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東方~青狼伝~  作者: 白夜
紅魔郷編
36/112

紅魔郷Stage2


 いつもと違い、紅い霧に包まれている湖──。


 伝説は、自らの最愛の妖精の姿を探す──。




Stage2


湖上の魔精~Water Magus~


BGM「ルーネイトエルフ」







 霧の湖…幻想郷に存在する湖で、妖怪の山の麓にあるその湖は、昼間はいつも霧に包まれており、視界は悪い。


 この湖は妖怪や妖精が集まりやすく、特に夏には水場を求めて多くの妖怪が集まる。


 そんな湖も、現在は紅い霧に包まれており、夜であることもあってかなり不気味な雰囲気を醸し出している。



 そんな湖の上に一人の人間がいた。


 白黒のエプロンドレスを着て、黒い三角帽子を被った金髪の少女…霧雨魔理沙である。


 魔理沙は少々混乱していた。原因は目の前にいる妖精だ。


 緑色の髪を左側に纏めて黄色いリボンで結んだサイドテール。青を基準にした服に、背中にある虫に似た羽…。


 その姿は間違いなく妖精だ。しかし、魔理沙が混乱している理由は、彼女の目だった。


 目の前にいる妖精は細められ、鋭い鷹の様だった。まるでいくつもの戦場を経験してきた者を彷彿とさせるように…。


 出会ってからまだ弾幕はおろか、言葉も交わしていない。ただこちらをじっと見詰めたままである。


 しかし、魔理沙はこの妖精は自分を観察しているのだ、と感じていた。


 それから更に数分経った頃、やっと妖精が口を動かした。


「…ダメ、貴女はここから先に行くべきじゃない…帰りなさい」


 妖精は簡潔にそう言った。


 魔理沙は目を見開いて驚いた。突然現れて無言でじろじろと見られた挙げ句に「帰れ」と言われた。これに「はいそうですか」と従う程、魔理沙は素直ではない。


「なんだ、いきなり現れた挙げ句に帰れとは…。私はこの先に用があるんだ、通してもらうぜ」


 少々怒った様に言う魔理沙に対して、大妖精は全く表情を変えない。


「もう一度言うわ。帰りなさい。貴女なら…たしかにあいつらにも勝てるけど、危険よ」


 それは忠告だった。この先に行くのであれば危険であると…。


 だが、魔理沙は元より危険なのは承知の上でここまで来ている。今更引き返すわけにはいかない。彼女をそこまで動かすのは、純粋な好奇心と、彼女なりの意地だった。


「危険なのは承知の上だ。でも、私は行く。この先にあるものが何なのかを知りたいんだ」


「…忠告はしましたよ?」


 両手にクナイを持って戦闘態勢に移った大妖精に対して、魔理沙もミニ八卦炉を構える。


「邪魔するなら撃ち落とすぜ!」


 二人は同時に動くと、弾幕を放った。







 桜花は霧の湖の近くへと到着した。


 かつて自分の家があり、チルノと出会った思い出の場所である。


「さてさて、チルノはどこかな~?」


 桜花はチルノを探していた。目覚めの報告と、黙って姿を消したことの謝罪をするためだ。


「おかしいな…いつもならこうやって妖力を出してれば向こうからやって来るのに…」


 弾幕を放ってくる妖精を撃ち落としながら湖の上を進む。湖は紅い霧のせいで視界が悪く、数メートル先も見えない状態だった。


「う~ん…いないのかなぁ………ん?」


 そろそろ諦めて目的地へと向かおうか、と考えていた桜花は、前方が何やら光っていることに気がついた。


「…誰かが戦ってる?」


 もしかしたらチルノかもしれない、と桜花はその場所へと急いだ。


 そこで見たものは……弾幕を撃ち合う大妖精と魔理沙の姿だった。








 交際する星型とクナイの弾幕──。


 魔理沙と大妖精の戦いは激化していた。


