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3.

翌週の月曜日の放課後、賛歌に案内されて、ひとけのない神社の境内に僕たちはいた。

賛歌は腹にある頭を露出させていた。僕は、その賛歌の顔を見て話す。


「そういえば、首生ってどうやって誕生するんだ?」

「うちの裏に首塚小屋って呼んでる蔵があるんだけど、中の床が土むき出しなのね。そこに首のない人間の死体を埋めると、何日か経つと、首つきで起き上がってくるの。体のほうの記憶は全然残ってなくて、首生は最初は赤ちゃん状態。だから学校に通うのよね」


「……なら、死体さえあれば首生は量産できるのか?」

「できない。首生は一代に一体だけしか作れないの」


 賛歌の体は、交通事故で死亡した高校二年生の女子高生のものだったらしい。その女子高生の両親は死体を首生の体にすることを納得しており、今は町を出ているという。


「……賛歌って、今、生まれてから何年目なんだ?」

「言うとどのみちなめられそうだから言わない」


 それが賢明かもしれない、などと考えていて、ふと思いついた。


「その首塚って、……首つきの死体を埋めるとどうなるんだろう」

「全身そろった状態でってこと? どうだろう、うまくすれば、そのまま起き上がって、くる……のかな……首の持つ記憶や性格は……そのままで」


 賛歌も気づいたようだった。

 僕の顔を見て、おびえたようにたじろぐ。


「賛歌。試してもいいものかな。……リツの首のついた君の体を、埋めてみても。あ、でも――」


 正気が戻ってくる。


「――そうしたら、リツは首生になるのか。だめだよな、本人の意思も聞かずに。それに、その体とリツの首を埋めたら、賛歌が首だけになって死んでしまう。だめだめ」

「……でも、白野くん、リツにもう一度会えるかもしれないよ」


 その言葉に、脳髄の奥が揺さぶられたような気がした。

 賛歌は、笑って言った。


「やってみようよ。約束通りだもの。私を死なせてくれるんでしょう? みんなの望みが叶うじゃない」



 その週末、僕と賛歌は、首塚小屋に忍び込んだ。

 土を掘り、できた穴に、首生の体を横たえる。

 そして、その腹の中から、ナイフで、賛歌の癒着した首のつけ根を切って取り出した。横にあった机に、賛歌を置く。


「賛歌、前に、首生に先代がいるって言ったよな」

「え? うん、何代もずっと続いているもの」


「不老不死なのに、なんで代替わりなんてするんだ?」


 賛歌は、きょとんとしてから、吹き出した。


「そんなの、当然、どこかで頭がおかしくなるからだよ」

「……そうか」


 リツの首がついた、腹に穴が空いた体。

 僕はそこに、シャベルで土をかけていく。


 横から賛歌の声がした。


「……白野くん。私、眠くなってきた……。このまま、死ぬのかな……」

「そうなんだろうな。ごめん、賛歌……ごめん」


「いいよ。大丈夫。私、人間じゃないんだからさ。白野くん、頑張ってね……」


 それきり、首塚小屋の中は静かになった。

 土を埋め終わって、汗だくで振り返ると、すでに、賛歌は目を閉じていた。

 まだ生きているのか、呼びかけてみようとして、やめた。



 首塚小屋の中で、彼女は目を覚ました。

 きょとんとした顔で、土で汚れた上半身を起こし、不思議そうに自分の体を見下ろしている。


「え? 私、なんで……?」


 そして、横に座っていた僕と目が合った。


「白野くん……?」

「そうだよ」


 彼女は立ち上がった。

 困惑が増していくのが、見ていて分かる。


「どうして? なぜ私は、生きてるの?」

「間に合ってよかったよ、賛歌。君の頭を元通り、体につなげた。ちゃんと、腹の中じゃなく首の上にね」


 僕の傍らの机に、リツの生首が置いてある。なにともつながっていない、ただの首。


「どうして!? リツは!? 生き返らなかった!?」

「いいや。一度埋めたけどすぐ体を掘り出して、リツと君の首をつけ替えた。君が死んでしまう前で、本当によかった」


「どうして……? 白野くん、リツに会いたくないの?」

「会いたいさ!」


 賛歌がびくっとしてたたらを踏んだ。


「でもね、リツは死んだんだよ。もういないんだ」

「けど、リツは死にたくて死んだんじゃない、生き返れれば今度こそ生きたいように、」


「リツが生き返っても、賛歌、君がいない」


 一度勢い込んだ賛歌が、それで静まった。


「リツの記憶と性格のまま生き返るとも限らない。別人の首生じゃ意味がない。仮に以前のリツのまま生き返っても、自分を生き返らせるために君が死んだとなれば、幸福になんてなれない」


「そうとは限らな」

「君は自分の価値を知れ。君が死んだせいでまたリツが死にたがったら、また自殺させるのも、僕が殺すのも、ほかの誰かに殺されるのも、どれも絶対に嫌なんだよ。好きな人が、二度も死ぬのは!」


 しばらく黙った後、賛歌が、ぽつりと言った。


「本当だね。一度だって、……こんなにも耐えられないのに」


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