◆紅魔郷・プロローグ
湖の辺にひっそりと建つ、窓の少ない紅い館。
その中に『彼女』はいた──。
今年の幻想郷の夏は騒がしかった。
突然紅い妖霧が幻想郷を包み込んだのである。それは、まるで幻想郷が太陽を嫌っているかのように…
博麗神社にて、博麗霊夢は考え込んでいた。
「困ったわ、霧が晴れないと洗濯物が乾かないじゃない…」
自分のことしか考えていない様に見えるが、これでも彼女なりに幻想郷の平和を大切に思っているのだ……たぶん。
「ふむ、仕方がない。なんか湖の向こうが怪しいから調べてみましょう」
霊夢はお札とお祓い棒を準備する為に神社に入る。
そんな時、ふと誰かの声が響いた。
『そこの巫女さん…。開かない扉に行きなさい。彼女が起きるわ』
「…っ!…だ、誰!?」
霊夢は気配を探ってみるが、自分以外の気配を感じなかった。
「開かない扉…」
霊夢は胡散臭いと思いながらも神社の奥を目指した。
奥の扉はいつも通り、何をしても動かなかった。
「何なのよ、あの声…開かないじゃないの」
霊夢が溜め息をついて振り返ろうとした時だった。
バチッ、と何かが弾ける音がした。
「…ん?」
霊夢が再び扉に向き直り…そして絶句した。
扉には無数の術式が浮かんでいたのだ。普通の術式なら問題はない。ただ、その数が半端じゃないのだ。何十、何百という術式がまるでパズルの様に複雑に絡み合っている。
「な、何よ…これ」
呆然としていた霊夢は、術式が少しずつ消えていくことに気がついた。
まるで絡んだ鎖を解いていく様に、次々と術式が消えていく。
そして数分後、ついに最後の一つが消えた。
霊夢の目の前には、もはやただの木の板となった扉が佇んでいた。
「……」
霊夢は無言で扉を開ける。
中は至って普通の部屋だった。畳ではなく少し洋風な感じがする部屋には、たくさんの書物が並んでいた。
ふと、霊夢は壁にある大きな板に目が向いた。
「これは…名簿?」
壁には大きな木で縁取られた部分があり、そこに名前が書かれた小さな板がいくつも並べてあった。
「これ…全部歴代の博麗の巫女の名前?」
一番古い「博麗霊樺」から一番新しい「博麗霊夢」…つまり、自分までの歴代の巫女の名前が全て書かれていた。
霊夢は改めて部屋を見渡す。すると、奥にベッドがあることに気がついた。
そこまでゆっくりと歩く。どうやら誰かが寝ているらしい。
「…人?」
ベッドに寝ていたのは、霊夢より少し年上くらいの少女だった。青い髪に白い肌。およそ美少女と呼んでもいい顔をしている。
「…ぅん」
少女が身じろぎをしたので、霊夢は少し後ろに下がると、何があってもいいように身構える。
「…ふぁ~」
少女は欠伸をしながら体を起こし…
「……ん、誰?」
眠たそうに目を擦りながらそう問い掛けた。
「聞きたいのはこっちよ。あんた誰?ここは私の家兼、神社なんだけど?」
少女はぱちぱちと瞬きをすると首を傾げた。
「…んん?…ここは博麗神社でしょ?」
「…そうよ」
少女は数回辺りを見回すと再び首を傾げた。
「じゃあ、問題ないじゃない。私の家でもあるんだから」
「…はぁ?」
少女はベッドから出ると体を伸ばす。身長は霊夢よりも頭一つ分ほど高い。
「さて…おはよう、今代の博麗の巫女さん。私は鈴音桜花、博麗神社の神だよ」
少女…桜花が笑顔でそう言うと、隠れていた耳や尻尾と共に力を少し解放する。
「…っ!?…妖怪?…いや、神力もある」
霊夢は札とお祓い棒を構えて警戒する。
「ふぇ?何で攻撃しようとするの?」
「あんたが本物だって証拠がない」
「証拠ねぇ…紫から何も聞いてないの?」
「…紫?誰のことよ」
桜花は額を押さえてガクリと俯く。
「紫…話してないのね」
おそらく、今の桜花の様子を見てニヤニヤしているのだろう。今度会ったらただじゃおかない、と桜花は密かに決意する。
「まぁいいや、貴女の名前をまだ聞いてなかったわね」
「…博麗霊夢よ」
ぴくりと桜花の耳が揺れる。
「そう…よろしく、霊夢。…じゃあ、私は千年は寝ていた計算になるわね…」
チルノに怒られるな、と呟いた桜花を見た霊夢はすっかり毒気を抜かれてしまい、お札を懐に仕舞った。
「はぁ、もういいわ。なんか悪い奴じゃないみたいだし…。今は異変の解決が最優先だもの」
「…異変?」
霊夢の言葉を聞いた桜花が目を細める。
「そう、異変よ。紅い霧が幻想郷に広まり始めてるの」
紅霧異変…。
桜花の頭の中にその単語が浮かんできた。
「(ということは…今は紅魔郷が始まったばかりみたいね…)」
桜花が考え込んでいるうちに、霊夢は準備を終えていた。
「じゃあ、私は行くけど…神社を荒らさないでよ?」
「わかってるわ。誰が好き好んで自分の家を荒らすのよ」
「私はまだあんたを信用してないもの」
「…さいですか」
そう言うだけ言うと霊夢は暗くなった空へと飛び立った。
「あ、スペルカード貰うの忘れてた!」
自分も寝起きの運動がてら出発しよう、と考えていた桜花は、自分がスペルカードをもっていないことを思い出した。
「どうしよう……あれ?」
ポケットに何かが入っている感触があったので、中のものを取り出してみると…。
真っ白なスペルカードが数枚。それからメモが入っていた。
『おはよう、桜花。私はわけあって貴女の所に行く時間がないの。
だからこの手紙と一緒に空のスペルカードを入れておくわね。
スペルカードルールについては別のメモに書いてあるから、それを読んでちょうだい。
じゃあ、できるだけ早目に会いに行くから、それまで頑張って。
―紫より―』
桜花は手紙とメモを綺麗に畳むと、再びポケットに入れる。
「まったく…なんだかんだで世話好きなんだから…」
口ではそう言いながらも顔は笑っており、紫へのお仕置きを軽目にしようかな、と思う桜花であった。
東方紅魔郷~the Embodiment of Scarlet Devil~
・プレイヤーを選択して下さい。
~博麗の神~
鈴音桜花
移動速度・★★★★
攻撃範囲・★★★★★
攻撃力・★★★★★
・使用するお札を選択して下さい。
青符「桜花専用ホーミングアミュレット」
「夢想封印・青」
少女祈祷中…
いよいよ原作開始!