 弾幕同士がぶつかり合い、相殺しあう。真正面は相殺され、かといって隙間を狙って放てば回避される。


 まさに完璧な膠着状態であった。


「こりゃ意外だな。まさか、妖精でこんなにも力が強いやつがいたなんて正直驚いたぜ」


 魔理沙の言葉に微かに顔をしかめる大妖精。


「妖精が皆弱いと思ったら大間違いよ。私よりもチルノちゃんの方が強い」


「ほぅ、お前より強い奴がいるのか?ちなみに、そいつは何処だ?」


「この異変の原因を調査しに行ったわ」


 大妖精がそう言った瞬間、二人の間に桜花が割り込んだ。


「はい、ストーップ!」


 魔理沙は、突然現れた人物に勝負を邪魔されたので顔をしかめる。


 大妖精は目の前に現れた桜花に驚いた。


「…え?あ、桜花さん!?」


「久しぶり、大ちゃん」


 突然現れた桜花を見て、大妖精は思わず桜花の顔を撫で回した。


「ひゃっ!?だ、大ちゃん…いきなり何を…!?///」


「ほ、本物だ!」


 大妖精は手の平と桜花を交互に見た後、泣きながら桜花に抱き着いた。


「桜花さん、会いたかったです!一体何処にいたんですか!?」


 桜花は大妖精の頭を撫でると、優しく抱きしめる。


「ごめんね、急にいなくなったりして。さっき帰ってきたんだ。…ただいま」


「はい…お帰りなさい。チルノちゃんもきっと喜びます!」


 そんな二人の様子を、魔理沙はポカンとした顔をして見ていた。


「な、何なんだ…一体…」


 桜花と呼ばれた見知らぬ女性が現れたと思えば、さっきまで強敵らしい雰囲気を出していた妖精は突然泣き出して彼女に抱き着いた…。


 正直、魔理沙は額を押さえて溜め息をつくしかなかった。



「結局、お前は何者なんだ?」


 魔理沙の声に桜花が振り向く。


「ああ、私の事は気にしないでいいよ。私はこの子の昔からの友人よ」


「さっき行方不明になっていた的な発言があったが?」


「えっと…ちょっと事情があって眠ってたのよ…千三百年くらい」


「はあ!?千年以上も寝ていたとか、一体何をすればそんなに寝られるんだ!?」


「あ~…、秘密♪」


 この時、魔理沙は先程からの苛立ちもあり、本気でマスパを撃ちかけた。



「さて、話を戻すよ?」


 魔理沙に一度深呼吸をさせた桜花は大妖精に向き直る。


「チルノは異変の解決に向かったのね?」


「はい、危ないから誰も通すなって言われて…」


「だから私を止めたんだな?」


「はい…。ただ…一人だけ私を倒して行っちゃった人がいましたけど…」


「へぇ~、誰なんだ?」


「えっと…、腋の部分がない巫女服を着た人が…」


「「………」」


 魔理沙と桜花は同時に溜め息をついた。


 たしかに、霊夢程の腕前なら大妖精にも勝てるだろう。


「ただ、霊夢とチルノが出会うのはまずいわね…。相打ちになる可能性がある」


 桜花の言葉に、魔理沙が驚いた顔をする。


「そんなに強いのか?…そのチルノっていう妖精は?」


「うん、昔、世界の危機を救った事もあるよ」


 彩花と戦うチルノの姿を思い出しながら、桜花は魔理沙にそう答えた。


「…たぶん、それはもう妖精とはいわないぜ?」


 もっともな意見に、桜花も大妖精も苦笑いするしかなかった。


「とにかく、急いでチルノを追いかけないと…」


「あ、じゃあ私が送ります!」


 大妖精の言葉に魔理沙は首を傾げた。


「お前が?どうやるんだ?」


 大妖精は二人に手を差し出した。


「私の瞬間移動する力を使って、一気にチルノちゃんの所まで飛びます」


 魔理沙と桜花は驚いた。まさか自分だけでなく、他人も一緒に瞬間移動させるなどということは二人にはできないからである。


「大ちゃん…、私がいない間に強くなったね」


「い、いえ…私なんてチルノちゃんや桜花さんに比べたらまだまだですよ…」


