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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部〜  作者: カズー
第ニ章

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8話 里の生活

 ―――数日後。


 オレは、いまやすっかりエルフの里での生活に馴染んでいた。

 ここエルフの森は、昼は涼しい風が木々を撫で、夜は焚火の要らないほどの穏やかな暖かさが残る。

 まるで一年中、避暑地にいるような心地よさだ。


 エルフの森に入った当初は緊張していたが、今ではその緊張も霧散している。

 木々のざわめきは柔らかく、葉を渡る光は銀色がかった緑を揺らし、鳥たちは人を恐れず枝から枝へと飛び移る。

 この森全体が“客人であるオレ”を受け入れてくれているようにすら感じた。


 さらに驚くべきことに、食事は集会場に行けば誰でも自由に食べられ、しかも無料だという。

 エルフたちは食料を“恵み”と呼び、皆で分かち合うのが当然なのだと長老は言っていた。

 金銭や利害で動く世界を渡り歩いてきたオレにとって、その価値観は新鮮で、不思議と心が温まった。


 昨日、長老から──【解毒草】100束の準備が整った──と告げられたため、オレは朝食を取った後、集会場の二階にある倉庫へ向かった。


「トン、トン、トン──カズーです。【解毒草】を受け取りに来ました」


「入ってください」


 木の扉越しに長老の柔らかな声が返ってくる。

 部屋へ足を踏み入れると、床の上に積まれた【解毒草】100束が青々と輝いていた。

 森の香気が強く、気持ちが澄んでいくようだ。


「カズーさん、こちらがお約束の【解毒草】100束です。どうぞお受け取りください」


「はい、確かに……ありがとうございます」


 オレは、99束をアイテムボックスへ収納し、1束だけ予備としてポケットへしまう。


 そのとき、長老が優しく尋ねてきた。


「カズーさんは、これからどうなさるおつもりですか?」


 その問いに、オレは一瞬迷う。

(この地は快適だし、賞金稼ぎや男爵の追手がエルフの森に踏み入る可能性もほぼない。

 しばらくここに身を置き、ほとぼりが冷めるのを待つのが一番だ)


 しかし──

 ただ食べ、寝ているだけの客でいるわけにはいかない。

 (バツが悪い。何か働くべきだ)


「できれば、しばらくこの里に滞在したいと思っています。

 その……私でもできる仕事があれば、手伝わせていただけませんか?」


 長老は少しだけ目を細め、まるで人の内面を見通すように静かに言った。

「カズーさんは商人でしたね。ただ、この里は閉ざされた土地ですから、外との商いは滅多に起こらないのです。

 商人の仕事は……ほとんどありません」


「実は、私は冒険者もしております。魔物の討伐は得意です」


 そう言って、オレはハンドレッド等級の冒険者証を取り出し、長老へ掲げた。

 証には、これまでの戦いの痕と、汗が染み込んだ重みがある。


「ああ、そうでしたね。狩猟リーダーと会った際に魔物を倒していたと聞いています。

 わかりました。では──狩猟チームの護衛をお願いしましょう」


 その言葉に、胸が高鳴る。

(魔物討伐で経験値も入る。運が良ければ、エルフの弓技も教わるチャンスがあるかもしれない)


「喜んでお引き受けします」


 オレは深く頭を下げた。


 ―――翌朝。


 まだ太陽が完全に顔を出す前、薄闇の森はしっとりとした冷気に包まれていた。

 待ち合わせ場所に向かうと、すでに多くの狩猟メンバーが集まっている。

 弓を背負った者、犬を連れている者、気配を殺して瞑想する者──皆が訓練された動きで狩りの準備をしていた。


 その中に、以前オレを森へ案内してくれた狩猟リーダー、エンダールの姿がある。


「エンダールさん、今日はよろしくお願いします」


「カズーさん、こちらこそ助かります。

 もし魔物が出たら、討伐をお願いします。私の近くにいてください」


 そう言うと、彼は他のエルフへ指示を出しに歩いて行った。


 やがて全員が揃い、総勢50名ほどの大所帯が狩場へ向けて移動を開始する。


 ―――2時間後。


 現場に到着したのち、彼らは三つの役割に分かれた。


 ・追い立てチーム(約10名+犬10頭)


 犬たちと共に獲物を囲み、狩場へ追い込む役目。


 ・待ち伏せチーム(40名以上)


 長弓を構え、追い立てられた獲物を一斉に仕留める。


 ・ 監視チーム(エンダール、オレ、見張り2名)


 全体の状況を把握し、魔物の接近があれば討伐を行う。


 オレは大樹の根元に位置を取り、槍をアイテムボックスから手元に出して構える。

 背中のバックパックからはシャムが顔を出し、尻尾を揺らした。


「主! 僕も戦うニャ!」


「いいけど……大虎をテイムするのは禁止だ。皆が腰を抜かすからな」


「……うニャ……」


 見るからにしょんぼりしてバックパックに引っ込むシャムに、思わず笑いそうになった。


 その時──大樹の上の見張りが声を上げる。


「リーダー! 追い立てチームが獲物を囲みました!」


 直後、森の空気が一気に緊張を孕む。


「ワン! ワン! ワン!」

「ワン! ワン! ワン!」


 犬たちの吠え声が木々を震わせ、追い立てチームが獲物を狩場へと導いていく。


 待ち伏せチームは矢を番え、呼吸すら抑えて獲物を待つ。

 森全体が狩猟の気配に染まっていく。


 だが──。


「魔物だ! 狩場近くに魔物が出た!」


 見張りの叫びが、空気を裂くように響いた。


「わかった! カズーさん、行きましょう!」


 エンダールは駆け出し、オレもそれに続く。

 走りながらオレは確認する──


「魔物はトレントですか?」


「はい。普段は木に擬態しているので気づけません。

 しかし狩りの気配を感じると、動き出して襲いかかってくるのです」


 案内された先には、一匹の巨大なトレントが待ち伏せメンバーを威嚇していた。

 さながら地を歩く老木。黒ずんだ幹から軋むような音が響き、ねじれた枝が触手のように揺れている。


 弓矢ではダメージが少ないようだ。


「オレがやる」


 オレは前へ出て、攻撃魔法を放つ。


「マルチファイアブレード!

 ファイアアロー!

 ファイアボール! サンドボール!」


 炎の刃が枝葉を切り裂き、火矢が幹へ突き刺さり、火球と土球が着弾して爆ぜる。

 トレントはオレの魔法で後退るが、倒れない。ならば連発するまでだ──


「マルチファイアブレード!

 ファイアアロー!

 ファイアボール! サンドボール!」


 第二波の魔法が命中し、トレントが大きく怯んだ瞬間──

 オレは槍を構えて突撃し、そのまま幹へ深々と突き通す。


 ズンッ!


 霧が爆ぜるように広がり、魔物は消滅した。


「オーー!!」


 周囲のエルフたちから歓声が上がる。

 そのとき、監視役の一人が駆け寄ってきた。


「リーダー! もう一匹出ました! こちらもお願いします!」


「カズーさん……いけますか?」


「問題ありません」


(オレには《オート・リカバー》のスキルがある。HPもMPも時間があれば直ぐに回復する)


 オレは、次の魔物の元へ森を駆けていく。


 そしてオレは学ぶ。


〈狩りはチームで成し遂げる〉


 と言うことを。

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