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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部 渇望を求めて〜  作者: カズー
第八章

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44話 交易都市の戦い

 眼前に広がるのは、松明の火に照らされた数百を超える軍勢。対して、こちらはオレ一人。


 すっかり日が暮れ、重苦しい暗闇が辺りを支配し始めている。


 オレは、刻一刻と悪化するこの状況を打開する方法を必死に模索した。


 闇夜に紛れて脱出することも頭をよぎったが、オレの背後には守るべきエルフが九人いる。

 ここは岸壁だ。逃げ道は敵が塞いでいる一方向のみ。後ろは荒れ狂う海。


 さらに、兵士たちが掲げる無数の松明が夜の帳を焼き切り、ネズミ一匹すり抜ける隙間も与えてはくれない。


 十メートル程の幅しかない岸壁の道。その最前列から、鉄の盾を構え、片手剣を抜いた兵士十人が、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。

 規律の取れた足音が、死のカウントダウンのように響く。


 オレはすぐさま防御魔法を構築した。


「ファイアウォール! サンドウォール!」


 炎の壁と土の壁。

 この種の魔法は有効範囲が固定されている。それぞれ幅は五メートル。合わせて十メートルある。

 二つの異なる属性の壁を展開することで、敵の直進を物理的に遮断した。これで簡単にはこちらへ踏み込めないはずだ。


 さらに、視覚に頼れない暗闇を補うため、索敵魔法を起動する。


「スキャン!」


 視界に投影されるゲームシステムによる効果。

 防御魔法の向こう側、濃密な闇の中に、敵の存在を示す赤い光点が無数に浮かび上がった。


 オレはその中の一つ、先頭にいる光点に意識を鋭く集中させ、指先を突き出す。


「ファイアアロー!」


 放たれた炎の矢は、唸りを上げて夜空を切り裂いた。

 二メートルの高さに展開した魔法障壁の上を、まるで生き物が縫うように走り、狙い違わず敵の胸元へと突き刺さる。

 ゲームシステムで、捉えた赤い光点が一つふっと消滅した。

(やはり誘導機能のある魔法は優秀だ。こちらの防御魔法を自動的に避けて敵を穿ってくれる)


 手応えを感じたオレは、間髪入れずに次を放つ。


「ファイアアロー!」


 炎の矢が、次なる犠牲者を闇の中から炙り出し倒していく。


 だが、敵もさるもの。正面が塞がれていると見るや、オレが展開していた土壁を数人がよじ登り始めた。


 オレは、奴らが壁の頂点に手をかける瞬間に合わせ、四つの属性魔法を同時に解き放つ。


「ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール! サンドボール!」


 火、風、水、土。四色の魔弾が乱舞し、壁の上の敵を容赦なく叩き伏せる。

 凄まじい衝撃に晒された敵兵たちは、悲鳴を上げる間もなく壁の向こう側へと吹き飛ばされていった。


 息を整え、次なる一撃を構えていたその時だ。


 敵陣の奥深くから、戦場を支配する冷徹な指示が聞こえてきた。

「魔法使いの位置は大体わかった。――弓兵、構え! 射殺せ!」


 直後、空気を震わせる不吉な風切り音が重なった。

「シュー、シュー、シュー、シュー、シュー――ッ!!」


 百本を超える矢が、月の光を弾きながら巨大な死の放物線を描く。


 それは雨のように、逃げ場のないオレの周囲へと殺到した。


「――っ、あぁッ!!」


 不意に、左肩を熱い衝撃が貫いた。

 遅れてやってくるのは、神経を直接焼かれるような激痛。一本の矢が深く、肉に食い込んでいた。

 オレは歯を食いしばり、薄れそうになる意識を力ずくで引き戻す。


 震える手で矢を掴み、逆棘の抵抗を無視して一気に引き抜いた。


「アァ……ッ!!」


 傷口から鮮血が迸る。だが、オレには《オート・リカバー》のスキルがある。

 じわりと、HPとMPが自動的に回復し始め、傷を修復しようと蠢く。

(耐えろ……。傷口も、時間が経てば塞がるはずだ……)


 しかし、壁の上には再び敵の影。

 負傷したオレの姿を確認した兵士が、勝ち誇ったように叫ぶ。

「致命傷ではないが、矢が当たったぞ! 奴も不死身ではない!」


 その言葉が合図となった。敵陣から野獣のような歓声が巻き起こる。

「行けるぞ! 畳み込め!」

「魔法使いの首だ! 金貨100枚は俺たちがいただくぞ!」


 士気が跳ね上がる。先程までの盗賊とは一線を画す、統率された殺意の波。


 オレは痛みを怒りで塗り潰し、壁を登り切ろうとする敵の群れに右手を突き出した。


「マルチファイアブレード!」


 複数の炎の刃が螺旋を描いて乱舞し、壁の上の敵を容赦なく切り裂く。

 灼熱に焼かれた身体が、次々と壁から転落していった。


 本来なら《ファイアアロー》を連発して後方の弓兵を殲滅したい。

 だが、オレの魔法には「同じ魔法を同時展開できない」という制約がある。

 おまけに射程が足りず、これでは弓兵まで届かない。


(クソッ、先ずはこの矢の雨を防ぐしかない……!)


 第二射の気配を感じ、オレは即座に新たな防御魔法を展開した。


「ファイアシェル!」


 オレの周囲を覆うように、半円状の激しい炎の障壁が展開される。

 直後に降り注いだ矢の群れは、障壁に触れた瞬間、パチパチと音を立てて燃えカスとなり、地面に力なく落ちていった。


 炎の揺らめきの向こう側に見えるのは、一糸乱れぬ動きで次なる手を打つ軍勢の姿。


 充実した装備、訓練された連携、そして揺るぎない規律。


(強い……)


 戦慄と共に、オレはその身に刻み込んでいた。

 本物の武力の壁を。


 そしてオレは学ぶ。


〈正規兵の強さ〉


 と言うことを。

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