◆人間の成長と新たな出会い
オリキャラが出ます。
チルノと出会ってからさらに五百年が経ち、私がこの世界に来てから千年が経った。
チルノと出会ってからは毎日話をしたり遊んだりして過ごしたので退屈はしなかった。
チルノは口は多少悪いが基本親切で思いやりがある。そのためか最近はいろんな妖精が湖にやってくる。
チルノがいて霧がかかるならここが霧の湖で近くの山が妖怪の山となるのだろう。
私はチルノや集まってくる妖精達と毎日遊んでは寝るという生活を送っていた。チルノは「桜花以外があたいの縄張りに入るな!」と集まる妖精達に怒鳴るが結局追い出そうとはしなかった。チルノも実はまんざらでもないのではないのだろう、無意識に笑顔を見せることもある。
「ねぇ、桜花ってば!」
「え?」
どうやらチルノが私を呼んでいたようだ。あきらかに不機嫌そうにこちらを見ている。
「えっと…ごめん、チルノ。ちょっと考えごとしてたよ」
私の言葉にため息をつきながらチルノは仕方ないとばかりに腕を組む。
「これから人間の村に行くって話をしてたんだけど…」
ああ、そういえば昨日そんなことを言っていた。
「たしか人間の村の様子が最近おかしいんだっけ?」
昨日湖に来たとある妖精から人間の村が最近急に賑やかになっているらしく、それを聞いたチルノが興味がわいたとか言い出して見に行くことになっのだ。
「なんだ、覚えてるじゃない。なら早速行きましょうか」
そう言うとチルノは背を向けてさっさと飛び去って行った。私は行動力だけは原作通りなんだなと心の中で呟きつつチルノの後を追って空へと飛びたった。
「………」
「なによ…これ」
ちなみに上がチルノ次が私だ。今私達は人間の村…いや、村だった場所の上空に浮かんでいる。
私が人間の村を最後に見たのが五百年前、チルノに出会う少し前だ。その時はぎりぎり村と言えるくらいの状態でまだ家さえまともなものがない程度の発展具合だったのだが…
「桜花、あたいの目がおかしくないならこれは村じゃないよね?」
「…ええ」
眼下に広がるのは村なんて規模じゃない面積の町並み。どちらかと言えば都だ。平安時代くらいの都ができていたのだ。
「桜花、人間って凄いね…」
「いやいや、おかしいわよ。五百年でここまで発展するわけないでしょ」
元人間の私からしてもこれはおかしい。いくらなんでも石器時代くらいの文明が五百年でここまで発展するだろうか?
「…出鱈目だわ」
とにかく私とチルノは村…じゃなくて都の入口近くに降りると私は耳と尻尾と妖力を隠してから門へと歩いて行った。
門番は私を人間であると思って通してくれた。チルノも最初は止められたが妖精であるのがわかるとあっさりと通してもらえた。
門をくぐって見たのはまさに平安時代の町並みだった。チルノを見ても何も言わないところからすると妖精は珍しいものではないようだ。
反対に私は凄く居心地が悪い。皆の視線が集中しているのがわかる。まぁ、私の格好はこの時代からすれば珍しいだろう。平安の文化にコートなんてないだろうし。
私達は一通り歩き回り、町並みを見て回ったり町の人からどのようにして文明が発展したのか聞くと湖に帰った。
「人間って凄いのね~」
チルノが腕を組みながらうんうんと頷いているのを横目に見ながら私は考える。
五百年であれほど文明が発展したのなら今から五百年か千年すればあっという間に平成と同じかそれ以上に文明は発展するだろう。町の人から聞いた情報によるとたまたま文明の発展が最近になって進んでいるから、らしい。しかし、そんな歴史は聞いたことがないし…
まさか何かあって一度文明が滅びるのだろうか?そういえば地上の発展した文明をもった者達が月に行って月人になったんだっけ?ならあと数百年したら永琳あたりに会えるかもしれない。
「いやはや人間ってわからないものだね…」
私はそう呟くと私を呼ぶ妖精達の方へと歩き出すのだった。
それから二百年程経ったころ、人間の都は江戸時代前半の町並みとなってきていた。
そういえば、最近人間が文明を築いていくのに対抗するかのように妖怪の山にいる妖怪達も力をつけ始めてきた。すでに大妖怪も何匹か現れ始めている。どうも発展する人類が気にくわないらしい。
今のところ私が説得して渋々何もしない状態なのだがいつ不満が爆発するかわからない。まぁその時は私が力で押さえ付けるつもりだが。
今のところ私に勝てる妖怪はいない。私のように千年以上を生きている妖怪はおらず、私が妖怪の中では最強という立場にいる。
ちなみに最近尻尾が増えた。ある朝起きたら尻尾が二本になっていたのだ。長生きして力を蓄えた妖獣は尻尾が増える。最高は九本で代表的なのでいえば九尾の狐なんかがそうだが何故九尾の狐以外に例がないのか不思議でたまらない。ちなみに尻尾の数は力を、長さが賢さを表すらしい。
