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東方~青狼伝~  作者: 白夜
幕間
107/112

秘密会談



 長い廊下を真っ直ぐな姿勢で歩く少女がいた。

 肩上までの翡翠の髪、その頭には立派な帽子が被さり、手には金に黒文字の彫られた彼女達の役職だけが持つ特殊な板。

 しっかりと首元までボタンの留められた白いシャツの上から紺色のベストを着用した姿は堅苦しい印象を受ける。

 だが、スカートと、腰に巻かれてヒラヒラと歩くたびに揺れる紅白のリボンが堅苦しい中に少女特有の柔らかさを感じさせる。


 少女……四季映姫・ヤマザナドゥは一人で長い廊下を歩いていた。

 彼女が向かうのは地獄や現世での緊急事態発生時に幻想郷と外の世界の閻魔が対面し、情報をやりとりする一種の会議室であった。

 そこは当然、獄卒や死神すら入室を許されない最高機密を扱う場所である。

 そこに招集を受けたということは少なからず現世で何かが起きたと考えてよい。映姫自身もその場所に入ったのは片手で数える程度しかない。

 最後に招集を受けたのは60年以上昔……外の世界で大量の死者が溢れ、その問題解決のための話をした時だった。

 それ以前の話にしても、大量に命が失われる事態ばかり。故に、今回も外の世界で何かが起きたのだろうと、彼女は考えていた。幻想郷の管轄である彼女には外の世界の情報は遅れて伝わることがおおいのである。



「……自然災害、事故、犯罪、寿命―――人の命はいつの世も儚いものですね」



 誰に聞かせるでもなく呟かれた言葉は彼女以外には届かず、長い廊下に小さく響いただけであった。


 やがて、彼女の目の前に一つの扉が現れる。

 見た目はただの扉だが、中に入れるのは許可を得た者だけであり、それ以外は弾かれてしまう特別な術式が打ち込んである。

 扉の前で一度だけ深呼吸をした彼女はゆっくりと、扉を開き―――



「お待たせしました。今回はどの様な事態で―――ッ、な!?」



 ―――その視線の先の存在に驚愕した。

 そこに居たのは何度も見た別の管轄の閻魔ではなく、一人の少女。

 歳は映姫よりも低いであろうその少女は映姫の姿を確認すると、座っていた椅子から立ち上がった。


 映姫よりも少しばかり短い桜色の髪、腋の開いた巫女服は現在の博麗の巫女と同じものであり、優しく細められた瞳からは見た目以上に長い年月を感じさせる。



「……何故、貴女が此処に?」


「お久しぶりです。四季映姫・ヤマザナドゥ。今日は重要な話があって此処に来ました」



 その溢れる神力の存在以上に儚い雰囲気を放ちながら、博麗リンがそこにいた。






◇◇◇◇◇◇




 映姫の対面に座るリンは相変わらずの優しい雰囲気と眠たげな半開きの目で子供の様にニコニコと笑っている。

 しかし、映姫は手元の資料を読み進めるうちにみるみる青褪めていた。



「こ、これは……本当なのですか!?」


「うん、そうだよ」



 映姫の信じられないという声にリンのはっきりとした声が肯定を告げる。

 力なく椅子にもたれ掛かる映姫を眺めながら、リンは半目の奥に強い意志を灯しながら問う。



「映姫さん、貴女にお願いしたいことがあります」


「……こんな爆弾を持ってきたからにはそのお願いの内容もとんでもないものなのでしょう。……いいでしょう、聞きますよ」


「ありがとう、助かります」



 そして告げられた内容に、映姫は再び目を見開いた。

 何故なら、それは短い時間とはいえ地獄の規則を完全に破る事になってしまうからであった。



「……バカな、そんな事をしたら幾ら何でも世の理に反します!!幻想郷の最高神が黙ってはいませんよ!?」


「大丈夫ですよ」


「何が大丈夫なんですか!?〝コレ〟は明らかに最高神が動くレベルの問題です!!」


「だから、大丈夫なんですよ。何故なら……この作戦は幻想郷の最高神である〝龍神〟の許可を得ているのだから」


「なん……ですって……!?」



 映姫は今度こそ絶句した。

 幻想郷の最高神が世の理を捻じ曲げる作戦を許可している。幻想郷だけでなく、外の世界すら巻き込みかねない内容を認めているのである。



「や、八雲紫はこの事を……?」


「いや、紫さんは知らないよ。これは私と映姫さん、そして龍神と〝あの人〟しか知らない最高機密の情報だから」


「しかし、八雲紫は幻想郷の管理者です。彼女に知らせないのは危険では?」


「ううん……紫さんはきっと直接〝彼女〟と戦う筈だから、教えない方がいいよ」


「では、本気なんですね?」


「勿論、本気だよ。決行は〝彼女〟が現れた時。その時……」



 静かに目を閉じ、リンは微笑んだ。

 対面の映姫も緊張した面持ちでリンを見ている。

 そして、彼女の言葉でこの秘密会談は終わりを迎えた。





「桜花お姉ちゃんには、死んでもらいます」






 会話の中にあった〝あの人〟と〝彼女〟は別の人物です。


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