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東方~青狼伝~  作者: 白夜
紅魔郷編
37/112

紅魔郷Stage3


 紅魔館──。


 それは悪魔の住む館。


 しかし、その館に住む者は悪魔だけではない。


 人間や妖精、妖怪さえいる。


 そして、図書館にいる彼女もその一人……。




Stage3


暗闇の館~Save the mind~


BGM「ヴアル魔法図書館」





―桜花Side―


 チルノと戦い終わった私は、気絶したチルノに自分のコートをかけてあげると、大ちゃんに任せて魔理沙と共に紅魔館の中に入った。


 外から見るよりも中は広く、まるで迷路のようだった。


 霊夢の様な鋭い勘を持たない私と魔理沙はいきあたりばったりで、妖精メイドを撃ち落としながら適当に館内を散策していた。


 そんな時に見つけたのが図書館の入口だった。


 ヴアル魔法図書館…。


 おそらく幻想郷の中で最も本がたくさんある場所だろう。視界の九割を占める本棚に感嘆しながらも、はしゃぐ魔理沙 と共に中を散策する。



 慌ててメイド妖精達がやって来て弾幕を放ってくる。


「さてさて、さっさと異変を解決してここの本を借りていくとするか!」


「…盗む、の間違いじゃないの?」


 隣ではしゃぐ魔理沙を見て溜め息をつきながら先を急ぐ。


「失礼だな、ちゃんと返すぞ?……私が死んだらな」


「…だと思った」


 もう魔理沙には何も言うまい。彼女の泥棒癖は一度死ななきゃ治らないようだ。



 ちなみに…門番だった美鈴は、おそらく霊夢にやられたのか、気絶していたので放置してきた。


 まぁ、異変の解決が優先なので、わざわざ起こすまでもないと思って放置したのだが…少し可哀相だったかな?



 私は本ばかりを気にして全く迎撃をしない魔理沙を注意しながら奥に進んで行く。


 紅魔館も広いが、この図書館の広さも半端ではない。薄暗いからかもしれないが、向こう側が見えないのである。


 よくもまぁこんなに本が集まったものだ。私自身、読書は好きだが、これだけ本が並んでいると気が滅入ってしまう。


 同じ様な風景しか見えないので、本当に先に進んでいるのかわからなくなってしまいそうになるのを何とか堪える。


「止まってくださ~い!!」


 ふと、前方から声が聞こえたので、私達は一旦停止する。


 すると、本棚の間から一人の少女が現れた。


 少しくすんだ赤い長髪、頭の左右と背中には小さな悪魔の羽があり、黒いベストを羽織ったその姿は正に司書であった。


 ヴアル図書館の司書であり、パチュリーの使い魔でもある小悪魔だ。


「か、勝手に図書館で暴れられたら…その…困りましゅっ……あぅ…噛んじゃった///」


「「………」」


 えっと…何ですか、この可愛い生物は?


 小悪魔は、緊張したうえに噛んでしまったのが余程恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になっている。


 魔理沙もそんな小悪魔を見て苦笑いをしていた。


「と、とにかく、ここから先には行かせません!」


 気を取り直した小悪魔がそう言うと、いくつもの魔法陣が現れ、大弾とクナイ弾幕を放ってきた。


 しかし、どちらも大ちゃんやチルノに比べたらかなり隙間が多い。魔理沙も私も軽々と避けていく。


「さっきは出番が無かったからな、ここは私に任せな!」


 そう言った魔理沙は器用に箒の上に立つと、両手を前に突き出す。


 すると、魔理沙の目の前に魔法陣が二つ現れる。私は魔法には詳しくないが、あれが攻撃する為のものであることはわかった。


「…くらえ、イリュージョンレーザー!!」


 魔法陣から放たれた二つのレーザーは、小悪魔の弾幕を突き抜け、真っ直ぐに彼女へと向かっていく。


「…ふぇ!?…あ…きゃん!?」


 魔理沙の攻撃に驚いた小悪魔は、回避が間に合わずに直撃…。そのまま近くの本棚の上に落ちると、目を回して気絶した。


「おお…一撃かぁ。やるね、魔理沙!」


「へへ…このくらい当然だぜ。さぁ、先に進むか!」


 満面の笑みを浮かべた魔理沙の後に続く形で先に進む。


 そのまま妖精メイドや白い毛玉のような敵を蹴散らしながら進んでいると、魔理沙が突然振り返った。


「なぁ、聞きたい事があるんだ」


 魔理沙は興味津々といった顔を私に向けている。


「何かしら?」


 私は魔理沙の方を見ながら首を傾げる。


「…お前は、何者なんだ?」


 魔理沙は、先程とは違って真剣な顔で尋ねてきた。


「お前が敵じゃないのはわかってる。だけど、お前の正体を私はまだ聞いてない」


「正体も何も…ただの妖獣よ」


「違うな」


 魔理沙は目を細めてニヤリと笑う。


「ただの妖獣が千年以上も眠るなんてことがあるわけがない。お前はもっと凄いやつなんだろ?」


 私は溜め息をつくと、降参の意味を込めて両手を上げた。別に隠しているわけではなかったので、尋ねられたら答えるつもりだった。


「う~ん…なんて言えばいいのかな…。幻想郷の始まり…母親みたいなものかな?」


 言ってからちょっと恥ずかしくなった私は、頬をかきながら苦笑いをする。


 ふと魔理沙を見ると、驚愕した顔で私を見ていた。


「お、お前……まさか、伝説の…?」


「…伝説?」


 魔理沙の言葉の中に気になる単語があった。…伝説?なんだそれは?


