Final Stage 霊夢side
長いことお待たせしてしまい、申しわけありませんでした!!
Final Stage
「あゝ神よ、神湖の地に」
BGM「神さびた古戦場 〜 Suwa Foughten Field」
◇◇◇◇◇◇
霊夢side
社の屋根に立つ二柱の神を見上げる。
一人は巨大な注連縄を背負った青い髪の女性。
もう一人は目玉のついた不思議な帽子をかぶって陽気な笑顔を浮かべる少女。
どちらもその身から神々しい力を感じるが、今まであってきた神々に比べると、力が若干弱いというか…薄い。きっと十分な信仰が得られていないのだろう。
彼女達がこの場所に神社を出現させたのは、妖怪の山に住む妖怪達から信仰を得る為である。信仰を失い、実体化を維持できなくなる寸前だった彼女達には何でもいいから信仰が必要だったのだ。
実のところ、私は早苗に邪神だの疫病神だの言ったりしたが彼女達が本当に悪い奴らではないことを知っている。
二人の姿から、桜花の話にあった彼女の友達の神である事は間違いない。早苗にキツく言ったのは幻想郷で桜花を蔑ろにしてしまった場合、最悪、居場所を失う可能性があるからだ。
桜花という存在は幻想郷の中でかなり大きい。それを理解してもらう為にあえてキツイ態度をとった。……まぁ、私自身頭にきたのも間違いないのだが。
そんなわけで、隣にいる桜花へと視線を向ければ、彼女もそれをわかっているのか優しく微笑んでくれた。
「さて、霊夢は神奈子……あの注連縄をしている方をお願いね。私は諏訪子を相手するから」
「わかったわ」
桜花は社の境内に向かって歩きだし、私は湖の方へと飛ぶ。
桜花が二人に声をかけると、神奈子が私へと視線を向け、一瞬で湖に立つ御柱の一つへと移動した。諏訪子も境内に降りて桜花の前へと立つ。
桜花に聴いた話だとこの湖は昔、神奈子と諏訪子が戦った場所なのだという。神々が戦った戦場で、その一人に挑むというのだからこちらも手を抜くことはできないだろう。
まったく、面倒だ。そう思いながら、私は札とお祓い棒を構えた。
◇◇◇◇◇◇
-side out-
「おや、私の相手は巫女なんだね。桜花相手なら久しぶりに腕がなるとか考えてたんだけど……」
そう言ってけらけらと笑いながら目の前の神……八坂神奈子は霊夢を見て態とらしく肩を竦めてみせる。
霊夢はそんな神奈子を見上げながら札を構えると、陰陽玉を四つ自身の周りに浮かべる。その顔に不安や緊張の色は見えない。
「はじめましてかしら……博麗の巫女の博麗霊夢よ。桜花から話は聴いてるわ。八坂神奈子で間違いないわね?」
霊夢の淡々とした態度に神奈子の雰囲気が変わる。神に仕える巫女にしてはふてぶてしい態度に、神奈子は自然と歓喜の色を顔に浮かべる。
神奈子の背後に現れたたくさんの御柱が一斉に霊夢へと向けられた。
「いいねぇ、あんたみたいな人間は嫌いじゃない。そう……そうでなくっちゃあね‼」
振り上げた手に合わせて御柱にも力が宿る。信仰が足りないといっても彼女は神である。霊夢の体をあっさりと覆う程の柱を次々と持ち上げ、次々と投げつけた。
―――神祭「エクスパンデット・オンバシラ」
神奈子から次々と撃ち出される柱を、霊夢は軽々と避けていく。背後の湖の水面に落ちた柱から勢いよく水しぶきが上がる。
札を次々と飛ばし、時折退魔針を混ぜて神奈子の出方を見る。
追尾性能がある札は避けるよりも防ぐ方が安全だと判断したのだろう。神奈子は御柱の一本を片手で振り回し、札に隠れて飛んでくる針ごと弾幕を薙ぎ払う。
「やれやれ、とんだ馬鹿力だわ…」
霊夢は一度弾幕を止めると、懐から小さな陰陽玉を取り出し、神奈子へと投げつける。
当然、神奈子の振り回す御柱に弾かれるが、その瞬間、陰陽玉は激しい光を放った。
「む、目くらましか⁉」
一瞬だけだが、視界が奪われた神奈子は咄嗟に手の中に生み出した米粒を振りまく。
―――筒粥「神の粥」
死角からの攻撃を狙っていた霊夢は舌打ちすると距離を離す。流石に小さな弾幕がひしめき合う中に突撃するのは無謀だと感じたのだろう。
神奈子も、そんな霊夢の考えが判ったのだろう。背中に四本の御柱を背負い、そこからも弾幕を放つことで密度を上げていく。
霊夢は舌打ちすると大きく旋回しながら神奈子の動きを観察する。
「(弾幕に追尾性能は無し…でも数が多い。
接近戦は無理。でも、懐に飛び込めれば一撃を当てることくらいならできるかもしれない)」
