悪役兄貴は弟たちに愛されます
「お前らなんか家族じゃない…!!」
そう言った時のアイツらの顔は、
今でも何故か、目に焼き付いている。
「父さん、何してるんですか…?」
父さんは部屋の片付け……
亡き母の形見や肖像画をしまい込んでいた。
「ジェイド…その、……何でもないよ」
父さんは優しい人だから、俺に寂しい思いをさせているだろうとか考えて、大事なことや言いたいことは言ってくれなくなった。
俺を、傷付けないために。
「…今日、ですよね?新しい……」
母さん、とはちょっと言えない。
正直、母さんが死んで間もないのに、
すぐ新しい夫人を迎え入れるのは……
俺からしたら軽蔑ものだ。
でも、そういう訳にも行かないことも、
分かってはいるんだ。
…これは俺のワガママでしかないんだ。
「…でもな、お前に弟が出来るんだぞ」
「………………そうだね。」
父さんが口下手なのも、分かっている。
ただ、それで…そんなことで気が紛れるような子供だと思われているのが、やるせなかった。
「ほら、新しいお兄ちゃんよ。挨拶して」
俺の青い髪と目には似つかない、
綺麗な金髪とグレーの瞳の子供2人。
「あ、…ちわ」
「こんにちは。」
「はは、可愛らしいな」
そうして「母」と「弟」が家にやってきた。
「母」はノラリスさん。
よくいる貴族って感じだった。
微笑みながら差し出された両手が、
僕の身体を蝕むような触り方が、
気が狂うほど気色悪いと感じた。
「弟」はリメルとアズテラ。
愛称はリルとアズ。
気持ち悪い人間から産まれた人間。
心底、身体の芯から吐き気がした。
「リル、アズ、よろしくね」
弟たちには挨拶をして部屋に戻った。
よろしくしたくないんだから仕方がない。
それから俺は弟たちを無視した。
いないもののように扱って、まだ小さい2人が使用人からのイジメに遭っていても、
それを目撃しても見て見ぬふりをした。
そんなある日、父さんと「母」は死んだ。
デートに行くとか言って、
「母」が浮かれていたと思えば、
…乗った船が嵐に巻き込まれ転覆したらしい。
弟2人は、ただひたすらに泣いていた。
そうして俺は17になった。
「兄さん、成人おめでとうございます」
「おめでとうございます…」
「…祝わなくて結構だ」
2人は少し落ち込んだが、
年が下の方の弟、アズが言った。
「でも、家族だから…」
俺はアズを睨みつけた。
「お前らなんか、家族じゃない…!!」
どうして俺が認めてやらなくちゃいけない?
なぜ身勝手な好意を受け止めて
返してやらなきゃいけないんだ?
おかしいとは思わないのか?
2人は一歩引いて黙った。
成人してから俺は領主になった。
しかし、父さんは俺に領地経営を教えてくれたことは1度もなく、俺は独学でやるしかなかったので、
当たり前かのように財政は傾いていった。
弟2人を屋敷内で見ることはなくなったのに、
心の中はずっと荒れていた。
「兄さん」
ある日のことだった。
リルに呼ばれて、王族御用の高級レストランに
行くと、2人は綺麗な身なりで待っていた。
ああ、何もかもがムシャクシャする。
「…なんだよ、なんの用だよ」
「兄さん、今財政難で困っているでしょう」
「……だから何だ、お前らに何の関係が…」
「リル兄さんと僕で考えたんだ。
支えていかなきゃって」
「そう、兄さんには僕らが必要なんだって」
2人は真剣な顔でそう言った。
「…………は?」
怒りというより、意味不明さが勝っていた。
そもそもお前らなんで裕福そうなんだよとか、
何でそんな思考回路に至ったんだよとか、
聞きたいことは色々あった。
でも口からは虚勢が漏れ出る。
「お前らに助けられたところで変わんねぇよ、
そもそも財政難って言ったって…」
「兄さん」
遮るようにアズは言った。
「兄さんは寂しかったんだよね?
母親も父親も、義理の母までもが死んじゃって…
誰にも頼れないまま頑張ってきたんだよね」
ふと、敢えて合わせなかった目が合った。
2人の目に、光が無かった。
「………急になんだよ!
それが事実だとして、
恨んでる兄が破滅するならいいだろそれで!
お前ら金持ってそうだし、
俺が何かする前にさっさと出てきゃいいじゃ……」
鳥肌が立って、とっさに捲し立てると、
リルはいつの間にか立ち上がって…
俺の腕を掴んでいた。
「ぁ……」
口から声が漏れる。恐怖。
同性愛者の貴族からケツを狙われた時も、
馬車から大事な資料が落ちそうになった時も
こんな恐怖抱かなかったのに。
「兄さん、僕ら2人で兄さんを守るから」
「ダメダメな兄さん、1人じゃ何も出来ない兄さん」
「まっ…ちょ、お前、ら…
何でこっち迫ってきてんだよ」
2人して壁際に追い詰めてくる。
逃げようとしても腕を掴まれて逃げられない。
「な、何する気だよ…!!やめろよ…!!」
半泣きになりながら俺は身を守る。
自分でも惨めに感じる。
2人は俺の1,5倍はあるんじゃないかってくらい
デカい。
俺は平均くらいの身長なのに。
だからもう力じゃ勝てないと思う。
2人は笑顔で俺を抱えて馬車に乗せ、
運んでいった。
そして、着いたのは俺の屋敷の
何倍もデカい屋敷だった…。
庭には何か父さんに似てるような、
俺に似てるような気がする男の像やら
薔薇の庭園やら、豪勢なものだらけだった。
「こ、ここどこだよ」
「兄さんと僕らのラブラブ別荘だよ」
「名前を聞いてるわけじゃ…これが別荘!?
