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東方~青狼伝~  作者: 白夜
紅魔郷編
38/112

紅魔郷Stage4


 吸血鬼の館に住む人間にしてメイドの少女──。



 彼女が何故、紅魔館で働いているのか──。



 それを知るのは本人と、彼女の主のみ──。






Stage4


紅い月に瀟洒な従者を


BGM「メイドと血の懐中時計」







 図書館を後にした桜花は、一人で長い廊下を進んでいた。


 ちなみに、魔理沙は図書館で本を読むと言って図書館に残った。


 パチュリーが嫌そうな顔をしながらスペカを取り出していたので、おそらく今頃は勝負の真っ最中であろう。


 桜花はひたすら長い廊下を進みながらも、強い力同士がぶつかるのを感じた。


 おそらく霊夢とレミリアの戦いが始まったのだろう。ちらりと、窓から外を見れば紅い月が妖しい輝きを見せている。


 桜花は、窓から見える景色を横目にひたすら進む。


 妖精メイド達は霊夢が殆ど倒してしまったのか姿を見せない。


「…つまんない……でも、余計な戦闘がなくて助かるわ」


 長い廊下の終わりが見えた。目の前の扉は屋上に出る扉だ。丁度、この扉から出た場所に大時計があり、その上空で霊夢とレミリアが戦っている。


 屋上に出た桜花は、大時計の横で心配そうに空を見上げるメイドを見つけた。


「あらあら、貴女もあの二人の観戦かしら?」


 桜花の言葉にびくりと肩を震わせた少女は、すぐにナイフを両手に構える。


「…何者!?」


「私?…ただの妖怪ですわ」


 紫を真似して胡散臭い表情をする桜花を、紅魔館のメイド長──十六夜咲夜は睨みつける。


「家の巫女、強いでしょ?」


 桜花は構えることもせず、ニコニコと笑ったまま上空の二人を見上げる。


「…何故、巫女と妖怪が一緒に暮らしているのかしら?」


「あら、それを言うなら…何故、吸血鬼と貴女みたいな人間が一緒に暮らしているの?」


「………」


 苦い顔をする咲夜を見て、桜花はクスクスと笑った。


「きっと意味なんてないわよ」


「…意味がない?」


 笑いながら語る桜花に、ペースを乱された咲夜は少しだけ怒気を含んだ声で返す。


「そう…誰と暮らそうとも、相手を思いやれるなら“家族”にだってなれるわ」


 私がそうだったしね、と呟く桜花を睨みながら、咲夜は少しだけ混乱していた頭を整理していた。


「…結局、貴女は何が言いたいの?」


 咲夜の問いに、桜花は自然な動作で返事を返した。


「…私はただ、なかなか一歩を踏み出せない吸血鬼姉妹を後押ししてあげようと思っただけよ」






 ──次の瞬間、桜花の目の前には無数のナイフが迫っていた。



「…意外に感情的なのね」


 迫るナイフを爪で弾くと、桜花はいつの間にか背後に移動していた咲夜へと振り返る。


「お嬢様や妹様に手を出すのならば……貴女をこのままにしておくわけにはいきません」


 姿勢を低くしてナイフを構える咲夜は、正に獲物を仕留めるハンターの様に見えた。


「…失礼、言い直すわ。素直じゃないお嬢さんへ、私からのプレゼントを渡したいだけよ」


「行かせない。それこそ、時間を止めてでも!」





BGM「月時計~ルナ・ダイアル~」





 咲夜の両手から次々と放たれるナイフを、桜花は横に飛びながら回避していく。


 まるで手品の様に何処からか現れるナイフは決して尽きること無く、時にはフェイントをかけながら桜花へと向かって行く。


 これまでの敵とは違う正確な攻撃は、回避するだけではなく迎撃する必要もあるため、桜花は時々爪を使ってナイフを弾く。


「凄いわね。貴女、本当に人間かしら?」


「…このくらいできないと、お嬢様をお守りできませんから」


「まぁ…そうでしょうね」


 お互いに軽口を言い合うが、そこには微塵も油断がない。それこそ、少しでも油断したなら攻撃が直撃するのが目に見えているからだ。


 桜花は、咲夜がナイフを投げた直後を狙って弾幕を放つ。


 しかし、軽々と避けられてしまうため、まだ一発も彼女には当たっていない。


「…仕方ない。時間も少ないし、ここは少々卑怯な手を使わせて貰うわ」


 そう言って桜花が取り出したのは、青と白の色をした陰陽玉。それに力を込めて弾幕を放つ。


 咲夜は同じ様に弾幕を避けるが、通り過ぎようとした弾幕は直ぐに向きを変えて再び襲い掛かる。


「…っ、追尾ですって!?」


 咲夜は険しい顔をしながら再び弾幕を回避する。しかし、避けても避けても弾幕は戻ってくる。


 次第に追い詰められた咲夜は、ついにポケットからスペルカードを取り出した。




 ─幻幽「ジャック・ザ・ルドビレ」




 咲夜がスペルを唱えた瞬間、桜花の放った追尾弾幕は全て撃ち落とされた。


「…ん?……うわっ!」


 一瞬、世界がズレた様な感覚を覚えた桜花だが、いつの間にか目の前に大量のナイフが浮かんでいることに驚いた。


 一斉に動き出したナイフを回避しながら咲夜を探すが、攻撃しようとしてもすぐに姿が消えて、代わりに大量のナイフが現れる。


 その時の世界がズレた様な感覚…。おそらく、あの時に時間を止めているのだろう。と、桜花は判断した。


「…そらっ!!」


 妖力を纏った爪で目の前のナイフを叩き落とす。しかし、目の前に迫るナイフの数は一向に減らない。


 さっきから時間が頻繁に止まっているから、おそらくナイフを回収して再び投げているのだろう。



 桜花には時間停止を拒絶することもできる。しかし、あえてそれをしないのは桜花が単純に面白くないと判断したからだ。簡単に勝負がついたらつまらないという彼女のこだわりでもある。


