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異世界から学ぶライフスタイル 〜第三部 渇望を求めて〜  作者: カズー
第三章

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13話 意思疎通

 最近、ケイシアが、オレの借りている家に頻繁に顔を出すようになった。

 その理由は、ほぼ間違いなくシャムだ。


 オレとシャムはいつも通り、朝の集会場で簡単な朝食を済ませ、まだ少し冷たい空気の中を並んで家へと戻った。木造の家々の隙間を抜けるように歩いていると、遠くからでもすぐに分かる人影が見えた。


 玄関の前に、ケイシアが立っていたのだ。


(今日もか……)


 そう思いつつも、どこか悪い気はしない。シャムも既に気付いたのか、尻尾をピンと立てて足取りが軽くなっている。


「ケイシアさん、おはよう」


 オレが声をかけると、ケイシアは少し驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかな笑顔を浮かべて小さく頷いた。朝日に照らされたその笑顔は、どこか安心感がある。


「どうぞ、ケイシアさん」


 オレが扉を開けて中へ招くと、ケイシアは一瞬ためらうように足を止め、それから静かに中へ入ってきた。相変わらず遠慮がちだが、その仕草ももう見慣れてきた。


 ケイシアは背負っていた鞄を下ろし、口を開けると、中から小さな魚を数匹取り出した。銀色の鱗がまだ濡れて光っている。


(新鮮そうだな。今朝獲ったばかりだろうか?)


「魚ニャ!」


 その瞬間、シャムが弾かれたように飛びついた。小魚に齧り付き、幸せそうに喉を鳴らしている。


(嬉しそうだな……シャムも、ケイシアも)


 ケイシアはしゃがみ込み、魚を食べるシャムの頭を優しく撫でている。その表情は穏やかで、まるで家族を見るような目だった。


 最近、オレはケイシアと会話を試みている。

 オレもケイシアも言葉は通じないし、手話も知らない。だが、不思議なことに、身振り手振りだけでも意外と意思疎通は出来るものだった。


 オレはケイシアを指差し、それから両手を前に出して軽く眉を上げ、手の平を上に向ける。


「ケイシアは、これからどこ行くの?」


 するとケイシアは、迷うことなく弓を引く仕草をした。


(弓の練習か)


 オレも自分を指差し、同じように弓を構えるジェスチャーをする。


「オレも弓の練習に行くよ」


 するとケイシアは、自分を指したあと、手の平をオレの方へ差し出した。


(……教えてくれるってことか?)


 オレは軽く頷き、にこっと笑顔を向ける。


「ありがとう」


 ケイシアも、同じように笑顔で応えてくれた。


(ちゃんと会話が出来てるな。……中々、楽しい)


「シャムも行くか?」


「行くニャ!」


(完全に、餌で飼い慣らされている……)


 こうしてオレは、ケイシアとシャムを連れて弓の練習場へ向かった。


 実は、オレには今日どうしても試したいことがあった。


 度重なる魔物討伐のおかげで、オレの弓兵のレベルはいつの間にか20に到達していた。

 レベル10で覚えた《盾》のスキルは、弓を使う以上どう考えても両手が塞がるため、正直言って使い道がない。


(完全に捨てスキルだ……)


 だが、レベル20で手に入った新スキルは違う。

《三連射》――矢を三度、連続で放つ技。


(格好いい!)


 弓の練習場に到着すると、いつも通り、子供たちが使っている的よりも前方、距離10メートルの位置に立つ。

 ケイシアは約束通り、オレのすぐ横に立ち、構えや姿勢を静かに観察していた。


「シューー……」


 放たれた矢は、無情にも的を外れる。


(いきなりか……)


 焦って次の矢を番えた瞬間、ケイシアがそっとオレの肘に触れ、わずかに位置を下げた。

 言葉はないが、その意図ははっきりと伝わる。


 そのまま矢を放つ。


「シューー……パン!」


 矢は的の中央付近に突き刺さった。


(良かった……)


 その後も黙々と矢を射続け、気付けば20本ほど放っていた。結果は相変わらず、当たるのは半分程度だ。


(だが、今日は違う……!)


 オレは矢筒から三本の矢を同時に取り出す。


(必殺のスキルを試す!)


「三連射!」

 そして、立て続けに矢を放った。


「どうだ!」


「シューーー……、シューーー……、シューーー……」


 ――結果は惨憺たるものだった。

 三本とも、まるで意思を持ったかのように、的とは全く違う方向へ飛んでいく。


 振り返ると、ケイシアが明らかに怒った表情でこちらを見ていた。


(……やり過ぎた)


 オレは素直に眉と首を下げる。


「ごめん」


 ケイシアは一瞬驚いたように目を丸くし、それから小さく息を吐いた。


 その時、オレは改めて理解した。


 それは弓の技術よりも、今日一番の収穫だったのかもしれない。


 そしてオレは学ぶ。


〈言葉が無くても意思疎通は出来る〉


 と言うことを。

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