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東方~青狼伝~  作者: 白夜
紅魔郷編
40/112

紅魔郷FinalStage後編

 いつだったか…図書館にいる魔法使いに読んでもらった本があった。


 世界を救った神の話。


 ありきたりだったけど、その時の私にはとても興味深い内容だった。


 その頃だっただろうか……私が外に出たいと思い始めたのは──。



BGM「U.N.オーエンは彼女なのか?」







「これは…!」


 桜花の周りに浮いている赤と青の弾幕は、まるでフランの指示を待っているかの様に、その場に停止したままだ。


「ここからが本番だよ…お姉さん。

 簡単に…壊れないでね?」



──禁忌「クランベリートラップ」




 フランの手から二つの魔法陣が現れると、それに合わせて周りの弾幕も動き出す。


「(あれは…魔法陣?……そうか、フランは吸血鬼であり、魔法少女でもあるんだ)」


 追い込む様に迫る弾幕を避けながら、桜花もフランへと弾幕を放つ。


「アハッ!アハハハ!楽しい~♪」


 フランは手に持った武器で弾幕を弾くと、再び魔法陣を作り出す。

 桜花は隙間を見つけては回避と反撃を繰り返す。


「ぶ~!当たらない~!」


 フランは頬を膨らませながら怒る。

 それだけならまだ可愛いのだが、この状況でそんなことが言える者がいたら間違いなくどうかしている。


「うりゃ!!」


 桜花は両手を広げてその場で回転。妖力を纏わせた爪を使い、周りの弾幕を掻き消す。

 更に、お返しとばかりにフランへと弾幕を放つ。


「そんな弾幕じゃあ、私を落とせないよ?」


 クスクスと笑いながらヒラリと弾幕を回避するフランを見て、桜花は先回りする様に走り出す


 そのままフランへと飛び掛かると、驚くフランの左腕を掴み、壁へと投げる。


 フランは空中で体勢を立て直すが、桜花は次々と接近戦を仕掛けてフランの集中を乱す。


「くっ…集中できない」


 そして、完全に集中が切れたのか、フランの周りの魔法陣が消える。

 フランは桜花の腕を蹴る反動で大きくジャンプすると、そのまま重力に任せて落下する。

 その手には黒い歪んだ棒状の武器が握られている。



──禁忌「レーヴァテイン」



 フランの武器から炎が立ち上り、巨大な剣となる。

 フランは上段に構えた剣を力任せに振り下ろす。


 桜花はすぐさま横へと回避する。

 レーヴァテインはそのまま床をえぐり、巨大な爪痕の様な跡ができていた。

 よく見れば天井から壁を伝い、床までが綺麗にえぐられており、火の粉から弾幕が作られている。


 レーヴァテインは強大な威力を持つが、なにぶんフランには巨大過ぎるためどうしても大振りとなる。

 しかし、桜花は別の意味で警戒することがある。

 このレーヴァテイン…振った後に火の粉が弾幕となって襲ってくるのだ。


 桜花は、再び振るわれたレーヴァテインを屈んで避けると、後からくる火の粉を転がって回避する。


「暑いわね…フランはそんな物持って熱くないの?」


「私は平気だよ?」


「うわ、羨ましい」


 フランは横に振り抜いたレーヴァテインをそのままの一回転しながら勢いをつけて振り上げる。

 床をえぐりながら迫るレーヴァテインを前に、桜花はあろうことかフランへと走り込んだ。


「ふえっ!?」


 驚きながらも、レーヴァテインを振るのを止めないのはさすがというべきか…。

 桜花はフランの懐に入り込むと、そのま腕を掴み、背負い投げの様に床へと投げ飛ばす。


「…がっ!?」


 床にたたき付けられたフランは、背中からくる衝撃に思わず呻く。

 思わず閉じていた目を開くと、目の前には拳を振りかぶる桜花の姿があった。


「くっ…!」


 軋む体を無理矢理動かして回避すると、先程までフランがいた場所に桜花の拳が打ち込まれた。


 ズドンッ、と鈍い音が響き、小さなクレーターができた床を見て、フランは生まれて初めて背中がゾクリとする感触を味わう。

 もしあのまま動けなければ、今頃フランの頭は粉砕されていただろう。


 吸血鬼であるフランはその程度ならばまだ再生できるだろう。

 しかし、敵の前で一瞬でも意識を失えば後に待つのは確実な“死”だ。


 フランも日光や流水に弱い。外は今雨が降っているから、気絶した後に外に放り投げられでもしたら堪ったものではない。


 フランは本能で桜花が危険な存在であると認識した。



──禁忌「フォーオブアカインド」



 フランは自らの分身を作りだす。


 それぞれがレーヴァテインを持ち、桜花を囲む様に向かっていく。


「……シッ!!」


 桜花は一番近くにいたフランの腕を掴むと、頭上を飛び越える様に体を浮かせて落下する勢いで別のフランへと投げ飛ばした。

 それを受け止めたフランへと接近すると、足払いをして体勢を崩す。

 投げ飛ばされたフランがすぐに倒れそうなフランの援護にまわり、背後から殴りかかるが、桜花は身体を捻りながら器用に足払いをしたフランを背後へと蹴り飛ばす。

 背後にいたフランは慌てて攻撃を止め、蹴り飛ばされた自分を避ける。

 その瞬間、一気に間合いを詰めた桜花が体勢を崩したフランを殴り飛ばした。


 残りのフラン達は慌てて一カ所に固まると、一斉にレーヴァテインを振りかぶる。


「夢想封印・青!」


 桜花が両手を前に突き出し、五つの光弾が発射される。

 レーヴァテインを振り下ろそうとしていたフラン達は反応できずに弾き飛ばされる。衝撃により残りの分身が消え去り、フランは一人に戻った。


「…っ!?」


 吹き飛ばしたフランへと追撃しようと走り出した桜花は突然足を止める。


 次の瞬間、桜花の目の前に網の様に緑色の弾幕が現れた。



──禁忌「カゴメカゴメ」



 まるで網で捕らえる様に放たれる弾幕を桜花は体を捻って回避する。


「フッ…フフフ……凄い…凄いよ、お姉さん!

 私、楽しい!こんなにゾクゾクした遊びは初めてだよ!

