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東方~青狼伝~  作者: 白夜
原作前編
14/112

◆諏訪大戦

 諏訪大戦です。


 ゆっくり読んでいってね!!


 私が諏訪子のもとに来てから三年が過ぎた頃、ついに八坂神奈子が攻め込んできた。紀元前三百年頃…諏訪大戦の勃発である。


 私と諏訪子は湖の上で神奈子と向き合っていた。神奈子は巨大なしめ繩を背負ったいつもの格好で腕を組み、いかにも神様らしい堂々とした雰囲気を醸し出している。


「さぁ、おとなしくこの地を明け渡しな、洩矢諏訪子!」


「寝言は寝ていいなよ、八坂神奈子!」


 諏訪子は私にちらりと視線を向けてきた。


 私は諏訪子に一対一で戦うから、かわりに社を守っておくように言われていた。


「桜花、任せたよ」


「わかってる。諏訪子も頑張って」


 諏訪子は私に笑いかけると神奈子と一緒にさらに上空へと上がっていった。


 私は足元で既に始まっている諏訪子の軍勢である土地神達へと気を配りつつ諏訪大社の屋根の上に移動して能力を発動させる。


「『この敷地内に攻撃がくる』ことを拒絶する!」


 私が両手を広げながら言葉を紡いだ瞬間、社の周りを囲むように薄い青の結界ができた。これでどんな攻撃がきても社に傷がつくことはない。


 私は屋根の上に腰を下ろすと上空で戦っている二神を見上げた。


―SideOut―





 諏訪湖の上空で洩矢諏訪子と八坂神奈子は戦っていた。


 諏訪子は鉄の輪を両手に持ち、次々と神奈子へと投擲するが、それを神奈子は何処からか取り出した御柱を振り回して弾くと、諏訪子に向けて全力で投げつけた。


「なかなかやるね、八坂神奈子!」


「まだまだ、こんなものじゃないよ!」


 諏訪子が御柱を回避したところに神奈子は御柱を何本も投げつける。それを諏訪子は絶妙な体の捻りで回避すると鉄の輪を持って一気に接近するとそのまま振りかぶり、切り付ける。


「あまい!」


 神奈子は御柱で防ぐと左手を諏訪子の持つ鉄の輪に向ける。すると、みるみる鉄の輪は錆び付き、崩れ落ちてしまった。


「…チッ!」


 諏訪子はすぐにその場を離れて新しい鉄の輪を作りだした。


 力は互角、しかし若干諏訪子が不利なようである。






―桜花Side―


 神奈子が御柱を投げるたびに湖が水しぶきを上げている。湖には既に何十という御柱が立ち並び、異様な光景だと感じられる。


 想像してみてください…美しい湖に巨大な柱が何十と並び立つ光景を。う~ん、不気味だ…


 力は互角みたいだから長期戦になるのは予想できるのだが、いかんせん諏訪子には決定的にダメージを与えるすべがない。頼りにしていた鉄の輪も神奈子の力の前では殆ど無力である。


 それに対して神奈子は御柱を投げつけたり振り回したりと一方的である。しかし…まぁ、本人に言ったら怒るだろうが諏訪子は幼女体型…つまり小柄で動きが速いため神奈子はなかなか攻撃が当てられないでいる。


 互いに相性が悪いため苛々しているのがわかる。しかし冷静さを失えばあっというまに隙ができてノックアウトである。


 ちなみに、攻撃が当てられない場合はどうやって相手のミスを誘えばいいのか、それは――


「はんっ!口ほどにもないねぇ…小さいからって逃げてるだけかい!?」


「そっちこそ、やたらとデカイ柱ばかり振り回してるけど全然当てられないじゃないか!」


 ご覧の通り、言葉による挑発である。相手を刺激してミスを誘う。これも戦いにおける戦略の一つなのだが…


「ふ…ふふ…言ってくれるじゃないか、この幼女が!」


「ふふ…その幼女より年下のくせに随分と老けて見えるけどねぇ?」


 挑発の内容が段々と幼稚になっている気がする…


 こうなると大戦と言うより姉妹喧嘩のように見えてくる。『喧嘩するほど仲がいい』とはよく言ったもので、将来この二人が早苗を含めて一つ屋根の下で一緒に生活するようになるなんて誰も考えもしないだろう。


「幼女のくせに生意気だねぇ!!」


「うるさい!この老け顔がぁ!!」


 ああ…こんな幼稚な喧嘩が諏訪大戦と呼ばれるようになるとは……未来の歴史学者が聞いたら揃って卒倒するに違いない。それ以前に神様がこんな感じでは研究を投げ出してしまうのが先かもしれないが……


「あんたより下にいる青い奴の方が神様に見えるよ、この幼女!!」


「当たり前だ!桜花は私より年上だし、私より全然強い!それより、あんたは桜花より老けて見えるけど!?」


「ちょっ…私を話題にしないでよ!しかも二人ともちゃっかり見た目のことは言い続けてるし!!」


 外野である私にまで影響してくるなんて…駄目だこいつら、早く何とかしないと!!


