第12話 絆と裏切り
「なぁ、少し良いか?」
「うん?悠馬君か。どうしたんだい?」
俺は英人に声を掛けていた。それは、技能の実験台と言っちゃあ聞こえが悪いが、俺自身の戦闘能力を高める為に如月君に修行を付けてもらう事にした。
「俺自身の戦闘能力を高めたくてね。練習の相手になってくれないか?」
「勿論良いさ。それじゃあ、少し本気で行くから。」
最後の言葉にどこか寒気を覚えつつも、俺は木剣を手に取って振っていた。うん。剣術の技能がちゃんと機能しているな。
「それじゃあ…行こうか」
「あぁ。」
瞬間…剣と剣がぶつかり合う。その音にクラスメイトの視線が突き刺さる。俺はそれを無視して、剣を斜めに傾ける。
「おっとぉ…瞬間的にその判断が出来るのは凄いね。」
「当たり前だ。こっちとら思考系の技能を奪ってんだぞ」
此奴の技能欄には思考加速の技能は無い。そこは唯一のアドだ。だが、英人は俺の想像を上回っていた。英人は体を持ち直したかと思ったら、剣をまっすぐに持ち替えた。
「耐えろ〈火耐性〉燃えろ〈炎付与〉」
えぇっと…確か火魔術。だったか?こういう時にハスクと適宜返答が出来れば楽なんだけど…
「あっぶな」
「油断大敵だよ」
俺がちょっと思考した隙に炎が付与されている剣を突き立てて来た。咄嗟に回避したが、そのせいで肩に火傷を負ってしまった。
「クラスメイト相手にちょっとは手加減しろよ」
「君には再生が有るんだろ?ちょっとは本気を出させておくれ」
瞬間、英人が風を切り裂かんとする勢いで接近する。俺は咄嗟に触手を飛ばして、勢いのまま回避する。
「それが、鈴の言っていた触手か。うん。凄い技能だ。」
「どうかな…」
俺は一旦後ろに飛んで念力に集中する。木剣を複数操作して、英人に狙いを定めて勢いよく射出する。だが、その全てを当たる直前で叩き落す。
「これでダメって。嫌になるよ。」
「そうかい?僕にこんな芸当は出来ない。それは凄い才能だよ。でも、僕には勝てない」
英人が離した距離を詰めるかの如くに飛んでくる。それを必死に木剣で抑えていたが、木剣は見る影も無く焦げ落ちた。
「君の負けた」
「ふん…これで戦いが終わりなら。俺はとっくに死んでいる。」
俺は両手を触手へと変貌さして、数の勢いで英人を倒すべく行動する。触手の本気のスピードは目にもとまらぬ程だ。だが、それに俺が対応しきれていない。
「クッソ、早い」
「…いや。遅い」
英人は剣を一振りしただけだ。ただそれだけで触手を叩き落した。完全なる負けだ。俺は両手上げて降参の意を示す。
「降参。やっぱり凄いね。如月君は」
「…英人」
俺は予想外の答えに一瞬だけ戸惑ってしまった。
「下の名前で呼べって事?」
「あぁ、僕と君は戦友だ。そんな中で、如月君何て、変だろ?」
その笑顔は昨日の夜の鈴の様に、辺りを照らすようだった。
「…あぁ、分かったよ英人」
「此方こそ宜しく。悠馬」
俺達は握手をした。願わくば。これが永遠と続きますように。
コンコン「入るぞ?」
「なんだ。メギドさんか入ってどうぞ」
何だ。メギドさんか。今日は後で技能持ちを受け取りに行くから素早く済ましたんだがな。
「はぁ~…ちょっと座って良いか?」
「えぇ、どうぞ。」
メギドさんはかなり疲れている様だった。まるで、自分だけが秘密を抱えている。そんな感じが見て取れた。
「これから語る事は独り言と思ってくれ。王国の上層部で、お前を不要と断ずる声が大きくなった。」
「やっぱりですか。」
俺は何となくだが予感していた。技能を奪ったりするのは既に〈模倣〉〈吸収〉と言った。奪う一辺倒じゃ無く、他の戦闘に活用できる技能持ちが居る。そんな中で、俺だけは異質だ。
「どうしてですか?俺が、技能の習得すら満足に出来ないからですか?」
「いや…そうじゃ無い。むしろ俺としては優秀だ。戦闘に対する心構えが出来ている。自力で技能収集の道を模索する。これ以上ない程の満点だ。」
バレてたんだ。…まぁ、仕方ないか。何せ昨日の件に鈴が居たんだ。メギドさんに伝わっていない筈が無い。
「鈴ですか?」
「いや…隠者の技能を奪った日の夜から知っていた。」
鈴が原因じゃ無いのか。だったらどうしてバレたんだ?隠者は完璧の筈だ。
「隠者の適用範囲外の騎士が居ただろ?そいつが見た。そこから予測しただけに過ぎん。まぁ、昨日の猫美の件が一番だったがな。」
あぁ、あの人たちか。確かにあの人たちは隠者の適用範囲外だ。こういう事も知っておかなきゃだな。
「俺は、今度の迷宮訓練でお前を殺す。…迷宮に第60層に転移する罠がある。その先遣としてお前を派遣する。」
「さっきの話。どうして俺なんですか?弱いからですか?」
それを言うとメギドさんは少しだけ悲しい顔をしていた。
「そうじゃ無い。お前は優秀だ。いや、優秀過ぎると言った表現が正しいか?詳しく言えん。言ったら俺が死ぬ。」
「分かりました。詳しくは聞きません。ですが、ちゃんと生き残りますよ。」
それを言うと、メギドさんの表情が少しだけ明るくなった。どうやら求めていた答えに合致したらしい。
「それじゃあ俺はもう行く。あまり、大騒ぎはするなよ」
「はい、分かりました」
それから俺は、メギドさんから逃げるようにスラム街にまで繰り出した。その場所には、数十人ほどの人間が居た。
「求めていた以上の出来だ。」
「…うん?そうか、此奴が依頼の人間だ。どうだ?俺は役に立つだろ。」
一瞬だけ、ズーラの返答が遅れた。それと同時に、ズーラは醜くも誇らしげに笑う。
「グフッ。ッツ~」
「おいおい…こんな呆気ない手で終わるのか?」
伏兵だ。痛い。この人数に隠れていたのだ。痛い。…不味い。再生が出来ない…痛い。何でだ?痛い。
「ネタバレだ。此奴には再生阻害と痛覚貫通がある。幾ら痛覚が無いからと言っても、これは痛いだろ?俺が現役時代に作った拷問道具だ。」
「お前…生かしておけば…」
俺が言葉を発するも、ズーラは醜く笑った。
「再生が有るからって油断したな。これが、人間様の知恵だ。分かったかよ?化物」
「ふん…この程度で」
俺は必死に体を持ち直すが、血を大量に失ったこの体は、言う事を聞かない。
「アッハハハァ…まぁ、技能付与が奪われたのは痛いが、それでも、クソッ垂れたお前を殺せるんだ。差し引きはちょいプラスって所か?」
「クソが…覚えていろ」
俺は痛む体に鞭を打って、触手を飛ばす。だが、掠りもしなかった。俺はそれを最後に、意識を保てなくなった。




