エピローグ:また会おうね
7月下旬。ねっとりとした熱気が街を包む午後、オープンカフェのパラソルの下に、アリサとユウナが腰かけていた。
グラスの中で氷がカランと鳴り、ストローの先をくるくると弄びながら、2人は誰かを待っていた。
「おまたせ〜!」
陽の匂いを纏って、ミィコが小走りでやって来た。笑顔が太陽より眩しい。
ユウナがにやりと笑って聞く。
「もう、話は済んだ?」
「うん、もう終わり!」
ミィコはわざとらしく拗ねた顔をして言う。
「だって悠真さん、“君がいると緊張する”って言って、逃げるんだもん。失礼しちゃうよね!」
アリサが吹き出す。
「仕方ないよ。“希望の光”だもんね」
「よっ、希望の光!」
とユウナもからかう。
ミィコは両頬をふくらませてぷいと顔を背けた。
「やめて〜、もうっ!」
3人の笑い声が風に溶けて、夏の午後を少しだけ軽やかにした。
アリサがふと、グラスの水滴を指先でなぞりながら真顔になる。
「……あんた、ホントに度胸あるよね」
「え?なにが?」
「さくらもちさん、あんたの枠に来た時のこと、覚えてる?」
ユウナが目を細めて言う。
ミィコは目をぱちくりさせた。
「えっ?私……なんか変なこと言ったっけ?」
その瞬間、彼女の記憶があの日に遡る。
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あの夜、突然さくらもちが現れた。配信画面にその名前が流れた瞬間、コメント欄が一瞬で凍りついた。
「ミィコさん。初めまして」
文字だけなのに、張りつめた空気が画面越しに伝わる。
「え!?……えーーっ!さくらもちさん!? え?なんで!?」
あたふたと声をあげるミィコに、さくらもちは笑って続けた。
「勝者にお祝いを言いに来ました。1位、おめでとうございます」
「いや……そんな……今回は偶然で……」
必死に謙遜しようとするミィコに、さくらもちは静かに、しかし強く言った。
「勝負に偶然はないわ。これは、あなたが積み重ねてきた努力の必然。
私はずっとあなたを見てきたの。“この子、すごく強い力を秘めている”って。
……今回のイベント、あなたと戦いたくてエントリーしたの」
「えええっ!? 嘘でしょ!?」
「また、次も楽しく戦いましょう」
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回想から戻ると、アリサが笑いをこらえていた。
「で、あんた、何て返したと思う?」
ミィコはぽかんと口を開けたまま、首を傾げる。
「え……ありがとう……とか?」
ユウナが肩を震わせながら答える。
「『嫌です!』だよ。あのさくらもちさんに対して」
アリサがテーブルを叩いて笑う。
「私、ミルクティー吹き出したからね、マジで!」
ミィコは再び頬をふくらませ、拗ねた声で弁解する。
「だってさ……マジ恐怖なんだもん、名前見るだけで心拍数上がるってば……」
「わかるけど、それにしても『嫌です!』はナシでしょ〜」
とユウナ。アリサが畳みかける。
「その後のさくらもちさんとのコラボで突っ込まれて、アワアワしてたの爆笑だったけどね」
笑い声が弾け、カフェの空気が一気に和らぐ。
だが、風向きが変わるように、ふとユウナの表情が曇った。
「……ねぇ。ほんと、ごめんね」
ユウナはゆっくりと口を開く。
「近くにいたのに、あんたのこと疑ったりして。ほんとバカだった」
アリサも視線を落としながら言葉を続ける。
「誰かの嫉妬からくる噂なんて、よくある話だけど……。
私たち、あんたの努力を見る代わりに、自分の体裁ばっか気にしてたのかも。
あんたがそんな子じゃないって、ほんとはわかってたのに」
ミィコは目を伏せ、小さく息を吐いたあと、顔を上げて微笑んだ。
それは、どこまでも優しく、包み込むような笑顔だった。
「……もういいよ。2人とこうして笑い合えるだけで、すごく嬉しいんだ。
よく言うでしょ?近すぎると見えなくなるって。……ほら、あれ、なんて言ったっけ?」
彼女は額に指を当てて真剣に思い出そうとしながら、
「えっと……あ、そうそう! 東大デモクラシー!」
アリサが即座に突っ込む。
「それを言うなら“灯台もと暗し”!」
ミィコは両手を上げて照れ笑い。
「わかってたよー!ほら、笑ってもらえると思って」
ユウナが微笑みながら言う。
「改めて思ったよ。あんたって、人を蹴落とす子じゃない」
アリサも頷く。
「むしろ、自分の背中で周りを引っ張ってた。…その姿に、私たちも何度も救われてたんだ」
「ちょっとー、褒めても何も出ないからね〜?」
ミィコが頬を染めて言うと、再び3人の笑顔が、風の中に溶けていった。
その瞬間、向かいのビルの大型ビジョンが光を放つ。
映し出されたのは、一面のひまわり畑。
その中央で歌う少女と、隣でその姿をキャンバスに描く、もうひとりの少女の姿。
《光の継承 佐藤悠真 展》
というタイトルがスクリーンに浮かび上がった。
ミィコは目を細め、画面を見つめる。
そっと拳を胸の前に差し出し、やさしい笑顔を浮かべた。
「……よかったね、リナ。また、会おうね」
夏の風が、どこか遠くから微笑むように吹き抜けた。
その音のなかに、美絵子の声が、たしかに混じっていた。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
これじゃあ、ちょっとなぁ~って思ったので、ただいま書き直し中です。
この物語に出てくるキャラクターの8割は実在の人物が元になってます。
ほぼフィクションですが、3割くらいは本当の出来事です。
いつかミィコがメジャーデビューできますように。