 私が痛くなってきたこめかみに指をあてて考えていると、神奈子が投げていた御柱が一つ、私の方に飛んできた。


 その時、いい考えが浮かんだ私は咄嗟に結界から出ると御柱をすれ違い様に爪で削り取った。


 言いたいほうだいの二人へのささやかな悪戯…もとい、仕返しである。


「…できた、じゃじゃ~ん!『ゆっくり神奈子』と『ゆっくり諏訪子』~!!」


 目の前にあるのは御柱を削ってできた『ゆっくり神奈子』と『ゆっくり諏訪子』である。うん、我ながらいい出来栄えである。


 後は能力でこれが“喋らない”ことを拒絶してやれば…


「がお~」


「ゆっくりしていってね!」


 はい、出来上がり。この棒読みといい、なんだかちょっとむかつく顔といい、正に“ゆっくり”である。私がニヤニヤと二人の方を向いた瞬間――


「ゆっくりして…『ドゴン!!』」


「ゆっくり…『ズバッ!!」


 二つのゆっくりは降り注ぐ御柱と鉄の輪によって粉々になってしまった!


「ああ!ゆっくり神奈子ぉ~!ゆっくり諏訪子ぉ~!」


「なんだい、今のむかつく生首は!?」


「そうだよ桜花!神奈子のだけならともかく、私のまで作るなんてどういうこと!?」


「はぁ!?私のならともかくってどういうことだい!?」


「そのままの意味だよ!」


「可愛かったのに…」


 上空で顔を真っ赤にしながら睨み合う二人の下で私は渾身の力作を破壊されたショックで両手を地面に付けてうなだれていた。


「なっ…桜花、私の方が可愛かったでしょ!?」


「何を言ってるんだ、私のだって可愛かっただろう!?」


「あんたが可愛いとか言ったらちょっと危ないよ!?」


「なっ、なんだって!?」


「ちょっと二人とも、なんかおかしい方向に話が進んじゃってるよ!?私が言うのもなんだけど、勝負はいいの!?」


「「そんな事は後でいい!!」」


「いいの!?」


 もはやグダグダである。


 下で戦っていた軍勢達も最早戦闘意欲を失い、若干呆れた様に今だに口論している二人の神を見上げている。








 結局、その後はちゃんとした勝負ができるはずもなく、諏訪子は神奈子の振り回した御柱の直撃を受けてノックアウト……


 歴史通り諏訪大戦は八坂神奈子の勝利で終わったわけである。内容は殆どがグダグダだったのだが……


 その後は原作通りに表向きは神奈子だが本当の祭神は諏訪子であるという形になり、和解した私達は夜中に三人で酒をのんでいる。


「あ~う~、桜花ぁ~!わらし負けちゃったよ~!」


 酔った勢いで泣き出した諏訪子を宥めながら私も酒を飲む。


「らんだい、二人ばっかりイチャイチャとぉ~。あらしも混ぜろ~!」


 こちらは神奈子だ。さっきから執拗に絡んでくる…絡み酒である。


「いやぁ~、桜花はわらしのものらの~!」


「いいじゃらいかぁ~、ちょっとくらい~」


 私は二人の神に挟まれて両腕を引っ張られている状態になっている。…って痛い痛い!尻尾を引っ張らないで!毛が抜ける~!!


「わらしの~!」


「いいや、あたしんだよ~!」


「…もう、好きにして」


 今度からこの二人にはいろんな意味で注意しようと心に決めると、私は考える事を放棄して二人にされるがままになっていた。


「わらしの方が桜花の事しってるもん!桜花は耳が弱いんらよねぇ~?」


 そう言うと諏訪子は私の頭にある耳を両方とも引っ張ってきた。


「ひゃん!?な…す、諏訪子!?やめてよ~!」


「ほぅ~じゃあ私はこっちら~!」


 神奈子は私の背後に回ると尻尾に抱き着くと、あろうことか逆撫でしてきた。


「やぁ~!やめて~!」


「あはは~楽しい~!」


「本当だねぇ~!」


 私を散々玩具にした二人は結局そのまま私に抱き着いたまま眠ってしまった。二人の神様によって私の移動は完璧に封じられている。仕方がないのでこのまま私も寝よう。


「いや、しかし…」


 私は仰向けに寝転がった状態で独り呟く。たぶん顔には自然と笑顔が浮かんでいるに違いない。


「なんだかんだあったけど、楽しかったわね……」


 その後、疲れていたのか私の意識はすぐに闇の中へと落ちていくのだった。



 次回から舞台は再び霧の湖へと…

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