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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部 渇望を求めて〜  作者: カズー
第六章

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27話 交易都市

 ―――10日後。


 エルフの森を抜け、荒野を越えたオレたちは、ついに交易都市へと辿り着いた。


 森を出てから最初に広がっていた荒野は、完全な不毛の地というわけではなく、ところどころに背の低い草や灌木が生えていた。そのため、荷馬車が通れる平坦な場所を探しながら慎重に進む必要があり、どうしても移動速度は上がらなかった。車輪が石に取られて止まり、皆で押し直すことも一度や二度ではない。


 だが、数日後に街道へと合流してからは、状況が一変した。


 石畳で整備された街道は驚くほど走りやすく、荷馬車はほとんど揺れることなく前へ進む。進行速度はそれまでの倍以上になり、行き交う旅人や商人の数も、交易都市に近づくにつれて目に見えて増えていった。前方には同じ目的地を目指すであろう荷馬車の列が続き、後方からは追い抜いていく騎馬の一団が砂埃を上げていく。


 やがて視界の先に、それは現れた。


「……なんて大きな都市だ」


 思わず、独り言が漏れる。


 交易都市は海に面しており、高い城壁の向こうには無数の建物の屋根が重なり合っていた。港湾施設には大小さまざまな帆船がひしめき合うように停泊しており、接岸できない船は沖合に錨を下ろして順番を待っている。マストの林の向こうからは、波の音と人々の喧騒が風に乗って微かに届いて来るように見えた。


 城壁は非常に高く、見上げるだけで首が痛くなる。少なく見積もっても十メートルは優に超えているだろう。以前訪れた始まりの地の城塞都市と比べても、その規模は倍以上に感じられた。


 オレたちは、いくつかある城門のうちの一つに並ぶことにした。


 交流隊のエルフたちには、耳まで完全に隠れる深めのフードを被ってもらっている。この世界でエルフがどのような立場に置かれているのか、オレにはまだ分からない。無用なトラブルを避けるためにも、エルフであることは極力隠しておくべきだと判断した。


 城門は想像以上に大きく、荷馬車が互い違いに行き交っても余裕があるほどの幅があった。受付も複数設けられており、行列は長いものの流れは速い。ほどなくして、オレたちの番が回ってきた。


 門番はオレを一瞥し、事務的ながらも落ち着いた声で言った。

「ようこそ、交易都市へ。身分証の提示と、用件を教えてください」


 このやり取りは想定済みだ。オレはあらかじめ考えていた身分証を差し出す。

「はじめまして。商人のカズーと申します。こちらへは商いに来ました。彼らは私の護衛兼、荷運び役ですので身分証はありません」


 門番は身分証に目を通し、次にフードを被ったエルフたちへと視線を移す。その視線に、ほんの一瞬だが警戒の色が浮かんだ気がした。


「……わかりました。では入市税として、金貨一枚と銀貨四枚をお支払いください」


「……入市税?」


 思わず心の中で声を上げる。


(都市に入るだけで金が要るのか!?)


 内心では動揺したが、ここで渋れば商人として怪しまれる可能性がある。オレは表情を崩さず、素直に金を取り出した。

「はい、こちらでお願いします」


 門番は慣れた手つきで金貨と銀貨を受け取り、軽く頷いた。

「ありがとうございます。ご存じかとは思いますが、身分証の無い護衛だけで市内をうろつかないようにしてください。もし衛兵に捕まった場合、罰金が課されますので」


(盗賊や不審者の取り締まり、ってところか)


「承知しました」


 丁寧ではあるが、出て行った金額を考えると痛い。エルフたちは当然ながら金を持っていないため、オレが立て替えるしかなかった。


(薬草や作物が高く売れたら、返してもらおう……)


 オレは、まず荷馬車の商品を売るため、商人ギルドへ向かうことにした。

 場所自体は城門の門番に聞いて把握していたが、実際に向かってみると、この都市が想像以上に巨大であることを思い知らされる。


 石畳の道はどこまでも続き、通りの両脇には高い建物が立ち並び、人と荷車が絶え間なく行き交っている。

 目的地に辿り着くまで、実に二時間もかかってしまった。


 そして、ようやくその建物が視界に入った瞬間、オレは思わず足を止める。


「……なんて大きな建物なんだ。城と見間違うほどじゃないか」


 そこにあったのは、三階建てとは思えないほど威圧感のある巨大な建造物だった。

 分厚い石壁に装飾された柱、広い正面階段。都市の中心に君臨するその姿は、まさに商業の要塞といった風格を漂わせている。


 周囲には何台もの荷馬車が並び、商人や使用人たちが忙しなく荷物を運び込んでいた。

 麻袋、木箱、樽……ありとあらゆる商品がここへ集まり、そしてまた各地へ散っていくのだろう。


 オレはエルフたちを荷馬車の側に待たせ、自分だけで商人ギルドの中へ足を踏み入れた。


(……なんて広いんだ)


