◆紫、桜花を想う…
今回は紫のちょっとした話。
―紫Side―
私は八雲紫、境界を操る力を持ち、幻想郷を管理している。大妖怪である私に刃向かう妖怪は殆どおらず、私の理想である『人間と妖怪が共に暮らす理想郷』を作るために何百…いや、何千年という時を費やしていた。
そんな私に協力してくれる妖獣がいた。名前は鈴音桜花……太古の昔に生まれ私より長生きをしている大妖怪だ。
真っ青な髪、空の様に透き通った色をした瞳、触り心地の良さそうな尻尾……彼女をはじめて見た瞬間から私は彼女に勝てない事を悟って恐怖した。しかし、同時に何か惹かれるものもあった。
彼女は私と同じ考えを持っていた。人間と妖怪が共存できる様にしたい、と彼女も思っていたという。実際に彼女は自分が妖怪であるにも関わらず人間の住む里に出入りしているし、昔は里の中に住んでいた事もあったらしい。
今でこそ何とか形になってきた幻想郷だが正直に言えば私一人で作れたかどうかはわからない。桜花と霊樺が協力してくれなかったら地盤すら固められなかったかもしれない。
三人で意見を出し合って、協力したからこそ今の幻想郷があるんだと思う。
まぁ、度々問題は発生しているが……それらの問題はこれから解決していけばいい。
「紫様、お茶が入りましたよ」
「あら、ありがとう」
私は現在、博麗神社の縁側でお茶を飲んでいる。桜花がここの神となった日から私もよく遊びにきているのだ。
私は最近、今代の博麗の巫女である博麗霊那と共にいる事が多い。というのも桜花が現在、旅に出ているから留守をまかされたのである。出発したのは昨日……お土産を持って来るから、と笑いながら旅だったのを覚えている。
彼女がいないのは寂しいが私の力を使えばすぐに会いに行けるのだからあまり心配等はしていないが……
桜花は変わった妖怪である。妙に人間らしいというか妖怪らしくないというか……。
妖怪は仲間の死に対してあまり感情を抱かない。無論怒ったり悲しんだりすることはあるが長くは引きずらないのである。ほんの数日…長くても数週間で普通の状態に戻る。
しかし、桜花は違う。初代博麗の巫女である霊樺が死んだ時は私に抱き着きながら大声で泣いた。それから何代も巫女が代替わりする度に彼女は泣き、徐々に笑顔になることがなくなっていった。
私はこのままではいつか桜花の心が壊れてしまうのではないかと心配だった。そして、何とかして元気になってほしかった。彼女は私の最初の友達なのだから……
結局いい考えが浮かばなかった私は思った事をそのまま彼女に話した。お礼を言われた時とても恥ずかしかったけど、彼女は少し元気が出たようだった。
その次の日、彼女は私に幻想郷の管理を全て任せると旅に出た。気分転換にもなるだろうし、彼女がそれで何かを得る事ができれば私としても満足なのだが……
「紫様、どうしました?」
私が我に返って隣を見ると霊那が心配そうに私を見ていた。ずっと俯いていたから心配したようだ。
「何でもないわ。ちょっと…考え事をね……」
私は霊那から視線を外すとお茶を啜った。
お茶はもうすっかり冷えてしまっていた。
それから数日経ったある日。幻想郷に異常がないかを確認しながら私は溜息をついた。
元々この仕事は桜花がやっていた。彼女がいないから代わりに私がやっているのだが……
「正直…面倒だわ」
ちなみに今の季節は冬……私にとっては拷問のような環境である。この寒さのせいで眠気が半端じゃないのだ。
「寒い~、帰りたい~」
等と呟いてみるが勿論誰も聞いていない。……逆に虚しくなってきてしまった。
ああ……桜花の尻尾で温まりたい。私もそろそろ本格的に頭のいい式になりそうな妖怪を探してみようかしら?
そんな事を思いながら私は能力を使いながら見回りを再開した。
そもそも、こうして毎日見回りをするのはものすごく大変である。いっそのこと人間が妖怪に勝てなくとも身を守れるくらいまで成長してくれれば楽なのだが……それは逆に妖怪を刺激して危ないと桜花が言っていたっけ。
私が溜息をついた時、丁度目の前に花畑が見えた。桜花がいつも遊んでいる『四季の花畑』である。ちなみに桜花だけは『リンの花畑』と呼んでいる。
私は花畑に降り立つと祠へと向かった。祠は花畑の中心にあるリンの墓石の裏に作られている。ここが桜花の神としての始まりの場所……
「あれ、紫さん?」
背後から声がしたので振り返ると小さい少女が立っていた。
博麗リン……博麗神社に桜花と共に祭られている神の一柱である。
「久しぶりね、元気にしていたかしら?」
私が微笑んで返事を返すと彼女も笑って頷いた。
「ああ…そうだ、紫さんにお礼を言わなくちゃ!」
「……お礼?」
私は彼女に何かしてあげただろうか?記憶を探ってみるが思い当たるような事がない。
「お姉ちゃんを励ましてくれたの紫さんでしょ?だからありがとう!」
私は一瞬何の事か解らずに固まってしまったが、すぐに理解すると恥ずかしくなり視線をそらした。
「べ、別にお礼を言われるようなことはしていませんわ。ただ…桜花には笑った顔が似合うというか……その////」
あぁ~もう!!なんてこと言ったのよ私は!?こんなの私らしくないじゃないの!!
「ふふ、紫さん顔赤いよ?」
「…なっ!?」
私は急いで扇で顔を隠すと振り返って顔を見られないようにした。
「紫さんって照れ屋さんなんだね♪」
私はその言葉で限界だった。すぐにスキマを開くと逃げるように中に入った。
何故かスキマの向こうからリンが小さく笑ったような気がした。
私は暑くなった顔に手を当てて暫く悶えていたが、何とか立ち直ると自分の家の前へと降り立った。
「はぁ…疲れてるのかしら。私としたことが取り乱すなんて……」
仕方がない……今日は早めに寝てしまおう。
私は桜花が早く帰ってこないかなと思いながら布団に潜り込むのだった。
次回、原作キャラが二人登場します。