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東方~青狼伝~  作者: 白夜
原作前編
10/112

◆四季のフラワーマスター、風見幽香

 幽香登場!


 私がまだ人間だった頃、よく“月日が経つのは早いな”と、考えたものだ。


 それは妖怪になってからは顕著になったように感じる。妖怪に日付という概念があまり意味の無いものだからだと思うが…


 妖怪になってからというもの回りの環境が変わると何百年か経ったように感じるのだが実際は数千年も経っていたり…







 永琳達が月に旅立ってからかなりの年月が経った。私は途中から数えるのが面倒になって数えていないから詳しい年数はわからない。…そうだ、チルノに聞いてみよう。


「ねぇ、チルノ」


「なによ?」


 この日、私とチルノはリンが眠る花畑で花の手入れをしていた。


「私とチルノが出会ってから何年経った?」


「えっと…だいたい一万年くらい?」


「…え?」


 …聞き間違いじゃないよね?


「…チルノ、もう一回言って」


「だから、一万年くらいだって言ったでしょ?」


 あれ…そんなに経ってたんだ。ほんの数百年かと思ってた。


 えっと…永琳が月に行ったのが私が千五百歳くらいの時だから……八千五百年 経ったわけだ。私の歳もついに万の桁に入ったのか…何だか実感がないな。


「桜花、長生きし過ぎて頭ボケてきたんじゃないの?」


 …チルノには言われたくない。チルノは妖精だから年齢を当て嵌めることは意味のないことだがあえていうなら自然が生まれた時からの年月だろう。つまり私より遥かに年上になるわけだ。


 でもチルノが「万の年月を生きる妖怪より年上だと思うか?」と、きかれてもまったくそうは思えない。なんといっても見た目が幼女なんだから。


「ど、どうしたのよ、あたいの顔に何かついてる?」


「…いや、何でもない」


 私はチルノから視線を外すと自分の両手を見つめる。


 私が妖怪として生まれてから一万年…私の姿も変わらない。精々尻尾が九本まで増えたくらいだ。


 今ではチルノ、ルーミア、大ちゃんの三人は私の尻尾なしでは眠らなくなった。朝には尻尾を一本にすることで掴むものがなくなった三人が目を覚ます、という目覚まし的な役割も果たしている。


 話が逸れたけど、自分の姿がいつまでも変わらないのは人間だった私としては不思議でたまらない。


 …といっても、もう人間の心はだいぶ薄れてしまったけど。


 私が人間だったと実感できるのはリンの墓を見ている時だけだ。あの時以来誰かのために涙を流すようなことはなくなった。これは私が完全に妖怪になってきている証拠なんだろう。


「桜花~、そろそろ帰ろうよ~」


 あ、いけない。チルノが呼んでる。


 私は一度だけリンの墓を見ると手を振るチルノの方へと歩きだした。









―???Side―



 私は朝日の眩しさに瞳を開く。


 体を起こして周りを見れば木造の小屋の中にいることがわかる。


 昨日たどり着いた向日葵の咲く小さな畑がある小屋。誰も使っていないらしく中は結構埃っぽいが掃除をすれば生活に困ることはないだろう。


 私は外に出るとベッドと同じくらいの面積しかない畑へと向かう。そこには立派に咲いた向日葵が畑いっぱいに広がっていた。


「今日もいい天気ね…」


 私は向日葵達にそう言うとそっと花びらを撫でる。


 私にとって花は自分の分身みたいなものだ。だから大切に毎日手入れをする。いつかはこの辺り一帯を向日葵でいっぱいにしてみたいと思っている。辺り一面の向日葵に囲まれながらのティータイムなんていうのも洒落ていると思う。


「さて…」


 私は此処に来たばかりでまだ近くに何があるのか知らない。私にとって脅威になるもようなものはないと思うけど…一応調べてみるとしましょうか。


 私は日傘を片手に空へと舞い上がると辺りを見回す。


 へぇ…、あの鈴蘭が咲いてる丘の向こうに見える山、妖怪がたくさん住んでるみたいね。でも私より強い妖怪の気配はしない…ん?


「何かしら…この不思議な気配…」


 妖力に混じって霊力を感じる…いや、違う…妖力と霊力が混ざったような気配がする。私は少し気になったのでその気配がする方へと飛んだ。


 先程見た山の近くには湖があり、その湖から少し離れた森の中に小さな広場のような場所があった。


 その場所に降り立った私が見たのは辺り一面に広がる花畑…あまりの美しさに私は思わず見とれてしまった。


 我に返った私が注意深く花を見ると、なんと全ての季節の花が咲いていることがわかった。


 それと同時にこれは誰かが意図的にやった事であるとわかった。誰だか知らないけど面白い事をするものだ。


 私は気配を辿って花畑の中心へと向かう。


「これは…」


 そこには大量のたんぽぽに囲まれた岩があった。苔が生えていて見るからに古いが何かを守るような印象を受ける。


 不思議な気配はこの岩の下から感じる。私は岩にそっと触れてみた。


(あなたは誰?)


