


 たしかに、逃げるチルノ(大弾)を先回りして迎える大妖精(弾幕)という図は、先程の説明通りだ。



 そもそも、瞬間移動ができる大妖精に鬼ごっこで勝負する事自体が間違っている。


 ……閑話休題



 ともあれ、この限られた空間で時間がくるまで弾幕を回避し続ける、という『移動型ストレスタイプ』の弾幕は大抵難しいものが多い。


 彩花は跳ね回る弾幕をしっかり見据えて対処していた。

 確かに徐々にスピードが上がるのは脅威的だが、反射する弾幕はフランという前例がいたので、彩花はなんとか逃げ切れた。




「……うん、文句なしで合格だね」


「さすが桜花さんの半身ですね!」


 チルノと大妖精に褒められた彩花は、少しだけ微笑んだ。


「じゃあ、私はそろそろ行くよ。だいぶ離されただろうしね…」


「ああ、そうだった。桜花を追い掛けてたんだよね。頑張ってね。あと、桜花をよろしく!」


「彩花さん、異変解決頑張ってくださいね!!」


 二人の励ましをうけて、彩花はその場を後にした。










「……早く春にならないかなぁ…ぐすっ」



 完全に空気と化していたレティは、虚しい気持ちを春眠で忘れるために、春の訪れを切に願っていた。







Stage Clear!!



 少女祈祷中……




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