1話 ありきたりな異世界転移
ご安心ください。ふざけてなどおりません
ただ、この話は読み飛ばしても結構です
世界は混沌に包まれていた。
「全員。息を整えろ!次で決めるぞ!」
白銀の甲冑を血泥で汚しながらも、一糸乱れぬ連携で果敢に攻める王国騎士。
野太い雄叫びと共に繰り出される剛剣の一撃。それも、3方向から同時に。
守りのことなど考えない。引くことなどない。誰か2人が死んだとしても、残る1人が必ず。
そんな思いで、繰り出される一撃。しかし、その誰もが同時に倒れる。
捨て身の攻撃。必死の覚悟。必勝の陣形。精強な騎士団。
それでもたりない。
「汝らは勇者たり得ない」
何故なら相手は魔王。
魔法というお伽噺を現実に、世界に覇を唱える破壊者。
突如、1本の矢が魔王に放たれ瞬時に熱風を撒き散らす。
「来たか!勇者よ!」
「魔王。もう終わりにしよう」
「ああ、勇者を倒し世界を終わらせてみせるとも」
だが、魔法を使うのは1人ではない。
魔王に対抗するただ一人の人。勇者。
勇者は、小さなナイフを手に取りローラースケートで走り出す。
魔王は、スキーの板を構え迎え討つ。
交差する一撃。
王国騎士団長。ノミタ リナイは、その瞬間を涙をこらえながら一瞬たりとも見逃さないとその戦いを注視した。
それは、彼が憧れた勇者の最後の戦い。
本当は、自分たちこそが決着をつけなければならなかった。
この茶蛮王国に生まれた自分たちが、命を賭して討たねばならない敵なのだ。
魔王を討つものは、その存在を魔界へ連れて行かれる。
ならばこそ、平和な極東から来たお人好しに任すわけには行かない。
恩人に押し付けるわけにはいかない。
最後の一撃だけでも、奪えないものか。
足りない頭で、必死に考える。一撃で良い。魔王の心臓をとめるのが勇者でなければ、騎士道精神に反する不意打ちの果ての相討ちであろうとも。
そんな願いを打ち消す様に、勇者と魔王の戦いは激化する。
2人の魔法使いに、騎士が驚く技量や駆け引きなど存在しない。
まるで癇癪を起こした子供2人の間に、王国最強の自分ですら割って入ることはできない。
それ程までに、何もかもが違う。力も速さも。
水鉄砲。硬貨。包丁。フライパン。ネックレス。
今まで、数多の敵を葬った最強の武装の数々を使い捨てる戦いの衝撃に耐える事しかできない。
「勝ってくれ!勇者!」
情けない。こんなことが言いたいわけでは無いのだ。本当なら、彼と背を合わせて戦いたかった。戦えると思っていた。
これじゃ、昔と変わらないじゃないか。
それでも、願わずにはいられない。叫ばない訳にはいかない。
何故なら、彼が戦っているから。
世界で一番尊敬する、勇者がその身と引き換えになろうとも平和を願っている。
滲む世界の中、砂塵と発光の影から私は見た。
魔王の心臓に突き刺されたプラスチックの刃を握る。師匠の穏やかな笑顔を。
ギャグを書きたいので次の話から、本格的に話が始まります。