 中に入った瞬間、思わず息を呑む。

 天井は高く、開放的な空間が広がっている。ホールにはいくつものテーブルが並べられ、あちこちで商人たちが身振り手振りを交えて商談をしていた。


 熱気とざわめき、そして金の匂い。

 この場所が都市の経済の心臓部であることは、一目で理解できた。


 両側の壁沿いには、仕切られた個室らしき部屋がいくつも並んでいる。

 どうやら、重要な取引や秘密の商談は、あちらで行われるのだろう。


 オレは周囲を見渡し、受付らしきカウンターを探す。

 すると驚いたことに、受付は一つではなく、ずらりと十ほど並んでいた。


(さすが大都市の商人ギルドだな……)


 その中から、たまたま空いていた受付に立つ女性に声をかける。


「こんにちは。商人のカズーと言います。薬草と農作物を売却したいのですが、どうすればよろしいでしょうか?」


 オレはそう言って、商人の会員証を差し出した。

 女性は慣れた手つきでそれを受け取り、背後に設置されている淡く光るオーブに翳す。


 オーブが一瞬光り、情報を確認したようだった。


「……確認しました、カズーさん」


 女性は事務的だが丁寧な口調で続ける。


「申し訳ありませんが、カズーさんはこの都市で直接商いを行う権利をお持ちではありません。そのため、この都市の商人に売却する形になります」


「なるほど……」


「よろしければ、商人の紹介を行いますが、紹介料として銀貨一枚を頂戴します」


(銀貨一枚、か……)


 決して安くはない。

 だが、この都市には知り合いも伝手もない。ここまで来て、何も売れずに帰るわけにはいかなかった。


(頼むしかない、か……)


 オレはアイテムボックスから銀貨を一枚取り出し、カウンターに置いた。


「お願いします」


「ありがとうございます。それでは、あちらのテーブルでお待ちください」


 女性に案内され、仕切りで区切られた一角のテーブルへ向かう。

 周囲の喧騒から少し距離があり、落ち着いて話ができそうな場所だった。


 オレは椅子に腰を下ろし、待っている間にゲームシステムを開く。

 そして、ジョブを[商人]に変更した。


 このジョブには、《ネゴシエーション》というスキルがある。

 取引時、価格交渉で値上げをしてくれるという能力だ。


(今回の商談では、間違いなく役立つだろう)


 しばらく待っていると、一人の中年男性がこちらに近づいてきた。

 落ち着いた身なりで、いかにも経験豊富な商人といった雰囲気だ。


「あなたがカズーさんですか?」


「そうです」


「私はこの都市で商人をしております、マルコと申します。で、どのような品をお売りでしょう?」


「はじめまして、マルコさん。薬草と農作物を、荷馬車一台分ほど積んでいます。こちらを売りたいのですが、いくらになりますか?」


 オレの言葉を聞いたマルコは、少しだけ残念そうな表情を浮かべた。


「薬草、ですか……。残念ですが、それは引き取れません」


「え?」


「この都市には、薬草からポーションを作れる者が、今はいないのです。ですので、薬草は需要がありません。農作物については、品質を見てから判断しましょう」


(薬草が高く売れると思っていたのに……これは大きな誤算だ)


 内心で肩を落としつつ、オレとマルコは農作物の確認のため、荷馬車へ向かう。


 荷馬車の中には、丁寧に束ねられた薬草が二百束ほど積まれていた。


(このままここに置いておくわけにもいかないな……)


 この後、塩を積む予定だ。

 薬草が場所を取っていては邪魔になる。


 オレは周囲に人がいないのを確認し、薬草をアイテムボックスへと収納した。


(アイテムボックスに入れておけば、いつか売れる時が来るだろう)


 薬草×99が、オレのアイテムボックスの二枠を占拠した。


 農作物を一通り確認したマルコは、顎に手を当てて頷く。


「なかなか良さそうな農作物ですね。では、金貨二枚で買い取りましょう」


(……高いのか、安いのか、さっぱりわからない)


 だが、他に売る手段はない。

 ここは交渉するしかない。


「マルコさん。実は、塩を荷馬車一杯に買いたいと思っていまして。もしマルコさんにお願いするなら、農作物の値段も、もう少し考えてもらえませんか?」


 マルコは目を閉じ、しばらく熟考する。


「……わかりました」


 やがて、彼は口を開いた。


「塩を買っていただけるのであれば、農作物は金貨三枚。塩は金貨七枚でお売りしましょう」


(え……!?)


 頭の中で素早く計算する。


(農作物が金貨三枚、塩が金貨七枚……差し引きで、金貨四枚の赤字じゃないか!)


 思わず声に出そうになるのを堪え、オレは尋ねる。


「マルコさん……塩は、そんなに高いのですか?」


 その瞬間、マルコの表情が険しくなった。


「何を言っているのですか!?この値段でも、かなり安くしているのですよ!嫌なら他を当たってください!」


(しまった……)


 オレは慌てて手を振り、宥めるように言う。


「わ、わかりました。その値段でお願いします」


 マルコは一息つき、少しだけ表情を和らげた。


「……では、商談成立ですね」


 こうして、取引は終わった。


 そしてオレは学ぶ。


〈相場を知らずに売買はするな〉


 と言うことを。

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