 照れながらもそう答える大妖精に桜花は笑顔を浮かべる。


「じゃあ…大ちゃん、よろしく!」


「はい!」


 そして、桜花と魔理沙と大妖精の三人は一気に紅魔館の近くへと移動した。









「…ふぅ」


 紅い館を見ながらチルノは溜め息をついた。


 今回の異変の原因の住む館…紅魔館。


 その館は外壁まで真っ赤な色をした建物で、見ているだけで邪悪な気配のする…そう、正に「悪魔の館」と言うに相応しい建物だった。


 そんな館の正面には門番らしき女性が立っているのが見える。


 見えると言っても、チルノがいるのは紅魔館から数百メートル離れた場所なのだが…。



 チルノは氷の板を歪ませてレンズ代わりにして遠くを見ているのだ。


 そのチルノの視線の先で、門番の女性と巫女服を着た少女が戦いだした。


 巫女服を着ている方は間違いなく博麗の巫女だ。少々服が個性的になってきたが、幻想郷に巫女は一人しかいないので間違うことはない。


 巫女は門番を倒すと、そのまま館の中に入って行った。


「ふむ、今代の博麗の巫女は中々強いね…」


 チルノは彼女なら大丈夫だろうと考えたが、万が一の可能性もあるので後を追いかけようと思っていた。


「チルノちゃん!!」


 そんな時、背後から声がかかる。


「ん?大ちゃん、湖で見張りを頼んだのにどうし……て…」


 振り返ったチルノが見たのは…満面の笑みを浮かべた大妖精と、その隣にいる白黒の服を着た人間。


 そして、微笑みながらこちらを見る桜花の姿だった。


「……え?……あ…嘘…」


 目の前の光景が信じられないのか、チルノは桜花の服や顔や頭の獣耳を触る。


「むぅ…大ちゃんと同じ反応…///」


 チルノは、目の前にいる桜花が本物だと理解すると泣き出した。


「ばか…ばかぁ!……あたいが…どれだけ心配したか!!」


「ごめんね、チルノ…黙っていなくなったのは悪かったって思ってる」


「本当に心配したんだからぁ!!」


「…うん」


 チルノの頭を撫でる桜花を見ながら、魔理沙は大妖精と話をしていた。


「なぁ、あいつら…お前よりも親密に見えるんだが?」


「それはそうだよ。二人はお互いの最初の友達で、恋人なんだから」


「恋人!?…あいつら女同士だよな?」


「うん、でも愛に性別は関係ないよ」


「…そ、そうか」


 魔理沙は抱きしめ合う二人を、何とも言えない気持ちを抱きながら見ていた。






「さて、チルノと楽しくお喋りしたいけど…今は異変を解決しなきゃね」


 桜花は遠くに見える紅魔館を見ながらアミュレットを展開する。


「ちょっと待った!」


 突然のチルノの制止に桜花は首を傾げる。


「どうしたの?」


「桜花はまだスペルカードルールに慣れてないでしょ?大丈夫なの?」


「大丈夫よ。さっきルーミアと戦ったばかりだし」


「う~ん…でも」


 桜花は苦笑いすると、懐からスペルカードを取り出す。


「そこまで言うなら試してみる?私がちゃんと戦えるかどうか…!!」


 チルノはちょっと驚いた顔をするが、すぐに笑顔になった。


「うん、じゃあ桜花がどこまで戦えるか…あたいが確かめる!」



BGM「おてんば恋娘」



 先手を打ったのは桜花だった。


 自分の周りに浮かばせた弾幕を一斉にチルノへと飛ばす。


「それっ!」



─氷符「アイシクルフォール~ADVENT~」



 スペルを発動させたチルノは、弾幕を回避せず、氷の壁を目の前に作ることで防ぐ。


 回避ではなく壁による防御…そこから考えられる行動を予測した桜花は、すぐに動けるように身構える。


 すると、桜花の予想した通り、突然氷の壁は砕け散り、小さな弾幕となって襲い掛かる。弾幕の隙間から両手に剣を持つチルノが見えた。おそらく、バスタードチルノソードを使って氷を砕いたのだろう。


