◆里帰り
舞台は再び幻想郷へ…
―桜花Side―
輝夜達と共にあちこちを周りながら歩くこと一年。ようやく幻想郷に帰ってくることができた。
直線的に進めば一ヶ月かからずに着いたはずだったのだが、輝夜が珍しいモノを見つける度にふらふらとつられてしまうので余計な時間がかかってしまった。一応逃亡生活である事を意識してほしかったわね。
途中の村で服を買ったりした時にあの妹紅のモンペも見つけたので買っておいた。本人も気に入ったようだったのでよかった。
ちなみに、妹紅は既に炎を操れる様になっている。
これは、私が妖術を使っているのを見て興味を示したので、使い方を教えてあげたら一発で成功させてしまったのだ。ただし、炎以外はからっきしだったのだが…。
そこはよかった。ただ、自信がついたからか…それとも過去をふっ切るためか…少々口調が変わった。先日は、
「ああ~!?輝夜、私の残しておいた団子食ったな!?」
「あらら、妹紅のだったのね。ごめんなさい、お腹が空いていたものだから~♪」
「確信犯だろ、てめぇ!!返せ、私の団子ぉ!!」
…こんな感じである。ああ、あの可愛い妹紅は何処に……
閑話休題
さて、幻想郷について早速だが迷いの竹林に来ている。目指す場所は勿論、永遠亭だ。
ここの竹林は、一応全てを把握している。迷うことを拒絶しているのだから間違いない。
だいぶ進んだ頃、一軒の屋敷が見えてきた。
「ついたわ、ここが永遠亭よ」
「はぁ~、歩き疲れたぁ~。桜花、おんぶして~」
「こら、輝夜。目的地はもう目の前にあるんだから自分で歩けよ」
「中々立派なお屋敷ね」
私が先頭で中に入る。永遠亭の中は普通に綺麗だった。誰かが掃除をしたんだということがすぐにわかる。
「あら、誰もいないはずじゃなかったの?」
永琳が不思議そうに視線をあちこちに向けている。
「うん、そのはずだったけど……先客がいるみたいね」
すぐにわかった。なぜなら玄関から入ってすぐの場所にトラップが仕掛けてあるのだ。しかも、一つや二つではない。壁、天井、床、至る所に仕掛けられている。
「トラップといえば……彼女しかいないか」
迷いの竹林で、悪戯をする人物は一人しかいない。
──因幡てゐ
健康に気をつけて生活するうちに力を蓄え、妖怪化した兎である。その生活や気性の荒さから、妖怪よりは妖精の様にも見える。ただ、根っからの詐欺師であり、他人を騙してはその反応を見て楽しんでいる。
その反面、彼女は幸運をもたらす力がある。彼女の姿を見たら高確率で迷いの竹林から抜け出すことができる。
さて、てゐの姿が見えないことから奥にいるのか、それとも外出中なのか……まぁ、とにかく罠を外しながら奥の部屋へと進んで行くことにした。
「おっと、またトラップだわ。輝夜、頭さげなさい」
「…え?わかったわ……って、危な!?」
さっきまで輝夜の頭があった場所を巨大な杭が通り過ぎた。
「ちょ、ちょっと!これ完全に殺す気できてるわよね!?」
「それはそうでしょ。侵入者対策なんだから…あ、妹紅、その床の出っ張り踏んじゃだめよ?」
「うわっ!?危なかった……ありがとう、桜花」
「ふふふ、どういたしまして」
既に攻略した罠は50は越えている。てゐの奴、どれだけ仕掛けたら気が済むんだろう…。
「あ、あれ!?何でここまで来て平気なの!?」
長い廊下を抜けた先の縁側で、てゐは兎達と日なたぼっこをしていた。
てゐは私達を見て凄く驚いていた。赤い瞳は大きく見開かれ、焦っているのかウェーブのかかった黒髪を弄りながらひたすらに「どうしよう、どうしよう…」と呟いている。
「あんたね?廊下の罠を仕掛けたのは!」
「わひゃあ!?」
輝夜が、どすどすと音が鳴る勢いでてゐを捕まえると頬を掴んで伸ばしたり縮めたりを繰り返している。
「いひゃいいひゃい(痛い痛い)!」
「輝夜、そのくらいにしなさいよ。元々、私達の方が侵入者なんだから」
「…ちっ、わかったわよ」
「……痛ぅ~。舌打ちするなんて、見た目の割に黒いねあんた…」
「黙りなさい、あんな鬼畜な罠を仕掛ける様な兎に言われたくないわ」
