はじまり
最初の変化は些細なもの。
しかし、それは大きな変化の前振りでもあったのだ。
幻想郷の外、博麗大結界と八雲紫が作った境界の結界の境目にある博麗神社。そこへと続く階段を駆け上がる少女の姿があった。
少女の名は博麗美琴。外の博麗神社の巫女である少女だ。
その表情は緊張と焦燥、そして不安によって歪んでいた。
紫から持たされていた連絡用兼、非常事態通知用の札がけたたましい音を出したのが数分前の事。それから急いで神社へと向かう美琴の手元で真っ赤な色に染まっていく紫の札。
この札は非常事態の度合いに応じて色が変わり、赤色は最も深刻な事態の際に表示される色だった。
美琴が神社の境内にたどり着き見たものは空間に奔る巨大な亀裂だった。
「……ッ、これは!?」
紫に教わった術式をいくら思い出しても目の前の現象を解読など、できないであろうことは美琴にも十分理解できた。
何かが起きている。自分には理解できない何かが。
美琴はここ数週間誰にも繋がらない通信札を左手に握りしめながら、空いている右手で封印用の札を取り出した。
「……落ち着いて、深呼吸をしながら力を流す」
自分に言い聞かせる様に小さく呟きながら札に霊力を流していく。頭の中で術式を組み立て、目の前の現象に一番最適なものを選別する。
「(見た感じからこれは空間の裂傷みたいだし、二重結界で応急処置……はダメね、亀裂が広がるかもしれないし、ここは封魔陣による空間の凍結かしら?)」
左手の通信札を懐に仕舞い、新たな札を構えると霊力を込め、亀裂へと投げつける。
「封魔陣!!」
美琴の合図で込められた霊力が術式を発動させた。赤と青の二色の結界が亀裂を包み固定する。
数十秒油断なく結界を睨んでいた美琴は術式の構築に問題がないことを確認すると、漸く力を抜いた。
「(はぁ……よかった。成功した)」
安堵のため息をついた美琴はその場にへたり込むと、初めて自分が震えていることに気がついた。
始めての術式の起動と緊張で疲れ果てた美琴は急激な眠気に襲われるが歯を食いしばり何とか耐えようとしていた。
「(ダメよ……まだ安全だと決まったわけじゃない。まだ気を失うわけには……)」
結界で抑えたとはいえ、まだ安全でる保証がない以上、美琴は結界の監視を続けなくてはならない。それに、これだけの事が起きているならば幻想郷側も異変を察知していない筈がない。
美琴は何とか立ち上がり、自分に喝をいれるつもりで両手で頬を叩く。痛みで僅かに意識がハッキリしたと、安堵した瞬間―――
「……ありがとう、お姉さん」
「―――え?」
背後からかけられた声に振り返る間も無く、美琴の持ち直した意識があっさりと闇に落ちていった。
一瞬だけ見えた背後の人物に、美琴は何処かで思っていた事が現実になったのだと僅かに納得し、完全に意識を失った。
「うん……本当にありがとう。これで、やっと私は彼女に会いに行ける」
恋い焦がれた相手に会いに行くかの様に艶やかな瞳を亀裂の先に向けながら、永月那由他はゆっくりとその亀裂へと足を進める。
その隣に音もなく現れた白い少女も、歪んだ笑みを浮かべながら那由他の後に付いて現実と幻想の境界に足を踏み入れた。
「―――さぁ、また世界の終わりをはじめましょう」
白い少女の嘲笑うかの様な声は誰にも聞こえず、空気に溶けるかの様に消えていった。
◇◇◇◇◇◇
「……っ!?」
ほぼ同時刻、幻想郷側の博麗神社では霊夢と紫、そして桜花が同時に異変に気がついていた。
突然発生した空間の裂け目。そこから漏れ出す巨大な気配に紫ですら冷や汗を流していた。
何かが結界を通り抜けてくる。それが何なのかわからないが、きっと良くない事が起きる。
その漠然とした予感を三人は感じ取っていた。
◇◇◇◇◇◇
東方青狼伝
真実を知る者を選択してください。
・鈴音桜花
・青符装備
「桜花特製アミュレット」
・スペル
「夢想封印」+派生技
・ラストスペル
「夢想天生」
幻想郷に起きた謎の異変を解決するために何時ものメンバーと共に異変解決を目指すが……。
少女祈祷中……
お待たせいたしました。
新編「青狼伝編」始まります!!