第3話 簒奪の代償
俺達は次の日の朝、王城に隣接している訓練場に立っていた。そこに立っている男威圧感は、正に戦場の獅子と呼称するのが正しいだろう。
「それじゃあ皆集まったな?俺はこのアルヴァンス王国の第三騎士団、団長のメギドだ。よろしく頼む」
大男…メギドさんは気の良い感じに声を掛けてくる。その身からは気の良いオーラが出ているが、どことなく信用が出来ない。
まぁ、これは俺の勘だがね。
「ステータスオープンと言ったら、自分のステータスが見れる。後の事はこいつ等に任せる。だが、小見門悠馬、お前だけは別行動だ。」
「俺に何かあるんですか?」
俺が不思議に思いつつメギドさんに問うと、「お前の技能の事で用事がある」とだけ答えた。
それに従い付いて行くと、この場所に来るときも使った魔法陣が有った。その上に立っていると、やはりと言うべきか、どこかに転移した。
「ここは牢獄…大罪を犯した者が入れられている。ここで好きなだけ技能を奪え」「分かりました」
《技能〈触手Lv1〉を簒奪しました》
あの時の宝玉から奪った時とは違い、骨身に染み渡るかのように、技能が俺の中に入り込んできた。その感覚たるや。何度でも体感したいと思った。だが、それだけじゃ無かった。
「ヘヘヘッ…此奴は良い奴隷になるぞ」
何だ?…頭が、割れる様だ。
「どうかしたのか?」
「いえ…大丈夫です。それよりも、この人はどうして牢屋に繋がれたんですか?」
気になった事を聞いてみた。メギドさんは、「此奴は一般人を奴隷に堕とした罪で幽閉された」そう聞かされた。
つまり、これは奪った対象の記憶も奪うのか?
「もう良いのか?」
「…いえ。まだ奪います」
手が勝手に犯罪者へと向けられる。それに抵抗する事も無く、俺はただ悪戯に力を振りまいた
《技能〈魔力感知Lv1〉を簒奪しました》
《技能〈放出Lv1〉を簒奪しました》
《技能〈操炎Lv1〉を簒奪しました》
………
多くの技能を得た。多くの悲劇を見た。違法技能売買、転生詐欺、違法奴隷売買、数え切れない罪が流れ込んできた。名前を語るのも悍ましいモノばかりだ。
「ウォェ~…ハァハァ。」
「おい…もう止めろ。これ以上は危険だ。…クソッ想定よりも深刻だな」
メギドさんが止めに入るが、それを無視して技能を奪い続ける。奪った時の多幸感、満足感…とても気分が良い。
「何をしてるんですか?」
「見て分からないのか?お前を止めている。これ以上の簒奪は危険だ。」
メギドさんが止めに入るが、俺はどんどん進もうとする。だが、圧倒的なステータスの差故に、簡単に捉えられてしまった。それからの記憶なく、気が付いたらベッドの上で横になっていた。
「う~ん…頭痛い。俺、何をやってたんだ?」
「おっ、目が覚めたか。お前の症状は精神混濁症だ。恐らく、技能を奪う際に、精神の一部も奪っているんだろう。」
そうか…俺、技能の奪い過ぎで知恵熱でも出てるのか?…ウォエ~。気持ち悪い
「今日の所は休んでおけ。それと、くれぐれも王城の外には出るなよ。今のお前じゃ死にかねん。」
「分かった。だからさっさと失せろ。…いや、ごめんなさい」
ついつい口が滑ったと言うべきか…思っても居ない事が口から滑り落ちる。これから逃れる術を俺は知らない。だが、何か役に立つ本があるやも知れん。そう思い、俺は資料室で時間を潰す事とした。
「あの~…精神混濁症についての本とかありますか?」
「精神混濁症ですね。少々お待ちください。」
資料室の女性に声を掛けてみると、静かに、冷静に言葉が返された。まるで能面を相手にしてい様だ。だが、直ぐに帰ってきて、一冊の本を抱えていた。
「この本の36ページに載っています。それと一つ、技能に蝕まれたままではいけませんよ」
「ありがとうござます」
それから本を読んでみると驚くべきことが分かった。それは技能と精神の関係性についてだった。
その前に大前提の話が乗っている。どうやら、この世界では、技能の売買が正式に認められているらしい。例えば、王国直轄での技能屋なんてものもあるらしい。
だが、技能とはその人の人生とも言うべきものだ。それに精神の一部が入っていない筈が無い。基本的に技能洗浄を施して売買するらしいが、違法の場合はそうじゃ無い。
「どういう事だ?…俺の技能が異常って事か?あぁ~もう、思考がから回る。」
他にも対処法が乗っている本があるらしく読んでみたが、そのどれもが技能洗浄を前提としている。だから、今の俺にこれをどうにかする力は無い。
「つまりは、このクソッ垂れな記憶と向き合わないとダメって言う事か。…はぁ~。最悪の気分だ。」
本当に最悪の気分だ。瞼を閉じたら記憶がどんどん再生される。
「良い女だ。転生先として丁度いい」
「クソが。」
一瞬だけ視界が黒くなる。その先に居るのは四肢を拘束された女性だった。だが、一瞬にして元の場所へと戻る。
「本の事ありがとうございました。」
「いえ。お構いなく。本当に、飲まれてはいけませんよ」
それから自分の部屋へと戻り、再び眠りに就いた。




