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東方~青狼伝~  作者: 白夜
妖々夢編
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妖々夢Stage1


 幻想郷は五月を迎えていた。


 しかし、まだ冬は終わっていない。


 一体何故、春は来ないのか…。




Stage1


『白銀の春』


BGM「無阿有の郷~Deep Mountain」







「…寒い」


 何度呟いたかわからない言葉を再び呟く。

 楽園の素敵な巫女…博麗霊夢は手の平を擦ると溜め息つく。

 吐いた息は白く、すぐに消えて見えなくなる。


「そんな格好をしていたら寒いのは当たり前じゃないの」


 そんな彼女の隣に並んで飛んでいるのは、彼女の神社の神であり、幻想郷を作るきっかけを作りあげた青い妖獣…鈴音桜花である。


「そんな腋を開けた巫女服なんか着てるから寒いのよ…」


「だって、これが博麗の巫女服なんでしょ?」


「少なくとも、私が眠る前は普通の服だったわ」


 二人は雪の降る幻想郷を進んでいた。本来は、春の訪れと共に花が咲き始める筈の道は、どこまでも雪によって白く染まっている。


「寒い~、いい加減にしてほしいわ。本来ならもう寝る季節なのに」


 霊夢が深々と溜め息をついた時だった。


『ふ~ん…春眠暁を覚えず…かしら?』


 目の前に一人の少女が現れた。


 白と青を基準にした服、肩まである薄い紫色の髪、そして、頭には白い帽子を被っている。

 その見た目は、さながら雪の妖精の様だが、彼女は雪女の一種である。


「どちらかと言えば、あんたらの永眠かな?」


 霊夢がそう言いながらも、札とお祓い棒を構える。彼女も周りの空気の流れを変えるのがわかった。


 彼女の名前は『冬の忘れ物』ことレティ・ホワイトロック。

 冬にしか見る事ができない妖怪である。

 『寒気を操る程度の能力』を持ち、冬に暴れるだけ暴れた後に、春が来た途端に姿を見せなくなる。


「はじめまして、レティ。私は鈴音桜花、チルノが毎年お世話になってるわ」


 突然親しげに話しだす桜花に驚いた顔をした霊夢だったが、レティはもっと驚いていた。


「貴女がチルノが言っていた“恋人”さん!?これはびっくりだわ!!」


「恋人さん、かぁ…まぁ、間違ってはいないんだけどね。チルノが嬉しそうにしてたわ。新しい友達ができたってね」


「あははは…私こそ友達ができて嬉しかったよ。ほら…このとうり、私の近くは常に寒いからさ…あんまり近寄る奴なんかいなくてね」


 少し照れた様に頬をかいたレティは「コホン」と咳ばらいをすると、真剣な顔に戻る。


「さて、私は冬が過ぎたらここにはいられなくなる。だから冬を終わらせに行く貴女達を通すわけにはいかないわ」


 周りの気温が更に下がる。気温の低下は身体の自由を奪い、普通の人間ならそのまま倒れてしまうだろう。


「霊夢、ここは下がってなさい。私が相手をするわ」


「あら、じゃあお願いね。あ~寒い…」


 霊夢は桜花の後ろに下がると、札を使って結界を張る。


「よし…じゃあレティ、勝負といきましょうか」


「お手柔らかにね」


 桜花とレティは同時に弾幕を撃ち出した。





BGM「クリスタライズシルバー」







 最初に動いたのはレティだった。

 彼女が手を広げると同時に白い霧の様に空気が変わっていく。


 レティの『寒気を操る程度の能力』は、単純に『気温』や『冷気』を操るだけではない。

 彼女は『冬』という季節の力を強める事ができる。冬を司る彼女にとって、今の状況は正に最良の環境なのだ。

 よって、普通の妖怪には考えられない力を発揮する場合がある。


 レティの周りの空気が更に冷える。冷えた空気は氷の結晶となり、次々と桜花へと放たれる。

 桜花は慌てず、その場でくるりと回る様に弾幕を回避していく。


 そして、お返しとばかりに青色の弾幕を放つ。

 すると、レティは回避ではなく、目の前に氷の壁を作る事で防御した。


「…へぇ、やるじゃない」


 その行動に桜花は薄く笑みを浮かべる。

 レティのとった行動は普段の勝負からすれば珍しい。

 なぜなら、弾幕ごっこは“当たらないこと”つまり、避ける事を前提に行動するからだ。

 しかし、桜花や霊夢相手だとそうもいかない。なぜなら、この二人の攻撃は“追尾”するからである。下手に避けようとすれば、突然軌道を変えた弾幕に反応できない。それならば真っ正面から受け止めればいい。

