第2話 王様
あれから一夜明けて、俺たちは教会の中を歩いていた。その道中でエイダルさんの案内で、幾つかの絵画を見せてもらった。
「これらの絵画はこの王国…ハイドリヒ王国と聖魂教の未来を描いたものですじゃ」
見せられたのは、右目が失われている大狼の絵だった。氷雪の嵐を巻き散らすその姿は、俺が教室で見た狼そのものだった。
「アオォ~ン」
「何だ?」
俺は咄嗟に背後を向いた。だが、その場所に立っていたのは麗華のみで、狼の遠吠えなど聞こえる筈も無かった。
「この狼に名前って有るんですか?」
「良い質問有難うございますじゃ。こやつの名はフェンリル。氷獣王フェンリルと言うのですじゃ」
英人が名前を聞いているが、俺はその絵画から目を離せないでいた。まるで、心の奥底に狼の姿と名前が刻み込まれたのだった。
「あの…何で右目が無いんですか?」
「それは、何でも白銀の魔女に捧げたとか何とか…まぁ今は誰も知らぬ事実ですじゃ。」
フェンリルの絵を見てから暫くの後、俺達クラスメイトは神殿の一部屋に移動していた。どうやら、設置されている魔法陣の上に立つと、此処から王城に転移できるらしい。
「何でもアリかよ?魔法」
「なんでも…は語弊がありますじゃ。我らに許されているのは、精々が世界に干渉する術のみ。あなた方を召喚した方とは、何れ相まみえる事でしょう。」
王城へと転移して、いわゆる謁見の間にまで来た瞬間に、俺達は圧されそうだった。何らかの威圧なのか…それともただの覇気なのか。俺たちは王様の姿を見た瞬間に思った。
この人は強い
「貴様らが、王の外敵を滅ぼさんとする英雄共か」
オールバックで揃えられた白銀の髪、全てを見下さんとするその赤い瞳、衣服の上からでも分かる程に鍛えられた筋肉は、その者の努力を証明している様だった。
「答えよ。貴様らが、我らの安息を守りし英雄か?」
「はい。魔皇族は、僕たちが滅ぼしましょう。その末に、この国の未来を守ります」
やはり英人は凄い…こんなにも威圧的な王様に啖呵を切れるなんて。…やはり俺には出来ない事だ。
チラリと王様を見る。その姿は、まるで面白いモノを見たかのようだった。王様は顔に手をやって、必死に笑いをこらえている様だった。
「クハハッ、アッハハハァ~貴様ら、我を笑い殺す気か?貴様ら程度に心配される程、王国軍は貧弱足りえない。だが、その心意気は認めよう。我の名において、貴様らを英雄と認めよう。誇るが良い、この我に、否、英雄王に認められたのだぞ。」
「ありがとうございます」
遅れてクラスメイトの皆が礼を言う。まるで、世界に認められたかのような衝撃だ。それからエイダルさんは別の用事があると言い、俺達はメイドさんに大広間まで案内された。
そこにはさっきまで玉座に座っていた王様の他に、豪華絢爛な衣装に身を包んだ。貴族の様な見た目の人たちが居た。
「では、これより、技能開示の儀を始める。勇者たちはこちらの宝玉に手を触れて下さい」
皆は何も警戒する事は無く、次々と宝玉に触れて行った。だが、そのステータスを見て俺は驚きに包まれていた。それは…
名前 如月英人
職業 勇者
種族 人間Lv1/Lv100
体力 500/500
気力 650/650
魔力 550/550(魔剛+100)
攻撃力 350(剛躯+100)
防御力 420(剛躯+100)
魔法力 450(魔剛+100)
抵抗力 660(魔剛+100)
速度力 570(剛躯+100)
【固有技能】 勇者補正
【職業技能】
限界突破Lv1.戦場適正Lv1.聖剣適正Lv1.
