◆妹紅と輝夜
タイトルからわかる通りあの二人が登場です。
私がやってきたのはかなり大きな都。日本の歴史に疎かった私はこれが平城京なのか平安京なのかわからないが……たぶん奈良時代初期あたり……つまり藤原京か平城京ではないかと思う。
まぁ、そんなわけでとにかく日本を見て回ろうと旅に出て一発目についたのがこの都だったのだ。
うん、人間がいっぱいいる場所にきたのは久しぶりだ。暫くこの都の中で人間に紛れてみようと思う。
「では早速……これでよしっと」
耳と尻尾を隠して博麗神社から持ってきた霊力が篭ったお札をポケットの中に入れておく。これで私からは霊力以外は感じないはず。以前諏訪子に気配がなさすぎてばれた経験を生かして完全に気配が消えないようにする。
都ができているくらいだ、妖怪退治を仕事にしている輩も多いだろうから用心しなければ…
私は都の中に入ると何処に行くわけでもなく適当にぶらぶらと歩き回った。
あ、あの店のお団子美味しそう…
歩き回ること一時間……私はとある屋敷の前にたどり着いた。普段なら「へぇ~、大きいなぁ…」くらいの感想しか抱かないが、屋敷の入口に何故か大勢の人だかりができていて私は気になって近くの人に何かあったのか、と尋ねた。
「ああ、何でも絶世の美女があの屋敷には住んでいてな。今日は五人の貴族の方々が求婚をしたんだとさ」
五人の貴族に絶世の美女…はて、どこかで聞いたことがあるような。
「すいません、その美女の名前はなんというのですか?」
「おや、知らなかったのかい?かぐや姫だよ」
かぐや姫…竹取物語に出てくる姫である。と、いうことは本名は蓬莱山輝夜…ここにきて新たな原作キャラの登場である。
私はその人にお礼を言ってからその場を離れると姿を消してこっそりと塀を飛び越えて中へと侵入した。
屋敷の戸は全て閉まっているため中の様子はわからない。開けて入ろうにも誰もいないのに襖があいたら不自然だろうし……夜に来たほうがいいかなぁ。
私が踵を返して帰ろうとした時、庭の隅に一人の少女がいることに気がついた。
背中まであるサラリとした黒髪。貴族なのだろう、質の良い着物を着ている。十代半ば程の年齢だろう、綺麗というよりは可愛らしい姿をしていた。庭の隅にある池の中を覗きながら退屈そうにしている。
おそらく今来ている貴族の娘なのだろう。私は少女の近くまで歩いて行った。
少女は池の中で泳ぐ鯉を眺めながら溜息をついた。よほど暇なのだろうか?
私は屋敷の裏に回ると狼の姿になった。遊び相手になろうと思ったのだが……いかんせん、体の大きさが人間一人乗せれる程大きい。
う~ん、もう少し小さくならないだろうか……このままでは怖がられてしまう。
試行錯誤してみたが結局姿は変わらず、駄目元で少女の元へと歩いて行った。
少女はまだ池の中を覗きながらぼーっとしている。私が少女に近づくと少女は気配を感じたのかこちらに顔を向けた。
「…えっ!?」
少女は目を見開いて驚いていた。それはそうだろう。屋敷の庭に突然青い毛並みの狼が現れたら誰でも驚く。
「あ、あわわわ…」
少女は震えながらゆっくりと後ずさる。襲われると思ったのだろう。叫ばないのは恐怖で頭がいっぱいだからなのか……
私はそんな少女に近づく。少女はビクリと体を震わせて固まってしまった。
う~ん…やっぱり駄目かなぁ、この姿……
私は少女の足元までくると体を擦りつけた。
「ひゃあ!?」
少女は小さく悲鳴をあげると腰をぬかしたのかその場に尻餅をついた。
怖がらせないように「ク~ン」と甘えるように鳴いてみる。少女はまだ震えているが恐る恐る手を出してきて私の頭を撫でた。
私は目を細めて大人しく撫でられていた。少女はもう震えも止まり僅かだが微笑んでいるように見えた。
「あなた、何処から入りこんだの?」
少女が私の頭を撫でながらそう言ってきたので私は首を傾げてみせる。
「ふふふ…何でかな、不思議と怖くなくなっちゃったわ」
それから日が暮れるまで私はその少女に撫でられていた。少女はずっと「もふもふする~」と言っていたけど…
その後、襖が開いて貴族の人間達が中から出てきた。中心にいる五人は何やら考え込んでいるようだったからたぶん五つの難題を出された人達だろう。その中の一人がこちらを向いた。
「妹紅、帰るぞ!」
「あ、父上達がきたから帰らないと…」
…はい?妹紅?まさかこの少女、あの妹紅ですか!?髪も黒いし原作より短いからわからなかった!
