少女の話
これは、もう終わった世界の少女のお話
―――昔々、一人の少女がいました。
少女は普通の日本の家庭に生まれた普通の女の子でした。
両親の仲も良くて、学校には友達もいます。
だって、少女は明るくて皆から好かれる性格をしてたのですから。
―――少女は幸せでした。
ある日、少女の両親が喧嘩をしました。
少女は二人の間に入り、幼いながらも必死で二人を仲直りさせます。
両親はえらいね、ありがとう、と少女の頭を撫でます。
少女はそれがとても嬉しくて、眩しいほどの笑顔を咲かせます。
―――少女は成長しました。
少女は中学生になりました。
友達も増え、持ち前の明るさで人を惹きつけます。
クラスでは委員長にも任命されました。
両親にそれを伝えると、二人は少女の頭を撫でます。それが少女は大好きでした。
両親に褒められて、頭を撫でてもらうのが彼女の目標です。
―――少女はこの生活が続くと信じていました。
ある時、両親がまた喧嘩をしました。
今までで一番大きな喧嘩です。
今までで通り、彼女は二人の間に入り仲直りさせようとします。
しかし、今回は様子が違いました。
激昂していた両親は少女に手を出してしまいました。父親からは殴られ、母親からは首をしめられます。
少女は突然の命の危機に恐怖しました。
優しかった両親の豹変、そして突然の暴力。
少女は家にいる間、部屋から最低限出なくなります。
―――少女の心に亀裂が入りました。
それでも、少女は学校では明るく過ごします。
少女は自分の弱さを周りに見せたくなかったのです。
両親の仲は喧嘩を止める少女がいなくなったのでますます悪くなります。
少女は毎日怯えて暮らしていました。
―――もう、少女の心は折れていました。
中学校を卒業した少女は遂に部屋から出なくなります。
両親は離婚することになりますが、どちらが少女を引き取るかで更に喧嘩をしていました。
その怒鳴り声を少女は自分の部屋で毎日聞いていました。声がする度に、少女は耳を塞ぎます。
―――折れた心は更に細かくすり潰されていきました。
ある日、遂に耐えきれなくなった少女は友人に助けを求めます。
久しぶりに会った友人は少女の姿に恐怖しました。
母に褒められた黒髪はボサボサ、顔色は死人の様で目の下には酷い隈がありました。
必死に助けを求めたのに、次の日から友人に連絡がつかなくなりました。
少女は見捨てられたのです。
―――少女は絶望しました。
警察に相談しようとも考えましたが、運悪く父親に見つかり、今までで一番酷い暴行を受けました。
泣きながら謝る少女は心の中で何度も何度も助けを求めました。
でも、誰も助けてくれません。
母親が帰ると父親は母親との口論になり、少女は視界にも入れられません。
―――少女は耳を塞ぎました。
両親はついに離婚し、少女は一人暮らしを始めていました。
この頃から、少女は常にヘッドホンをするようになりました。周りの音を聞きたくないから着けているのです。高性能なヘッドホンは周りの音を完全に遮断してくれました。
部屋にあるパソコンでお気に入りの弾幕ゲームをする時だけ音が流れます。それ以外では音楽も何も流しません。
部屋の隅で無音の中ずっと天井を見上げて過ごす毎日。
―――彼女の心はもう限界でした。
この頃から、少女は夜中にふらふらと出歩くようになりました。
暗闇は少女の心を軽くしてくれたのです。
ヘッドホンで音を消し、月明かりを浴びながら少女は久しぶりに笑いました。
しかし、深夜に一人で歩く少女は格好の餌でした。
ある日、遂に少女は知らない男達に囲まれます。少女は顔は可愛らしかったので、すぐに男達の目にとまったのです。
嫌がる少女を無理矢理押し倒し、服を脱がせます。
少女は助けを求めようとしました。しかし、少女は誰も助けてくれないのを思い出し、押し殺していた感情が湧き上がります。
なんで自分だけがこんな目にあうのか、なんで誰も助けてくれないのか。
黒い感情は脆くなっていた心を砕きます。
―――少女の心は壊れてしまいました。
世界には少女のように絶望した人間はたくさんいます。少女よりも酷い思いをした人もいます。
ただ、この少女にはそれを覆す力がありました。
絶望の果てに、少女の力は目覚めてしまいます。
『創造する程度の能力』
気がついた時、少女は誰もいない公園のベンチに寝ていました。周りにはボロボロの服やよくわからない赤い塊があります。
少女は首を傾げながら家に帰りました。
―――壊れた少女には、それが死体だと理解できませんでした。
少女は自分の力に驚き、とっくの昔に忘れた〝楽しい〟という感情を思い出します。
少女は何でもできました。
夜の空を飛んだり、欲しい服を着たり、お気に入りのゲームをお金を使わず手に入れたり、自分を慰める道具を創ったりもしました。
しかし、少女は今の生活から抜け出そうとはしませんでした。
―――少女にとって、孤独であることは当たり前になっていました。
やりたいことは何でもやりました。欲しいものは何でも生み出せました。
でも、少女は何故か満足できません。
少女は 自分が本当に欲しいものが何だったのか、壊れた心ではもうわからなくなっていたのです。
―――少女は生きる事がつまらなくなってしまいました。
何をしてもつまらない。目に映る全てがつまらない。人が、社会が、世界が……。
少女は生きることを諦め、死ぬことにしました。
でも、少女は簡単に死ねません。
包丁を胸に刺しても、高い所から飛び降りても、気がつけば何故か自分の部屋のベッドに寝ています。
彼女の力が勝手に彼女を守ってしまうからです。
―――だから、彼女は創りました。
自分の力を使って、少女は自分そっくりの少女を創ります。
真っ黒な髪と服を着た自分とは逆の真っ白な自分。
少女は白い自分に『全てを壊す程度の能力』を与えます。
それを使って殺して、と少女は言いった。
いいの?と白い自分が言う。
こんなつまらない世界なんていらない、と少女は言った。
その瞬間、世界が割れました。
空が、地面が、全てが崩れてーー
◇◇◇◇◇◇
おや、またかい?何回目だろうね、こうやってやり直すのは。
そうだよ、私の仕事は壊すことさ。
おいおい、あんたが私を創ったんだ。何言ってるのさ。
壊れた心は治らない。絶望を重ねてもっと壊れるだけ、か。
ククク……わからないならいいさ。あんたはそうやってやり直してればいい。
私はそれを見るのが楽しみなんだから。
何度も、何度も―――あんたが諦めるその時まで、私はいつまでも待ってるよ。
―――じゃあ、またね。
◇◇◇◇◇◇
操作を間違えて一回文章が全部ロストしてくじけかけました(泣)