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東方~青狼伝~  作者: 白夜
原作前編
12/112

◆再会

 人間は時として凄い事をやってのけるものです。


 幽香との出会いから数年。彼女は週に一日のペースで私の所に遊びに来る。


―もふもふ


 私も最初は驚いたものだ。なんといってもあの風見幽香が勝負とかではなく、純粋に“遊びに来ている”のだから。


―もふもふ


 今日私はリンの墓の手入れをしているのだが…


―もふもふ


「…幽香、読書するのは勝手だけど何で私の尻尾を椅子がわりにしてるの?」


 墓石を磨く私の背後で幽香は尻尾に埋もれた状態で本を読んでいた。


「あら、いいじゃないの。別に減るものじゃないし」


「いや、気になるっていうか…」


「凄く気持ちいいのよ、貴女の尻尾」


 まぁ、私も自慢の尻尾だから褒められるのは嬉しいけど…


『いいなぁ、私も触りたいよぉ~』


 目の前の墓からリンの声がする。幽香と出会ってから私もリンの言葉を聞けるようになった。姿はまだ幽香にしか見えないけど、約八千五百年ぶりのリンとの会話である。思わず泣きそうになった。


 幽香と新しい関係になったし、リンは時が経っても変わらなかったし…変化するものとしないもの…どちらにしろ私には喜ばしいものだ。


「あ、いたいた。桜花~!」


 森の方からチルノが飛んできた。


「お昼は何を食べるの?食材が必要ならあたいが取ってくるよ?」


 変化といえば最近チルノがまた強くなった。私の他にルーミアや幽香とも模擬戦をやっていたのだが、幽香曰く「侮れない妖精」だという。大妖怪の幽香にここまで言わせるなんて…チルノはどこまで強くなるのやら…


「そうね、今日はチルノが好きな山菜の炒め物を作りましょうか」


「本当!?じゃあ、材料集めてくるね!」


 嬉しそうなチルノを見送ってから私と幽香も湖へと戻った。






「ごちそうさま」


 私の隣に座っていた幽香が満足そうに両手を合わせた。


「桜花、貴女料理が上手よね」


「まぁ、だてに今まで長生きしてないからね」


 料理は全て私が作っている。鍋やフライパンは私の能力を使って鉄を加工したもので、火は妖術で出せるため大丈夫。周りに燃え移ることもない。


「お昼も食べたことだし、私はそろそろ帰るわ」


 幽香は立てかけていた日傘を手に取ると立ち上がる。


「あら、今日はやけに早いお帰りね?」


 いつもなら夕方くらいまでいるのだが…


「今日は私の家の改装と、向日葵達の世話をするのよ」


 そういえば幽香は引っ越して来たんだっけ?


「わかった、じゃあまたね」


「ええ」


 幽香は軽く微笑みを浮かべながら飛んでいった。


 私は食器を片付けると、チルノと大ちゃんを連れて再び花畑を目指した。



―少女&妖精移動中―





 さて、花畑についたのはいいのだけれど…


「…でね、その時のお父さんの顔がね」


『うんうん…あはは!なにそれ~!』


 見知らぬ少年がリンの墓石に話しかけていた。声から察するに何か話しているようだが…


「桜花、あの子人間の里から来た子供だよ」


「私も以前人里に行った時に見かけました」


 チルノと大ちゃんの話から人里の子供のようだ。よく一人でここまで来られたものだ。周りの森は危険な妖怪だってたくさんいるのだが…


『へぇ~、そうなんだ…あ、桜花お姉ちゃん!』


 私が考え込んでいると、リンが私達に気づいたのか声をかけてきた。少年も振り返ってこちらを見た。


「こんにちは」


 私はとりあえず微笑んで挨拶をしてみる。少年は驚いた顔をするとリンの墓石の裏に隠れた。


『ケイタ、ほら私が話した桜花お姉ちゃんだよ』


 リンがそう言うと少年…ケイタは私をしばらく見た後、墓石の裏から出てきた。


「こ、こんにちは…」


 まだぎこちないながらも挨拶を返してくれた。歳はリンと見た目が変わらないくらいだから10歳くらいか…顔を赤らめているから恥ずかしいのかな?可愛いじゃないか!


 …あ、一応言っておくけど、私はただ子供が好きなだけで変な意味じゃないからね!?


「あなた、どうやってここに来たの?」


 私はしゃがんで自分の目線を彼の目線に合わせる。これは小さい子供を安心させる方法の一つだ。


「あ、その…花を」


 ケイタは近くの花を指差した。そこにあったのはピンク色のチューリップに似ている花だった。


『この花は妖怪が嫌いな匂いを出してるの。だから持ってたら妖怪は襲ってこないんだよ』


 私はリンの知識に関心すると同時に今までそんな花があったのかと驚いた。ケイタはこの花を持っていたから安全にここまで来られたのね…ん?まてよ?


