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東方~青狼伝~  作者: 白夜
原作前編
20/112

◆妹紅をつれて…

 長く間を開けてすいませんでした!


―桜花Side―


 私がいるのは藤原家の前。妹紅の家でもある。


 私がここに来たのは妹紅の様子を見る為だ。妹紅が輝夜を憎む理由がなんなのか、それが知りたい。


 今のところわかっていることは妹紅の父である藤原不比等が最近蓬莱の玉の枝の贋作を作るために至る所を奔走し、ほとんど妹紅に構ってやっていないということだ。


 妹紅はそんな父に文句の一つも言わず、ただ毎日庭で一人寂しく鞠を弄っている。たまに輝夜の屋敷の方角を見つめては険しい顔をしている時もあるが、すぐに視線をそらす。


 おそらく妹紅は父が輝夜にばかり構って自分をほったらかしにしているのが気に入らないのだ。妹紅だってまだ子供だ、親が恋しくもあるだろう。


 しかし、輝夜はそろそろ月に帰ってしまうし、不比等は竹取物語によれば集まった者達の前で贋作がばれて恥をかくことになっている。


 その後の不比等の様子はわからないが、おそらく妹紅はそのことが原因で輝夜を恨んでいたに違いない。


 結婚したいが為に贋作まで作る不比等の執念には感服するが嫌がる女性に無理強いするのもあまり良いものではない。さらに自分の娘をほったらかすなど言語道断だ。


「…はぁ」


 不比等が毎日のように家から出ていくのを屋根の上から見ながら私は溜息をついていた。


「まったく…どうして娘を放っておけるんだか……」


 私は呆れながら屋根を伝い庭の方へと歩いて行った。


 相変わらず妹紅は鞠を手で弄りながら浮かない顔で縁側に座っていた。その姿はさしずめ捨てられた子猫のように見える。


 それを見ながら私はある決心をした。


「ちょっと荒療治になるけど…これしかないか」


 私はある作戦を胸に輝夜のもとに向かった。










「はぁ…なるほどね、それで私に協力してほしいってわけね」


「そういうこと、お願いできるかしら、姫様?」


 輝夜の屋敷に着いた私は早速輝夜に作戦を伝えて協力を頼んでいた。


「ふ~ん…まぁ、いいわよ。私にとっても悪い話じゃないしね」


 輝夜はニヤリと笑い了承してくれた。


「ありがとう!じゃあ……」


「待った!条件があるわ」


「…条件?」


 喜ぶ私に輝夜は待ったをかけて条件があると言った。先程と違って真剣な顔をしている。


「私は月に帰りたくないの。だから私が月に帰らないように手伝ってくれないかしら?」


「それはいいけど……具体的には何をすればいいの?」


「まぁ、それは今度話すわ。まずはその妹紅って子のことが先でしょ?」


 むぅ、何だか勝手に話ができて釈然としないが……とりあえず輝夜の協力は仰げたから良しとしよう。


 私は輝夜の屋敷から再び妹紅の屋敷へと戻った。


 最早定位置と言ってもいい堀の上から妹紅の姿を探す。すると、目の前の部屋から妹紅と不比等の声が聞こえた。


「父上は私のことなど、どうでもいいのでしょう!?」


「違うのだ、妹紅!私は…」


 うん?どうやら喧嘩をしているようだ。私は気配を消しながら部屋の前まで忍び寄る。


「いつもいつも…かぐや姫の為に色々と忙しそうで……どうせ私のことは二の次なのでしょう!?」


「私はお前のために…」


「父上なんて大嫌いです!もう、しりません!!」


 私が妹紅の気配に慌てて襖から離れると、中から妹紅が出てきて泣きながら走り去って行った。


「妹紅!!」


 そして妹紅を追いかけるように不比等も現れる。


 私はとりあえず不比等を追い越して妹紅を追いかける。途中で狼の姿に変わりながら先程の会話を思い出す。


 おそらく輝夜ばかりを気にする不比等についに妹紅が我慢できなくなったのだろう。その結果が先程の口喧嘩というわけだ。まぁ、娘をほうっておいた不比等が悪いのだが…


 しかし、これは逆にチャンスではないか?妹紅や不比等の気持ちを聞く良い機会だ。当初の作戦を実行しよう。


 私は屋敷から飛び出した妹紅を追いかけた。外はもう夕方で、あと数分すれば辺りは暗闇に包まれる。


 夜は妖怪の時間、人々は夜になると妖怪を畏れて家から出ない。つまり、妹紅は現在大変危険な状態である。


 しばらく走った後、疲れて立ち止まった妹紅に私は歩み寄る。


「はぁ…はぁ……え?」


 私の存在に気がついたのか俯いていた妹紅が顔を上げる。


「あなた、この前の…」


 私は妹紅の襟元を軽く噛むと、ひょいと背中に放り投げる。彼女は「ひゃあ!?」と小さく叫んだが今は無視。


 そして、私が妹紅を背中に乗せたのと、不比等が角を曲がって来たのは同時だった。


「も、妹紅!?貴様、妹紅をどうするつもりだ!!」


 私は不比等を無視して近くの建物の屋根に跳び上がると不比等にだけ聞こえるように念話をした。


