表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方~青狼伝~  作者: 白夜
原作前編
23/112

◆蓬莱人

 輝夜と妹紅は仲良しの関係が一番良いと思う。


―桜花Side―



 今日は満月。輝夜が月に連れて帰られる日である。


 私と妹紅は夕方頃から輝夜の部屋で談笑しながら過ごしていた。


「妹紅、あなた不比等様についてなくていいの? 最近あまり容態が良くないんでしょ?」


 輝夜が心配そうに妹紅の顔を覗き込む。


「大丈夫よ。父上もしっかり見届けてきなさいって言ってたから…」


 妹紅は輝夜の方に視線を向けると優しく微笑んだ。


「………?」


 そんな二人を見ながら私は妹紅に妙な違和感を感じていた。どこかいつもと違う……緊張している様な雰囲気がある。


 だが、妹紅から話さないのならば深く聞くのも無神経というものだ。もしかしたら単にこれから起こる事が心配なだけなのかもしれない。


 屋敷の周りには既に大勢の兵士達が警備にあたっている。……と言っても、その殆どが無駄に終わってしまうのだが……。


 そわそわと落ち着かない妹紅を心配しつつも私は決して気を緩めない。



──そして



「…っ!?」


 上空から迫る強い気配を感じて私は立ち上がった。


「…来たわね」


 輝夜が閉じられた障子の向こう側を睨みつけ、妹紅が私の後ろに移動して服の袖を掴んだ。


 障子の向こう側が明るくなり、さらにがやがやと騒がしくなり始めた。


「輝夜、本当に大丈夫?」


「勿論よ。永琳なら間違いなくやってくれるわ」


 私が事前に話したのは、永琳の手を借りて都から離れた草原に月人を移動させてから私が記憶を能力で弄ってから二人を逃がすという手筈だ。


 騒がしかった外が徐々に静かになっていく。


 そして、突然障子が開き外の様子が見えるようになった。


 周りの兵士は皆力無く地面に倒れている。よく見ると小さな針が刺さっているので、どうやら神経を麻痺させる薬でも投与したのだろう。


 私は狼の姿になると妹紅と一緒に奥に下がる。


 空から降りてきたのは一見ただの牛車だが隙間から機械的な部分が見えるので月の進んだ化学技術によって作られたのがわかる。


 その中から一人の女性が降りてくる。赤と暗い青を半分ずつに分けた服、長い銀髪は後ろで括られている。最後に見た一万年前よりも背は高くなって雰囲気も大人っぽくなっている。


「桜花、あの人が…」


 妹紅が見惚れながら私に尋ねた。


「そう、八意永琳……私の…はじめての“人間の友達”」


 私が妖怪になってから人間ではじめて仲良くなった友達。一万年ぶりの再会だ。ただ、今はまだ話しかけない。まずは二人を逃がす為にもおとなしくしておく。


「永琳!!」


「姫様!!」


 輝夜と永琳が抱き合って再会を喜び合っている。


「永琳、実は…」


「はい、わかっていますよ。姫様」


 輝夜の顔を見た永琳は輝夜の言いたいことを理解したのか真剣な顔で頷く。


 二人は少し話しをすると、翁に蓬莱の薬を渡してから牛車に乗り込んだ。


 私も後を追うために追跡の用意をする。


 しかし、妹紅が私を掴んだまま離さない。


「…妹紅?」


「……」


 妹紅の視線の先には翁が持っている蓬莱の薬があった。


 輝夜と永琳の乗った牛車が飛び立った後、翁がこちらに歩いてきた。


「妹紅様…私達はこのような大層な薬はいりません。これは輝夜姫と友達になっていただいた貴女様に渡すべきだと思います。どうかもらってはくださいませんか?」


 妹紅は一瞬驚いた顔をしたが頷いて蓬莱の薬を受け取ると、しっかりと胸に抱きしめた。


 そして私に跨がる………って、


「妹紅、何で私に跨がってるのかしら?」


「何を言ってるの。勿論、輝夜を追いかけるのよ。まだ言いたいことがあるし…ね」


「でも…」


「いいから!」


 仕方がないので妹紅を乗せたまま外へと飛び出した。背後から「どうか、輝夜姫をよろしくお願いします」という翁の声が聞こえた気がした。


 もしかして、あのお爺さん…輝夜の正体や私達の作戦に気づいてる?


