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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部 渇望を求めて〜  作者: カズー
第八章

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39話 拉致の調査

 オレは、まず冒険者ギルドで情報収集をすることに決めた。


 街の中央広場を抜け、石畳を踏みしめながら走って冒険者ギルドへ向かう。胸の奥がざわつく。嫌な予感が、まるで冷たい指で心臓を掴むように離れない。


 重厚な木製の扉を押し開けると、昼間だというのにギルド内は妙に静まり返っていた。いつもなら酒と笑い声と怒号が入り混じる場所だ。だが今日は、空気が張り詰めている。


 そして、奥のカウンター前に立つ大柄な男――ギルドマスターが、腕を組んだままオレを待っていた。


「カズー、状況を説明する。こっちに来い!」


 低く、よく通る声。逃げ道を与えない響きだった。


 元より、ここへ来たのは状況を知る為だ。否という選択肢は存在しない。


「お願いします!」


 オレが即座に答えると、ギルドマスターは無言で踵を返し、階段へ向かう。軋む木の階段を上り、二階の個室へ入る。扉が閉まると、外の喧騒は完全に遮断された。


 重苦しい沈黙。


 ギルドマスターは椅子に腰を下ろすと、ゆっくりとオレを見据えた。


「カズー……お前の仲間のエルフ全員が拐われた」


 すでに冒険者から聞いていたが、改めてギルドマスターから言われる事で現実味が帯びた。


「……どういう事ですか?」


 自分でも驚くほど低い声が出る。喉が乾いていた。


 オレは身を乗り出し、問い詰める。しかしギルドマスターは目を細めるだけで、すぐには答えなかった。


「わからない。だが事実だ。エルフ全員――九人だ。姿が消えた」


 九人。


 頭の中に、一人一人の顔が浮かぶ。


 全員が消えた?


「エルフは美男美女だ。奴隷商人が高値で買い取る可能性は高い」


 その言葉に、血が一気に沸騰した。


「奴隷商人が黒幕ですか!?」


 思わず叫んでいた。


 拳を握りしめ、歯を食いしばる。胸の奥から怒りが噴き上がる。


「落ち着け! カズー!」


 ギルドマスターの怒号が部屋を震わせる。


「エルフは全員で九人だ。そう簡単にこの街を出ることはできん。門番も馬鹿じゃない。荷馬車いっぱいのエルフを見れば必ず止める」


 ……確かにそうだ。


 九人ものエルフ。隠しきれる人数ではない。


 だが――


(時間が経てば経つほど不利になる)


 奴らが裏道を使う可能性もある。地下水路、偽装された商人証、賄賂。考えればきりがない。


「ギルドマスター。私は商人ギルドで怪しい商人がいないか調べてみます」


 オレは顔を上げる。


「わかった。こちらも冒険者を動かそう。城門、裏市場、地下ギルド……すべて当たらせる」


「ありがとうございます」


 礼を言うと同時に、オレは部屋を飛び出した。


 階段を駆け下り、ギルドを出る。冷たい外気が頬を打つ。


 走りながら、オレはゲームシステムを確認する。


 視界の端に浮かぶ仲間のステータス表示。


 ・名前:ケイシア HP:300/300


(攻撃はされていない……少なくとも今は)


 だが、位置情報は表示されない。ゲームシステムでは仲間の居所までは分からない。


 歯噛みする。


(以前、収穫祭でシャムがケイシアを見つけた……)


 あの時、シャムは匂いで追跡していた。


 オレは走りながら叫ぶ。


「シャム! ケイシアを探してくれ!」


 バックパックがもぞりと動き、次の瞬間、黒い影が飛び出す。


「わかったニャ!」


 シャムは地面に着地すると、鼻をひくつかせた。


 そして一方向へ駆け出す。


「頼む!シャム!」


 オレも全力で追いかける。


 石畳を蹴り、路地を抜け、市場を横切る。人々の驚く声が背後に流れていく。


 シャムは迷いがない。


 約三十分、息が切れ、脚が悲鳴を上げ始めたころ、視界が一気に開けた。


 潮の匂い。


 港だった。


 大型の帆船が何隻も停泊している。白い帆が風に揺れ、甲板では船員たちが忙しなく動いている。停泊できない船は沖で揺れていた。


 波の音。カモメの鳴き声。縄の軋む音。


 だが、オレの耳には自分の鼓動しか聞こえない。


 シャムが止まり、地面の匂いを嗅ぐ。


「主……ここでケイシアの匂いが消えているニャ」


 その言葉に、背筋が凍った。


(船に……乗せられたのか!?)


 船ならば、城門を通る必要はない。

 海へ出てしまえば、他の都市へも簡単に移動できる。


 甲板を見上げる。


 どの船だ?


 沖に出た船か?

 まだ停泊中の船か?


(不味いぞ……!)


 時間がない。


 ここで動かなければ、本当に手が届かなくなる。


 オレは拳を握りしめ、港を睨みつける。


 この世界で、最も追跡を困難にする移動手段。


 怒りと焦燥が、胸の奥で渦巻く。


「待っていろ……必ず見つける」


 潮風の中、オレは次の行動を決意した。


 そしてオレは学ぶ。


〈拉致には船が使われる〉


 と言うことを。

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