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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部〜  作者: カズー
第ニ章

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6話 狩猟リーダー

 ―――エルフの里――その日の朝へと遡る。


 夜明けの光が森の梢を金色に染めはじめた頃、私はいつものように狩猟リーダーとして狩猟チームの仲間二人を連れ、静かなエルフの里を出発した。森には朝露がきらめき、草木は清らかな気で満ちている。いつもならば森が目覚める音――鳥たちの囁き、獣たちの足音――がそこかしこに響くのだが、その日は奇妙なほど静かだった。


 風の流れさえ、どこか落ち着きがない。


「……気配がないな。普段なら、そろそろウサギの一匹や二匹は飛び出してきてもいい頃だが」


 仲間のひとりが眉をひそめる。

 確かにその通りだった。草食動物が減ること自体は珍しくない。たまに肉食の獣が近くを荒らすと、草食動物たちは森の奥深くまで逃げ込むものだ。だが、今日のこれは明らかに違う。ウサギ一匹いないというのは、森が“息を潜めている”とでも言うような異常さだった。


 胸の奥に小さな不安が灯る。


(何かが起きている……)


 私たちは周囲を警戒しつつ、足をさらに遠方へ伸ばすことにした。すると――


「……あれを見ろ」


 仲間の声に目を向けた瞬間、私は思わず息を呑んだ。


 大虎と人間が並んで、巨大なトレントと戦っていた。


(ありえない……)


 大虎は肉食の獣で人間には危険な存在だ。人間と共闘など、本来あってはならない。しかもその人間は、大虎の動きに合わせるように戦い、見事な連携でトレントを討ち倒してしまった。


 倒れたトレントが大地を揺らし、静寂が戻る。大虎は一声だけ低く唸ると、森の奥へ消えていった。それを見届けた人間は、肩で息をしながらも周囲を確認している。


(只者ではない……)


 そう確信した私は、慎重に距離を保ちつつ、その人物へと近づいた。すると彼は気配を察したのか振り向き――違和感のない、美しいエルフ語で挨拶してきた。


「やぁ、こんにちは」


 あまりに自然な発音に一瞬、言葉を失う。


「ご機嫌よう。……エルフの言葉が、ずいぶん上手だね」


「ありがとうございます。エルフの文化に興味があって、独学で学んだんです。でも……ここに来るのは初めてで。エルフの街って、近くにあるんですか?」


「街なんて大層なものじゃないよ。あくまで“里”だ。私たちは“エルフの森”と呼んでいる。……君は何の目的で、そんな場所へ向かおうとしているんだい?」


「私は商人のカズーと言います。エルフに興味があって、ぜひ一度その里を訪れたくて……あと、取引もできればと。しかし、それ以上に——」


「この猫が、魔物にやられて衰弱してしまって。助けてもらえないでしょうか?」


(そんな粋狂な人間がいたとは……)


 猫を助けるために必死になる人間など、私は聞いたことがない。だが、彼の目は真剣で、嘘をついているようには見えなかった。


「……案内しよう。“エルフの森”へ」


 その代わり、私は道順を覚えられぬよう、あえて森を迂回し、回り道をしながら進む。だが彼はそれにも文句を言わず、ただ静かに森の景色を眺めていた。

 エルフの森に差し込む光を見上げ、その度に感嘆の声を漏らしている。


(……本当に、悪い人間には見えない)


 やがて里へ到着し、私は彼を来客用の家に案内した。

 そこは外の者が泊まるための場所で、木の香りが心地よい簡素な造りになっている。


「カズーさん、こちらをお使いください。解毒草を持ってきます」


「ありがとうございます。えっと……お名前を伺っても?」


「失礼しました。私は狩猟チームのリーダー、エンダールと言います」


「エンダールさん、よろしくお願いします」


 短く礼を交わすと、私は長老へ報告に向かった。


 集会場に入ると、ちょうど一人佇む長老の姿が目に入る。銀の髪はまるで年輪のように美しく、その背筋は若者よりも真っすぐだ。彼女――シルエリア様は、里の誰もが尊敬する穏和な長老である。


「シルエリア様、お話よろしいでしょうか?」


「エンダール。今日は早い帰りね。獲物がたくさん捕れたのかしら?」


 少し気まずかったが、気にする暇もない。


「実は……獲物は一匹も。ですが、里の近くで人間の商人を見つけまして。来たいと言うので案内しました」


 シルエリア様はしばし瞳を閉じ、静かに思案したのち言う。


「そう……。わかりました。では、あなたが世話をしてあげなさい。私も時間を見て会いに行きます」


 その言葉に私は安堵し、集会場から解毒草を持ち出して来客用の家へ戻った。


「カズーさん、こちらが【解毒草】です」


(猫に、これを食べさせられるのだろうか……?)


 そう思いながら見ていると、カズーさんは猫に知らない言葉で優しく語りかけた。


「シャム、これは解毒草だ。毒を治してくれる。頼む、食べてくれ」


「主、わかったニャ……」


 驚いたことに、彼らは会話しているようだった。

 猫が人の言葉に応じている――私にはそうとしか見えない。


(やはり……ただ者ではない)


 猫――シャムは嫌々ながらも解毒草を口にし、水とともに飲み込んでいく。

 そのうち呼吸が落ち着き、表情が少し和らいだ。


「エンダールさん、本当にありがとうございました。おかげで良くなったようです。これはお礼です」


 そして彼は銀貨を差し出してきた。


 だが私は首を横に振る。


「お金は必要ありません。ここでは使えないのです。森のものはすべて皆のもの。取引は物々交換になります。商人であるあなたなら、何か里の物と交換して下さい」


 カズーさんは目を細め、深く頷いた。


「そうですか……。では、その掟に従います。私の持ち物で、皆さんの役に立つものがあれば」


 それはエルフにとって当たり前の価値であり、人間にとっては珍しい価値だ。

 だが彼は素直に受け入れた。

 その姿を見て、私は不思議と胸が温かくなるのを感じていた。


 ――こうして、私と人間の商人カズーとの小さな縁は始まったのだった。


 そしてオレは学ぶ。


〈森の恵みは皆のもの〉


 と言うことを。

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