結局まぁ考えても仕方ない、とチルノに会いに行くとチルノが私を見た瞬間固まった。何事かと思ったが視線が尻尾にいっていたのでふりふりと動かしてみると勢いよく尻尾に抱き着かれた。私の尻尾は長さが一メートルくらいで太さはちょうどチルノが抱き着ける程度だ。
「もふもふだ~」
と言いつつ私の尻尾からなかなか離れなかったが我に返ったのか突然ハッとした顔になるなり勢いよく離れると顔を真っ赤にして慌てだした。
「こ、これは違うの!前々から触りたかったけど別にそこまで気になってたわけじゃなくて…」
どうやら今まで尻尾に触りたかったが恥ずかしくて言い出せず我慢していたらしい。しかし尻尾が増えたのを見たせいでついに我慢できなくなったようだ。
「別に言ってくれれば触らせるのに」
「だって恥ずかしいじゃない!」
「ほらほら~」
「うぅ~(泣)」
結局チルノは我慢できずに私の尻尾をたまに抱き枕にしている。ただチルノと一緒に寝ると無意識に冷気を放つためかなり寒い。なのでたまにだけということで我慢してもらっている。
さて、私は現在妖怪の山に来ている。ここ何百年かの間に妖怪の数もだいぶ増えたが、殆どが小妖怪で中妖怪や大妖怪は少ない。私が通りかかる度に小妖怪達は道を開けるように左右に避ける。尻尾が増えてからというものそれは顕著になり逆にこっちが恐縮してしまいそうになる。
しばらく山を登り頂上付近の広場までやって来た私を出迎えたのはこの山で特に力が強い大妖怪やその部下的な位置にいる中妖怪だった。
何度かこうして広場に円を作るように座り、情報の交換や話し合いをやっているのだ。
「それで…桜花よ、まだお前の気持ちは変わらんのか?」
熊のような姿の妖怪が私を見ながらそう問い掛けてきた。私の気持ちというのは「まだ人間に手を出さない」ということだ。
「ええ、彼等はまだ私達に対抗しうる力を持っていない。まだ様子を見るべきよ」
「…むぅ」
私の答えに周りの妖怪達は不満そうな顔をする。人間が力をつけていつか妖怪に対して反抗するようにならないかが心配なのだ。
「たしかに最近の人間の成長は凄いけどまだ私達より力は下、大丈夫よ」
私は立ち上がると皆に背を向けて歩きだした。
「…桜花」
「…ん?」
歩き出した私に先程の熊の姿をした妖怪が再び声をかけてきた。
「何故お前は人間にそこまで肩入れするのだ?」
「……そうだね」
私は振り返らないまま答えた。
「…人間が好きだから、かな?」
そう言うと、私はよく晴れた空へと飛び立った。
空へと飛び立った私は何処へ行くわけもなくふわふわと空を飛び続けていた。ちなみに、この後チルノ達と遊ぶ約束をしているのでそこまでのんびりするつもりはないが…
私は妖怪の山での会話を思い出していた。あの時の言葉に嘘はない。元人間である私は人間が嫌いではないし、できれば争い以外で解決したいと思っている。その方がいいに決まっているし、なにより平和的だ。
「まぁ、あいつらが我慢してくれれば……ん?」
私が独り言を呟いた瞬間、こちらになにかが近づいてきているのを感じた。妖力を感じるからおそらく妖怪だ。
「それにしても…速いわね」
こちらに近づいてくる気配の速度がかなり速いのだ。私でさえ追いつけない程のスピードである。
「誰だろ…私より速いといえば文くらいだと思うけど…まだ生まれてないはずだし…」
そうこうしている間に相手は私の目の前までやってきた。
「あ、見つけましたよ!鈴音桜花さん!」
「……は?」
「いや~、探すのにだいぶかかりましたけどやっとお話が聞けます!」
いきなりビシッと音が出るくらいの勢いで指差されて私は唖然とした。いや、それだけではない。私を指差している妖怪の顔が…
「え?…文?」
幻想郷最速と言われることになる烏天狗の射命丸文にそっくりなのである。
服装が動きやすそうな着物というくらいで他は文そのままである。しかし、彼女はまだ生まれていないはずである。原作にも文にそっくりな人物なんていないし―――と、なると…
「あなた…名前は?」
「あややや、すいません。私は射命丸真矢といいます。以後お見知りおきを!」
やっぱり…射命丸ということは文の先祖か、もしくは母親にあたる関係だろう。原作にいないキャラだから私が知るはずもない。
「射命丸真矢さんですね?私に何か?」
「はい!実は私、興味のある妖怪の資料を作るのが趣味でして…妖怪の中でも最年長で最強の桜花さんの資料を作りたいと思って探してたんです!」
なるほど、どうやら文の取材癖は先祖からの遺伝のようである。
「別にいいけど…変なこと書かないでよ?」
「あ、大丈夫です。そこはちゃんとしますよ。自分の資料に嘘書いたってなんの特もないですし」
まぁ、それもそうか…
「ではまず…」
「はぁ……」
文みたいに色々と聞かれるんだろうなと私は心の中で苦笑いをした。
余談だがその後、夕方になるまで取材されるはめになり、帰った時にチルノから約束を破った罰として一週間毎日尻尾を抱きまくらにされて非常に寒い思いをした。
今度から約束はしっかり守ろう…