左右に展開し直した陰陽玉を自らの後方へと下がらせると、霊夢自身は両手に札を構える。そのまま弾幕の中に滑り込むかのように神奈子へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
八坂神奈子は楽しかった。
こんなにも心が踊る戦いは一体いつ以来であったか。そんな思いを抱きながら弾幕をばら撒く。
弾幕で勝敗を競うスペルカードルールにおいて、本気で戦うことはできない。それでもただただ神奈子の心は歓喜していた。
自らに物怖じせずに向かってきた者がどれだけいただろうか。自らと互角に戦えた者が何人いただろうか。
目の前の巫女は神である神奈子に一切の恐れを抱くことなく向かってくる。
それは、あの日の諏訪子の様に。
そして、桜花を含めた三人で過ごした日々の時の様に。
「あぁ…本当に、楽しくて仕方がない」
神奈子は弾幕をくぐり抜けた霊夢に向かって大玉を打ち出すと、追加でその場で短剣型の弾幕を投げつけた。
―――神秘「ヤマトトーラス」
世界に果てはなく、いつかは同じ場所に帰り、そしてループする。
霊夢が避けた弾幕は彼女から離れるとすぐに消え、再び霊夢の目の前へと現れた。
「残念だけど、私にそういった攻撃は通用しないわよ?」
霊夢は八枚の札を周囲に投げると、自らを四角い箱に閉じ込める様に結界を張った。
彼女が張ったのは二重結界。二重の結界で表裏を返し、ループを止める。
元々、紫と組んで戦う事が多い霊夢は境界を弄る技が上手かった。もしかしたら無意識に紫の術式の応用をしているのかもしれない。
困ったのは神奈子である。
こうも簡単にスペルを破られるとは思わなかったので少しばかり焦り始めたが、それでも簡単に負けてやるつもりもなかった。
いくら挨拶代わりの小さな異変で行われるごっこ遊びだとしても。
「せいっ‼︎」
再び放たれる御柱をひらりと避け、そのままアミュレットを構える霊夢に、神奈子は両手に持った御柱を振り回しつつ接近する。
神奈子には余裕がなかった。
回復しきれていない信仰、足りない神力。それらを考慮して考えると、スペルカードに十分に込められる力はあと一回程だろう。だからこそ、神奈子は自らが持つスペルが最大限に生かされる間合いを測っていた。
そして、遂にその瞬間が訪れた。
霊夢が御柱を受け流す為に体勢を低くして接近してきた瞬間、神奈子のスペルは発動した。
――――『マウンテン・オブ・フェイス』
かつて風雨の神であった神奈子が諏訪子と手を組んで得た山の神としての力。
神奈子を中心に広がる大量の弾幕は正に山の様に連なっている。
そして、一瞬の静寂の後、それは一斉に霊夢を襲った。
「―――ちっ、このままじゃ囲まれるわね。一旦夢想封印か封魔陣で距離を離すべきかしら」
舌打ちと共に札を構える霊夢だったが、すぐに眉を寄せて険しい表情になった。
「―――これは、力が…入りにくい?」
そう、神奈子の力が霊夢の力の発動を鈍らせたのだ。これでは満足な結界すらはれないだろう。
もらった―――神奈子はそう確信した。
目前で展開された圧倒的な数の弾幕。発動しないスペル。
これを回避するのはほぼ不可能であろう。
―――ただし、相手が霊夢でなければ。
「夢 想 天 生」
突然、霊夢は目を閉じた。神奈子は諦めたのかと思ったが、すぐに驚愕を顔に浮かべる。
弾幕は霊夢に当たることはなく、彼女をすり抜けた。
夢想天生…霊夢が持つ力の到達点であり、彼女の究極奥義。あらゆるモノから浮き、一切の攻撃を受け付けなくなり一方的に攻撃できる無敵の技。使えるのは霊夢本人と「拒絶」の力で周囲から一時的に受ける桜花のみ。
彼女の友人の白黒の魔法使いが遊びに使えるようにしてくれなかったら誰も勝てないであろう反則なスペル。後出しで出されたこのスペルは神奈子のスペルよりも制限時間が長かった。
この瞬間、神奈子のスペルは完全に空振りとなってしまった。
目を閉じたまま、霊夢は静かに口を開いた。
「…残念だったわね。幻想郷じゃあんたみたいな奴は珍しくないの。」
驚愕する神奈子の目前で七つの陰陽玉から一斉に弾幕が放たれた。
神奈子よりも少ないが、複雑に絡み合った網の様に展開された弾幕は徐々に範囲を狭くしていく。
「夢想天生・神縛り」
霊夢の合図と同時に一斉に加速した弾幕に、神奈子は抵抗虚しく撃墜された。
ただ、その顔は満足気に笑っていた。
◇◇◇◇◇◇
霊夢Stage Clear‼︎
少女観戦中…