 チルノが使うバスタードチルノソードは、大剣であるが故に『斬る』ことよりも『砕く』ことに特化している。


 氷の壁を作りながら身を守り、それを攻撃に使うことで守りと攻めを両立させる。非常に厄介な戦法を使う相手だ。


 ならばどう戦うか…。簡単なことだ。相手の防御より強い攻撃を当てればいい。


 しかし、それがわからないチルノではない。力を溜めさせないように、次々と弾幕を放ってくる。


「…それなら」


 桜花は腕を薙ぎ払うように動かす。そこには一列に並べられた弾幕があった。


「行け!」


 弾は一つずつ正確にチルノへと向かう。


 チルノは先程からやっている様に氷の壁を作りだして防ぐ。桜花はその間も新しい弾幕を作っては撃ち続ける。


 一発の威力は弱くとも、連続で一点に弾幕集中させられた氷の壁に徐々に皹が入る。


「げっ…やばっ!!」


 チルノがそれに気づいた瞬間、目の前にある氷の壁はあっさりと砕け散り、次々と弾幕が飛んでくる。


 スペルブレイクしたチルノは、一旦距離を開けると二枚目のスペルカードを取り出す。



─凍符「パーフェクトフリーズ~ADVENT~」



 腰に挿した剣のうち、二本を弾幕と共に桜花へと投げつける。


 桜花は難無く剣を避ける。すると、目の前まで迫っていた弾幕が全て凍りつき、その場に静止する。


 そこまではよかった。ふと、桜花が背後から迫る風切り音に気づいて振り向けば、そこには先程避けた剣が二本とも戻ってきている。


 慌てて剣を回避した桜花は、次の瞬間驚愕した。


 チルノへと戻っていく剣が、凍って静止していた弾幕をビリヤードの玉の様に弾き飛ばしたのだ。


 弾幕同士がぶつかり合い、軌道を変えながら襲ってくる。


 驚きながらもなんとか回避に成功した桜花へと、チルノは再び剣を投げる。


 剣を撃ち落とすことはできないか、と桜花は弾幕を放つが、剣に触れた瞬間に凍らされてしまい、余計に避ける弾幕が増えてしまった。


 敵の攻撃を利用するとは恐れ入る。仕方ないので、桜花は攻撃よりも回避に専念して時間切れを待った。





 遠くで二人の戦いを見ていた魔理沙は感嘆していた。攻撃と防御を組み合わせた弾幕を撃つチルノは油断できない相手だ。


 反対に、隙あらば器用に隙間をぬって弾幕を放つという正確な射撃を行う桜花も凄い。


「もしかしたら…私はとんでもない奴らと知り合いになっちまったのか?」


 そう呟いた魔理沙の声は、近くにいた大妖精にしか聞こえなかった。






 時間切れとなり、スペルが消えたチルノは苦い顔をしていた。


「まさか、こんなに戦えるなんて予想外…」


 桜花は軽く息を吐くと微笑んだ。


「いくら寝起きでも、神様が簡単に負けちゃ不甲斐ないでしょ?」


「そうだね…じゃあ、次がラストだよ。これを破れば桜花の勝ち…」


 チルノは剣を全て仕舞うと、最後のスペルを取り出した。



─雪符「ダイヤモンドブリザード」



 最後のスペルは全くと言っていいほどに真っ直ぐだった。


 一切の守りを考えない氷柱の嵐。


 とてもチルノらしい、と桜花は思った。だから、桜花も全力を出すことに決めた。


 懐から一枚のスペルカードを取り出すと宣言する。



─青符「夢想封印・青」



 桜花の周りを五つの青い光の玉が回る。


 桜花に向かってきていた弾幕を全て打ち消すと、一直線にチルノへと向かって行く。


 チルノは回避しようとはしなかった。ただ真っ直ぐに向かってくる光弾を見ている。


「あぁ…やっぱり桜花は強いや…」


 そう呟いた瞬間、チルノは光に呑まれた。








──Stage2 Clear!


 少女祈祷中…





―スペルカード解説―


青符「夢想封印・青」


 基本的には紅魔郷時の霊夢の「夢想封印」と同じ。


 五つの光弾が桜花の周囲を回転した後、敵を追尾しながら飛んで行き、破裂してダメージを与える。


 桜花の周りを回転している時も、追尾中も、僅かにダメージを与える。





※ピクシブにて、イラスト「紅魔郷」を載せました。


 急いで何気なく描いたので少々雑になりましたが…気にしないでいただけたら幸いです(汗)



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