「……っ!?」


 突然声が聞こえて私は咄嗟に構えをとる。


「…誰!?」


 辺りを見渡すが誰もいないし気配もしない。一体どこから…


(ねぇ、お姉ちゃんは誰?)


 再び聞こえた声はどうやら少女のものらしい。私は日傘を握り直す。


「他人に名前を尋ねる時は自分から名乗るものよ」


(そうなの?私はリンっていうの。お姉ちゃんは?)


「私は風見幽香、花の妖怪よ」


 私が名乗ったのと同時に岩から感じる気配が強くなる。私が驚いて身構えると、岩の上にうっすらと少女が座っているのが見えた。頭に桜の花びらの髪飾りをつけている。いや、それよりも私が驚いたのは…


「私…?」


 髪や目の色は違うし、見た目は本当に子供だ。しかし、顔が私にそっくりなのだ。私をそのまま子供にしたような少女がそこにいた。


(幽香お姉ちゃんだね!はじめまして!)


 そう言って笑う少女…リンは楽しそうに足をプラプラと揺らしている。


「あなたは…何者?」


 私は今だに構えたままリンに問い掛ける。


(私は…えっと…幽霊?)


 自分でもわからないのか首を傾げながらリンは目を閉じてうんうん唸っている。私は何だかバカらしくなって警戒を解いた。


「あなた死んでるの?」


(うん、私はもう死んじゃったんだ)


 自分は死んだと言いながらも明るく振る舞うリンの態度に私は疑問を覚えた。何故死んだのにそんなに明るいのだろうか。


「あなたは見たところ人間だったみたいだけど…何故そんなに楽しそうなの?悲しくないのかしら?」


(全然悲しくないよ!だって桜花お姉ちゃんがいるから)


「…桜花?」


(うん、この髪飾りも桜花お姉ちゃんがくれたの!)


 そう言って嬉しそうに頭の髪飾りに手をそえる。なるほど、不思議な気配の正体は人間の幽霊であるリンの霊力と桜花という人物からもらった髪飾りに染み付いた妖力が混ざっていたせいだったのか。


(それで、幽香お姉ちゃんはここに何しに来たの?)


「私はただ気になったから来ただけよ。でも、いろんな花が咲いていて驚いたわ」


(たしかお花の妖怪さんなんだよね?)


「ええ…」


 人間があまり好きじゃない私がこんなにも話をするなんて思いもしなかった。相手がもう死んでいるからなのか、それとも子供だからなのか…


(桜花お姉ちゃんも妖怪なんだよ!)


「桜花…その髪飾りをあなたにあげた人…いや、妖怪か」


(うん!桜花お姉ちゃんはね…優しくて、綺麗で、人間の為に戦った凄い妖怪なの!)


 人間の為に…戦ったですって?


 私は一瞬耳を疑った。妖怪が人間の為に戦うなんてありえないと思っていた。しかし、リンの様子から嘘をついているとは考えられない。だとしたら…


「…ずいぶんと変わった妖怪なのね」


(そうかな?私とこの花畑に行こうって約束したんだよ。でもその前に私が死んじゃったから…)


 さっきまでにこにこしていた顔が悲しそうになる。私に似ているのでそんな顔をしないでほしいのだけど…


(急に妖怪が街にやって来て何人も殺された…私もその一人)


「当然でしょうね、人間と妖怪は相いれない存在よ」


 妖怪は人間の恐怖や畏れの象徴。人間が妖怪を畏れなくなれば妖怪は消える。だから妖怪は生きるために人間を襲うのだ。


(でもね、桜花お姉ちゃんは違ったんだよ。お姉ちゃんは私のために泣いてくれた。約束守って花畑に連れてきてくれた。人間の為に一人で同じ妖怪と戦った。だから私は桜花お姉ちゃんが大好きなの)


「……」


 私は墓石に目を向ける。


「花を愛した少女、ここに眠る…」


 墓石に書いてあった文字を読む。ふと顔を上げればリンが墓石にのったまま私に笑顔を向けてきた。


 なるほど、この少女が嫌いになれないのは私とどこか似ているからかもしれない。顔つきだけではなく花を愛する心とか、そんなところが…


「それにしてもかなり古いお墓ね?一体いつのものなの?」


(ん~っと、昨日桜花お姉ちゃんと妖精さんが話してたけど私が死んだのは八千五百年前だよ)