「むぅ…このままじゃ同じことの繰り返しね」


 先程から防御一点張りで攻撃できていないので、桜花は険しい顔をしていた。


「…うん、ちょっとだけ本気を見せてあげる」


 桜花は大きく距離を離すと右手を前に突き出す。


「魔理沙、ちょっとだけ貴女の技を借りるわよ!」


 突き出した右手に魔力を集めて思いっ切り発射する。


「見様見真似、マスタースパーク!!」


 撃ち出すのは極太のレーザー。圧倒的な威力の妖力は、ナイフを全て飲み込んで咲夜に迫る。


「…っ!」


 スペルブレイクした咲夜は急いで新しいスペルカードを取り出す。



─幻世「ザ・ワールド」



 再び時間を止めた咲夜は急いでその場を離れ、ナイフを配置して時間を元に戻す。


 咲夜が現れたのは桜花の真後ろ。マスタースパークを撃った体勢の桜花は動けないと判断したからだ。


「甘い!」


 しかし、咲夜は油断していた。相手は幻想郷の母の一人、常識が最も通用しない相手だと言ってもいい。


 桜花は無理矢理体を捻ると、マスタースパークを放ちながらその場で独楽の様に一回転した。


「な、なんて無茶苦茶な!?」


 咲夜は慌てて時間を止めると空へと舞い上がる。


 時間を戻した咲夜は更に驚愕する。いつの間にか自分の周りに大量の弾幕が配置されていたからだ。


「…なっ!?い、いつの間に!?」


 そこで咲夜は気がついた。桜花はマスタースパークを撃つのに右手しか使っていない。そして、空いている左手にはいつの間にか陰陽玉が握られていた。


「行け!」


 桜花の掛け声で一斉に360度から弾幕が襲い掛かる。


「くっ、私が空に逃げると予想していたのか!」


 複数の弾幕を回避しているうちにスペルブレイクした咲夜は、懐から最後のスペルカードを取り出す。



─メイド秘技「殺人ドール」



 咲夜が360度全包囲にナイフをばらまくと、それらは周りの弾幕を打ち消し、一斉に桜花へと迫る。


「青符『夢想封印・青』!!」


 桜花はスペルを唱えると、両手を広げてその場で一回転する。


 すると、桜花の周りに青い光弾が現れ、ナイフを次々と弾く。


「これで…終わりよ!」


 そして、その光弾を躊躇なく咲夜へと撃ち出した。


「なっ…し、しまっ…」


 しまった、と思う前に咲夜は光に呑まれ、撃ち落とされた。


「う…も、申し訳ありません…お嬢様」



 桜花が咲夜との勝負に勝ったすぐ後、上空で戦っていた霊夢とレミリアが降りてきた。どうやらあちらの戦いも終わったらしい。


「ふぅ…疲れた。………って、なんであんたが此処にいるのよ!?」


 上空から降りてきた霊夢は、不機嫌そうに顔をしかめたまま桜花を見た。


「あら、私は幻想郷の守り神よ?

 異変が起きたら解決しに来るのが普通じゃない?」


 桜花の返答に霊夢は溜め息をつきながら額に手を当てる。


「…私はまだあんたを信用してないわよ?」


「別に信用してもらう必要はないわ。これは私が自分の意思でやっているのだから。

 それに、先代の巫女達の世話も結構気に入ってたしね…」


