第13話 拷問の末に
血が…体から流れていく。意識が、ハッキリとしない。…ッツ~。
「あれ?…俺、どうなったんだ?」
「よぉ。起きたか」
辺りをよく見る。俺の手足には枷が付けられている様だ。部屋の中心に置いてある椅子に座っているのは、こうなった元凶ズーラだった。
「どういう状況だ?野郎に見つめられる趣味は無いんだけど。」
「まぁそう言うなよ。だって殺せねぇもん。」
うん?どういう積りだ?俺に傷をつけたナイフなら殺せるはずだぞ。どう言う思惑が有るんだ?
「お前…気絶していたと思いきや実は意識あったのな。硬化を心臓に使うなんてな。これじゃあ武器が通らねぇ。だから此処まで連れて来た。」
「んで。この場所は?お前の素敵なプライベートルーム?」
ズーラは一度ニヤリと笑った。それが、どうしようもなく怖かった。
「あぁ、そうだよ。この場所の防音性、対探知は絶対だ。お前に奪われた技能付与が使えた時代に作った俺のプライベートゾーン…何を叫んでも聞こえないって寸法だ。」
「そうかよ。…んで、拷問でもする積りか?」
ズーラは一度楽しそうな笑顔を見せる。それは、当たって欲しくない予感が当たったのだと。胸の奥にストンと入った。
「知ってるか?痛覚貫通のナイフを腹に刺した状態で、新しく傷をつけるとどうなるか。」
ズーラがナイフをゆっくりと胸に刺す。それと同時に、また新たな短剣で、今度は太ももを刺す。
「なにを…ガァ~、ッツ~」
痛い、何をされた。痛い。痛い。あぁっ…。
「何を…した。」
「正解は、痛覚貫通が全身に回る。お前は化物。痛みには慣れてねぇと思ったんだ。だから、これは、簡単なゲームだ。」
ゲームだと?痛い…ヤバイ。真面に考えが回らん。
「これから1時間以内に30回悲鳴を上げさせたら俺の勝ち、逆に30回を下回ればお前の勝ち。そう言う契約をしようぜ?」
「俺は、やるって言ってねぇぞ」
ズーラは二度、にこやかに笑った。今度は、ハンマーを取り出した。それが、足に振り下ろされた。
「ぐっ…がぁぁっ!!」
「分かったよ。んじゃ。譲歩してやるよ。これから1時間、お前を拷問する。それに耐えれたら俺が従属、耐えれ無かったら、お前が従属。そう言う契約だをしろ。」
痛い…もう嫌だ。だが、このまま終わらせる事は出来ん。
「分かった。従属対象には…何が在っても危害を加えない」
「それで良い。」
《ズーラとの間に〈契約状態〉が付与されました》
「それじゃあヤロウか。楽しい楽しい拷問だ。何度やっても楽しめる」
「うぅ、あ…あっ、ああああ~」
その言葉を最後に、時間の感覚が壊れた。何度、意識が白く飛んだのか分からない。叫んだかどうかも、もはや定かじゃない。ただ、ズーラの声だけが、やけに鮮明に耳に残る。
「今ので……何回目だと思う?」
「…分か…らんな。ひ、…ぎゃああああっ!」
答える余裕なんて無い。喉は震えているのに、声にならない。違う。声を出すこと自体が“負け”だと、身体が理解している。
(数えるな……数えたら、終わる)
時間が進んでいるのか、戻っているのか。ただ一つ確かなのは、この契約が、俺とズーラの立場を確実に削り合っているということだけだった。
「面白いな。普通はもう泣き死んでる頃」
ズーラの声は、どこか苛立っていた。それが、俺がまだ折れていない証拠だった。
「泣けよ。喚けよ。諦めろよ。このビチクソが」
「ふん…苛立っているな」
ズーラはかなり苛立っている様で、俺を無作為に殴り始めた。だが、さっきまでの痛みじゃない。まだ、耐えられる。隠せ、隠せ、必死に隠せ。気取られずに…。
「…念力」
「あん?…まさk」
念力と射出の組み合わせは凄いな。頭蓋骨を一発で壊した。だが、これで勝った。後はこの手枷を外すだけだ。
ブチチチィィ~ビュルン
俺は触手を使い、痛みの要因であるナイフを抜き取り、自分に両腕と両足を切断した。今までの俺ならば躊躇っていた一撃。だが、今は違う。
「ハァハァ…殺したんだ。俺が、此奴を、ズーラを…殺したんだ。…ウォエ~」
胃液の込み上げる感覚と共に俺は石造りの床の上に、盛大に巻き散らした。勝った。筈だ。なのに、勝ったという実感だけが、どこにも無かった。
だが、俺の思考回路は至って冷静だ。これから何をするべきか。何を為すべきなのか。
「…おっと」
俺は立ち上がろうとしたが、無理だった。長い時間縛られていたせいなのか、それとも、再生がまだ完璧じゃ無いのか、俺は床に手を付いて倒れてしまった。
「王宮に戻らないと…いけないのに」
「…おい、どうした?盛大に吐き散らした音がしたぞ。なんだ?奴が吐きでもしたのか?」
入ってきたのは一人の男だった。男は俺とズーラの死体を見ると、直ぐに剣を抜いた。俺は近くに落ちていた短剣を拾い、男に差し向けた。
「お前がァ~。ズーラの兄貴を殺したのか。」
「お前…此奴の舎弟か何かか?」
男が俺の腹を蹴る。吐きそうだ。しかし、関係性が見えて来たぞ。ここで死んでいるズーラは、かなりの大物みたいだな。まぁ俺には関係ない。
「俺を殺しかけたんだ。相応の報いがあるべきだろう?殺せ触手」
触手で複数の短剣を拾い戦う。剣術と触手があるからこその戦術だ。こうして実験してみるのも良いな。
「うん…凄く調子が良い」
頭の中の。大事な何かが壊れた音がする。だが、今の俺はそれを認識する術を失っていた。
「こんなものか?この程度、ズーラの足元にも及ばんぞ」
「兄貴が…兄貴がテメェなんぞに負ける訳ねぇだろ!」
此奴には悪いが…あんまり勝負にはならなかった。ステータス上は俺よりも格上の全ステータス500前後だが。致命的に戦闘経験が足りていない。技能構成からも分かる。
「お前…コバンザメだろ?」
「コバン?」
あぁ…コバンザメを知らないのか。確かにそうだ。此処は異世界だ。知らなくても可笑しくは無い。
「つまりはズーラの零した餌を必死に拾い上げるハイエナって言ってるんだよ。…まぁお前が知らなくても関係ない。」
「ヤメッ…分かった。お前に従う。だから…」
命乞いか…ここで殺す価値はない。ふむ。
「本当に従うのか?」
「あっあぁ。お前の言う事なら何でも聞く。だから、助けてくれ」
バチュン…そんな音と共に頭蓋骨を触手で握りつぶした。眼から突き刺し脳をかき回す。これは必殺コンボだな。
俺は、既に沈黙した死体の胸に手をやる
《技能〈視力強化Lv1〉を簒奪しました》
《レベルが1上昇しました》
呼吸をする。血と、吐瀉物の臭いがする。だが…それ以上に。
「うん…人を殺しても何も思わんな」
それが壊れたものだと、まだ俺は名前を付けられずにいた。




