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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部〜  作者: カズー
第ニ章

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7話 商人

 オレは、シャムの様子が気になって仕方がなかったので、ゲームシステムからシャムのステータスを確認する。

 (今までついていた状態異常は消えている)


 それを確認した瞬間、胸の奥に張り詰めていたものがふっと溶けるように和らぎ、久しぶりに深く眠れた。


―――翌朝。


 借りているこの家は、外から見ると小ぢんまりとした造りだが、オレとシャムにはそれが逆に心地良く、押しつけがましくない静けさがあった。

 久方ぶりの柔らかいベッドで眠ったおかげで、体中に溜まっていた疲れがすっかり抜けた気がする。

(オレもシャムも、HP・MP共に全快だ。完璧)


 身支度を終えたところで、扉が優しく叩かれる。 「トン、トン」と、控えめでありながらしっかりとした音。


「どうぞ」


 オレが声を掛けると、扉を開けて入ってきたのは銀の髪の女性エルフだった。

 長い銀の髪は背中まで流れ、年齢ではなく知恵を宿すかのような落ち着いた瞳が印象的だ。


「おはようございます、客人。私はここの長老をしておりますシルエリアと言います。

 よろしければ、一緒に朝食を食べませんか?」


「おはようございます。はじめまして、カズーと申します。

 泊めていただきありがとうございます。ぜひ、お願いします」


 腹も鳴り始めていたので、断る理由などあるはずもない。


「では、こちらへ」


 シルエリア長老は柔らかい笑みを浮かべて、オレを案内してくれた。


 案内された先にあったのは、里の中でもひときわ大きな二階建ての建物だった。

 周囲の家々と比べても明らかに立派で、どこか神聖さすら感じさせる。


「ここは集会場となります。食堂や倉庫、会議室……

 里の者が必要とするものは大抵ここに揃っています。まずはこちらへどうぞ」


 長老が案内してくれたのは二階の一室だった。

 扉を開けると、そこは広い倉庫のような空間で、

 壁際には武器や防具、生活用品、農具まで、実にさまざまな物資が並んでいる。

 棚の間を歩くと、木の香りと薬草の香りがほのかに混ざり、エルフの里らしい落ち着きを感じた。


 長老は棚から丸い水晶玉――オーブを取り出し、オレに向き直る。


「カズーさん、何か身分証はありますか?」


(オーブか……。確かに、外から来る人間には確認が必要だよな)


 オレは、クルワンの弟子の身分証、ハンドレッド等級の冒険者証、

 それに商人ギルドの一般会員証の三つを持っている。

 ここには商人として入ったので、商人ギルドの会員証を選んだ。


「これでお願いします」


 長老に会員証を手渡すと、長老はそれをオーブに翳した。


 オーブの内部に淡い光がゆらりと灯り、確かめるように脈動する。


「……確かに商人のようですね。ありがとうございます」


 長老は頷いて会員証を返してくれた。

(良かった⋯)


 そのまま一階へ案内される。

 建屋の一階は広々とした食堂になっており、朝の柔らかな光が差し込む中、たくさんのエルフが静かに談笑しながら食事を取っていた。


「カズーさん、こちらへどうぞ」


 長老に促されて席に着くと、すぐに料理が運ばれてきた。

 どうやら長老が事前に手配してくれていたらしい。


 木製の皿に盛られた野菜のスープは湯気とともに優しい香りを立て、木の実がぎっしり練り込まれたパンは見ただけで食欲をそそる。緑色のフルーツはカットされ、瑞々しい果汁が光を反射してキラキラしている。


 口に運ぶと、野菜のスープは驚くほど優しく、心の奥が温かくなる味だった。

 パンの木の実の歯ごたえは心地よく、香ばしさが後を引く。

 フルーツは甘酸っぱく、口いっぱいに清涼感が広がる。


 気付けば、オレは無言で一心不乱に食べていた。

 長老はそれを邪魔せず、微笑みながら静かに待っていてくれる。


 食べ終えて、ふぅと息をついたところで、長老が穏やかに話し出した。


「カズーさんは、商人とのことですが……

 何か、この里で売買を考えているものはありますか?」


 オレはアイテムボックスにある物を思い浮かべながら、

 この里で需要がありそうな物を選ぶ。


(この朝食を見る限り、穀物や野菜、果物は豊富だ。生活物資も揃ってる。

 なら……これだな)


「【ハイポーション】ではどうでしょうか?」


 長老は目を瞬かせ、少し驚いた様子を見せた。


「良いですが……そんなに数を持っているようには見えませんが……」


 オレは自分のバックパックを軽く指差す。


「魔法のバッグを持っています。でも内緒でお願いします。高価な物ですので」


「ああ、なるほど……。それなら納得です。

 カズーさんは、何か欲しいものはありますか?

 生憎、お金はあまり持ち合わせておりません……」


 欲しいものは、もう決めていた。


「【解毒草】が欲しいのですが、【解毒薬】と違いはありますか?」


 長老は頷きながら説明してくれる。


「【解毒薬】の元になる材料が【解毒草】です。

 解毒草には消費期限がありますが、解毒薬にはありません。

 ただ、解毒薬を作るにはアイテム士に依頼しなければなりませんので……。

 もし【解毒草】でよければ、ハイポーション1本につき100束お譲りしますよ」


(価値基準が全然違う……!)


 だがオレにはアイテムボックスがある。

 中に入れてしまえば劣化とは無縁。

【解毒草】でも【解毒薬】でも、オレにとっては同じだ。


「わかりました。では、こちらでお願いします」


 オレはハイポーションを一本取り出し、長老へ差し出した。


 長老は目を丸くしながら受け取った。


「本当に……良いのかしら?ありがとう。

 解毒草100束を集めるには数日かかるのだけど、待っていてくれる?」


(オレにとってはむしろ好都合だ。この里は隔絶されていて、賞金稼ぎも、男爵の追手も来られるはずがない)


「もちろんです。

 私はエルフの里に興味がありますし、できれば長期間滞在したいぐらいです。

 こちらでは物々交換が基本だと聞きましたが、よければ――滞在費としてお納めください」


 オレは金貨を一枚差し出した。


 長老の顔がぱっと明るくなる。


「まぁ!金貨を頂けるの!ありがとう!

 お金はあって困るものではありませんからね。

 いつまででも、ここに居てちょうだい!」


(やっぱり、長老ともなると“お金の大切さ”ってやつがよく分かってるんだな……)


 そしてオレは学ぶ。


〈お金の有難味〉


 と言うことを。

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