【汎用技能】
言語理解.計算Lv2.鼓舞Lv2.気配感知Lv1
【戦闘技能】
体術Lv3.剣術Lv4.格闘Lv1.
【強化技能】
剛躯Lv1.魔剛Lv1
【耐性技能】
痛覚耐性Lv1.魔術耐性Lv1.斬撃耐性Lv1
【称号技能】
異界の勇者
例えば如月英人のステータスだが、他にも多少の前後は有れど、皆がこのレベルのステータスだった。俺は、羨ましさと自己嫌悪でどうにかなってしまいそうだった。
そんな俺を嘲笑うかのように、順番が俺に到達せんとしていた。
「では、小見門悠馬。」
「はい…分かりました。」
俺のステータスは、昨日の夜に確認した通りの低さだった。今ならば分かる。貴族たちの嘲り、罵倒、野次…それら全てが俺を包んでいた。自分の無能さに対して呆れ果てる。
「鎮まれ。簒奪使いと言えども我が認めた勇者だ。嘲りをすることは許さん。」
「ですが王よ。…この者は簒奪です。彼の魔王と同類の技能など、勇者に相応しくありません」
皆がそうだそうだと言う。俺は針の筵の様な状態に陥っていた。(何で、俺だけかこんな目に合わないといけない。何で、俺はこんなにも弱い)…俺を包んでいたのはそれだけだった。
それからは、王様の言葉もあり皆が一様に黙ったが、それでも俺を睨む目は続いていた。今すぐにどこかに行きたい。そんな感情を抱えたまま、夜になって行った。
「皆寝ているかな?」
俺は一人、夜の王城を探索していた。真夜中と言う事も有り辺りは真っ暗だが、技能を試してみたい。誰でも良いから技能の実験台になって欲しい。そう思っていた。
「斯様な時間に外へと出るとはな。死にたいのか?雑種」
「王様…バレましたか。」
俺に声を掛けてきたのはまさかのお人だった。それは、白銀色の覇気を纏った王様だった。王様は一度俺の眼を見ると、呵々と笑い出した。
「何か面白いモノでも見たんですか?」
「いや。雑種の未来が混沌としておるのに気付いただけだ。なに、今のお前が気にする事ではない。」
王様は訳の分からない事を言っている。まるで未来を見通しているかのような物言いだ。だが、王様は俺に背を向けて、手で手招きしていた。まるでついて来いと言っているかのようだ。
「お前に良い物をやろう。ついてくるが良い」
「分かりました。」
そうして王様の後を付いて行くと、何やら荘厳な扉が俺を待っていた。王様が手をかざした瞬間に、何やら魔法陣っぽいモノが露となった。そして、開かれた場所に存在したモノとは…。
「これは…宝物庫?」
「ほう…雑種であろうとも我が宝の一部に驚いていると見える。だが、これだけじゃない。貴様にピッタリの技能を与えよう。」
そうして、王様が一度手を振ると、宝がまるでモーセの海割の如くに道を開けた。その奥に安置されていたのは一つの宝玉だった。
「これに簒奪を使ってみよ。」
「良いんですか?…分かりました。〈簒奪〉」
《技能〈閲覧Lv1〉を簒奪しました》
「これは、あらゆるモノのステータスを見通す力だ。お前の力になるであろう。だが、此度の事は何物にも言うな。もし破った場合は、厳罰に処す。」
「分かりました。」
王様と別れてから、俺は部屋に戻り技能に対して閲覧を施してみた。すると、言語理解はそのままの意味で、基本的な言語を理解すると言う技能だ。だが、簒奪の技能に関する代償が明らかとなった。
1.自力での技能習得の不可
2.簒奪時は相手が無抵抗でなくてはならない
3.頭か心臓部に触れると簒奪が可能になる
「これは…つまり、この世界で生き残るためには奪うしかないと言う事か。」
俺は、部屋で一人考える。この世界が厳しい、生ぬるいにせよ。生き残るためには奪わなきゃならない。