「だったら私もどうにかしてよ。実際、家の家計簿は火の車よ…」


 霊夢の溜め息混じりの呟きに、桜花は笑いながら頷いた。


「勿論、そのつもりよ。毎日豪華なご飯作ってあげるわ。私、結構お金持ちなのよ?」


「一生貴女についていくわ!」


「うわぁ…変わり身速いわね…」


 桜花が苦笑いすると、霊夢の後にレミリアが降り立つ。


「ん?…なんだ、また見慣れない奴がいるわね」


「あ、おぜう様だ」


「…お、おぜう?」


 冗談のつもりで言ったのだが、レミリアは口元をひくつかせている。


「ほほぅ…誰だか知らないが…どうやら死にたいらしいわね」


 青筋を浮かべたレミリアが弾幕を放とうとするが、霊夢がその頭をポカリと叩く。


「こら、あんたはもう大人しくしなさい」


「う~…」


 レミリアはジト目で桜花を睨むが、桜花が謝ると素直に引き下がった。




「じゃあ、私は帰るけど…」


「ああ…霊夢、先に帰ってて。私はまだやることがあるから」


 帰ると言う霊夢にそう言うと、桜花はレミリアの方に向き直る。


「ふ~ん…まぁ、いいわ。さっさとやること済ませて帰ってきなさいよ?」


「了解」


 背を向けたままひらひらと手を振って返事をする。


 霊夢が遠ざかるのを感じながら目の前のレミリアを見る。


「…それで、私にまだ何か用があるのか?」


 レミリアの隣には咲夜が既に待機しており、殺気を込めた視線を桜花に向けている。


「まぁまぁ、そう警戒しなくてもいいわよ。

 まずは自己紹介ね。私は鈴音桜花、幻想郷の守り神で、霊夢の神社の神様よ」


「…ふん、そうかい」


 レミリアは上から目線の態度を崩さないまま桜花に返事を返した。


「まぁ、平たく言えば異変の解決が仕事になるんだけど…今代の巫女である霊夢は優秀だから私の出番はあまりないかな……ただ」


「…っ!!」


 最後だけ声を低くして桜花はレミリアを睨む。


 その視線には明らかな殺気があり、威圧感も半端ではない程強い。


 流石のレミリアも頬を冷汗が伝う。


「私は幻想郷を愛してる。異変を起こすことはつまり、私と妖怪の賢者を敵に回すことだと覚えておきなさい」


 それだけ言うと桜花は殺気を消した。同時に威圧感も消える。


「まぁ、今回の異変はあまり大した事じゃなかったからいいけどね」


「そ、そう…」


 レミリアは安心感から胸を撫で下ろす気分だった。…勿論顔には出していないが…


「…ただし、今から一つだけ私の言うことを聞いてもらうわよ?」


「…何かしら?」


 次の瞬間、桜花の口から出た言葉は、レミリアの意表をつくには十分すぎた。





「…貴女の妹に会わせなさい」






Stage Clear!!



 少女祈祷中…






 忙しくてなかなか執筆が進まなかったけど、なんとか書き上げました。


 次がラストにして一番の見せ場ですね!!



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