「リン、私には別に嫌な匂いとかしないけど?」


 私だって妖怪だ。それなら私にだって何かしらの影響が出るはずなのに。


『桜花はこの花が咲いた時からここにいたから…たぶん免疫でもできてるんじゃないかなぁ?』


 そうなのかしら?わからないわね…


「そういえば、ちゃんとした自己紹介をしてなかったわね。私は鈴音桜花、妖獣よ」


「あ、ケイタっていいます…よろしく」


 妖獣という単語に少し反応したがケイタもきちんと自己紹介をしてくれた。


「あたいはチルノ、最強の妖精だよ!」


「大妖精です。…よ、よろしく」


 それから五人で夕方近くまで話しをした。人里の様子も聞けたので丁度よかった。


 その後、暗くなった森を帰らせるのは危ないので私が空を飛んで人里まで送ってあげた。


 人里は私が最後に見た時よりもだいぶ里らしくなっていた。流石に永琳のいた時ほど文明の進化は早くない。これなら安心だ。









 ケイタと出会ってから数ヶ月、ある日目を覚ました私は奇妙な違和感を感じた。


「ん?なんだろ…この力」


 私の持つ力は妖力だけだが…何故か別の力が混じっている。


「桜花、おはよう…って、どうしたの?」


 私を起こしにきたチルノが私を見て首を傾げる。


「チルノ、私の中に変な力が混じってるんだけど?」


 チルノは私をまじまじと見つめると、わかったと言わんばかりに指差した。


「桜花、あなた神様になってる!」




 ……はい?




「…チルノ、もう一回言って?」


「だから、神様になってるって言ってるの!なんか神々しいんだもんその力!」


 いやいや、有り得ない。私は別に信仰を集めてもいなければ人助けすらしていない。そんな私がどうやって神様になると?


「おはよう…って、桜花…神になったの?」


 すると、丁度ルーミアがやってきたので彼女にも聞いてみる事にした。


「ルーミア、朝起きたらこうなってたんだけど何か知らない?」


 ルーミアは少し考える様な仕種をした後、何か思い出したのかハッと顔を上げる。


「そういえば…さっき花畑の近くを通ったのだけど…墓石の後ろに何か建ってたわね…」


「花畑に?」


 私はチルノとルーミアを連れて確認の為に花畑へと移動した。




―少女達移動中―






「これは…また立派な…」


 私達が花畑に到着した時に見た物はリンの墓石の裏に建つ立派な祠だった。


「リン、何があったの?」


 私はとりあえずこの場所にずっといるリンに話を聞いてみる事にした。


「あ、桜花お姉ちゃん!」


 いつもなら声しか聞こえないはずのリンだったが今日は違った。…なんと、姿が見えるのだ。


「リン!?…姿が見える!!」


 墓石の上に座るリンは最後に見た時の姿のままだった。頭には私がつけてあげた桜の髪飾りもある。


「…っ!リン、あなた…神力が…!」


 私と同じ様にリンからも神々しい力を感じる。これはつまりリンが神になったということ…


「ケイタが私と桜花お姉ちゃんのことを里に帰ってから話したみたい。そしたら里の人がここまで来て、『里が平和でいられるように』って私と桜花お姉ちゃんを祭った祠を立てたんだよ」


 私の知らないところで私は神様として崇められていたのか……だからこうして神様になった。


「実はもう一ついいお知らせがあるんだよ」


「……?」


 リンは墓石からゆっくりと地面に足をつける。死んでから今までこの墓石から移動できなかったリンが八千五百年の時を経てはじめて地面に足をつけて歩いた。


 そのまま私に向かって歩いてくると目の前で歩みを止める。私も自然としゃがんでリンと視線の高さを合わせる。


「ほら…」


 リンはゆっくりと私に抱き着いた。


 そう、“抱き着いた”のだ。今まで魂だけの存在で触れることができなかったリンに新しい肉体ができていたのだ。


「やっと…やっと…触れた…!」


 震える声で私に強く抱き着くリンを抱きしめ返す。私は一瞬何が起こったかわからなかった。ようやく理解して、昔のようにリンに再び触れるようになったんだとわかった。視界がぼやけてよく見えなくなったけど構わない。今は…再び感じることができたこの小さな温もりを少しでも感じていたかった。


 私達はこの瞬間、本当の意味で再会した。


「また…会えたね」


 私がそう言うとリンは泣きはじめた。声をあげて、涙を流して…今まで我慢していたものを吐き出すかのように…


 チルノとルーミアの姿はない。たぶん気を使ってくれたんだね…


 私はこの祠を作った人間達に感謝しつつ、泣き続けるリンを彼女が泣き止むまで抱きしめ続けた。




 次回からは新しい展開になります!

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