4話 勇者の遺品(2)
扉を開くと、そこには辺り一面に日本を思い出させる品が広がっていた。
普段着に使えそうな夏物や冬物。スキー板や水鉄砲等のレジャー用品。、変わったものでは、空になったペットボトルの容器まで。
「ここにあるのは全てが、勇者の遺品です」
「全てですか?もしかして、勇者は何人もいたとか」
「そうですね、そう言う伝書は多くあります。しかし、ここに収められている物は全て一人の勇者によるものですよ」
倉庫の大きさは学校の教室1つ分ほど。全てが1人の勇者の遺品。
なんだか、想像と違い残念に思ってしまう。
折角の異世界だから、もっと凄い魔法の道具が欲しかった。
さっきまでは肩書きは、重要じゃないと言う言葉に共感していたが、これは肩書きが重要だと思う。
だって、勇者の剣(ドワーフ製)と勇者の剣(100均)では、絶対にドワーフ製が欲しい。
そこに転がっていた100均で売られているプラスチック製の剣を持ち上げながら考えた。
「やはり勇者ですか」
付き添いの兵士2人が、大きく目を見開き。呟く。
騎士団長は、懐かしむような表情を浮かべ遠くを見ている。
「何を驚いているのですか?」
「いえ後ろの二人は、勇者というものを半信半疑だったので、驚いたのでしょう。勇者は、この世ならざる物質を作り出す。それを扱えるのは、勇者しかいないのです」
「そんな、ただ持ち上げただけですよ」
「それが、他の人には困難なのですよ」
そんな馬鹿な。私は、プラスチックの剣の刃の部分を握り、騎士団長に渡そうとした。
ッ
鋭い痛みが、掌に走る。
咄嗟に手を離すと、剣は地面に落ちる。掌には赤い線が引かれ、そこから血が溢れ出す。
思わず跪き、涙を浮かべながら、声にならず息が漏れた。
「止血しろ!はやく!」
兵士2人が駆け寄り、腰のポーチから包帯を取り出す。
慣れた手際で、掌には白い包帯がきつく結ばれ、赤く滲み広がる。
処置が終わると、驚きも落ち着いき我慢できる痛みが残った。
「お気を付け下さい。勇者も無敵ではありません。刃で傷付き、多勢に無勢では疲れもします」
「うん。気をつける」
騎士団長は、落ちているプラスチックの剣を取り鞘に収める。
「騎士団長も、剣が持てるのですね」
「ええ、これは少しのコツと後は血筋です。私には少しですが勇者の血が流れています」
騎士団長は、紐を取り出し結ぶと僕に手渡した。
「近接戦の武器は、これが良いでしょう。後は、盾と弓と槍とローブとバッグがあれば良いですね」
騎士団長は、倉庫の中からフライパンと水鉄砲、ビニールのカッパとリュックサックを持ってきた。
自信満々に、説明する騎士団長を見て小さく息を吐く。
そして、私は、自分の異世界転移を変わったものにした先代の勇者に恨み言を吐いた。
「もっとマシなデザインを遺せ!」