私は妹紅がむこうを向いている隙に姿を消した。
「あれ!?」
こちらに振り返った妹紅は突然姿を消した私を探してキョロキョロと辺りを見回した。
「妹紅、どうしたのだ?」
いつまでもやってこない妹紅を心配したのか父親らしき人物がやってきた。たぶん彼が藤原不比等なのだろう。
「父上…今ここに青い毛並みの狼がいたのです」
「青い毛並みの狼だと?それは本当か?何故すぐに人を呼ばないのだ!襲われたら危ないではないか!」
心配そうに妹紅を見る不比等は妹紅の手を握ると歩き出した。
私は二人を見送ると屋敷の屋根に飛び乗ると暗くなりつつある空を見上げた。
「いやはや、何が起きるかわからないものね……」
私の呟きは誰にも聞かれることはなかった。
―妹紅Side―
自分の家に帰ってからというもの、私はあの狼のことばかりを考えていた。
最初はただ襲われると思って怖かった。人間を乗せることができるくらい大きかったからだ。しかし、その狼は私に甘えるように擦り寄ってきた。まるで必死に「私は何もしない」と訴えかけるように。
だから、私は少し戸惑ったけど狼の頭を撫でてみた。すると気持ち良さそうに目を細めてさらに甘えてきた。ふわふわとした柔らかい毛並みが気持ちよくて思わず「もふもふする~」と言ってしまったけど……
私の隣で寝転んだ時に確認したが雌だった。彼女(?)は私の話を聞いては頷いたり首を傾げたりしていた。もしかしたら人間の言葉がわかっていたのかもしれない。
夕方までずっと私のそばにいた彼女は父上が私を呼んで返事をするために振り向いた間にいなくなっていた。
私が振り向いた時間はほんの僅かな時間だった。その間に走り去るのなら走る姿が見えるはずなのに……あの狼は一体何だったのか。私は縁側に立ち、星が輝く夜空を見上げた。
月は……綺麗な満月だった。
―桜花Side―
満月を眺めながら私は屋敷の屋根に寝そべっていた。
「う~ん……原作では妹紅と輝夜は仲が悪いんだけど…できれば仲良くしてほしいなぁ」
私はそんなことを思いながら体を起こした。
この世界、実はいろいろと原作とは矛盾している部分が結構ある。
チルノがまともだったり、幽香がいきなりマスパを撃ってきたり。永琳だってたしか本当の年齢は億を越えていたはずなのにこちらではまだ私と同じ万の桁である。月では時間の流れが違うのかもしれないから一途にどうかとは言えないからわからないけどね……
そんなことを思っていると下の方から人の気配がした。こっそり覗いてみると、長い黒髪の美少女が縁側に座り月を見上げていた。
間違いない、輝夜である。実際に見てみると本当に美人だとわかる。
睨むように月を見ていなければ、だが……
「まったく……何で私があんなオヤジ達と結婚しなきゃいけないのよ…」
うわぁ…イメージが凄い勢いで崩れていく。これをあの五人や帝が聞いたら揃って唖然とするに違いない。仕方がない、止めるとしよう。
「月の姫よ……愚痴はそのあたりにしておきなさい」
「…だ、誰!?」
私は屋根から飛び降りて輝夜の目の前に着地した。ちなみに尻尾や耳は隠していない。
「はじめまして、月の姫様。私は鈴音桜花、妖怪よ」
自己紹介した私は輝夜の顔を見ながら微笑む。
「妖怪が私に何の用かしら?」
輝夜は私を睨みながら何時でも動けるように身構えている。どうでもいいけどその着物じゃ動きにくいだろうに……
「まあまあ、そう睨まないでよ。私、永琳の友達なのよ」
「…永琳の?」
輝夜は知り合いの名前が出てきたのが意外だったのか驚いた顔をした。
「彼女とは今からだいぶ昔に知り合ってね……」
それから永琳に出会った時の事を話すと輝夜はやっと警戒を解いてくれた。
「へぇ~、永琳が言っていた凄い妖怪って貴女だったのね……もっと厳つい姿を想像してたわ」
「……永琳、どんなふうに話したのよ」
私は輝夜の隣に座ると同じように月を見上げた。綺麗な満月だ。…でも満月を見ていると何だか胸の奥がざわざわするのよね……
「貴女、妖怪なんでしょ?だったら満月を見続けるのはやめなさい。自分を抑えられなくなるわよ?」
「おっと…」
私は慌てて視線を月からそらした。
「う~ん、せっかくの満月なのに…」
「月は心を惑わす……時には狂気に支配される場合もあるわ。気をつけなさい」
「そーなのかー」
「……真面目に聞いてるの?」
「勿論よ」
「…はぁ」
そんな感じで一時間程話をしてから私は帰ることにした。
「じゃあ、私はそろそろ帰るわ」
「あら、もう帰るの?もう少しいればいいのに…」
「子供は寝る時間よ」
「…誰が子供よ」
「私からしたら子供よ。私、永琳より年上なんだから」
私は輝夜とまた会う約束をしてから夜の都へと向かった。
……あ、そういえば何処で寝るか考えてなかった
永夜抄で今だに妹紅が倒せません…
いいところまではいくんですけどね(泣)