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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部〜  作者: カズー
第一章

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5話 森の里

 近づいてくるエルフ三人は、深くフードを被り、光を拒むように顔を隠していた。すれ違えばただの狩人としか思えない。しかし、近くで見ると、その歩き方や纏う空気の透明さが、どこか人間とは違う。

 オレは槍をアイテムボックスに戻し、敵意が無いことを示すと、胸の前で軽く手を上げた。


「やぁ、こんにちは」


 三人はピタリと足を止め、驚愕に目を見開いた。リーダー格らしき男が、訝しむようにオレを見ながら口を開く。


「ご機嫌よう。エルフの言葉が……ずいぶん上手だね」


(ああ、そうか。ゲームシステムのお陰で、オレはどんな言語でも翻訳して話せる。それを知らない彼らからすれば、突然現れた人間が流暢にエルフ語を使うなんて、そりゃ驚くよな。でも、逆に言えば、言語以外の知識は何も持ってないってことだ)


「ありがとうございます。エルフの文化に興味があって、独学で学んだんです。でも……ここに来るのは初めてで。エルフの街って、近くにあるんですか?」


「街なんて大層なものじゃないよ。あくまで“里”だ。私たちは“エルフの森”と呼んでいる。……君は何の目的で、そんな場所へ向かおうとしているんだい?」


 エルフの瞳が、陽光の反射とともに鋭く光った。

 オレは少し考え、もっとも無難で、なおかつシャムを救う糸口になりそうな返事を選ぶ。


「私は商人のカズーと言います。エルフに興味があって、ぜひ一度その里を訪れたくて……あと、取引もできればと。しかし、それ以上に——」


 オレはそっと抱えていたシャムを持ち上げた。小さな体が、呼吸のたびにか細く震えている。


「この猫が、魔物にやられて衰弱してしまって。助けてもらえないでしょうか?」


 リーダーのエルフはシャムを見ると、眉を寄せ、小さく唸った。

「これは……エルダートレントの毒だね。里に戻れば解毒草がある。薬草かポーションは持っているかい?」


「はい。さっきポーションを飲ませましたし、予備もたくさんあります」


 バックパックを叩くと、エルフの口元に安堵の笑みが浮かんだ。


「それならよかった。猫に薬草を与えるのは難しいからね。……案内しよう。“エルフの森”へ」


 そう言って三人は踵を返し、森の奥へと軽やかに歩き始めた。驚くほど速い。オレは思わず小走りになりながら、その後を追った。


 男が二人、女が一人。揃って美男美女で、どこか中性的な雰囲気を持っている。背は高く、女でさえオレと同じくらいの身長だ。風に揺れたフードの隙間から、耳が少しだけ見えた。想像していたような極端に長い耳ではなく、ほんの少し尖っている程度——それでも、彼らが紛れもなくエルフであると示していた。


(ファンタジーの定番、エルフ……まさか本当に会えるとは。しかも、シャムを助けられる可能性があるなんて……助かった……)


 ―――1時間後。


 道順はまったく分からない。ほとんど同じ景色が続く森の中を、北へ南へ、くねるように進んできた。人間の感覚では絶対に迷う、そんな道のりだ。


 鬱蒼と茂る木々の前で、エルフたちが立ち止まった。普通なら避けて通るような、密度の高い緑の壁だ。


 だがエルフが一歩近づいた瞬間——

 ざわり、と森が息をした。


 生い茂った木々が音もなく動き、緑の壁が裂けて道が生まれていく。


(おお……!これ、秘密の通路ってやつじゃないか……!)


「まだ里までは少しかかる。ついてきて」


 彼らの声は、森の中に吸い込まれるように柔らかく響いた。


 やがて地面がなだらかになり、踏みしめるたびに草の香りがふわりと舞う。風の質が変わった。湿り気のある森の空気から、どこか生活の匂いが混ざった空気へ。


 そして——


「おお!これが……エルフの里か!」


 思わず声が漏れた。


 そこに広がっていたのは、想像すら追いつかない光景だった。


 高くそびえる巨木と、太くてしっかりした木の上に、いくつもの木造の建物が立ち並び、枝から枝へと延びる橋が森全体を網の目のようにつないでいる。

 生活音が風に乗って降りてきて、鳥のさえずりと混ざり合う。


 果実をつける木々、薬草らしき葉の香り、木漏れ日を浴びて輝く川の流れ。

 そのすべてが、森という一つの大きな生命の一部のように調和していた。


 見渡す限り、自然と人の営みが溶け合い、共に息をしている。

 エルフは多くないが、通りすがる者たちの表情に敵意はなく、柔らかな眼差しがオレを包み込んだ。


(なんだろう……胸がすっと軽くなる。この空気……平和って、こういう感覚だったんだな)


 そしてオレは学ぶ。


〈自然との共生〉


 と言うことを。

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