『かぐや姫の屋敷で待ちます』


「な、何?どういうつもりだ!!」


 私は返事をせずに、訳がわからず固まっている妹紅を乗せたまま、輝夜の屋敷に向かって跳躍した。


 生まれてはじめての人攫いである。









―妹紅Side―


──寂しかった。



 母は私を産んですぐ亡くなった。内気な性格のせいで友達もおらず、屋敷の中でただ空を眺めて過ごす毎日……


 塀の向こうから時折聞こえる楽しそうな子供の声。行ってみたい、でも踏み出せない。


 そんな私に父は優しかった。毎日私の話を聞いてくれた。遊び相手にもなってくれた。泣いたら優しく抱きしめてくれた。

 私が頼れる存在であり、私の心の支え……。父上は私になくてはならない存在だった。


 ある時、私はとある名前を聞いた。



──かぐや姫



 彼女はとても美しく、求婚を求める声は止むことがないらしい。


 最初は興味がなさそうだった父上だったけど、ある日かぐや姫に結婚を申し込むと言い出した。


 私は多少驚きはしたが父上がそう言うなら…と、応援することにした。




 それから数週間、父上は私に殆ど構ってくれない。毎日かぐや姫から出された難題に頭を悩ませていた。


 最初は素直に応援していたのだが、次第に私に構わなくなった父に不安を覚えるようになった。

 もしかしたら、父上はもう私ではなく、かぐや姫しか見ていないのではないだろうか…。


 父上はもう私に振り向いてくれないのだろうか…



──憎い



 私から父上を奪ったかぐや姫が…


 私の心の支えを奪ったあいつ(かぐや)が…



──憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い…!!




 そして今日、私は父上と喧嘩をした。


 かぐやに会いに行き始めた頃から父上は体に違和感を感じているらしい。父上はただの風邪だと言ってごまかしているが…。ただの風邪が何週間も続くわけがない。


 私は父上に体を休めることを進めた。しかし、父上は「かぐや姫が待っているから」と聞き入れてくれなかった。


 そんなにあいつが大切なの?


 私は?


 こんなに心配しているのに…


 何で私の言うことを聞いてくれないの?



──憎い…あいつが憎い



 父上が無理をしているのはすぐにわかった。もしかしたら体を壊してしまうかもしれない。


 私は元気な父上がいてくれればいい。ただそれだけなのに……


 だから私はつい父上に怒鳴ってしまった。


「私のことはどうせ二の次なのでしょう!?」


 私を見て驚く父上。そして怒鳴ったことを後悔しながら私はその場から逃げ出していた。


 屋敷を飛び出してただ走り続けた。


 ああ、私はなんて醜いのだろう。


 滲む視界の中をひたすら走り、ついに走れなくなって膝に手を付き俯いた。


 あいつさえ…あいつさえいなければ父上は昔のように私に笑いかけてくれていたのに!


 そう思って顔を上げた時、私は目を疑った。



 そこにはいつか見た青い狼がいたのだから。



 私が驚きのあまり固まっていると、彼女は私に歩み寄り、襟元をくわえると背中に放り投げられた。


「ひゃあ!?」


 思わず変な声を出した私に少し微笑むような視線を向けてきた。


「も、妹紅!?貴様、妹紅をどうするつもりだ!!」


 突然の声に前を向くと、驚いた顔をした父上がいた。狼は私を背中に乗せたまま近くの家の屋根に飛び乗ると、父上を少し睨んだ。


「な、何?どういうつもりだ!!」


 最近悪かった顔色をさらに悪くしながら突然父上が叫んだ。彼女は父上の言葉を無視すると、屋根を伝って走り始めた。


 状況が上手く飲み込めなかった私はこの時、やっと理解した。



──ああ、私攫われたんだ…



 何故かすんなりと状況を受け入れることができた自分に驚きつつも、私は抵抗しようとは思わなかった。


 それからしばらく走った後、私達はとある屋敷の庭に着いた。


「ここは…」


 忘れもしない…。


 あの(かぐや)の屋敷だった。


「いらっしゃい」

 ふと、声がかけられた方を見れば縁側に座る少女が一人。


「……っ、かぐや…姫」


 私は今、きっと物凄く嫌そうな顔をしているんだろうなと、どこか客観的に思う。


「ご苦労様、桜花」


 彼女の言葉に私の隣にいた狼が一鳴きして答える。ああ、彼女は桜花というのか…



「さて、妹紅とやら……少しお話をしましょう?」


 かぐやは自分の隣を軽く叩く。どうやら座れと言っているようだ。


 私はかぐやを一度睨んだ後、警戒心を向きだしにしたまま隣に座った。


 一体目的はなんなのだろう……


 そうして、私とかぐやの話し合いが幕を開けた。




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