 ……まさか、ね


 そんなことを考えながら私はだいぶ離れてしまった牛車を追いかけ始めた。








 しばらくして都の外にある草原に牛車は降り立った。中から輝夜と永琳が降りてくる。永琳は月人の一人の首にナイフを当てて人質にしていた。


 すぐに永琳達は武装した月人達に囲まれる。


「桜花…あれ、結構危なくない?」


「一応二人は死なないけど…気絶させられたら厄介ね」


 上空から地上の様子を見ていた私と妹紅は二人を助ける為に下へと降りていく。


 すると周りの武装した月人が永琳達に銃を向けはじめた。…まずい、もしかしたら人質もろとも撃つつもりかもしれない。


 私は能力を発動させる。


「輝夜達に攻撃が当たることを拒絶する!」


 人型に戻りながら両手を前に突き出して輝夜と永琳の周囲に結界を張るように膜を作り出した。


 この中にいる限り攻撃が当たることはない。別に膜のようなものを作る必要はない。だが、目に見えるような壁があれば安心感が得られていいと思ったのだ。


 私の能力のおかげで月人の銃弾は膜に触れた瞬間に軌道が逸れていった。


 妹紅をお姫様抱っこの状態で抱き寄せると、そのまま輝夜達の前に降り立った。


「永琳、久しぶり…」


「桜花!?」


 永琳は私を見て驚いた。輝夜は私達よりも結界の方に興味がいっている。


「一万年ぶり…かしら?」


「一万五百九年、五時間二十分三十秒ぶりよ」


「相変わらず細かいわね~(笑)」


 私と永琳はお互いに笑いあった。懐かしくて思わず泣きそうになったのは秘密だ。


「あの…桜花、そろそろ降ろしてくれない?////」


「え?…あ、ごめんね」


 永琳と話していたら妹紅を抱えたままだった。妹紅を降ろすと永琳に紹介する。


「永琳、この子は藤原妹紅。輝夜と私の友達よ」


「よろしくね、妹紅さん」


「あ、はい!」


 何とも平和で和むような会話をしているが、結界の外では今だに銃弾や光線が飛び交っている。


「さぁ、先ずはあいつらを始末しなきゃね。そういえば永琳、人質は?」


「…あそこよ」


 永琳が背後を指差すと、輝夜が気絶した月人を椅子にして星空を見上げていた。


 …うん、見なかったことにしよう。星空を見上げる輝夜は中々に可愛いが、座っているモノがシュール過ぎる。


「…さ、さぁて、さっさと終わらせますかね~(汗)」


 私が向き直ると、永琳も妹紅も苦笑いしていた。



 私は結界の境界線の目の前まで移動すると集中する。ここから一歩でも出れば銃弾の雨が待っている。


 息を吸い込んで止めると同時に私は走り出した。


 銃弾はともかく光線は厄介だ。いくら私でも光の速さには反応できない。だから、それを使う人間に分からない程のスピードで私は走り出した。


 目の前で銃の標準を合わせようとしている月人の頭を掴んでそのまま地面に打ち付ける。ヘルメットの様な物を被っていたので、たぶん死なないだろう。


 周りの月人達は突然仲間がやられたので驚いて固まってしまっている。


 その隙に月人の丁度中心辺りに潜り込む。おそらく、これで同士討ちを恐れて銃は使えない。


 離れようとする月人達には結界の中から永琳が弓で矢の雨を降らせている。


 月人達は銃を使うのを諦めたのか、剣を手に走り込んできた。


 一人目は突きを放ってきたので、体を半身にして受け流しながら膝蹴りを腹に放ち撃沈。


 そのまま振り向き様に回し蹴りを放って背後にいた月人を吹き飛ばす。二人目。