 もっと……モットアソビマショウ?」


 真っ赤な瞳を爛々と輝かせたフランが弾幕を放つ。


「封魔陣!!」


 桜花は迫る弾幕を懐から出した札で小さな結界を作ることで防ぐ。

 そのまま網の目を潜る様に一直線にフランに近づくと、振るわれたレーヴァテインを妖力で作った障壁で受け止める。


「アハハ、アハハハハハ!!まだまだいっくよー!!」



──禁忌「恋の迷路」



 フランを中心に迷路の様に放たれる弾幕。

 一歩間違えたらもう逃げ場はない死の迷路に、桜花は迷わず飛び込んだ。


「お姉さん強いね!なんでそんなに強いの?」


 弾幕を放ちながらフランが尋ねる。


「う~ん…長年の経験かな?」


「羨ましいな…私は一度も外に出たことないけど、外に出たらいろんな事を経験できるんでしょ?」


 迷路を抜けた桜花と、弾幕を止めたフランが組み合う形で動きを止める。


「そうだね、世界は広いよ。この館なんか、世界から見たら一粒の砂みたいなものだもの。それに…」


「それに…?」


 フランがワクワクした顔で桜花の言葉を待つ。


「それに…世界は、どこまでも“自由”なのよ。この地下室みたいな限られた空間なんて存在しない…どこまでも青い空が広がってる」


 フランの体がプルプルと震えだす。しかし、恐怖や身体の疲労の類ではない。


 フランは笑っていた。


 期待に瞳を輝かせ、それはもう年相応の満面の笑顔で彼女は笑った。

 フランにとって、外に出ることは“世界”が変わることに等しいからだ。

 495年もの間、限られた空間で過ごしてきた彼女が欲かったもの…


 一つ目は家族…レミリアとの関係を良くすることである。

 これは素直になれないレミリアと、狂気のせいで自分の気持ちを上手く表せないフランの些細なすれ違いからなのだが…。

 これはフランの狂気をどうにかしたら、後は時間が解決してくれるだろう。



 二つ目…ある意味、これが重要なのかもしれないが…。


 フラン自身が“自由”を手にすることだ。


 紅魔館という籠から、自由な空へと飛び立つこと…そして、本当の世界を知ること、この一種の探究心がフランの理性を保っている要因であると桜花は考えていた。


「私は貴女を自由にしてあげたい。だから…!!」


 桜花は力を込めてフランを押し返す。

 体格差から、フランの身体はあっさりと後方へと押し返される。


「さっさとこの遊びを終わらせるよ!?」


 フランはニヤリ笑って頷く。


「絶対に勝つんだから!!」


 フランは両手を広げて魔力を一気に集める。

 集まった様々な力は渦を巻き、虹色に輝き始める。

 次の瞬間、桜花の目の前に爆発したかの様に様々な色の弾幕が飛び散る。



──禁弾「スターボウブレイク」



 凄まじい勢いで放たれた弾幕は、まるで雪崩の様だった。

 隙間はほんの少ししかなく、常に動きまわらなければならない。


「うわっ、危なっ!?」


 肩を掠った弾幕に桜花は思わず声をあげた。

 フランは弾幕の量を更に増やし、隙間も段々と無くなってくる。


「仕方ない…ちょっと力を解放するよ!」


 桜花の隠れていた尻尾が三本まで現れる。

 同時に、周りにある弾幕も全て妖力で吹き飛ばした。


「あれ…尻尾が増えた!凄~い!触らせてよ!」


「私に勝てたら触ってもいいよ」


 再びお互いの腕を掴んで組み合った体勢のまま、ぎりぎりと力比べが始まる。


 ただ、今の私は先程より力が増しているので、フランが徐々に後退していく。


「…くっ、なんて力!」


 フランは、力比べで勝てないのがわかったのか後方に大きくバックステップして距離をとった。


 そして、青い大小様々な弾幕をあらゆる角度に放つ。

 桜花は慌てずに弾幕を回避する。


「…っ!?」


 しかし、次の瞬間、壁や床に当たった弾幕が跳ね返り、再び桜花を襲った。



──禁弾「カタティオプトリック」



 壁を反射しながら迫る弾幕に、桜花は一瞬顔をしかめる。

 しかし、次の瞬間には元の顔に戻り、少し身体を右に移動させると、そのまま腕組みをしたまま動かなくなった。


 フランは桜花の行動が理解できなかった。弾幕が跳ね回るこの室内で動きを止めるなど自殺行為だからだ。


 ところが、先程から桜花には一発も弾幕が当たっていない。精々掠る程度だ。