「うぅ…今日は厄日だわ…」
何とか話がつきそうなので、私はそろそろ家に帰ろうかな…
「永琳、後は任せていい?」
「ええ、色々とありがとう。助かったわ」
「気にしないで、じゃあ、またね!」
私は縁側から外に出ると、霧の湖に向かって飛び立った。チルノ達、元気かなぁ…
「到着っと…」
霧の湖は相変わらず静かだった。遠くに微かに妖精達の姿が見える。
「あれ、そういえば私の家って博麗神社じゃない。何で個々に来たんだろう?」
たしかに私の最初の家は此処だが、博麗神社の神として神社に住み始めてからはほとんど来ていなかった。
湖の辺にある一本の巨大な木、その根本に作られた一軒の家。自然と足がそこへと向かい、そして目の前まで来た。
「…久しぶりだなぁ、この家も」
昔はチルノとルーミアと大ちゃんの三人と一緒に寝たり、遊んだりしていた。
ゆっくりと戸に手をかけて開く。中は小物が増えただけでほとんど変わっていない。誰かが掃除しているのか綺麗なままだった。
ゆっくりと部屋の中に入る。懐かしい部屋の空気に思わず口元が緩む。
「…ただいま」
それは誰に言った言葉なのか…此処には今、私しかいないのに。
「──おかえり、桜花」
背後から聞こえた声に驚いて振り返る。
そこにいたのは腰に大剣をさして、いつもの青に加えて左腕に黒いカバーのついた服、水色の少しウェーブのかかった髪をした少女。
「……チルノ」
氷の妖精チルノ。私の初めての友達で、親友がそこにいた。
チルノは剣を壁に立てかけると私の目の前に立った。顔は俯いていて表情はわからない。
「…あの、チルノ?どうし…」
「桜花の馬鹿ぁ!!」
「…っ!?」
私が声をかけた瞬間、チルノは顔を上げた。青い瞳からポロポロと涙が流れている。
「何で、何であたいに何も言わずに行っちゃうんだよ!あたいがどれだけ心配したか!ここ数年、桜花の様子が暗くてどうにかしてあげないと、って思った矢先に紫から旅に出たなんて聞かされて、どれだけ不安だったかわかる!?」
実は、チルノには黙って旅に出ていた。余計な心配をかけないつもりだったのに……。泣きながら私を見上げているチルノを見て、私は本当にダメな奴だなぁ…と再認識した。
「…ごめんね、チルノ。私はもう大丈夫。もう、勝手にいなくなったりしないって約束する。だから泣かないで?」
チルノをゆっくりと抱きしめて背中をさすってあげる。普段なら子供扱いするな、と突っぱねるチルノだが、今回は何も言わずに大人しく抱きしめ返してきた。
「……約束破ったら、許さないからね」
「うん、約束の大切さは誰よりもわかってるつもりだから…」
「…もう、これじゃ怒れないじゃない。あたいの心の広さに感謝しなよ?」
「ふふ、ありがとう。さすが、チルノは最強だもんね」
「当たり前じゃん、今更それを言うの?」
「それもそうね」
お互いの顔を見て笑い会う。いつの間にか、チルノの涙は止まっていた。
「桜花、そろそろ離してくれない?」
チルノが顔を赤くしながら反らす。
「ええ~、いいじゃないの。久しぶりのチルノなんだから」
「……あたいが我慢できないのよ(ボソッ)」
「え?何か言った?」
「な、何でもない!」
結局、その日はそのまま湖の家に泊まって、次の日に神社に向かうことにした。
~翌日~
「い、行ってきます」
「いってらっしゃい!」
次の日、チルノに見送りをしてもらいながら博麗神社へと飛び立った。
チルノ…凄く生き生きとしてたなぁ。まぁ、私としても嬉しいけどね。
そ、それに…昨日の夜は…その…ああもう!これは違う時に話す!言いたくない!////
一つだけ言えるのはチルノが親友以上になったということ。
「あら桜花、久しぶり。昨夜はお楽しみだったわね♪」
神社に到着して早々、紫にそう言われた私は、割と本気で紫の頭を叩いた。
気がついたらPVが10万を越えていました。皆さん、本当にありがとうございます。
次回は10万PV突破記念の話を書きますのでお楽しみに。
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