3話 勇者の遺産
謁見の間から退室し、騎士団長の案内で王宮の長い廊下を歩いている。
騎士団長の他に、3人の兵士が側について歩いているが、彼らはこちらには意識を向けず常に外を警戒しているらしい。
その代わりに、騎士団長が話し続けている。
「そこで、勇者は言ったのです。強いなと。それを聞いていていた者は、驚きました……」
その内容は、勇者の英雄譚。というか、偉人エピソード。
「騎士団長さんは、勇者が好きなのですね」
「もちろんです」
「ならば、残念には思いませんでしたか?」
「何をでしょう」
騎士団長がこちらを見る。改めて見ても端正な顔立ちをしている。
だが、厚い筋肉。身に着け慣れた剣。優しい印象よりも、騎士団長という肩書きの方がよく似合う。
「こんな、鍛えられてもいない若者が勇者で。私には、貴方のほうが勇者に相応しく思う」
弱気な言葉だろうか。だが、彼は勇者にこれ程までに憧れを持ち。これ程までに鍛えている。
それなのに私は、特別な力もなく。ただ、勇者と呼ばれているだけ。
「ありがたい、何とも嬉しい言葉です。ですが」
騎士団長は、足を止める。そして、私に正対すると一つ一つの音を大切に話し始めた。
「指導者は、国王は、皆同じ人間か?農民の作る作物は、全て同じか?」
騎士団長は、何かを唐突に演じ始めた。
「肩書きは、その人の役割を示すもので、その人自身ではない。その人は自身は、その人が何をしたかで示すものだから。同じでなくて良い。劣っていても優れていても構わない。必要なのは、成すべき意欲と休むこと無い努力。それだけだ」
それだけなわけが無い。
才能とか環境とか他にもあるはずだ。それでも、その言葉に私は納得した。それはそうだろ。当然だろ
。そう思うほどに、否定する気がおこらなかった。
「逃げてばかりの自分を救った、勇者の言葉です」
酒に酔ったかのように、その言葉に酔っていた。
「なので、自分は騎士団長。貴方は、勇者。お互いに役割が肩書きが違う。ならば、残念に思うことはありません。どうか、意欲と努力で勇者を務めて下さい」
「わかりました」
信念をもって、憧れを託してくれた英傑の下げた頭よりも深く私は、礼を尽くした。
「さて、ここが勇者の遺品を保管している宝物殿の入り口です」
案内されたのは、異質な建物だった。今までは、中世のヨーロッパを思わせるよな綺羅びやかな装飾や調度品に飾られた建物だった。しかし、この建物は現代を連想させる、無骨な建物だった。
コンクリートで作られた正に倉庫。それが、案内されたのは宝物殿だった。
「これも、勇者の遺産の一つです。勇者以外では傷一つ付けることができない頑強な壁。扉だけは後に取り付けられたものですが」
「もしかして、その人も他のところから呼ばれたのですか?」
「はい。勇者は極東から来たと名乗ったそうです」
間違いない。勇者は異世界人。それもおそらくは、日本人だ。