「なっ…八千五百年前!?」


 八千五百年前なら私が生まれるずっと前だ。勿論その桜花という妖怪はまだ長生きなことになる。


「ねぇ、その桜花って妖怪の歳は知ってる?」


(うん、もうすぐ一万歳だって言ってた)


 信じられない、そんな昔から生きている大妖怪がいたなんて。…少し興味がわいてきた。


「ねぇ、その桜花は何処に住んでるの?」


(えっと、近くの湖に妖精さんと他の妖怪さんと一緒に暮らしてるよ。青い髪で青い服を着てる狼の妖獣さんだよ)


「わかったわ、ありがとう。あなたと話せて楽しかったわ。また来てもいいかしら?」


(うん!また来てね!桜花お姉ちゃんには私の姿は見えないし、声も聞こえないみたいだからお話相手がほしかったの)


「そうなの?なら来ないわけにはいかなくなったわ」


 リンは目を輝かせながら私を見ていた。余程嬉しかったようだ。


(約束だよ!)


「ええ、それじゃあ」


 私は花畑をあとにして湖へと向かった。








 湖の上空まできたけど霧がかかっていて見通しが悪い。仕方ないから私は湖のほとりへと降りる。


「あら、この辺りじゃ見ない顔ね?」


 私が降りた場所にいたのは黒い服を着た金髪の少女。瞳は赤くて鋭く、一目で妖怪であるとわかった。


「最近この近くに来たのよ。…あなた、桜花って名前の妖怪、知ってるかしら?」


 桜花という名前に少女は反応する。しばらく考えるような動作をした後、私に背を向けた。


「案内するわ、ついてきて」


「あら、あっさりと教えてくれるのね」


 あまりにもあっさりと案内を引き受けたことに若干のつまらなさを感じた。


「私の力じゃあなたに勝てないしね。まだ死にたくないのよ」


 そう言うと少女…ルーミアというらしいけど、とにかく私は彼女の案内で湖のそばにある大きな木の前まで来た。


「呼んでくるから待ってなさい」


 そう言ってルーミアは木の中へと入っていく。さてどんな奴なのか楽しみだわ。










―桜花Side―


 私が幽香の気配に気づいたのは数十分前だ。どうやら花畑へ向かったようだ。リンも新しい客に喜ぶかもしれない。


 リンは死んだ後、魂が体から離れる前に私が付けた髪飾りに宿る妖力を取り込んでいた。おかげで彼女の魂は現世に残り、今も花畑に住んでいる。彼女は妖精と亡霊の中間のような存在だが、どちらかと言えば花の妖精に近い。あの花畑を触媒にして彼女は現世に留まっている。そのおかげなのかあそこは季節に関係無く花が咲いている。花が好きなリンのおかげだろう。ただ、まだ魂が安定していない為か私にはリンの気配はするものの姿は見えずに声も聞こえない。もう少し時間が必要みたいだ。





 数分後、幽香の気配が近づいてくるのがわかった。わざと気配を強く出しているみたいだから大方私と戦いたいとか考えてるんだろう。


 風見幽香…『花を操る程度の能力』を持つ妖怪で敵だと判断した相手は容赦なく滅ぼしにかかる妖怪らしい妖怪だ。


 彼女の特徴はその妖力と身体能力だ。彼女の『花を操る程度の能力』は戦闘には使えないが、彼女の身体能力自体はとんでもなく高い。さらにその身体能力に妖力を加えてくる。普通の妖怪ならあっという間にやられるだろう。


 まだ生まれてからそんなに経ってないし、元祖マスタースパークもまだ使えないと思うけど…一応会ってみましょうか。


「桜花、お客さんよ」


 そんな考えをしていたら丁度ルーミアが私を呼びにきた。


「最近近くに引っ越してきた妖怪ですって。あなたに会いに来たらしいわよ?」


「わかったわ、ありがとうルーミア」


 私は立ち上がると鈴の飾りを結び直す。小さくリンとなる鈴の音を聞きながら、私は外へと出た。今の私は妖力を抑えているから尻尾は一本だけだ。彼女はどんな反応をするだろうか…


 外に出た私の目の前にいるのは緑の髪にチェックのベストとスカートをはき、日傘を持った風見幽香だ。


 髪に付けた鈴が再びリンと鳴る。


「はじめまして…私が鈴音桜花よ」


 私はとりあえず、彼女にとびっきりの笑顔を見せてあげることにした…






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[一言] 万も生きてるルーミアが幽香に勝てないの? 流石にあり得なくない?
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