「あ、ああ…人里に伝わる伝説があるんだ。たしか──」


 魔理沙がそこまで言った時だった。



──昔々、幻想郷には守り神がいた。



「…っ!?」


 どこからか聞こえてきた少女の声に、話をしようとしていた魔理沙が固まる。



──その神は人と妖怪を束ね、楽園を守っていた。



 小さいけど確かに聞こえる不思議な声…。



──ある時、幻想郷は災厄にみまわれ、滅びそうになった。



──神は自らを盾として、数名の仲間と共に楽園を守った。



 図書館の奥から人影が見える。どうやらこの声の主らしい。


 手には一冊の本…。どうやら本の内容を読んでいるらしい。俯いている為か表情がよくわからない。


「──そして、力を使い切った神は眠りについた。今も、神はこの楽園のどこかで眠っている……おしまい」


 手に持っていた本をパタリと閉じて、声の主は顔を上げた。


「…はじめまして……守り神さん。私はパチュリー・ノーレッジ…魔女よ」


 明かりに照らされて浮かび上がったのは、十代初めくらいに見える少女だった。


 パジャマの様な服に紫色の長髪…。こちらを見る無表情な顔からは感情は一切読み取ることはできない。


 動かない大図書館ことパチュリー・ノーレッジは、手にしていた本を腋に挟むと、観察する様に私を見る。


「あらあら、御丁寧にありがとう。私は鈴音桜花…この幻想郷の守り神なんかをやってるわ」


 にこにこと笑う私に対して、パチュリーは僅かに険しい表情をする。


「…本当はゆっくりと話でもしてみたいのだけれど……友人の頼みで、侵入者は追い返せと言われているわ」


「だから帰れって?