「まさか…弾幕の軌道を全て読んだの!?」


「大正解、ここは唯一弾幕が通らない場所。急いで計算したからちょっと頭痛いけど…」


 フランは絶句した。

 あの顔をしかめた数秒間でこの部屋の構造や、弾幕の向きから安全地帯を見つけ出すなど、最早高速思考どころの考え方ではない。


 フランは桜花を直接狙おうと弾幕を展開する。

 しかし、その瞬間に桜花は一気に距離を詰めてきた。


 しまった、と思う隙もなく、フランは投げ飛ばされていた。


「(強い…たぶん、私よりも強いんだ。……でも、負けたくない。勝ちたい!)」


 弾幕を撃ち合い、戦い続ける中で、いつしか…フランからは狂気よりも、憧れや尊敬の念が強くなっていた。



──禁弾「過去を刻む時計」



 フランから、弾幕と共に過去を刻む様に反時計回りに回転するレーザーが放たれる。


 桜花はスルリとレーザーや弾幕の間を抜けてフランへと近づく。

 フランもすぐにレーヴァテインを構えて迎撃する。


 レーザーが迫れば距離を離して、隙を見て再び接近する。

 これをしばらく繰り返すうちに、レーザーや弾幕は次第に消えていく。


 しかし、フランは笑っていた。


 狂気ではない、彼女の純粋な感情からくる笑みだった。


「楽しいね、お姉さん!!」


「ふふ…そうね」


 弾幕が全て消え去り、フランは大きく距離をとる。


「She died by the bullet and then there were none.(一人が弾幕を避けきれず、そして誰もいなくなった)」



──秘弾「そして誰もいなくなるか?」



 フランの姿が消え、無数の弾幕が桜花に襲い掛かる。

 桜花は部屋の中を縦横無尽に駆け回ることで回避していく。

 次第に数が増えた弾幕は、桜花を囲む様に徐々にスペースを縮めていく。


「封魔陣!!」


 弾幕があと少しで桜花に触れるという所で、桜花は札を一枚取り出して床にたたき付ける。

 それと同時に発生した光の壁が弾幕を薙ぎ払う。


 しばらくして姿を現したフランは肩で息をしている状態だった。


「はぁ…はぁ…ああ、楽しかった。次が私の最後のスペル…」


 桜花は両手を広げると笑いかけた。


「いいよ、おいで。私は全てを受け止めてあげる」


「…うん、ありがとう」



──QED「495年の波紋」



 フランを中心に波紋の様に放たれる弾幕。

 桜花も目を閉じて両手を広げる。


「夢想封印・蒼」


 桜花の周りを青い光弾が回る。

 光弾はどんどん数を増やし、最早巨大な弾となった。


 桜花とフランは、一瞬お互いを見た後、同時に相手に向けて放った。










~レミリアの部屋~


 レミリアと咲夜は桜花を待ちながら紅茶を飲んでいた。


「お嬢様、妹様は大丈夫でしょうか…」


「咲夜、その質問はもう五回目よ?」


「はい、しかし…」


 咲夜が言葉を言い終わる前に、館中に轟音が響き渡った。


「これは!?」


 慌てて咲夜が廊下に出る。

 廊下には音に驚いたメイド妖精達がワタワタと飛び回っていた。


「あの音は…地下から!?」


 急いで地下に向かおうとする咲夜の腕をレミリアが掴んだ。


「落ち着きなさい、咲夜」


「お嬢様…」


 レミリアは急ぐ様子もなく、ゆったりと地下へと歩いていく。

 咲夜もレミリアの後ろについて地下へと向かった。





~地下廊下~


 レミリアと咲夜が到着した時に目にした光景は凄まじかった。

 フランの部屋の扉は粉々になり、廊下の壁や床には皹が入っている。


 そんな廊下の先で、パチュリーと美鈴が部屋の中を眺めていた。


「二人とも何を…」


 咲夜が声をかけようとした時、パチュリーが口元に人差し指を立て、静かにする様にジェスチャーで伝える。


 口を閉じた咲夜とレミリアが部屋の中を見る。


 そこには、困った顔の桜花と、彼女にしがみついて静かに寝息を立てているフランの姿があった。


 その光景に咲夜は微笑み、レミリアは満足そうに頷く。



 いつの間にか、雨はあがっていた──。




※誤字訂正しました。



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