Final Stage 桜花side
お久しぶりです。
どうも執筆ペースが上がりません。
-桜花side-
神奈子と霊夢が湖の方へと飛んでいくのを見送り、目の前の諏訪子に向き直る。
最後に見た時と全く変わらない幼女の姿でこちらを面白そうに見ている。
人生……いや、私は妖怪だから妖生では先輩、そして神としては彼女の後輩になる。彼女の下で一年程だが修行した日々が懐かしい。
あの頃よりも彼女は弱くなって……いや〝小さく〟なった。あれだけ大きかった力が見る影もない。
「久しぶりだね、桜花」
「えぇ、久しぶりね、諏訪子」
短い時間だったけど、確かに彼女達との絆は結ばれていた。
久しぶり、という短い言葉と視線だけで相手が何を言いたいのか理解できた。
「小さくなったね、諏訪子」
「むぅ……なによ、私達に姿形の概念を当てはめるのは間違いでしょ」
無邪気な子供のように彼女は頬を膨らませた。それでも怒った気配がしないのは私が言いたい事をちゃんと理解している証拠だ。
諏訪子は帽子を被り直すと立ち上がる。
「神奈子もそっちの巫女とやり始めたし、こっちはこっちで楽しみましょ」
「……そうね、久しぶりに諏訪子との神遊びをするとしましょう」
同時に地面を蹴った私達は神社の上へと舞い上がった。
◇◇◇◇◇◇
-side out-
地面を蹴った二人は同時に弾幕を放っていた。互いの弾幕がぶつかり合って相殺すると同時に桜花は空中を蹴るようにして諏訪子へと向かって接近する。
諏訪子は口元に笑みを浮かべながら自らの愛器を取り出すと桜花へと投げつけた。
-神具「洩矢の鉄の輪」
神奈子との戦いで使用した鉄の輪。それは長い時が過ぎた今でも諏訪子の手で使われていた。神奈子の力で錆びついてしまい、切れ味こそ鈍くなったが弾幕としては十分に使える。
錆びて赤くなった鉄の輪を桜花は爪で弾く。それを見越していたのか、諏訪子は桜花よりも高い位置を確保すると連続で鉄の輪を投げつけた。
上を取られた桜花は降り注ぐ鉄の輪を急降下しつつ迎撃し、振り返りながら諏訪子へと弾幕を放つ。
懐かしさからか、お互いの顔には笑みが浮かんでいた。
諏訪子は桜花へと両手に鉄の輪を持ったまま急降下しながら斬りつける。
それを避けた桜花と同時に地面へと着地すると、地面に手を当て力を行使する。
諏訪子の力は『坤を創造する程度の能力』である。坤とは八卦におけるた地のことであり、大地の神である土着神の頂点たる諏訪子は大地の力を行使することができる。
地面から突然巨大な土の蛙が飛び出し、桜花へと飛びかかった。
桜花は弾幕を数十発、降ってくる蛙の腹へと叩き込んだ。土を寄せ集めただけの蛙はあっさりと砕け散る。
しかし、砕けた土が桜花の目を眩ませた間に諏訪子は地面の中に潜っていた。
直後、桜花の周りに大量の弾幕が彼女を囲むように現れた。
-蛙狩「蛙は口ゆえ蛇に呑まるる」
周囲の弾幕には僅かな隙間が存在しており、桜花は迷わずそこに飛び込んだ。
直後、桜花がいた場所を弾け飛んだ弾幕が一斉に襲いかかる。
消えた直後から新しく現れる弾幕に桜花は迷いなく飛び込んでいった。それがこのスペルの避け方なのだ。名前そのままに、蛇に飛び込まなければこの弾幕は回避できない。
「……む!?」
桜花が弾幕を回避していると、突然地面が揺れ始めた。
直後、獣特有の感覚から何かを感じた桜花が真横に跳んだ。同時にスペルが時間切れとなり、地面から諏訪子が現れる。
「次、いくよ!!」
パン、と諏訪子が手を打ちつけると同時に先程桜花が避けた地面から大量の水が噴き出した。諏訪子はその水柱の頂点に立つと、弾幕と同時に桜花に向けて水の向きを変える。
-土着神「ケロちゃん風雨に負けず」
大量の水と同時に襲いかかる弾幕に、桜花は手をかざす。
「封魔陣!!」
二色の結界により水と弾幕の両方を防ぎながら桜花はスペルの中へと強引に突っ込んだ。
「……おぉ⁉︎そんなのあり!?」
驚く諏訪子の足を払いバランスを崩すと、そのまま地面に叩きつける。しかし、そのままでは地面に潜って逃げられるので叩きつける瞬間にスペルを発動する。
-縛符「束縛のスレイプニール」
桜花の手から現れた六本の光の縄が諏訪子の体を縛る。桜花の力が込められたこの縄は北欧神話のフェンリルを拘束した縄をモデルにしている。これに縛られた諏訪子は逃げられずに地面を転がった。
「……うわわ、まずいまずい!?」
足をバタバタと動かしてもがいてみるが一向に縛る力が弱らない縄に諏訪子の頬を冷や汗が伝う。
しかし、トドメとばかりに振り上げられた桜花の腕を白い何かが絡め取る。
