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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部〜  作者: カズー
第ニ章

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9/10

9話 獲得した物

 今日の狩猟は、太陽がまだ天頂に昇りきる前に終わりを迎えた。

 理由は単純――十分すぎるほどの獲物を得たからだ。


 鹿が七頭、イノシシが三頭。

 そしてシャムが得意満面の顔で獲ってきたウサギが十匹。

 小さな体躯を目一杯に反らせ、尻尾をピンと立てて胸を張るシャムは、まるで英雄気取りだ。


「どうニャー!シャムが一番多く獲ったニャ!」


 その様子に思わず笑いながらも、オレも負けてはいない。

 森の奥で遭遇したトレントを五体も討伐し、槍兵としてのレベルが20を越えた。

 そして報酬のように新たなスキル――全体攻撃《乱れ突き》を手に入れた。


 狩猟チームはその成果を誇るように、エルフの里へと堂々と帰還する。

 荷車には獲物が山ほど積まれ、皆の足取りは軽く、声も自然と弾んでいる。


 獲物は加工班に引き渡し、オレたちは集会場に併設された大きな食堂へ向かう。

 シャムは当然のようにオレの横を歩き、毛並みを太陽光にきらめかせながら鼻を鳴らした。


「僕も行くニャ!」


「もちろんだ。今日はシャムも大活躍だったからな!」


 褒めてやると、再び得意げに胸をそらす。


「えっへんニャ!」


 エルフの食堂は、森の木々から削り出した太い梁が天井を支え、陽光が差し込む窓からは森の香りが漂ってくる。

 広々とした空間は、狩猟メンバーが全員入っても余裕があるほどだ。オレは監視役のエルフたち、そして狩猟リーダーと同じテーブルに腰を下ろした。


 ほどなくして、リーダーの手配した食事と飲み物が各テーブルに運ばれてくる。

 焼き目のついた干した鹿肉、香草の香りが立ちのぼる野菜、熟れた果物の皿、そして香りの豊かなパン。

 今日の獲物は加工中なので並ばないが、それでも豪勢だ。

 飲み物はフルーツ酒だろうか、リンゴ酒やワインが並び、彩り豊かな食卓となった。


 皆の手元に酒が行き渡ったところで、狩猟リーダーが椅子を押しやり、堂々と立ち上がった。


「皆、今日はよくやってくれた! 久しぶりの豊猟だ。心から感謝する!」


 そして、視線をオレに向けて続ける。


「特にカズーさん。いつもなら魔物に邪魔されるところを、今日はすべての魔物を討伐してくれた。本当にありがとう!」


 その言葉に、周囲から一斉に声援が上がる。


「凄かったぞ!」

「最高の魔法だ!」

「お前はもう、立派な狩猟メンバーだ!」


 歓声は次第に落ち着き、リーダーが改めてオレに向き直る。


「と言うことだ。今日からあなたは正式な狩猟メンバーだ、カズーさん!」


 胸の奥に熱いものが込み上げてくる。

 見知らぬエルフの里で、異種族の自分を受け入れ、仲間として認めてくれる――。

 この温かさが、ひどく嬉しかった。


「皆さん、ありがとうございます。狩猟メンバーの一員になれて、心から嬉しいです。これからは、私のことはカズーと呼んでください」


 また歓声がわき上がる。


「分かったぞ、カズー!」

「これからも頼むぞ!」

「魔法使いカズー!」


 温かな声の渦に包まれながら、リーダーが高らかに杯を掲げた。


「では、カズーが仲間になった祝いだ。今日は食べて飲もう! 乾杯!」


 狩猟メンバーが一斉に立ち上がり、酒杯を鳴らし合う。

 オレも隣の監視役のエルフと杯を交わした。


 エルフたちは皆、美男美女ばかりだが、よく見れば顔立ちには年輪のような個性が刻まれている。

 そんな彼らと杯を交わせば、種族の垣根などどうでもよくなる気がした。


 ふと視線をやると、シャムがいつの間にかどこからか失敬してきた鹿肉を頬張っていた。


「美味しいニャ!」


 その無邪気さに、思わず苦笑が漏れる。