 冗談いわないで。私は守り神よ?異変が起きたのなら……その原因を潰すのが私の役目」


 残念そうな顔をするパチュリーに、笑顔で返事を返す。


「仕方ないわ…今日は喘息の調子が悪いからあまり戦いたくないのだけれど…」


 小さく咳をするパチュリーは、腋に挟んでいた本を本棚に戻すと、別の本を手に取る。きっと魔導書か何かなのだろう。


「レミィの為に少しは時間を稼がなきゃ…」


 彼女の周りに無数の魔法陣が展開される。


「私は上にいるお嬢様よりも……下にいるお嬢様に会いに行くつもりなのだけど?」


 パチュリーは少し驚いた顔をしたが、すぐに険しい顔に変わる。


「…行かせないわ。私の魔法で貴女を止めてみせる!」



―SideOut―





BGM「ラクトガール~少女密室~」




 パチュリーが指を鳴らすと、魔法陣から青いレーザーが四方向に放たれる。


 レーザーの一つがゆっくりと桜花に迫る。桜花は、右から向かってくるレーザーを同じ方向へと移動することで回避する。


 直後、反対側からも同じ様にレーザーが挟み撃ちにするかの様に放たれる。


 桜花は体を捻って回避すると、パチュリーから放たれる通常の赤い弾幕を回避していく。


 それを見たパチュリーがスペルカードを取り出す。



「火符『アグニシャイン 上級』」



 次の瞬間、パチュリーが開いた魔導書から大量の炎弾が噴き出して桜花へと向かう。


 チルノに上着を貸して半袖になっている桜花は、炎の熱を肌で感じながら回避する。


 時には自分の弾幕で相殺しながら、次々と迫る炎を回避する。


「よっと…!」


 隙間を抜ける様に放った桜花の弾幕が、パチュリーの持つ魔導書へて当たる。


「きゃっ!?」


 パチュリーの持っていた本は弾幕が当たった衝撃で閉じられ、同時にスペルもブレイクされた。


「そんな…たったの一撃で…」


 パチュリーは表情を更に険しくして再び本を開く。


「流石は幻想郷を守る神ね。こんなに強い貴女が力を使い果たすなんて、千年前に戦った災厄っていうのはとんでもなかったのでしょうね…」


 パチュリーは新しいスペルカードを取り出しながらそう呟いた。


「たしかに……千年前にあった戦いは、ある意味“私にとって”大きな戦いだったよ」


 ただ、と桜花は腕組みをしながら苦笑いする。


「あの戦いで、最後のトドメを刺したのは私じゃなかった」


「……?」


 パチュリーはスペルカードを握ったまま桜花の話に耳を傾ける。


 いつの間にか本棚から取り出した本を読んでいた魔理沙も桜花を見る。


「さっきパチュリーが読んでいた本は幻想郷の歴史書か何かでしょう?」


「ええ、千年前に人里で書かれたものよ」


 桜花は、書いたのはきっと阿一なんだろうなぁ…、と思うと僅かに笑みが浮かぶ。


「そう…確かに本を読むことでわかる知識もある。…でもね、“真の歴史”と“本に載っている歴史”が必ずしも同じだとは限らない…」


「…どういうこと?」


 パチュリーは目を細めて少し怒気をはらんだ声で尋ねる。


 本を読み続けてきた彼女にとって、本から得られる知識に間違いがあると指摘されたことが少々気にいらないのだ。


「千年前の戦いで、神は仲間と共に災厄を倒した、と書いてあるみたいだけれど、それは間違いよ。

 そもそも、その戦いで“私は”戦ってさえいないのだから」


「…!?」


「おいおい、マジかよ…」


 パチュリーだけでなく魔理沙まで驚いているようだった。


「…じゃあ、一体誰が?」


 パチュリーはスペルカードを懐にしまって構えを解く。もう戦うつもりはないようだ。


「戦いに参加したのは…妖怪の賢者、冥界の亡霊姫とその護衛の剣士、天狗のリーダー、永遠の姫とその従者、その代の博麗の巫女……そして、二人の妖精だったわ」


「…妖精?」


 妖精という言葉にパチュリーは首を傾げる。


 本来、妖精は人間に悪戯をする程度の知力と力しか持たない。つまり、弱い存在であるということだ。その代わりに“死”という概念が無く、自然が存在する限り決して滅びることはない。


「妖精なんかが戦って勝負になったの?」


「そこが外に出ない者の弱点ね。一歩でいいからこの館から出てみなさい。目の前にある湖に、今もその二人の妖精は住んでいるわ」


 チルノと大妖精を思い浮かべて桜花は笑う。


「妖精は決して弱い者ばかりじゃないわ。実際、あの戦いに一番貢献したのはその妖精の一人だったしね。災厄にトドメを刺したのもその妖精よ」


 パチュリーは驚愕した。人間と同じかそれよりも下だと思っていた妖精が強者の戦いに参加して、尚且つトドメを刺したというのだから。


「…待って、災厄にトドメを刺したということは、その災厄は自然現象や任意で起こされた異変の事ではないの?」


 桜花の言葉から、パチュリーは現象ではなく、あきらかに敵と呼べる“何者”かがいたことに思い至る。


「そう、災厄は一人の人間が起こしたものだったの。そしてその人間は私と深く関わっていたの…。私は力を封じられて動けず、その戦いを眺めるしかなかったのよ」


 パチュリーは更に驚愕した。幻想郷を滅ぼしかけた異変を起こしたのが、たった一人の人間だったというのだ。


 これまで、そこそこ長い年月を生きてきたパチュリーだが、これほど強い存在には会ったことがない。


「私が話せるのはここまでよ。後は自分で調べなさい」


「……はぁ、いろんな意味で私の負けよ。貴女には勝てそうにないわ」


 パチュリーは溜め息をつくと近くの本棚に腰掛けた。


「…そうね、次からは外にも出てみることにするわ」


「ふふ…そうしなさい、新しいものが見えてくるわ」


 桜花は振り返ると、こっそり本を持ち出そうとしていた魔理沙を引っ張って先へと進むのだった。




――Stage Clear!



 少女祈祷中……










―オマケ―



~霧の湖・チルノの家~



「…う……ん?」


 霧の湖にあるチルノの家。その家のベッドでチルノは目が覚めた。


「あ…あれ?あたい、どうして…」


 若干混乱した記憶を整理していく。


「紅い霧が出る異変が起きて、紅い館の前まで行って…それから……」


 その瞬間、浮かんだのは青い髪をした愛しい女性の姿。


「そうだ!桜花は!?桜花はどこ!?」


「チルノちゃん、どうしたの!?」


 慌てて外に出ようとベッドから降りようとしたチルノだが、いきなり部屋のドアが開いて大妖精が現れたので思わず転がり落ちてしまった。


「いたた…あ、大ちゃん、桜花は!?」


「…え?あ、桜花さんならあの館に入って行ったよ?」


 チルノはしばらく呆然としていたが、安心した様にその場に座り込んだ。


「…よかった……夢じゃない……桜花が帰ってきたんだ」


 嬉しそうに笑うチルノを見て、大妖精も微笑む。


「チルノちゃん、これ…」


 大妖精が差し出したのは、桜花が気絶したチルノにかけたコートだった。


「これ……」


「さっさと異変を解決して戻ってくるから預かってて、だって」


 チルノはコートを受け取ると袖を通してみる。


「ぶかぶかだね…」


「…うん」


 桜花よりも小柄なチルノにはそのコートは大き過ぎた。袖は長すぎるし、裾は床についている。


 それでも、チルノは長すぎる袖に隠れた両手を重ねると、小さく呟いた。


「…温かい」


 その時の笑顔は、ここ数百年見ることができなかった、とても温かみのある笑みだった。






 パチュリーとはスペル一枚での決着となりました。


 パチュリーが好きな皆さんごめんなさい!


 次回はメイド長の出番だぜ!



※ピクシブにて、オマケで書いたチルノの様子を絵にして載せました。


 では、また次回でお会いしましょう!



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