 次に、真正面から切り掛かってきた月人に脚払いをかけてバランスを崩してから腹を殴って気絶させた。三人目。


 それからはもう数えていない。とにかく向かってきた月人は片っ端から気絶させた。


 その後、幻術を使って輝夜と永琳は死んだと思い込ませてからその場を離れた。







「ふう、終わったわね」


 先程の草原からだいぶ離れた場所にある森の中に私達はいた。


「改めて…久しぶりだね、永琳。すっかり大人になっちゃって…」


「久しぶりね、桜花。貴女こそ尻尾が増えてるじゃないの。また寝る時に抱きまくらにさせてちょうだいよ」


「あはは…いいわよ?ただ、しばらくは我慢して頂戴ね?」


「わかってるわ。姫様のこともあるもの。何処かに身を隠すわ」


「なら幻想郷という所に行きましょう。そこなら丁度良い場所があるわ」


 私達が今後の予定を話していると、妹紅が近づいて来た。


「あの…私もついて行っていいですか?」


「…え?」


「な、何言ってるのよ妹紅!?あなた、不比等様はどうするのよ!?」


「…大丈夫です。ちゃんと父上との別れは済ませてきました。「お前のやりたい事をやりなさい」と言ってくれた父上の為にも…私は輝夜と一緒に行きたい」


 私と永琳は顔を見合わせて頷いた。妹紅の決意は固い。そしてそれだけ輝夜のことを思っている。後は輝夜しだいだ


「で、でも…やっぱりダメよ。私と一緒にいても……妹紅は普通の人間。私達みたいな蓬莱人とは生きる次元が違う…」


「じゃあ、普通じゃなければいいのね?」


「…え?それはどういう……」


 輝夜が言葉を言い終わる前に、妹紅は懐から蓬莱の薬を取り出すと、蓋を開けて一気に中身を飲み干した。


 輝夜は目の前の光景に唖然として固まっている。


「…うわ、苦いわねこれ」


「はっ!?ち、ちょっと妹紅!?な、何してるのよ!!」


 妹紅の呟きで我に返った輝夜が妹紅に詰め寄る。


「何って……ぐっ!?」


「妹紅!!」


 突然妹紅が胸を押さえて何かに耐える様に苦しみだした。輝夜は妹紅を支えて心配そうにしている。


 すると、妹紅の黒髪が段々と白くなりはじめた。肩までだった髪も腰辺りまで伸びている。


「っ…はぁ…はぁ」


「妹紅、大丈夫?」


 輝夜の言葉に頷いて答えると、しっかりと立ち上がって閉じていた瞳を開く。瞳は赤くなっていた。


「ほら…これで、私も輝夜と同じ蓬莱人だよ。これなら文句ないでしょ?」


「…ばか……何で…私の……為に…そこまで……」


 妹紅は泣きはじめた輝夜を抱きしめると頭を撫で始めた。


「私達、友達じゃないの…。それに、約束したでしょ?私が輝夜の分まで世界を見てきてあげるって」


「…う…妹紅ぉ…」


「ほらほら、泣かないでよ。お姫様なんでしょ?」


「…うん」


 二人が抱き合っている間、私と永琳は少し離れた場所でその様子を見ていた。


「…姫様にも良い友達ができてよかったわ」


「そうね…」


 満月を背に笑い合う二人の姿はとても神秘的で…そして、とても美しかった。






 輝夜達の話は今回で終わりです。次回からはいくつかちょっとした小話を…


 あと、桜花達のイラストをピクシブにて何枚か描いています。


 タグ検索で「二次小説」で検索すればすぐに見つかると思います。よかったら覗いてみてください。ユーザー名は同じく「白夜」です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