 宴はいつまでも続き、夜の更ける気配など誰も気にしなかった。


 ―――そして、一ヶ月が経つ。


 オレにもこの里での暮らし方が身についてきた。

 狩猟メンバーとして週に一度狩りに出かけ、集会場で食事をし、自由な時間は森の散策に充てる。


 歩き回るうちに、このエルフの森の全体像が見えてきた。

 外縁部は鬱蒼とした木々が壁のように並び、外界からの視線や侵入を遮っている。

 そのためか中型の肉食獣すら入り込むことはなく、エルフたちは安全な土地で生活している。

 里には住居や畑、果樹園があり、豊かな土地は野菜や果物、穀物を育み、水は遠くの山々から穏やかで澄んだ川の流れを通り何本も森へと注いでいる。


 まるで――楽園だ。


 そんなある日。

 オレは集会場へ向かう理由があった。

 昨日、狩猟の最後に魔物を倒した瞬間、ついに念願の新ジョブ[弓兵]を獲得した。

 長く育ててきた槍兵がレベル40に達し、派生職として得られたものだった。


 弓兵となれば、当然弓と矢が必要だ。

 狩猟メンバーには支給されると聞いていたので、オレは食堂へ向かった。


 すると、ちょうど運の良いことに長老――シルエリアが食事を取っているところだった。

 食事が終わるのを見計らい、声をかける。


「長老様、少しお時間よろしいでしょうか?」


 柔らかな笑みを浮かべ、彼女は答える。


「ええ。でも“長老様”ではなく、シルエリアと呼んでちょうだい、カズーさん」


「シルエリア様、ありがとうございます。実はお願いがあって、狩猟メンバーが使っている弓と矢が欲しいのですが」


 オレは盗賊から取った弓をアイテムボックスに入れている。だが、その弓はロングボウで、エルフの弓よりも大ぶりで扱いづらい。

 できれば里の皆が普段使っている扱いやすそうな弓を手にしたかった。


「分かりました。狩猟リーダーから、あなたが正式に仲間入りしたと報告を受けました。こちらへどうぞ」


 シルエリアは優雅な足取りで階段を上り、集会場二階の倉庫へ案内してくれた。

 扉を開くと、磨き込まれた木の香りがふわりと鼻をくすぐる。

 壁には弓が整然と並び、矢束も置かれている。


「こちらが狩猟メンバーの弓と矢です」


 オレは一本の弓と矢束を手に取った。

 手に馴染む滑らかな木肌。軽いが芯のある質感。

 その瞬間、ゲームシステムの表示が視界に浮かび上がる。


『エルフの弓:命中率アップ』

『エルフの矢:命中率アップ』


(これは……かなりの良品じゃないか)


「シルエリア様、とても良い弓と矢ですね」


「ええ、当然ですとも。さて、カズーさん。この弓と矢……どうしますか?」


「は? どういう意味でしょう?」


「あなたは狩猟メンバーですから、貸し出しはできます。しかし――もしあなた自身の物として持っておきたいなら、売ることもできますよ」


 なるほど、とオレは頷く。

 エルフの森を出る日がいつか来たとき、手元に残しておきたい装備でもある。


「……おいくらでしょうか?」


 シルエリアはわざとらしく考える仕草をしたあと、微笑む。


「カズーさんは商人でしょう? あなたが妥当だと思う値段でいいですわ」


(うっ……こういうときに限って、自分が商人だって設定が足かせになる……!

 大剣は金貨一枚だったか……なら、弓と矢で……)


「弓と矢百本で金貨二枚ではどうでしょうか?」


 恐る恐る顔色を伺うと、シルエリアは真面目な表情を保ちながら、その奥で笑いをこらえているのが見えた。


「金貨二枚――ええ、とても良い値段です。お譲りしましょう」


 (……しまった。

 オレが商人としては未熟な事を看破されていたか)


 オレは弓と矢を受け取り、金貨二枚を渡すと、シルエリアは満足げにニヤリと笑って懐にしまった。


 こうして、狩猟メンバーとしての装備を揃えたオレは、新しい力を手に森へ踏み出していくのだった。


 そしてオレは学ぶ。


〈交渉で手の内を見せたら負け〉


 と言うことを。

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