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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部 渇望を求めて〜  作者: カズー
第七章

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32話 ケイシアの喜び

 私はケイシア。

 カズーとシャムの仲間。


 エルフの里で生まれ育った私にとって、「仲間」という言葉はとても重い意味を持つ。血縁よりも、時間よりも、心で結ばれた存在。それが、カズーであり、シャムだった。


 私は、カズーの望みによって[精霊使い]になった。

 しかも、エルフの里に伝わる精霊使いとは少し違うらしい。私は[風の精霊使い]と呼ばれる存在だと、カズーは言っていた。


 私の精霊の名は――シルフ。


「シルフ召喚」


 その言葉を口にすると、ふわりと風が揺れ、白く淡い光が空中に集まる。やがて、手のひらほどの小さな妖精が姿を現す。

 白い髪、透き通る羽根、気まぐれそうな瞳。まるで風そのものが意思を持ったかのような存在。


 けれど、正直に言えば――まだ、役に立つとは言えない。

 私の言葉に従わず、呼び出しても気ままに飛び回るばかり。時には、私の髪を引っ張ったり、頬をつついたりして、からかうように笑う。


「焦らなくていい」


 師匠のリクレアは、穏やかな声でそう言った。


「精霊は力では縛れない。信頼関係を築けた時、初めて応えてくれるのだ」


 それを信じて、私は毎日シルフを召喚し続けた。

 たとえ言うことを聞いてくれなくても、逃げられても、風に笑われても――。


 そんな日々の中で、カズーが言った。


「人間の街に行く」


 胸が、少しだけ強く打たれた。

 里の外の世界。あるとはわかっていたけど、実際に足を踏み出すのは初めてだった。怖さがないと言えば嘘になる。でも、それ以上に胸を満たしたのは――好奇心と、そして何より。


 仲間と一緒にいたいという想い。


 それが、私を前へと駆り立てた。


 里を出てから、十日。

 長い旅路の果てに、私たちは人間の街へと辿り着いた。


 ――圧倒された。


 エルフの里とは、何もかもが違う。

 果てしなく続く建物の列。石と木で作られた家々は形も大きさも様々で、背の高い建物が空を遮るようにそびえ立っている。道には人が溢れ、笑い声、怒号、商人の呼び声が入り混じり、空気そのものが騒がしかった。


 人間は、多かった。

 多すぎるほどに。


 私は思わずカズーの背中を見つめた。

 彼は迷うことなく街を歩き、私たちを導いてくれる。まるで、この場所が自分の庭であるかのように。


 カズーは色々なことを知っている。

 宿の取り方、店との交渉、街でのルール。私たちエルフが戸惑わないよう、常に気を配ってくれていた。


 でも――私は、カズーの仲間。


 仲間は、助け合わなければいけない。

 今の私は、助けられてばかりだ。


 そのことが、胸の奥に小さな棘のように刺さっていた。


 そこで、私はシャムに相談した。


「ねえ、シャム……私にも、何か出来ることはないかしら」


 すると、シャムは尻尾を揺らしながら、いつもの調子で言った。


「簡単ニャ! ケイシアも冒険者になればいいニャ!

 主は魔物を討伐するのが好きニャ!」


 その一言で、道は決まった。


 私だけではなかった。

 エルフたち、全員が冒険者になった。


 冒険者としての生活は、これまでとはまるで違った。

「仕事」を受け、働き、対価として【お金】を貰う。


 初めて手にした【お金】は、金属の冷たさと重みを持っていた。

 それをカズーに差し出すと、彼は驚いたように目を見開き、それから――心から嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見て、胸の奥が温かくなる。


 どうやら、この【お金】で、人間の街では様々な物と交換できるらしい。

 食べ物も、武器も、宿も。

 この街では、全てが【お金】を必要としていた。


 裏を返せば――

 この【お金】があれば、何でも手に入るということ。


 少しずつ、街の空気に慣れてきた頃。

 カズーが、狩猟のクエストを持ってきた。


 もちろん、私も参加する。

 狩猟は、私たちエルフにとって生活の一部。


 森に入ると、身体が自然と動いた。

 風の流れを読み、気配を感じ、弓を引く。


 カズーから貰ったロングボウは、私の腕に驚くほど馴染んでいる。

 矢は迷うことなく獲物を射抜き、私は誰よりも多くの獲物を仕留めることが出来た。


 人間たちが、ざわめく。

 賞賛の声が上がっているのは分かる。言葉は聞き取れなくても、その表情、その仕草が、全てを物語っていた。


 そして、カズー。


 彼は誇らしそうに人間たちと話している。

 その姿を見て、私は静かに胸の中で呟いた。


(良かった……カズーの役に立てたかしら)


 その時、私は学んだ。


 変わりゆく世界の中で、恐れるだけでは前に進めないこと。

 仲間と共に歩くためには、自分も変わらなければならないこと。


 それが、私がこの街で得た、大切な学びだった。


 そしてオレは学ぶ。


〈変化を受け入れる〉


 と言うことを。

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