「……なっ!?」
突然腕を封じられた桜花は強力な力で投げ飛ばされ、近くの林に吹き飛んだ。
飛ばされる瞬間に見たのは長く、白い鱗に身を包んだ巨大な蛇であった。
◇◇◇◇◇◇
-桜花side-
投げ飛ばされた林の中で態勢を立て直し、すぐさま境内に戻ると、諏訪子の両側を守るように巨大な白い蛇が佇んでいた。
土着神である諏訪子は祟り神であり、その諏訪子に従う大地と祟りの具現である『ミシャクジ』だ。
諏訪子は少し不満そうな顔で両側のミシャクジを見上げている。きっと二人きりの勝負を邪魔されたのを怒っているのだろう。ミシャクジもそんなの諏訪子に使われないのが不満なようで、どことなく目尻を下げた表情で見下ろしていた。
やがて、諏訪子が折れたのだろう。仕方ないとばかりにスペルカードを取り出すと目の前に浮かべ、宣言する。
-祟神「ミシャクジさま」
宣言の瞬間にミシャクジから目に見える程の黒い妖気が立ち上り、急激に体が重くなる。おそらくミシャクジの祟りが負荷となってのしかかっているんだろう。
能力で拒絶する前に諏訪子の指示を受けたミシャクジが小さく分裂し、交差しながら次々と向かってくる。
このスペル、単なる交差弾幕だと思っていたがあまりにも数が多く、同じ動きばかりで目がおかしくなりそうな錯覚に陥ってくるのだ。祟りの負荷もあって攻撃する暇もなく、ずっと回避行動しかできない。能力や高い身体能力で短期決戦を主軸にする私にとって耐久スペルというのは苦手な部類に入るんだろう。
「……っ!?」
袖をかすめたミシャクジに少しばかり冷や汗が出た。今のは危なかった。直感で腕を引かなきゃ被弾してたかもしれない。
これはいよいよ余裕がなくなってきた。まだまだ動けるけど祟りの力が強まってる感覚がある。私としては本格的に体が動かなくなる前に速攻で終わらせたい。
「……っく、夢想封――」
「それを待ってたよ」
弾幕を蹴散らそうと力を込めた瞬間、僅かに意識をそらした瞬間に、私の体は白い鱗に絡め取られていた。
「―――っな!?」
しまった、と思う間もなく、私の体を締め上げるミシャクジと周囲を囲む大量の弾幕。
諏訪子はしてやったり、と私を見ながら笑っている。
「桜花って何かの技を出す時に余計に周りを気にする癖があるよね?それから、発動直前に集中するために視野が極端に狭くなるのも悪い癖だよ」
諏訪子はただ戦っていたんじゃない。しっかりと私の事を観察し、動きや癖を見抜いていた。
何とか抜け出そうとするけど思ったより力が強くて抜け出せない。
焦る私の目の前に大量の弾幕が迫っていた。
◇◇◇◇◇◇
-side out-
弾幕がぶつかり合い、派手な音と砂塵が舞う境内を見つめながら、諏訪子は小さく息を吐いた。
正直、今の彼女はまだまだ力を回復させている最中であり、本来の力の半分も出せていない。そんな彼女が互角以上で戦えているのはこれが弾幕ごっこであるからに他ならない。
少ない力で弾幕を大量に生み出すスペルカードという存在があったからこそ、力を消費せずに戦えていた。
だが、ミシャクジによる祟りは違う。
あれは諏訪子の力を使って発動するものであり、桜花を祟っている間、諏訪子は絶えず力を消費していたのである。
ふらつく足元に彼女は思わず苦笑いを浮かべた。昔はこの程度何の疲労もなく行えていたのに、と。
「あいつらには悪いことしたかな、桜花ごと弾幕撃ち込んじゃったし……」
桜花に絡みついたミシャクジ達の事を考えながら、徐々に薄くなる砂塵の中を覗き……。
「……あれ?」
諏訪子は疑問の声をあげていた。
砂塵の中には目を回したミシャクジ〝だけ〟が横たわっていたのだから。
「……っく、仕留められてなかった!?」
「――はい、残念。惜しかったね」
慌てて構える諏訪子の背後から伸びた腕が彼女の肩に置かれる。
はっ、と背後を振り返った諏訪子の目の前に鋭い爪が並んでいた。確認した姿は間違いなく桜花だった。
「……いったい、どうやって?」
「咄嗟に小さな狼になって脱出したの。獣の姿ならミシャクジ達が動くよりも早く動けるからね」
「……そっかぁ、その手があった。すっかり忘れてたよ。あぁ、負けちゃった」
がっくりと方を落としながら諏訪子は帽子を脱いで頭をわしゃわしゃと掻くと、その場に座り込む。
しかし、その顔はどこか明るく嬉しそうだった。桜花もつられて微笑むと、座り込む彼女に手を差し出した。
「ようこそ、幻想郷へ」
◇◇◇◇◇◇
Stage Clear!!
少女休憩中……
さて、次はエピローグを挟んでいよいよ桜花の秘密に迫るオリジナルストーリーに入ります!!