 幸いなのか、ホーミングアミュレットに籠めてある霊力はそこまで強くない。即席で作った氷で十分防げる程度なのである。


「チルノから貴女の事は少しは聞いてるよ。凄く強いらしいじゃない。

 なら、事前に情報を貰うくらいのハンデは構わないでしょう?」


 レティはニヤリと笑って広げた腕を前に向ける。そこには一枚のスペルカード。



──寒符「リンガリングコールド」



 前に突き出したレティの手の平から、青色の弾幕が鳥の様な形になり羽ばたく様に広がる。同時に、周りから氷の結晶が回り込む様に迫ってくる。


 『リンガリングコールド』は直訳すれば“長引く寒さ”や“名残惜しい寒さ”という意味があるが、同時に“春”を表す意味もある。

 春を表す様に羽ばたく鳥をイメージしてあるのか、弾幕は直線的で難しくない。

 桜花は右手に妖力を溜めると、思いっ切り薙ぎ払う。


「せぇぇい!!」


 そこから放たれたのは、圧倒的な数の弾幕。だが、見た目はまるで津波だった。レティの弾幕はあっさりと飲み込まれる。


「ちょっ…こんなのどうやって避ければいいのよ!?」


「あら、ちゃんと避けれる場所はるわよ?……凄く小さいけど…」


「鬼ぃ!悪魔ぁ!」


「失礼ね、私は狼よ」


 レティは急いで隙間を探す。そして見つけた瞬間、その隙間へと反射的に飛び込んだ。


「はぁ…はぁ…危なかった……」


 安堵の息を吐くレティを見て、桜花はぱちぱちと手を叩く。


「凄い凄い、よく間に合ったね!」


 レティは桜花にジト目で睨むと、深呼吸して再び構える。


「チルノもとんでもない恋人がいたものだわ…」


 レティが再び両手を広げて周りの空気の温度を下げ、弾幕を作り出す。

 しかし、今度は弾幕の中にレティの妖力で作ったレーザーらしきものもある。


「長期戦は不利みたいだから…すぐに決着をつけるわ!!」


 ポケットの中から新しいスペルカードを取り出し、宣言する。



──怪符「テーブルターニング」



 放たれるのは大量の弾幕と直線的な白いレーザー。

 弾幕はあらゆる角度から襲い掛かり、隙をつく様にレーザーが飛んでくる。


 しかし──。



「ふ…私にその程度の弾幕が通じるとでも?出直してきなさい!!」



──青符「夢想封印・青」



 桜花の周りに現れた光弾は次々とレティの弾幕を飲み込んで消滅させる。


「発射ぁ!!」


 そして、桜花の命令で一直線にレティへと飛んでいく。


「なっ!?…くっ、これは防げない!!」


 レティは急いで回避行動をとろうとする、しかしこのスペカはホーミング性能があるので、レティは回避行動をとり続けなければならない。


「わっ!?…ちょっ…危なっ……ひゃあ!?」


 次々と迫る光弾を避けているうちに、段々と余裕の無くなってきたレティは徐々に涙目になり始めた。しかも、このスペルはやたらと持続時間が長いので、レティは精神的にもだいぶ疲弊してきている。


「ふぇぇ…もうやだよぉ~!!」


 ついに泣き出してしまったレティを見て、流石にやり過ぎたと思った桜花はスペルを止める。


「ごめんなさい…やり過ぎたわ」


「……ぐすっ」


 涙目で睨むレティの頭を撫でながら桜花は謝った。

 レティは顔を赤くして俯くと、プルプルと肩を震わせ始めた。


「あ、あれ?……まさか余計に怒った?」


 桜花が急いで手を離すと、レティが勢いよく離れて俯いていた顔を上げる。

 真っ赤な顔と潤んだ瞳のまま、“ビシッ”という音が聞こえるくらいの勢いで桜花を指差すと…、


「き、今日は調子が悪かっただけよ!!見てなさい、次に会ったら負けないんだから///!!」


 そう言い残して、凄いスピードで何処かに飛んで行ってしまった。






「……ツンデレ?」


 そんな桜花の言葉だけが、白銀の景色に溶けていった。






Stage Clear!!



 少女祈祷中……



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