ていうかお前らの屋敷かよこれ…!!何で…っ」
ツッコミどころが多すぎてパニクる。
「連れてきて何すんだよ…!」
「兄さんはここでまったりゆっくり過ごすんだよ」
「は?いや領地…」
「めんどくさいことは僕らがするから。
兄さんは自由に…」
「俺屋敷は持ってるし、
何でわざわざ…いやもういいや」
ツッコむのは諦める。
もう気力が無い。
そして流れるように「俺の部屋」に案内され、
またも流れるように召使い達に風呂に入れられ、
いつの間にか布団に入らされていた。
「…えっ、魔法?」
それか俺がキャパオーバーになっていただけか。
いやどっちもだな。
そんなことを考えていると、ノックが聞こえた。
「兄さん、入るね」
リルが入ってきた。
「……いいじゃん、この家」
リルは不思議そうな顔をしながら、
ベッドの横にある椅子に座った。
「有能な召使いも、豪華な装飾も…」
リルは食い気味に言った。
「兄さんのためだよ!」
「自分のために使えよ。
余裕も無いどころか人に八つ当たりする、
こんな人間じゃな…ん…」
口を塞ぐようにキスされた。
下手に美形なのが勘違いしそうで困る。
「…やめろよ、俺のこと好きなのかよお前」
軽く笑いながら言ってみる。
ああ…やな奴だな俺。
これで否定されたらされたで傷付くんだ。
「…好きだよ兄さん」
「…は?」
「ずっと好きだよ、誰より好きだよ、何より好き」
上に乗られてベッドの壁に追いやられて行く。
えっ、あー……ど、どうしよう。
好かれるのに、慣れていない。
…いや違うかもしれない。
これは兄弟としての話で、軽いモノで……
「兄さん、傷付く準備しないでいいんだよ」
「……してねぇよ」
リルは目を伏せながら俺の足にキスして、
段々上にキスしていく。
エロい。
「兄さん好きだよ、愛してる」
好き好き言われながらこんなことされて
唇奪われたら、誰だって堕ちるだろ。
キスされまくって俺のズボンの中を弄られたその時、
アズが扉を開いた。
ジトーっとした目線をリルに向けながら歩いてくる。
リルはすごく汗をかいているようだ。
「リル?なんで兄さんのズボンの中に
手を突っ込んでるのかな」
「えーーーっと…」
何だか可哀想に思えてきたので助け舟を出してやる。
「俺がやってって言ったんだ」
ミスった。
泥舟出しちゃったよ、ごめんリル。
ああ、みるみる内にリルの顔が青ざめていく…
「あの、マッサージだ!マッサージ、的な」
アズの顔が俺の方を向いた。
マズい。
「いや、そのあの〜えっと!あー…」
なにも言い訳が思い付かない。
段々とアズはこちらに近付いてくる。
「何したいんだよお前ら!」
何かもう頭回すのがつかれた。
「やりたいことやりゃあいいじゃねぇか」
そう言って俺は目を瞑って大の字に寝転がった。
「…ジェイド兄さん」
ボソッとアズが言った。
「やりたいこと、やるね♡」
それからというもの、
俺は弟2人のおもちゃになった。
朝ご飯を全員で食べて、
昼は遊びに行ったりして、
夜はヤられる生活が続いた。
「兄さん、結婚式だよ今日は!」
「……は?誰の?」
「兄さんと僕のに決まってるじゃん!」
リルはウキウキで廊下を駆けていく。
入れ違いでアズもやってきた。
「…結婚式すんの?」
「ああ、言ってなかったっけ?僕らとの結婚式♡」
俺は顔を顰めた。
「……誰呼ぶの?」
俺の屋敷はいつの間にやら売られていて既に無くて、
家財やお気に入りのものは倉庫にある。
召使いたちも解雇されたので呼ぶ相手などいない。
何もかもがリルとアズに頼らないといけない。
別にもうプライドあんま無いから良いんだけど。
危惧しているのは、
リルとアズの仕事相手なんかを呼ぶなら、
引かれるのではないかという点だ。
同姓婚は勿論出来ないと思うが、
大方それは有能な2人が何かしらしたんだろう。
そうじゃなく、一夫多夫制になるのが、
ふしだらと思われるのではっていう。
まぁ……いっか。
「いこう、ジェイド」「いくよ、ジェイド」
「…おう」
花で出来たゲートを潜ると、
先には薔薇の庭園と式場があった。
客は居なかった。
俺が着るのが勿体ないようなウェディングドレス。
俺と結婚するのが勿体ないような男ども。
花嫁のヴェールを上げられて、キスをする。
指輪だと思って手を上げると、
恋人繋ぎされて下げられた。
そして2人は俺に首輪を着ける。
「愛してるよ、兄さん」「ジェイド、愛してる」
「俺も愛してるよ…♡」
こういう結末は、予想出来なかったな。




